風の女神と月の王。
ー怜燈視点ー
目を開けると、先程まで満ちていた毒の気配は消え、元の世界が広がっていた。
体も嘘のように動く。
ただ、一つ変わっていたのは一人の女性と二人の男性がいる事だった。
「お初にお目にかかる。月の王よ。」
女性は、開口一番こう言った。
『アウラ様!それだけでは彼が困惑してしまいます!』
付き添いであろう男が女性に言った。
アウラ。
俺はこの名を知っている。
名乗れるのは、世界でただ一柱だけ。
「!お初にお目にかかります。
月夜の長、怜燈が風の主アウラ様に御挨拶申し上げます。」
慌てて姿勢を正した。
「よいよい、堅苦しい挨拶など我等の間には要らぬ。楽にせよ。」
そう言われて、気が抜けるほど俺は図太くない。
緊張しながらも俺は、アウラ様と会話をした。
後ろの二柱は
記憶を司る神 クロニクル
感情を司る神 カタルシス
と言った。
「発言をお許し下さい。」
「許そう。」
「誠に失礼だとは存じますが、何故貴女のようなお方がこの場にいらしたのでしょうか?」
「我愛し子のためぞ。」
「え?」
神々は稀に、好みの魂を見つけると、自分の愛し子として強い加護を授ける。
だからこそ、その愛し子は人々からも寵愛を受けるのだ。
始まりの七神の愛し子ともあれば尚更だ。
しかし、この場にいる俺達家族には少なくとも愛し子はいなかったはずだ。
だとしたら、名も知らないあの子なんだろうか……
だとしたらありえない。
神の愛し子ともあろう子が、あんな粗雑な扱いを受けていいはずがない。
国が違えば、貧民だろうが王族との婚姻が許されるほどなのに。
思わず、
「誰の事を仰っておいででしょうか?」
と聞いてしまった。
すると
「もちろん、我が愛し子、鈴音のことよ。
一歳にもならぬうちに気配が感じられなくなった故、心配しておったのだ。
しかし、久方ぶりに世に出てみれば、人間はこうも我が愛し子を粗雑に扱うようになったのか?」
悪い予感は的中するもので、下手をすれば村が、最悪国が消えても不思議ではなかった。
あまりの気迫に押されていると
『アウラ様!気をお鎮め下さい。この者たちは貴方様の愛し子を救っただけにございます。
それにここには今、弱っている者も多くおります故、どうか。』
そうカタルシスが言ってくれた。
そのお陰か、アウラ様の威圧は随分優しくなった。
「クロニクルよ。この数年の出来事を調べて報告せよ。」
『かしこまりました。少々お時間を頂きますがよろしいでしょうか?』
「良かろう。だがわらわは今機嫌が悪い、急ぐのだ。」
『失礼致しました。直ちに。』
そう言い残し、クロニクルはカタルシスと共に消えていった。
「さぁ、少し話そうか。」
アウラ様はどこからか椅子をだし、深く腰をかけた。
「そなたは、何故このような場にいるのだ?」
思ってもいなかった問いに、思わず沈黙してしまった。
「質問を替えよう。月夜の王よ。
そなたは何故王としての任を果たさず、別の者達、それも他の神族とおるのだ?」
その質問は、俺を。
いや、私を。
月夜の長。
神狐の神格を継ぐ者だと、見抜いた上での問いだった。
「大切な者たちを守るためです。
だからこその質問をお許しください。
響は、紫音は大丈夫なのでしょうか?
時雨や他の者たちは無事でしょうか?」
今度は答える事が出来た。
ただ私の発言は許されるものではないだろう。
守るべき一族から離れ、他の神族と生活を共にする私は、神格を持つもの。
アウラ様と同じ神として存在する者としては、許されぬ事をしているのだから。
「なるほどな。大切な者たちを守るためか、殊勝な心がけだな。
少なくとも私の愛し子といた者たちは無事だ。
ただ風の障壁を使っていた奴は、気欠を起こして苦しんでおるな。
そこの二人に関して言えば、
暴走を起こしている方を正気に戻せれば、二人共助かるだろう。
だが、そなたが別の神族を助ける必要はあるのか?
少なくともこやつはそなたの言う大切な者たちを害そうとしたのだぞ?
このまま殺してしまった方が良いのではないか?」
「……お言葉ですが、貴方にそれを問われる筋合いはないかと。
家族と言うのは血筋だけで言えるものではありません。絆があるからこその家族です。
だからこそ過ちも許し支え合える。
一度の過ちで見捨てろと助言する貴女の言葉など、考えるに値しないかと。」
言ってしまった。
相手は同じ神だが格が違いすぎる。
謝罪しなければ。
響達だけは、許して貰わなければ。




