鬼の独白。
みんな行ってしまったな。
これで良かったはずなのに、少し寂しかった。
隠居生活を始めてからすでに三百年が経っていた。
木々は太くなり、草花は幾度となく枯れた。
俺は天狗族だ。
そのことは、最初からわかっていたわけではなかった。
六十を過ぎた頃から、見た目が変わらなくなったのだ。
そればかりか、筋力が衰えることもなかった。
妻も息子も孫も、皆俺より先に黄泉の国へ旅立った。
時間は俺だけを取り残し、過ぎていった。
俺は元々、刀守家二代目当主
刀守鬼雨という男だった。
俺は幼い頃から、強かった。
この力を役立てようと思う意思はあれど、驕ることはしなかった。
強さの理由を知ったのは、ずっと後のことだった。
気付いてすぐ俺は、天狗山に隠居した。
怖かったのだ。
皆、俺を置いて居なくなってしまう。そんな光景が耐えられなかった。
そんな俺を思ってか息子は、距離を置きつつも時折会いに来てくれた。
それはいつしか、風習になり
「家督を継ぐものが私に会いにくる」というものに変わっていった。
俺はそんな子孫達に、剣を教えた。
そして自ら打った剣を授けた。
俺には時間があった。
剣術も鍛治技術も十分磨き続けることができた。
会いに来る者は皆、俺を尊敬し賞賛した。
だが、俺は独りだった。
隣に立ってくれた者たちは既にいなかった。
そんな俺に転機が訪れた。
ある日、二十三代目当主 五月雨が一人の赤子を連れて会いに来たのだ。
一目見た瞬間、この子は俺と同じだ。そう確信した。
まだ首も座らぬ赤子だったが、その身に纏う空気は人のものではなかった。
嬉しかった。
しかし、それと同時に哀れだと思った。
握り締めるだけで、消えてしまうような命には、既に重い宿命が宿っていた。
生きる時間が違う。それは、想像を絶するほどに孤独なのだ。
だからこそ、刀守家が滅びたと知った時、覚悟を決めた。
この子は、時雨は俺の命に換えても守ろうと。
そう思った矢先に、彼らは現れた。
彼らは生命力に満ち溢れていた。
そして、人間ではなかった。
なんと素晴らしいことだろうか。
神は、いたのだ。
時雨と共に生きてくれる存在。
これほど喜ばしいことはなかった。
俺の寿命は、まだ尽きることはないだろう。
しかし、時雨と比べればきっと短い。
時雨を独りにしなくていい。その事実が俺を安堵させたのだった。
いつの時代も子供の成長は早いもので、あんなに小さく思えた二人も広い世界へ進んで行った。
久々に楽しい時間だった。
「彼らに幸福が訪れますように。」
俺は夜明けの空にそう呟いた。




