第三話 エデンホテル使用人のタナカに魅了は聞きません
「勇者様、おはようございます♥昨日はよく眠れましたか?」
「まぁ…。」
朝、トントンとドアを叩く音で目が覚める。
姫がいきなりの環境の変化にやられていないかと心配して訪ねてきたようだ。
「良かったですわ。慣れない場所で不安もあるでしょう?良ければ私にここを案内させてくださいませんか?」
「はぁ…分かりました。」
「では、参りましょうか♥(さっきネックレスを発動したわよね…?なんで私に惚れて言うこと聞かないのよー!?)」
自然な流れでススッと腕を絡ませて胸を押し付け、その瞬間にネックレスが淡く光る。昨日と同じように。
だが、聞かないのだ。女神が用意した空間、勇者が安心安全に過ごせるようにと用意されたそこは病気も怪我もしないものとなっている、その影響で働いているタナカも勇者ではないが体に悪影響なものは受け付けなくなっていた。
そのため、俺は相手が何をしようとしていたのかこの時は分かっていなかったのだ。
「それでここが騎士たちの鍛錬所となっております。」
「姫様、このようなむさくるしい場所に来られるなんて…。」
「この場は国を守る者たちが励む場所です。あまり卑下なさらないでください。」
「おぉ…なんとお優しい……。」
食堂や図書室などなど城や街を説明されて最後に城にある鍛錬所に案内された。
騎士たちが自分を磨き上げ国を守るために切磋琢磨する場所だ。立場上来ることなど考えていなかったのだろう。一番偉いであろう怒号をあげていた一人の男が慌てて駆け寄ってくる。少し話した後、やっとこちらに気が付いた男は訝し気に見てくる。
「この方は…。」
「この方は勇者様の一人ですわ。」
「なんと!この方が…。ぜひ、ぜひ私たちの世界を御救い下さいませ。」
「は、はい。努力はします。」
「ありがとうございます。では、失礼いたします。」
最初とは違いにこやかに足取り軽く去っていく男。それを見送ってから姫は行きましょうと手を握って案内をする。
その手は確かにやわく小さい可愛い女の子の手だったが、俺にはどうしてもいやなものにしか見ることはできなかった。
「お父様、申し訳ございません。何故か魅了が聞かず…。」
「なに!?あれは我が国の総力をかけて作ったものだぞ!聞かないなど…流石勇者というわけか。なにかしら策を打たねば…。」
「(こういうことですか…。)」
盗聴器というのはこの世界にない為バレることはなかった。使用人セットに入っていて良かったと、事実を知った俺は早めに荷物を詰め込み夜中のうちに部屋を出た。