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第六話 赤ずきんと狼


「で、行くと言ってもどこに行くんだ?」

「そうですね…来たばかりでどこになにがあるか分かりませんしこの森の中、闇雲に動くのは危険です。…ムリア様、頼めますか?」

「任せて。……こっちに人の声がする。」

「そうですか、ならば集落があることを祈って向かいましょう。」


ムリアは人間とダークエルフのハーフ。耳が良くこの森程度の距離ならば把握することができるのだ。

それを頼りに森をどんどん進んでいくと何かもめる声が聞こえる。



「だから、私は長に食事を届けに来ただけで争うつもりはないんです!」

「あ?黒狼の領土に入ってきて争うつもりがないだ?」

「そんなことまかり通らねぇよなぁ!」

「そ、それはこの道が一番の近道だから…。」


人がいたと言ったのはこの獣人たちのようだ。2人の獣人が1人のの獣人に詰め寄っている状態、それを見過ごせる勇者など存在しない。


「おい!寄ってたかって少女に詰め寄るとは恥ずかしくないのか!?」

「あ゛?部外者の人間は引っ込んでろ!殺されてぇのか!!」

「部外者、だけど見過ごせないから…逃げるなら追わないけど?」

「はぁ、お金にならないことはやらない主義ですが仕方ありませんね。」


アリスは聖剣を構え、ムリアは弓を構える。二人の覇気に気圧されたのか舌打ちしつつも逃げていく。

それを見ていた襲われていた少女の獣人は狼狽えつつも感謝を伝えてきた。


「あ、ありがとうございます。ちょっと横切ったのを黒狼に見つかってしまって…。」

「黒狼?すみません、ここら一帯のことに関して詳しくなくて…。」

「…もしかして貴方達、別世界から召喚された者たちですか?」

「っ!なぜそれを」

「ん?実は敵だったりするのか?」

「倒す?」

「違います!王国の方で魔王討伐の為に異世界から召喚をする儀式が行われたと噂があったんです。」


「…おい、赤ずきんをいじめてるのは誰だ!」

「「「っ!タナカ!!」」」


すぐ気が付いた勇者たちはいっせいに構えたがもう遅いタナカの首筋には鋭い刃があてられていた。

タナカを捕まえたのは眼帯の獣人の少女だ。勇者たちの懐に入れたところから相当の手練れであることが伺える。


「ロウ!違うのこの人たちはー。」




「…すまなかった。赤ずきんがまた虐められているのかと思ったら頭に血が上ってしまって…。」

「私からもすみませんでした。怪我、されてますよね!大丈夫ですか?」

「大丈夫ですよ。」


マリアが首に手を当てると光り傷が癒えていく。

アリスが剣を、ムリアが弓を勇者としての能力とし得意にするようにマリアは癒しを、魔法を得意としているのだ。


「すごい…傷跡もなく綺麗にふさがってる。」

「並みの魔法使いじゃないな。」

「これぐらいの傷ならだれでも治せますよ。それで黒狼とかなんとか言っていましたが一体なんですか?」

「それは」


赤ずきんが言うには王国近くのこの森では獣人が多く暮らしており、中でも狼族は数が多く最大勢力らしい。

だが、昔から狼族は黒狼と白狼で別れており黒狼は真面目で規律を重んじる白狼を嫌い、白狼も自由奔放で人に害する黒狼の事を嫌っているのだ。。


赤ずきんは白狼に、ロウは黒狼の狼族なのだが互いに仲が良く、実は近道をしようと言っていた赤ずきんの話は嘘で本当はロウに会うための待ち合わせ場所だったのだ。


「私たちはいつもここで待ち合わせをした後、花畑でお話をして私は長の所へ向かうのが日課だったんです。」

「だがここの待ち合わせ場所は他の黒狼でもめったに分からない場所だ。貴方たちがこの場所を突き止めたのも不思議だが…。」


疑いの目を向けてきたロウにムリアは何ともなく答える。


「この程度の森なら全部聞こえるよ。気配がした、から町でもあるかと思って。」

「…エルフか。だが、この大きな森を簡単に掌握するなんてただ者ではないなお前。」

「この世界にもエルフがいるのですか?」

「はい。中々外界に姿を現すことはない種族ですが…だから初めて出会えて光栄です!」


瞳をキラキラさせてムリアを見る赤ずきんだがムリアは我関せずでそっぽを向いている。だが特別に嫌っているわけではない。ムリアはあまり他人に興味がないのだ。

それはムリアがいた世界に関わっている。勇者として目覚めたばかりのムリアは訳も分からず森から離され人間の国に連れてこられた。森の仲間を人質に取られたムリアに抵抗なんて許されるわけなく、魔族と戦い戦い続けついに魔王を倒したのだが、人間以外が勇者で魔王を倒したなんていうのは外聞が悪かったのだろう。

金髪に青い目、ガタイの良い体という民衆が思い描く勇者を立ててムリアを処刑した過去があるのだ。

それから自分以外を信用ならずエデンホテルの皆以外にはこのように耳を塞いで反応をしないようになった。


アリスだってそうだ。アリスがいた世界では女騎士だったのが勇者として目覚めてから、更に魔族との戦いに勤しむようになった。確かに聖剣を持ち強くなったアリスだがそれでも多数の魔族に部下が守り切れずどんどん死んでいく。最後の最後、一人となって魔王を倒したのだ。


マリアもそう。マリアの板世界では小さい教会のシスターだったが勇者として目覚めて勇者として魔族との戦いに参加したが、支援魔法が得意だったためお飾りの勇者として若い女と言うこともあり金持ちの相手をするだけだった。それに加え、死んだ兵士に弔いをと自身がもっとも信頼するようになった金を送ることからどんどん捻じ曲がった悪評が広がり、魔王を倒した後でも好意的な目で受け入れられることはなかったのだ。

そこから更に金に執着するようなったマリアもエデンホテルの皆以外には心を開くことは無かった。


3人が2人を警戒しツンとした態度をとる理由はそれだ。

それに気が付いたロウはさりげなく赤ずきんの前に出てタナカたちの情報収集に協力していたが、その空気を壊したのは赤ずきんだ。


「あの、もし色々知りたいのならば白狼の里へと来ませんか?長なら私たち以上にもっとこの世界の事を知っているはずです!」

「赤ずきん!?でも本当に勇者かどうかなんてわからないんだぞ?そんな奴らを赤ずきんのところへ泊らせるなんて…。」

「彼らは私を助けてくれました。それでもう信用するには十分だよ。」

「だけど…。」

「大丈夫!人を見る目はあるつもりだよ。」


心配そうに見るロウを安心させるように笑いかける赤ずきん。

突然ここに召喚されたということは家がないということに赤ずきんは気が付いていたのだろう。それに、また夜中に魔物が来ないとは限らない。いちいち倒すのも面倒くさい。そう思ったタナカは赤ずきんの提案を受け入れたのだった。


勇者たちの過去が判明しましたね。

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