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陰間由夢乃丞と八丁堀  作者: 紫紺
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弐 菱元屋の憂鬱 その1


 ユメの部屋を出てから、俺は桜花の付き人である修行中の陰間たちに話を聞いた。彼らは二人の少年、まだ十一歳だと言った。

 少年ていうか、子供だよ。こんな幼いころから陰間の修行をするのか。店主によると、十三歳を越えれば客を取ることになるらしい。二人ともあどけなさが残る美少年だ。俺は心底暗い気持ちになった。


 その二人によれば、昨夜遅く、桜花から水の追加を頼まれたと言う。

 客が来る日はいつものことだったようで、不審に思うこともなく用意した。襖を開けたところに置いておくのが決まりで、昨夜もそのようにしたと。

 部屋からは惣兵衛のいびきが聞こえていたと言うから、そこまでは若旦那の言う通りだったってわけだ。


 水は土間にある井戸から汲み上げたもので、そこを使用しているのは『市村』だけだ。

 二人とも桜花の部屋に水差しを置くまで誰とも会わなかったし、目を離すことはなかったと証言した。井戸の水は後から見分したが不審なことはなかった。当然のことながら、この日も普通に水は店の者に飲まれていた。


「おまえたちから見て、桜花はどうだった? 厳しかったか?」


 誘導尋問じゃないけど、俺は聞いてみる。少しかがんで同じ目線にすると、少年たちは顔を見合わせおずおずと口を開いた。


「桜花兄さんは、僕らが失敗しても全然怒らない人でした。優しいし、よくお菓子をいただきました」

「桜花の身請け話は聞いてたろ? 君らはどう思ってたのかな」

「それは、とてもいいお話だと聞いていました。僕らはよくわからなかったけど、他の兄さん方も喜んでいたし」


 ふうむ、まあその辺はユメが言った通りか。こいつらにも忖度することはあるだろうけれど。


「ユメ……由夢之丞の様子はどうだった?」

「え、それは」


 突然口ごもる二人。おいおい、なんだってんだ。


「どうした。おまえらが言ったことは誰にも言わないから、安心しろ」

「いえ、そうじゃなくて。ユメ兄さんは、僕らにとって雲の上の存在だから、あまりお話したことはないんです。桜花兄さんとは仲が良かったので、時々お姿は拝見していたけど」

「上等なお菓子とか、多分ユメ兄さんからもらったものもあったと思う」


 二人がそう口々に言い出した。雲の上? ユメは孤高の存在だったのか。唯一の友達が桜花だったと……。何かが、引っかかる。




 桜花に恨みを持っていたものはいなかったか聞いてみたが、期待した情報は何も引き出せなかった。

 二人以外の陰間や賄の女中の話でも、桜花を憎むような輩は見つからない。ユメと仲が良くても、虎の威を借るような振舞もなかったようだ。


「録治さんも桜花の面倒をよく見てたからねえ」


 これは女中の話。俺はまだ会っていないが、桜花の金剛、録治の評判も悪くなかった。なんでも金魚の墓まで作るほどの優しい奴らしい。同じ金剛でも、あの目つきの悪い佐之助とは違うようだ。

 話を聞いた限りでは、市村に桜花を殺す動機がある奴を炙り出すことはできなかった。付き人二人の様子から見て、嘘をついているとは思えない。


 だが、井戸水に不審な点がない限り、毒薬は誰かが水差しに混入したことになる。見習いの仕業とは思いたくないが、少なくとも市村内部に実行犯がいる。それはあの惣兵衛も含めて、揺るがない事実だ。




 陰間茶屋が軒を連ねる芳町を出て、俺は一人で菱元屋に出掛けた。店主とその後妻に話を聞くためだ。

 ユメの言っていた連れ子はガキではなく、れっきとした成人だった。勘左衛門の話では、商売上手で評判ということだ。

 どっちも桜花の身請けを歓迎したとは思えないし、共犯も視野に入れておくべきだろう。とは言え、殺すまでの動機があるかは不明だ。




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