表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
陰間由夢乃丞と八丁堀  作者: 紫紺
6/35

壱 その5


「由夢之丞。聞いてもいいか」


 腰を落ち着けると、込み入った話もできる気になるから不思議だ。


「なんだよ。由夢之丞なんて言わなくていい。ユメでいいよ」


 ユメ……なんだかこそばゆいような……。でも、こいつの方もさっきより当たりが柔らかくなっている気がする。気のせいか。


「えっと、こほん。あの、ユメ。おまえと桜花は市村の二枚看板だったんだろう? 桜花がいなくなったら、おまえや市村は困るんじゃないのか?」

「はっ?」


 ユメは、再び呆れたような顔をして鼻で笑う。


「本当に何も知らないんだな。俺も桜花も、じき十八になる」

「十八? まだ若いじゃないか」

「そうだな。吉原じゃまだイケるかもな」


 ユメは、また窓際に腰かける。そして、虚ろで儚げな横顔を俺に見せた。


「ここでの仕事はせいぜい十九までだ。二十歳前には足を洗うのさ。ま、洗ってもろくな未来は待ってやしないけど。新しいのは次々と売られてくる。俺達の代わり、若くて美しいのなんて、いくらでもいらあ」

 自虐的な笑みを浮かべるユメ。何も言えなくなった俺の顔をちらりと見た。

「だから、殺しの動機にはならないぜ。残念だったな」

「いや、俺はそういうつもりじゃ……」

「それに、さっきの話だが」


 弁明を言いかけた俺に、ユメはかぶせてくる。俺は黙って続きを聞く羽目になった。


「確かにさ。陰間を身請けするような酔狂な奴はそういない。吉原よりもずっとずっと少ないだろうな。市村でも、俺が来てから一度もなかった。だから、妬みがあると旦那が考えるのもわかるよ」

「もしかして、心当たりでもあるのか?」


 咄嗟に吐いた買い言葉みたいなもんだったが、当たりくじを引いたのだろうか。稀有な幸運を手にした桜花。殺したいほど憎む野郎が。


「まさか。これは多分、お役人には、ていうか、外の人にはわからないよ。逆なんだ」

「逆? どういうことだ」

「あまりにもないことが起こったから、希望っていうのかな。みんな、夢を見れたんだ。そういうこともあるんだって。だけど、それがこの殺しでぶち壊された」


 外の人にはわからない。そう断言されてしまったが、全く理解できないこともない。ただ、それを鵜呑みにはしないがな。


「桜花が無事に身請けされる姿を見たい。みんなそう思っていたはずなんだ」


 ユメはそこで一呼吸置くと、背中に細く開けられた窓の外をちらりと見た。切れ長の双眸に何が映ったのか、俺からは見えなかった。


「ま、俺の感想なんか、何の足しにもならないな。好きなだけ調べりゃいいよ。時間の無駄だろうけど」

「な……」


 気持ちしんみりしてたのに、全く食えない野郎だ。どこまで本気か芝居かわかりゃしねえ。さっきまでの暗い表情も、今は人を小ばかにしたような笑みを浮かべている。

 腹立ち紛れに、俺が何か言い返そうとしたその時、閉じられたふすまの戸が再び開けられた。ユメの金剛、佐之助が血相変えて帰ってきたのだ。


「ユメ、録治がいない。どこを探してもいないんだ。皆に聞いて回ったが、昨日の夜からあいつの姿を見た者がいない」

「なんだと……」


 桜花の金剛が行方知らず。ユメはその一報を聞いて考え込む。窓枠を縁にした浮世絵のようなその姿に、俺は思いも寄らず惹き付けられた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ