第五話 休暇
すぐに魔獣たちは全滅させられ、アリスは褒めて褒めてと言わんばかりに頭を突き出す。
それはいつも通りのことなのでタナカは慣れたように頭を撫でて質問を投げかけた。
「なぜここに?女神が許すとは思えませんが…。」
女神が何もできないタナカだけを召喚させたのは何か意味があるのだろう。それを破るというのはよろしくないのではと不安そうに話しかけるがアリスは二カッと笑って問題ないと答えるだけだ。
「こらアリス、それじゃ分からないでしょ。」
「アリス、おバカ。」
「なに!バカと言うほうがバカだとタナカのところにあった小説の主人公が言っていたぞ!!」
目の前が真っ白に光り残りの二人も現れる。
知らぬ世界がいつもの光景に早変わりだ。エデンホテルの皆がそろったことで尚更困惑する
それを見たマリアはアリスでは足りない説明を補うように話し始めた。
「きっと勇者としての能力なのではないでしょうか?勇者というのは女神さまから力を貰うのは分かっているはずです。同意もないいきなりのものでしたからランダムで召喚のような能力が付与されたのでしょう。私たちにとっては良いことですわ。」
「あぁ!タナカがいないホテルは寂しかったぞ!」
「女神が代わりの使用人してくれるマスコットを用意してくれたけどタナカじゃなきゃつまんない…。」
ぎゅっとムリアの小さな体に抱きしめられる。
その温かみがタナカのこの場を現実だと理解させる唯一のものだった。
「で、タナカをこんな危ないところまで追い詰めたの誰?」
「それ私も聞きたいぞ!タナカは危ないところに自分から行くような奴じゃないからな!きっと悪い奴に追われていたんだ!」
「さぁ私たちに教えてください、そんな悪い子はお仕置き、しなくてはなりませんから。」
静かに、落ち着いているように見えるが目に見えてキレている。
これを落ち着かさせるのは至難の業だとこれからのことを思ってタナカは内心溜息を吐きつつ今までの事を話し始めた。
「というわけで怪しい国から脱出した自分は森で襲われそうになっていたところを貴女方に助けていただいた…というのが今までの話です。」
「…なんだそれは。タナカを魅了して都合いいように使う…だと?」
「許せない。まぁムリアの魅力ぼでぃですら悩殺できてないタナカだから安心だけど。」
「鶏ガラボディの間違えでは?それに魅了は魔法によるものなので体つきは関係ありませんよ。貴女も借りたらいかがです?」
「?まぁ、姫の様子がおかしいことに気が付いて良かったです。そうでなければ今頃どうなっていたか分かりません。…しかしこれからどうしていくか考えなくてはなりませんね。」
ムリアとマリアがぼそぼそと話していたことはタナカに聞こえることはなく不思議そうにしていたがそのまま続ける。
それよりこれよりどうするかというのが重要だ。
「逃げられたんだし、休暇と思って自由に過ごせば?」
「それはいいですね、タナカは働きすぎです。これを機に休むのはいいことだと思います。客人と使用人という立場は忘れ共に楽しみましょう。」
「そうだな!もし女神が仕事しないことに何か言ってきても安心しろ!私が助けてやる!!」
「私たち、の間違え。」
「……そうですね。」
タナカは少し考える。
生まれた時からエデンホテルの使用人としての人生を歩み始め、休暇なんて考える暇などなかった。ムリアの話でやっとそういうことを考えたレベルだ。でも確かに…自分だけの時間。客人も良いと言ってくれているし良いんじゃないだろうか。
悩んでいるように見えているが実際タナカの心はもうすぐに決まっている。
「よし!ではこれから僕は休暇に入ります。色々世界を渡って、元に戻る方法を考えつつ楽しみましょう。」
「「「おーーー!!!」」」
皆、楽しい未来に思いをはせる。不穏な王国などきれいさっぱり忘れて。
タイトルが出てきましたね。