参 金剛の死 その1
桜花の金剛、録治の遺体は、市村の裏手にある納屋で見つかった。
ここは部屋を暖める炭の置き場だ。季節的にはまだ早い。が、佐之助がもしやと来てみたら、録治がうつ伏せで倒れていたという。
むしろの上に寝かされた録治は、ひょろっとした優男。目は閉じられているが綺麗な顔をしていた。とても佐之助の同業者とは思えない。
「これが録治か……死因は、やはり毒なのか?」
俺は現場にいた白装束の医師に声をかける。その向こうにはいつからいたのか、ユメの姿もあった。
「そうじゃな。ただ、録治は苦しんだようだ。眠るようにはいかず、含んですぐこと切れたんじゃないかの」
老医師が言う通り、遺体のあった納屋は、録治が苦しんで暴れたであろう跡が残っていた。
「じゃあ、別の毒ってわけか?」
「いや、分量の差じゃないかの。毒の種類は同じと思うぞ。桜花は深酒してたようだし、薬は水に溶かしておったから」
なんだか煮え切らないが、毒が同じなら出所も同じだろう。つまり、毒は録治が用意したことになる。
――――それじゃあ、誰かに唆されたわけでなく……。
「無理心中?」
「あり得ない」
俺の口から零れ落ちた言葉を、ユメが一刀両断にした。遺体の横で腕を組んだまま佇み無表情なふりをしているが、綺麗な顔には底知れない怒りを宿していた。
「なんでそう言い切れる? 録治は桜花に惚れてたんじゃないのか。そういう話も聞いたぞ。ずっと隠し持ってた恋心だ。それを突然現れた惣兵衛にかっさられるとなれば」
「ふん、誰の受け売りだよ。火浦の旦那、本当にあんたはここをわかってない」
ぷいっと横を向くと、そのままユメは行ってしまった。後に残された俺は、ユメの金剛、佐之助から蔑みというか哀れみというか、まあそういった類の目を向けられた。
「なんだよ……言いたいことがあれば言え」
「ならば言わせてもらうが。自分が仕えてきた陰間が身請けされることを、喜ばない金剛などこの世にいない。
金も貰えるし地位も上がるが、それだけじゃない。子供のように育てて来ても、不幸な行く末しか待っていない。
身請けなんざ、この世界では滅多にないことなんだよ。あんたは知っちゃいないだろうが。その万が一の幸せが降ってきたんだ。どうしてそれを邪魔しようか……。
録治は、桜花を可愛がってた。そして、この身請け話に一番力を尽くしていたのもこいつなんだ」
知ってるよ。さっき聞いたばかりだけど。まあ、そりゃそうかもしれんが。恋文を携え、しょっちゅう菱元屋に出掛けていた録治。心中、複雑だったんじゃねえのか。
それに、太一郎とも顔見知りになっていた。てことは毒の入手だって可能だったはずだ。水差しに入れることもできただろう。これは下衆の勘繰りかねえ。
「薬包紙はこれか……」
遺体の横に小さな生成りの紙が落ちている。俺はそれをそこらにあった枝でつつき、懐紙に包んだ。
桜花の部屋には、こんなものはどこにもなかった。ここにこれがあるってことは、どう考えても録治は自分で薬を飲んだことになる。
「おい、佐之助。録治のねぐらはどこなんだ。連れていけ」
露骨に嫌な顔をしたが、市村の店主から言われていたのだろう。指だけで合図すると俺を録治の部屋へと連れて行った。
そこは市村の豪勢な茶屋の裏側。中庭を挟んで並ぶ二階建ての長屋のような建物だった。その一室が、録治の部屋らしい。
入ってすぐに土間があり、畳六つ分ほどの部屋には押し入れと箪笥、外に縁側と小さな庭があった。
「金剛は、みなここに住んでいるのか? 佐之助、おまえも?」
「陰間以外の住み込みの使用人はここに住んでいる。私はここでなはいが」
え。そうなのか。なんでおまえだけ違うんだよ。だが、佐之助はその先を教えるつもりはないらしい。
少し興味があるが、今はそれどころじゃなかった。俺は部屋の中へと入り、箪笥の中や押し入れを探る。
無理心中なら、書置きくらいあるだろうし、何よりも薬や薬包紙が残っているかもしれない。そうなりゃ、ユメや佐之助が何と言おうと録治で決まりだ。




