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十色の追想  作者: 詩庵
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二人の選択。

ー紫音視点ー

気まずい。

兄さんが出て行った途端、あたりは気まずい空気に包まれた。

私を追いかけてきた二人も、

それぞれ考え込むように黙ってしまった。

鬼鐵(きてつ)さんも静かにこっちを見ているばかりだった。


どうしようか悩んでいると、鬼鐵さんが喋りかけてきた。

「突然すまなかった。お嬢さん方、怪我はなかったか?

良ければ座るといい。茶菓子を用意しよう。」

そう言って鬼鐵さんは、あられを持ってきてくれた。

歯応えがあって美味しかった。


「三人の名前を聞いてもいいか?」

鬼鐵さんが少し遠慮がちに聞いてきた。

「響と申します。」

と、姉様が先に名乗ったので、私も続く。

「紫音と申します……。こちらは桜花、と申します……」

そう返すと鬼鐵さんは、近所のおじいちゃんのような、優しげな笑みを浮かべ

「ご丁寧にありがとう。私は鬼鐵と申します。」

と返してくれた。


「さあ、時雨、凪。二人も挨拶をするんだ。」

「時雨だ。さっきは不躾に追いかけてしまい、すまなかった。」

「凪です。さっきはびっくりさせてごめんね」

時雨と凪はそう謝罪した。

「大丈夫。さっきは私も大声をあげてごめんなさい。うるさかったよね……」

「え、うん。うるさ……痛っ」

「凪、そこは「そんなことなかった。」一択だろう!

どうして蒸し返すようなことを言うんだ……」

「痛いよ、時雨。だって嘘は駄目だっていつも言ってるじゃん!!」

「それは時と場合を考えろよ。

年頃の女の子に言う台詞じゃないだろう、紫音ちゃん。うちの凪が失礼した。」

「ううん。ほんとのことだし別に……」

「ほら!彼女もいいって言って、痛っ」

「だから、余計なことを言うんじゃない!」

そんな会話をしていると怜燈兄さんが戻ってきた。


ー時雨視点ー

四人が来てから早くも半年が経っていた。

共に食事をし、山を走り回った。

紫音は意外にも短気なようで、凪によく怒っていた。

いつもよりにぎやかなその生活は楽しかった。

だが俺は師匠の出した選択が、ずっと引っかかっていた。

残るか行くか。

簡単に見えて、とても難しい問いだった。

ここは俺がようやく得た、新しい居場所。

失いたくない。その想いが決断を踏み止まらせていた。


「時雨。時雨はどうするの?」

凪にそう聞かれた。

「どうって、まだ悩んでるさ。そう言う凪は?」

「僕も悩んでる。

僕、ここが好きなんだ。水も綺麗だし、みんな優しいし。

けど、紫音達といるのもいいなって最近思うんだ。」

「確かに楽しいな。」

「でしょ!ねぇ時雨、そんなに考えなくてもいいんじゃない?」

「え……」

「だって最近時雨ずっと難しい顔してる。

それに先生は僕らがここから旅立って、いつか帰って来ても、

きっといつもみたいに「おかえり」て言ってくれると思うんだ。

先生は僕らが思っている以上に、

僕らのことを考えてくれてると思う!

時雨!これは試練でもありチャンスでもあるんじゃないかな!

僕はね、ここを出て戻って来た時に、

先生が笑って「大きくなったな」て褒めてくれるような大人になりたい。

だから、一歩踏み出そうと思うんだ。

あっ!この後紫音とかけっこする約束だった!僕行くね!」

そう言って凪は、去って行った。


「試練でありチャンスか……」

凪は俺が思うより、ずっと大人だった。

あいつは踏み出そうとしてる。

じゃあ俺は?

このままでいいのか?

「どうしたらいいんだろうか……」


「楽しい方に行ったらいいんじゃない?」

「え?」

「あっごめん。

盗み聞きするつもりはなかったんだけど、聞こえちゃってつい……」


「怜燈さん。驚かせないでくださいよ!」

「ごめん、ごめん」そう言った怜燈さんは楽しそうに笑っていた。

「大丈夫ですよ。それで、楽しい方ってどう言うことですか?」


俺も笑って答えると、

「あー、だってさ、人生ってさ、嫌な事は勝手に来るけど、いい事は中々来ないじゃん。

だから俺は、一度きりの自分の人生、笑って終わりたいんだ。

俺達の存在は、今の世界ではなかなか受け入れてもらえないし、苦しい事や辛いことも沢山ある。

だからこそ、後悔しないよう楽しく生きたいし、

大切な人にもそうあって欲しい。というか……

ちょっと説教臭かったね。でもこれは本心だよ!」

「……ありがとうございます!なんか目が覚めた気がします!

ちょっと用事ができたんでこれで失礼します!」

「うん!お役に立てたようなら何より!頑張って」

怜燈さんの言葉を背に俺は家へと向かった。


「師匠!ただ今戻りました!」

「おかえり。早かったな。夕飯はもう少し後だぞ。今日は炊き込みご飯だ。」

「!嬉しいです!!

ではなくて言いたいことが。」

「なんだ?」

「俺、怜燈さん達と一緒に行こうと思います。

でも、師匠のことが嫌いになったとかではありません!

師匠。待っててください!俺もっと強くなってまた帰って来ます!

その時はまた、稽古つけて下さい!」

「わかった。何年でも何十年でも待つとしよう。

また、稽古をつけるのを楽しみにしておる。

鍛錬をサボるでないぞ。」

「はい!もちろんです!!」

そう言うと、師匠は俺の頭を静かに撫でた。

「いつでも帰って来なさい。」


三日後、俺達は島を後にした。

振り返ると、島は目に見えぬほど小さくなっていた。

吹き抜ける風は、生暖かくも、どこか冷たかった。

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