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十色の追想  作者: 詩庵
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その日は霧の深い春の明け方だったそうだ。

その日は霧が深い春の明け方だったそうだ。

俺にはその記憶はない。

普通はそうなのだろう。

これは俺達が一歳にすらなっていなかった時の話だ。


俺達は孤児だ。

生まれてすぐに両親を亡くし、危ない所を今の家族である兄さん達に助けられたそうだ。

俺が知っているのはこれだけ。

そう。それだけ教えられ今まで生きてきた。

知るべきではないのかもしれない。


俺達は双子だ。だがその能力はそれぞれ異なっている。

俺は感情を司る神カタルシスが創り出した神族。

弟は記憶を司る神クロニクルが創り出した神族だ。

父と母が異なる神族だったからだろう。

調べれば調べるほど、俺達は表で生きていける存在ではない事を突きつけられた。

世界が、俺達を拒絶していた。

「陰はいらない。」そう告げられたようだった。


「感情を知る」

そんな力、望んでない。

そんなもの知りたくもない。

ましてや、支配するなんて悍ましい。


人は誰しも、知られたくない一面を抱えている。

それをいるだけで暴き、支配されるなんて考えただけで吐き気がする。

俺は自分が嫌いだ。

誰も救えない。何もできない。役にも立てない。

家族すら守れない。

そんな自分が嫌いだ。


無造作に流れ込んでくる他人の感情が鬱陶しかった。

同情したような、悲しそうな顔。

「ありがとう」と言う優しげな笑顔。

良く見えるその裏は、憎悪や軽蔑、嫌悪に溢れていた。

人間が嫌いだ。

表面だけ取り繕って何も見ようとしない、人間が嫌いだ。


でも、それだけじゃなかった。

どんなに苦しい事や辛い事、絶望を前にしてもその輝きを失わない人間もいた。

あの人は、強かった。

何度挫けそうになっても、立ち上がって進んでいった。

たとえ自身の命に危機が及ぼうとも、その姿勢は変わらなかった。


あの人は言った。

人間の本質は善であり悪なのだ。誰かだけが正しいのではない。

神ですら間違う世界だ。

完璧は存在しない。


上辺だけしか見ていなかったのは、俺も同じだったのだろう。

何も知らずに、生きていける時代はもう終わった。

俺は知らなくてはいけない。

この世界を、人間を、神族を。

そして自分を。

受け身でいるだけではいけない。

動かなくては、これからは自分で知らなければ。

胸の奥で何かが、欠けていたものがはまった。


空を見上げると、星が綺麗だった。

あの輝く星々にも、一つずつ名があり物語があるだろう。

今日も世界は醜くも、美しい。

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