雪山。
ー紫音視点ー
「怜燈兄さん。これどこに向かってるの?」
私達は荷車を押しながら、水の大陸を北に向かって進んでいた。
「雪が見れる場所に行くんだよ。」
そう言われた。
「雪なんて水の大陸以外でも見れるのに?」
「そうだね。でも何となくこっちに行きたくなったんだよ。
それに、このままの速度で移動したらちょうど雪蓮花が見れる日に着きそうなんだ。」
「雪蓮花?」
「そう雪蓮花。
水の大陸の北の、ある村付近の山でしか見られない幻の氷花で、とっても美しいんだ。
だけど、一年に一度しか咲かなくて、それも数時間で散ってしまう、儚い花さ。」
「寂しい花なのね。」
「そんな事はないんだよ。
雪蓮花はその村では、時を告げる希望の花として大切にされているんだ。」
そう言った怜燈兄さんは、少し寂しそうだった。
「どうして?」
「その村は一年中雪が止むことのない村なんだけどね、
十年に一度、雪蓮花が咲く時間だけ雪が止み青空が広がるんだ。
雪の降る中に咲く雪蓮花も綺麗なんだけどね。
青空の下の雪蓮花はそれはそれは綺麗なんだそうだ。」
「青空の下の雪蓮花見れるの?」
「ごめん。年が違うから見れないと思う……」
「別にいいわよ。でも、人はたくさんいるんじゃないの?危ないわ。」
「その心配はしなくてもいいんだ。
その村はね、観光したくて行けるような場所にないんだ。
四方を大きな山に囲まれていて、
行くためには大きな山を登らなければいけない。
そして止まない雪に獰猛な動物。軽い気持ちで行ける場所じゃないだろ?」
「そうね。で、絶賛軽い気持ちで行こうとしてる私達はどうなの?」
「うーんまぁ、俺達は少しずるをする予定だから大丈夫さ。
今日の夜翔ぶから、少し休もうか。」
「……そうね。そうしましょう。」
急に北に向かうと言い出した怜燈兄さん。
何かを察したのか、姉様も同意した。
少しの違和感が拭えなかった。
そして違和感は最悪の形で現れたのだった。
ー響視点ー
雪蓮花。
怜燈兄さんはどうしてこの花の事を知っていたのだろうか。
私の知る限り兄さんは、
私達と出会う前も含めて一度も水の大陸の北の方面には行った事が無いはずだ。
それに、兄さんは光の大陸の南側の村出身だったはず。
だから水の国出身の私よりその村に詳しかったのは驚いた。
雪が止むことのないことで知られる「白霧村」一度も行ったことはなかった。
だけど、お母様に一度教えてもらった事があった。
白霧村。
そこで採れる雪蓮花は昔、万能薬として有名だった。
しかし、今では他に良い薬も沢山出てきてリスクに見あわない為、
二十年以上前に薬書からその姿を消したそうだ。
だから、雪蓮花の事を紫音は知らなかったのだろう。
そして雪蓮花には一つ奇妙な噂があったそうだ。
「雪蓮花は人を選ぶ。」
この一言である。
真偽は確かではないが、
雪蓮花は雪蓮花が認めた者以外が触ろうとすると触ろうとした者を凍り付かせてしまうそうだ。
そのため白霧村では雪蓮花を採取できる者は大変重宝されたそうだった。
そんな思い出に浸っていると、ふと何かが頭の中をよぎった。
思い出せないけど、何か大切な事を忘れている。
そんな気がした。
ー時雨視点ー
「時雨、寒い。」
「そうだろうな。そんな薄着でいるからだろう。さっさと何か着込め。」
「いや、そうじゃなくてさ。何か感じない?
この自然に発生した冷気じゃない、人為的な寒さだよ。村に近付くほど強くなってる。」
「特に何も感じないが、もしかすると水の気に関連するものかもしれないな。
俺も水の気の適正はあるが、最適性ではないからな。
水の気の最適性を持つ凪にしか分からないのかもしれん。」
「こんなに凍てついた感じがするのに、鈴音は何か感じない?」
「感じないわ。でも怜燈兄の言ってた村、雪に沈んでるわ。
なんだろうこの感じ、雪崩って感じじゃないわ。
どちらかと言うと、雪が積もりすぎて埋まったって感じよ。」
「「え、沈んでる?!」」
「そうよ、綺麗にね。
かろうじて、塔みたいなものの飾り?が視えるくらいよ。もう少しちゃんと視てみる?」
「頼んでもいいか。」
「えっと、人は居ない。死体も骨もない。
家財がほとんど残ってる。家も沈んでるはずなのに損壊が見当たらない。
生活の跡が、そのまま残ってる。
なんだろう?あれ。氷像?村に沢山の氷像があるわ。
うーん、なんか変な雪の作品?みたいなのがある。
あっ!視えなくなった。何かに妨害されたみたい。」
「充分だありがとう。体調は大丈夫か?」
「大丈夫よ。これくらいは余裕よ。」
「そうか。何かが変だな。」
「ねぇねぇ!僕が教えてあげようか?」
「おぉ、優夜もう起きたのか?」
「うん!おめめぱっちりだよ!」
「そうか!流石だな!
で、優夜は何を教えてくれるんだい?」
「えっとね!あの村で起こった事だよ!」
「起こった?何が起こったのかわかるのか?」
「わかるよ!観せてあげる!」
「ちょっと待っ……」
優夜がそう言った瞬間、沢山の情報が頭に入り込んできた。
それは、村が沈む前の記憶だった。




