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十色の追想  作者: 詩庵
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紫音と家族。

ー紫音視点ー

目を開けると、私は布団に寝かされていた。

まだ覚めない頭で周りを見渡すと、心配そうな怜燈兄さんの顔が見えた。

そして、横を見るとそこには青白い顔をした姉様が横たわっていた。


私のせいだ。

私のせいで姉様は……

そう思った瞬間、

「フリマケ、ウミダセ、カイホウセヨ。」

いつものあの声だ。

昔から聞こえる優しくて、思わず従ってしまいそうになる邪悪な声が頭に響いた。


私が負の感情を抱くと聞こえ始めるこの声は、幸せだったあの頃からずっと聞こえてきた。

お母様に怒られたあの日も聞こえてきたあの声だ。


あの日は、どうしても好奇心が抑えられずお母様の薬品棚を触って、お母様に怒られた日だった。

いつもなら慰めてくれる姉様も、華のお稽古でいなくて一人で庭で泣いていた。

すると、

「ガマンシナクテイインダヨ、スキナヨウニヤッテイインダヨ。」

そんな声が聞こえてきた。


思わず「誰?」と問いかけると声は、

「……オジョウチャンヲミマモル、ヨウセイダヨ。」

と返してきた。

幼い私はそれを信じてしまい、声の言う通り力を解放してしまった。


その瞬間私の体は言うことを聞かなくなった。

私の体からはどす黒いモヤのようなものが出始め、周りの草木を枯らし始めた。

驚いて止めようとしたけど、止まらなくてどうしたらいいか分からず泣きそうになった。

でも泣こうとするとさらにモヤが広がって、どうしようもなかった。

その時、

「紫音!」

お母様の声が聞こえたかと思うと、お母様から出た透き通った緑色の光が辺りを包み込んだ。

するとみるみるうちに草木が生気を取り戻し、何事もなかった様になっていった。

それでも私から出るモヤは止まらなくて、広がっていこうとしていた。


「薬神リーフ!我が名は奏。古き盟約に従い悪しき力を封じよ!」

そう唱えた瞬間、お母様から出る光が一層強くなったかと思うと私を静かに包み込んだ。

私の体からは力が抜け、私は糸の切れた人形の様に崩れ落ちた。

どれくらい気を失っていたのだろう。

目を覚ますと私は庭にいて、お母様に抱き抱えられていた。


「ごめんね、紫音。ごめんなさい。」

悪いのは私のはずなのに、謝る母に戸惑いを隠せなかった。

しばらくして、お母様に事情を聞こうとすると、

「今は答えられないの。紫音が大きくなったら全部話すから、今日の出来事は誰にも言わないで。」

「姉様にも?」

「そう、姉様にもよ。」

そう言われその日は終わった。


何も説明しなかった私に、お母様は怒らなかった。

ただ、残った枯れ草が私のした事を物語っていた。

それ以来、あの声に従った事はなかった。

でも、あの時は自分を抑えられなかった。

そして、今も。

「カラダヲヨコセ、ラクニシテヤル。」

あぁ、もう楽になりたい。

従ってしまいたい。

そう思った時、

バシッ!

誰かに頬を叩かれた。

思わず我に返ると、そこに居たのは姉様でも、怜燈兄さんでもなく、凪だった。


どこか抜けていて、いつも少し変わったことを言う凪。

時雨兄さんにべったりで離れない人。

そんな印象だった凪が、目を真っ赤にして涙を浮かべながら私を睨んでいた。

「ふざけるな!これ以上皆に迷惑をかけるな!!

お前はまだ生きているたった一人の血縁を、家族を殺すつもりか?

そんなに殺したきゃ俺がお前を殺して、俺も死んでやる!」


なんにも知らない癖に、私の事何も知らないくせに!

知ったような口聞かないでよ!

そう思った瞬間口に出ていた。

「なによ!私がいつ皆に死んで欲しいなんて言ったのよ!私はそんな事望んでない!

知ったような口聞かないでよ!

いつもまともなこと言わないくせに……

こんな時だけ年上ぶらないで!」


「ぶってないさ!自分だけ被害者面しやがって!

お前がさっきしようとしてた事こそ皆を殺すようなもんじゃないか!

自分の責任を手放すなよ!最後まで持て!

それに……それにお前の、紫音の姉さんはまだ生きてる!救えるんだ!

それなのに救えるはずの紫音が見殺しにしようとするなよ!」


凪が大泣きしながら怒鳴りつけてきた。

でもその通りだと思った。

姉様はまだ生きている。

まだ間に合う。まだここにいる!

今はそれだけ、生かす事だけ考えろ!

そう思い姉様に向き直り、浄化を行った。


上手くできるのか、間違ってないのか、そんな不安が過った。

しかし、浄化は思ったよりも簡単だった。

私から出た毒だからか、自然と分解され、浄化出来てしまった。

あまりにも呆気なかった。

この手はまだ震えていたけれど、思わず笑みが溢れた。

良かった、私はできたんだ。


「凪!!お前は何してんだ!女の子をしかも妹を引っぱたくなんて!

顔に傷が残ったらどうすんだよ!お嫁に行けなくなるだろ!」

「ごめん……夢中でつい……」

「夢中もくそもあるか!悪いと思うならさっさと冷やすもんもってこい!」

「はい!!」


そんなやり取りが、斜め後方から聞こえてきた。

あまりにも阿呆みたいな会話で声を上げて笑うと、

「笑わないでよ、必死だったんだもん。」

と、凪がまた泣き出しそうな目でこちらを見てきた。

「まずは謝罪だろ!!!」

また後ろから時雨の怒号が飛んできた。

凪はビクッと体を震わせ

「紫音ちゃん、ほんとにごめん、痛かったよね……」

と謝ってきた。

「いいわよ。もとを辿れば私が悪かったもの。正気に戻してくれてありがとう。

それと私の事は紫音でいいわよ。兄妹だもの。」

「……!ありがとう!紫音!!」

そういうと凪は、さっきの泣きそうな顔が嘘みたいに明るくなった。


幸せだ。

そう思った瞬間、私の頭の中の声はまた、聞こえなくなった。

またこの声を聞く時は来るかもしれない。

その時は今日の事を思い出そう。

そう心に誓い、私は女の子を治療し始めるのだった。


ー怜燈視点ー

暴走する!!

そう思い紫音に近づこうとした瞬間、俺の前になにかが飛び出してきた。

いやなにかじゃない。

凪だ。

凪は俺が止めるまもなく、手を振りかざしたと思うと、バシッっと紫音の頬を叩いた。

急いで止めようとすると、今度は時雨に止められた。


「止めなくていいよ。今紫音に必要なのは優しさじゃない。自分と向き合う強さだ。

それを教えられるのは、怜燈さんじゃなくて、凪の方が適任だと思います。

叩いた件なら、俺が後できっちり絞めておきますので御安心下さい。」

そう言われると、見守るしかなかった。


でも、時雨の言った事は正しかったみたいだ。

一瞬心配になるところもあったけど、紫音の雰囲気は徐々に代わり最後にはいつもの、

いやいつも以上にしっかりとした目になっていた。

頬はかなり腫れていたけども……

そこは言うまい。

ついでに言うと、響を紫音が治療している間凪は、気欠のはずの時雨にしっかりしばかれていた。


「時雨だって、容認したくせに……」

と拗ねる凪を

「それはそれ、これはこれだ!」

と言われ涙目になっていた。

「程々にしておけよー」

と一応時雨に伝え俺は、今日の夕飯を取りに出かけたのだった。

紫音の耳が少し紅くなっていた。

これは俺だけの秘密にしておこう。

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