風の心地よいひとときだった。
ー響視点ー
桜花が走って行ってしまって、それを時雨が追いかけた。
それに怜燈兄さんと紫音が、着いて行ってしまった。
置いていかれた私と凪は、その場で皆の帰りを待つことにした。
双子達は静かに、すやすやと眠っている。
その様子に、とても心が安らいだ。
凪も同じようだった。
外はとても穏やかな風が吹いていて気持ちが良かった。
ー紫音視点ー
私は迷っていた。
ここまで酷い容態ならば、このまま死なせてあげた方がこの子の為なのかもしれない。
この子を生かしたいのは私の我儘だ。
動けなかった。
それに、もし助けるにしてもこの子の弱った体では、少しの移動でもかなりの負担になってしまう。
どうしたらいいのか、そう悩み続けて十分が経った頃だった。
「行くぞ」
怜燈兄さんの声が聞こえ、女の子の体がふわっと持ち上がった。
風の気術だ。
適正属性ではない風の気を怜燈兄さんは、正確に女の子の体に負担をかけないよう操っていた。
あまりにも驚いて、一瞬呼吸することすら忘れた。
そんな私を置いて、怜燈兄さんは歩き出した。
私を置いていった訳じゃない。
私が追いかけてくるのを確信して歩いている。
そう思える背中だった。
そこからは速かった。
あっという間に、響姉さんのところまで戻ることができた。
ー響視点ー
桜花達が走って行ってしまって、もう一時間半以上が経つ。
やる事もなく空を眺めていると、こちらに近づいてくる足音が聞こえた。
咄嗟に身構えると近づいて来ていたのはどこかに行っていた、
怜燈兄さん、紫音、桜花、時雨だった。
ただ戻ってきたのは四人だけではなかった。
怜燈さんの腕の中には、小さな女の子がいた。
遠目から見てもかなり衰弱しており、女の子は今にも死んでしまいそうだった。
「この子を助けてくれ!」
怜燈兄さんにそう言われ、すぐさま治療にとりかかった。
でも一向に回復する気配がなかった。
これは衰弱しているだけじゃない、恐らく毒や呪いの類だ。
「紫音!解毒を!」
そう紫音に叫ぶと、紫音は一瞬ハッとした表情を浮かべて固まってしまった。
その瞳が、揺れた事に私は気づけなかった。
「紫音!」
もう一度呼ぶと、我に返ったように紫音はこちらに駆けつけてきた。
そして胸元から小さな箱を取り出した。
そこから針を一本取り出し、女の子の親指に指した。
溢れてきたのは、濁った赤い血液だった。
不安な思いを煽るかのように、
風が吹き抜けていった。




