草原の真ん中で。
ー怜燈視点ー
洞窟の出口で、急に空間が変わる気配を感じた。
桜花も何か感じたようだったが、時雨と紫音は何も感じていないようだった。
洞窟から出ると、そこは異空間だった。
岩壁に囲まれたここは、異空間である事を感じさせない。
しかし、確かに空間が違うのだ。
風が吹き、青々とした草木もあるこの空間はあまりにも現実的で、
それでいて、現実から隔離されているのだ。
ここまでの異空間を作れる存在は、そう多くない……
気を引き締めねば。
ー紫音視点ー
洞窟を抜けた。
爽やかな草原の中心地点には、小さな小屋のような家があった。
近づいてみるとそこからは、寝たきりの人間特有の香りがした。
中を覗いてみると、小さな子供が布団に寝かされていた。
その子は長い間寝たきりのようだった。
なのに適切な環境で看病されず、ご飯もちゃんと与えられていないようだった。
まるで死にゆく人間を放置しているような。
そんな感じがした。
こんな状態になるまで、放置されていた子供を見てかなり動揺した。
でも、次の瞬間には体が動いていた。
弱っている病人を動かすのは、本当は良くない。
だけど、布団があまりにも汚くて、その子にとって良くないと思ったからその子を抱き上げた。
時雨兄さんが入ってきた。
時雨兄さんも動揺したようで、固まってしまったけど今はそんな事をしている場合じゃない。
早く!そう思った。
すぐさま指示を出し、子供を時雨兄さんに預けた。
布団を水の気術を使って綺麗にした。
桜花に頼んで、桶も出してもらい桶に水も入れた。
綺麗にした布団に、子供を寝かせ汚れを拭いた。
その途中で服も、脱がせて拭いた。
子供は女の子だった。
いくつかは分からないが、その体はあまりにも小さく骨と皮だけだった。
ある程度子供を綺麗にした。
お母さんに教えてもらった通りにしたから、きっと大丈夫なはず。
自分の処置に不安を感じ、そう自分を安心させていた。
「……うそ。」
おかしなことに気づいた。
これまでの過程でこの子は、一度もなんの反応も見せていないことに……
あわてて脈を確かめた。
確かに脈はある。
生きている。
なのに反応がひとつもないのだ。
まるで、何も感じていない人形のように……
どうするべきか、
女の子を見つめ私はただ立ち竦んでいた。
姉さんに見せるのが一番いいのだけれど……
この子がどうして、ここにいるのかは分からない。
今、勝手には動かせなかった。
でもこのまま放置しておけばこの子は、もうすぐ死んでしまうだろう。
私はこの衰弱した子をどうしても見捨てられなかった。
理由はない、ただどうしても離れようとは思えなかった。
なぜかこの子に惹かれてしまうのだ。
ー時雨視点ー
草原の中心にあった小屋に、紫音が近づき扉を開けた。
その瞬間、一瞬紫音は戸惑った雰囲気を見せたが、すぐさま家の中に飛び込んで行った。
驚いて俺も家に向かうと、紫音は小さな子供を抱きかかえていた。
怜燈さん達も次々と家の中に入ってきた。
紫音は俺を見るなり、その子供を自身の羽織に包み渡してきた。
次の瞬間、紫音が小さく何かを唱えた。
すると薄汚れていた布団が、あっという間に新品同様の見た目になった。
紫音は桜花にも何かを頼んでいた。
桜花はすぐに理解したようで、あっという間に大きな桶を創り出した。
するとまた紫音は何かを唱えた。
次の瞬間には綺麗な水が、並々と入った桶が目の前にあった。
「ここに寝かせて!」
紫音に言われすぐに子供を布団に寝かせた。
彼女はすぐさま自身の着物を破き、それを水につけて子供の顔や体を拭き始めた。
紫音は子供の着ていた服も脱がし、自身の羽織を変わりに着せていた。
その姿はまるで医師のようだった。
ー怜燈視点ー
紫音が迷っている。
そんな気配がした。
どうするのが正しいのか、
医学に全く精通していない俺の知識が、紫音や響に敵うはずもない。
でも、迷うならば……
「行くぞ」
そう言い放ち俺は女の子を持ち上げた。




