仮想からの脱出編 前半
☆プロローグ
目の前に立ち並ぶ店頭の数々。服屋から雑貨屋、飲食店まで何でも揃っている。
何処からともなく漂う甘い香り。パンケーキかな? 生クリームとバターの匂いがする。
1階から3階までの吹き抜け。ガラス窓から太陽の光が全ての階に降り注ぐ。
間違えるはずはない。ここは何度も来た事がある地元のショッピングモール。でも全てがデータであり仮想の世界。
どっちが本物でどっちが偽物なの?ここは現実?それとも……
そんな事を考えながら私は財布の中にあるメダルを見つめた。それは可愛らしい鳥のデザインが特徴的だった。
キャラクター紹介
真紀 元気で明るい、赤髪ポニーテールの女の子
宗市 強面だけど頼りになる男
彩人 真面目で無邪気な小学生
弥 知的でクールなゲームオタク
* * *
「暇だよ! 暇っ!、暇暇暇暇暇暇暇暇………‼︎」
私の名前は真紀。地元の女子高に通う2年生。そして…
「うるさいな……もう30回以上は聞いたよ」
と、愚痴をこぼしたのが同じ高校に通う親友の志桜里
「だって暇なんだもん! ねぇ、もう一回ショッピングモールに行こ! 買い物したい! パンケーキ食べたい!」
「今週の土日は休業だから閉まってるよ。忘れたの?」
「じゃあ何か面白い話して、暇だよ!」
「そう言われてもね……」
志桜里がカバンからスマホを取り出した。
「何調べてるの?」
「友達 暇暇連呼 うるさい 対策 検索っと」
「酷いな!」
私は頬を膨らませて志桜里に詰め寄る。
「あっ! 面白そうな記事を見つけたよ」
「なになに? 教えて!」
志桜里のスマホを覗き込んでみると、見出しには都市伝説特集と書かれていた。
「前行ったショッピングモールの周りに古びた駅があるでしょ?」
「うん。それがどうかしたの?」
「今はもう使われてないはずなのに、列車が走る音が聞こえるんだって。幽霊列車じゃないかって噂だよ。一度でも乗ると帰ってこれないみたい……」
志桜里が写真を見せてくれたけど、これは駅というより古屋かな? 真四角な木造建築。まさに豆腐ハウス。
「ショッピングモールの周りを取り囲むように建てられた四ヶ所の古びた駅。その全ての駅から不気味な音がするみたい。通称、幽霊列車の駅だって」
「そっか……ねぇ!」
「嫌!」
「まだ何も言っていないよ」
「調べに行くでしょ?」
「そう。流石に四ヶ所1人で調べるのきついよ〜今週の土曜日って……」
「嫌だよ、気味が悪いし……もし本当に帰って来れなかったらどうするの?」
「じゃあ他に面白い話してよ!」
「自分で調べて」
志桜里が突っぱねるように言い放つ。仕方がなく自分のスマホを開いて調べようとすると……
「ん? 何これ?」
「どうしたの?」
「変なメールが届いてる。えっと、なになに……[今この広告を見ている高校2年生くらいの女性はとてもラッキーですね。新作VRゲームの体験会。今週の土曜日に四名様限定、参加してみませんか?]ゲーム? しかもVR? ねぇ!」
「パス」
「どうして?」
「そんなの詐欺メールに決まってるでしょ。そんなことよりテスト勉強しないとまた赤点になるよ」
「そうだけど……」
「土曜日は勉強会ね」
「………」
「分かった?」
「は〜い……」
適当に返事はしてみたけれど最新VRゲームと言われたらいてもたってもいられない。赤点は嫌だけど、頭の中はゲームの事でいっぱいだった。
* * *
来てしまった。今日は待ちに待った土曜日。テスト勉強? 赤点? なにそれ美味しいの? 最新ゲームを前にテスト勉強なんてできるはずがない。
「ここであっているよね?」
住宅地の中にぽつんとある無人の駅。志桜里が見せてくれたあの通称、幽霊列車の駅にそっくりだった。(どうせ嘘の噂だと思うけど……)
「お邪魔します〜」
早速、入ってみると中は暗くて埃っぽい。ほとんど前が見えない。本当にここで最新VRの体験ができるの? やっぱりいたずらだったのかな? 仕方なく駅を出ようとすると……
「おせーよ、15分も遅刻じゃねーか!」
暗闇のせいで顔は見えないけど、明らかに私に向かって言った言葉だ。声からして男性なのは分かる。何だか少し怖そう……
「ねぇ早くゲームしようよ!」
今度は無邪気な子供の声が聞こえた。
「とりあえずこれで4人全員そろったね」
最後の1人はどこか落ち着きのある声だ。相変わらず暗くて顔は見えないけど……
明かりを求めスマホのライトをつけようとしたけど、その必要はなかった。
急にスポットライトに照らされ、古びたレールとその上に設置されたポットが現れた。
(これが例の最新ゲーム機?)
ゆっくり近づいてそっとポットに触れてみると……
「初めまして。今回ゲームマスターを務めるAiです。本日は仮想からの脱出ゲームにお越しいただき誠にありがとうございます」
謎の機械じみた声とともに目の前にあるポットが開いていく。
「それでは早速乗り込んで下さい」
(乗り込むと言われてもどうやって?)
そんな私の疑問を感じ取ったのか……
「横になって入ってもらえれば大丈夫です」
不安だけど、とりあえず言われた通りにポットに入ってみた。他の皆んなも乗り込んでいく。中は狭いけど意外と寝心地がいい。ゆっくりと屋根が閉まり暗闇に包まれていく。そして急に揺れ始めた。何かが軋む音がする。やばい、酔いそう。
「お待たせしました。ロードが完了しました」
機械じみた声とともに暗闇に一筋の光が注がれる。そこに広がっていたのは……
「嘘! すご過ぎる!」
吹き抜けの天井、立ち並ぶ多くの店、甘いパンケーキの香り、間違いない。そこはついこないだ志桜里と来たショッピングモールだった。
* * *
「すげーな! 本物みてーだな」
さっきの怖そうな人が太い声で感想を述べる。冬なのに半袖で、首にはギラギラした鎖を巻いている。やっぱり怖そう。
「もう待ちきれないよ! ゲームはまだ?」
まだ小学生くらいかな? ダボっとした服と少し大きめなスニーカーを履いた少年が無邪気にはしゃいでいる。そして最後の1人は……
「これはゲーマーとしての腕が鳴るね」
シワひとつない白いシャツを着た、華奢な男性が1人で何か呟いていた。
「今回の舞台は、この架空のショッピングモールです。ゲームは6回行います。とりあえずポケットの中にあるスマホの地図から……」
ゲームマスターが何か説明しているけど、リアルすぎるショッピングモールにテンションが上がり、話が入ってこない。体の違和感も特になく、お気に入りの腕時計といつものポニーテールはそのままだった。
「聞いていますか真紀様?」
突然、名前を呼ばれ、ふと我に返った。
「えっ?……あっ……すみませんもう一回お願いします」
「ゲームは6回やります。とりあえずスマホを出してください」
「そう言われましてもカバンにしまったままですし……」
「ポケットの中を確認してください。専用のスマホが入っているので」
なんとなく言葉尻に怒りを感じる。そういえばよく志桜里からちゃんと人の話を聞けって注意されたな……
スマホを取り出して画面を開くと、ショッピングモールの地図が表示された。それと無数の星マークが散らばっている。
「全部で200個ありますが、とりあえず近くにある星マークの所に向かってください」
今度はよく話を聞いてみんなの後を追った。するとそこには……
「何ですかこれは?」
そこには可愛らしい鳥のデザインをしたコインが一枚、落ちていた。とりあえず財布にしまっておこうかな。
「今回のゲーム内容はこのコインを集めることです。ただし、ただ集めて終わりではありません。時間内に一階中央ステージにある回収ボックスに入れなければカウントされません」
時間制限か……よく志桜里からもっと時間に余裕を持てと言われたな……
「ちなみにこの可愛らしい鳥のデザインをしたコインはゲームを作った作者の趣味となっております」
(なんかメタい発言だな……)
「とりあえず説明は以上です。それでは一度戻りましょう」
ゲームマスターの合図と同時に目の前が真っ暗になった。
さっきまでいた仮想のショッピングモールが消えて、ゆっくりとポットが開いていく。薄暗い天井、埃っぽい匂い。そこはさっきまでいた駅の中だった。でも隣にあった3台のポットがなくなっている。他のみんなはどこにいったのだろう?
「それでは駅を出てください」
「えっ? 外で何をするのですか?」
住宅地の中にぽつんと建つ無人の駅、当然、外に出れば多くの家で囲まれているはず。そう思っていたのに……
「嘘っ……どうして?」
目の前の景色に思わず声が震える。外に出ると、そこには、広い駐車場と、ついさっきまでいたショッピングモールが広がっていた。住宅地はどこにいってしまったの?
あれ? ここは現実? それとも……
☆第一ラウンド
「何これ? どう言うこと?」
「貴方はこのゲームの世界に閉じ込められたいわば囚人。ここから出る方法はただ一つ。100枚メダルを集める事」
「いや、ゲーム説明の事じゃなくて……」
「ちなみに目標の枚数が集まらなかったプレイヤーは一生この仮想世界から出られません」
しれっとゲームマスターがとんでもない発言をした。
「なにそのイカれたゲーム。聞いてないんだけど!」
「規定の枚数に誰も到達しなかった場合は、暫定1位の方だけ出られます。時間になったらまたこの駅にあるポットに戻ってきてください。それでは次のゲーム開始まで自由にこのショッピングモールをご利用下さい。集めたメダルはスマホで確認できます」
淡々とした声で説明された。ただそんなことよりも今は……
(なんだか気分が悪いな……ゲーム酔いかな? 乗り物酔いならよくするけど……)
とりあえず私は駅を出て駐車場を抜け、ショッピングモール内にある薬局に向かった。作りは現実世界でよく見かけるものとそっくり。だけど……
(店員どころか客1人もいない。代金はどうしよう……)
流石にお金も払わずに薬を持っていくのは気が引ける。仕方がない。レジの近くにお金を置いといたからこれでいいよね?
少し多めにお札を置いて私は店を出た。無事に薬を手に入れたけど、今度は水がいる。
(自動販売機は使えるよね? 流石に水無しはきついよ)
でもその心配は要らなかった。店を出てすぐ近くにあった自動販売機は問題なく使えた。今の最新ゲームは凄いな……
(いただきます。うん、不味い)
問題なく薬が飲めた。そしてちゃんと苦味も感じる。水も飲めるしここは現実世界なのかな? でもゲームの世界に閉じ込められた囚人って言っていたし……
「時間になったので帰ってきて下さい」
スマホから機械声が聞こえる。私はショッピングモールを出て広い駐車場を抜け、古びた駅に向かった。レールの上にはぽつんとポットが置がれたままだ。早速、乗り込むと屋根がゆっくりと閉まり、暗闇に包まれた。
* * *
「これより第一ラウンドを始めます。制限時間は20分。それでは早速メダル集めを始めてください」
機械じみた声とともに暗闇に一筋の光が注がれる。ここはどこ? 私は誰?
スマホを開くと現在位置が表示された。今私がいるのは2階のイベントステージ前。そして無数に広がる星マーク。とても全部回収はしきれない。とりあえず近くのゲームセンターの分を回収してそのあとは……
考えていても仕方がない。地図を頼りにゲームセンターに行くと、至る所にメダルが落ちていた。子供の頃はゲーム用のメダルを買ってもらえなくて、こんなふうに地面を這いつくばって拾ったな……まさかもう一度やることになるとは……
「ってまずい時間がない!」
ちらっと腕時計を見てみると、第一ラウンド終了まであと3分を切っていた。
中央ステージにある回収ボックスに入れないとせっかく集めたメダルが無駄になる。
血眼になって集めた15枚のメダル、私はそれを小袋にしまって一階中央ステージに向かった。
* * *
(これでいいのかな?)
ステージに置かれた四つの四角い箱。見た目は選挙とかで使う投票箱そっくり。プレートに私の名前が書いてあるからこの箱で間違いないみたい。とりあえず集めたメダルを入れてみた。
「時間切れです。画面が切り替わるまでお待ちください」
ゲームマスターが合図すると同時に、目の前が真っ暗になった。さっきまでいた仮想のショッピングモールが消えてゆっくりとポットが開いていく。薄暗い天井、埃っぽい匂い。そこは古びた駅の中。早速外に出てみると……
(やっぱりここか……)
分かってはいたけど、目の前に広がるのは住宅地。ではなくてショッピングモールと駐車場だった。もう訳が分からない。これはあれかな? ドッキリかな? だとしたらそろそろ種明かしをしてもいいのでは?
でもそれは一旦置いといて、普通に集めているだけじゃ、とても100枚も集まらない。そんな私の心配を聞きつけたのか……
「ミッション、を行います」
スマホから機械声が聞こえてくる。
「ミッション? 何をするの?」
「待ち合わせです」
「待ち合わせ?」
どんな無理難題を言うのかと思いきや、ただの待ち合わせとは肩透かしだ。
「はい今回の場所は2階キッズコーナー前です」
「そこに行ったらどうなるの?」
「無事に二人とも出会えたら10枚メダルを差し上げます」
「じゃあ二人とも行かなかったら?」
「1枚もメダルが貰えません」
(やっぱりそうだよね……だったら行かない理由はない)
「ただし、貴方が待ち合わせ場所に行っても、相手が来なかっ場合は……」
「どうなるの?」
「貴方の所持しているメダルが0枚になります」
(0枚になる? それって……)
「待ちぼうけでも辛いのに、メダルまでなくなるの?」
「はい。それではミッションスタートです。制限時間は10分。相手の情報はスマホから確認して下さい。もちろん行くか行かないかは貴方次第です」
ゲームマスターはそう言い残すと消えていった。
スマホで相手の情報を調べてみると、簡単なプロフィールが出てきた。12歳。名前は彩人。多分ダボダボの服を着た子かな?待ち合わせ場所は 2階キッズコーナー前。とりあえず行ってみよう!
早速、私は広い駐車場を抜けてショッピングモールに向かったのだが……
(えっ〜と、キッズコースなんてあったかな?)
必死になって探しても見つからない。
(やばい、どこ? もう時間がない!)
タイムリミットは容赦なく迫ってくる。そしてついに……
「では、駅に戻ってきて下さい」
スマホから機械声がする。結局、私は待ち合わせ場所に間に合わなかった。
* * *
「それでは乗り込んでください」
ポットに触れるとゆっくりと扉が開いていく。なんとなく他のプレイヤーの成績を見てみると、待ち合わせをするはずだった子のメダルが0枚になっていた。
相手は私の事を信じて待っていてくれたのに、それに応えられなかった。罪悪感がのしかかる。
(なるほどね……)
私は自傷気味に笑って呟くとまたポットに乗り込んだ。屋根がゆっくりと閉まり、暗闇に包まれた。これはただのゲームじゃない。これは人の信頼を試す闇のゲームの始まりだった。
☆第二ラウンド
「これより第二ラウンドを始めます。制限時間は20分。それでは早速メダル集めを始めてください」
また機械じみた声とともに暗闇に一筋の光が注がれる。
スマホで現在地を確認すると、3階映画館前だった。マップ上には星マークが至る所に散らばっている。とにかく今できることはメダルを集めること。
私はショッピングセンターを縦横無尽に走り回った。カバンの中が重い。でも沢山集まった。この調子なら100枚集まるかも?
「はい、時間切れです。回収ボックスに入っていないメダルは没収します」
スマホからゲームマスターの声が聞こえてきた。(えっ? ちょっと待って! まだ回収ボックスに入れてないのに……)
そんな私の嘆きなどお構いなく、目の前が真っ暗になった。さっきまでいた仮想のショッピングモールが消えてゆっくりとポットが開いていく。そこは古びた駅の中。慌ててスマホを取り出して確認してみたが、メダルが1枚も増えていなかった。
(あんなに頑張ったのに……)
メダル集めに気を取られ、時間のことをすっかり忘れていた。
「今回の待ち合わせ場所は、3階カラオケボックス前です。制限時間は10分。次のゲーム開始までにはまた戻ってきてください」
淡々としたゲームマスターの声が聞こえてくる。くよくよしていても仕方ない。
駅を出ると。やっぱりそこはショッピングモールだった。でも今はそんな事関係ない。私は広い駐車場を抜けてショッピングモールの入り口を潜った。今度こそ待ち合わせ場所へ! 目指すはカラオケボックス!
* * *
「あっ! 今度はちゃんときてくれたね」
カラオケボックス前で待っていると、1人の少年が走ってやってきた。
「初めまして。ボクの名前は彩人。お姉さんは?」
「私の名前は真紀。前回はこれなくてごめんなさい」
私のせいでこのこのメダルは0枚になってしまった。多分怒っているよね?
「気にしないで。そんなことよりもすごくない! こんなにリアルなゲームをするのは初めてだよ」
彩人は特に怒ることもなく、楽しそうに笑った。その無邪気な笑顔にホッとする。
「すごいね、私はここから出られるか不安で仕方ないよ。彩人君は不安じゃないの?」
「全然、だってここだったらゲームし放題じゃん? 家に帰ったら宿題しなさいってうるさいし」
彩人が顔をしかめてため息をつく。
「それにもし何かあってもきっとお兄ちゃんがなんとかしてくれるから」
「そっか、お兄さんのことを信頼しているんだね」
「うん、見た目は少し怖いけど頼りになるよ。それじゃあそろそろ行くね。お姉さんも頑張ってね」
少年はそう言い残すとまた走り去っていった。
「時間になったので各プレイヤーは駅に向かってください」
スマホから機械声が聞こえてくる。
(これ無視したらどうなるのだろう?)
一瞬その考えがよぎったけど、まだ全然目標の枚数に達成していない。彩人君と待ち合わせに成功して得た10枚のメダル。それを足してもまだ100枚までは遠い。
仕方なく古びた駅に向かい、ぽつんと置かれポットに乗り込んだ。屋根がゆっくりと閉まり、暗闇に包まれていく。
☆第三ラウンド
「これより第三ラウンドを始めます。制限時間は20分。それでは早速メダル集めを始めてください」
例によって機械じみた声とともに暗闇に一筋の光が注がれる。さてと、今回のリスポン地点は……
現在地は2階中央、一番近い星マークはフードコーナーかな? 前回は時間切れになったせいでメダルが0枚になった。今回は早めに回収ボックスに行こう。そんなことを考えながら目的地に向かっていると……
「おーい真紀姉! こっちこっち!」
誰かに呼ばれて見上げると、一つ上の階で彩人が体を乗り出して手を振っていた。
「危ないよ! 落ちたらどうするの?」
「へーきだよ。もし落ちてもゲームの中だから大丈夫でしょ?」
「そうかもしれないけど……」
「ねえ見て! もう30枚もメダルが集まったよ」
彩人の持つ袋には、ぎっしりとメダルが詰まってた。
「すごい! どうやって集めたの?」
「簡単だよ、上の階にいけば行くほどたくさんメダルが落ちてたんだ。まだあるからお姉さんもこっちに来たら? それじゃあボクは行くね」
確認してみると確かに星がいっぱいある。あとでお礼を言わないと。
彩人君の言う通り、上に行くほど星の数が増えていく。あっという間に20枚ほど可愛い鳥のデザインのメダルが手に入った。けれど、上の階に行くと一階中央ステージにある回収ボックスから離れていく。時間内に全てのメダルを入れないと意味がない。
「終了まであと5分です」
ゲームマスターの声がスマホから聞こえる。さっきの回も残り時間を言ってくれたら間に合っていたかもしれないのに……
とりあえず今回は、前回の失敗を踏まえ早めに一階中央ステージに向かった。すると、1人の男が私の回収ボックスの前に立っていた。
「すみませんちょっといいですか?」
「ああ、悪いな」
男はそう言い残すと駆け足気味に離れていく。こんな時期なのに半袖、寒くないのかな? 首に巻いてある鎖がギラギラと輝いていた。
「なんだったのだろう? でも……」
無事にメダルを入れたから大丈夫だよね?
「はい、時間切れです。回収ボックスに入れなかったメダルは没収です」
ゲームマスターの合図と同時に目の前が真っ暗になった。さっきまでいた仮想のショッピングモールが消えて、ゆっくりとポットが開いていく。今集めたのが20枚。古びた駅を出て確認してみると……
(あれ? どうして?)
何故か1枚もメダルが増えていない。ちゃんと回収ボックスにしまったはずなのに……
(バグかな?)
試しに他のプレイヤーのメダルを確認してみると。何故か彩人君の持っているメダルが50枚も増えていた。あれ? 確か30枚集めたとか言ってたよね? 私の20枚ってまさか……
* * *
「今回の待ち合わせ場所は、一階のカフェテリアです。制限時間は10分。次のゲーム開始までにはまた戻ってきてください」
私は早速待ち合わせ場所に向かった。今回の相手の名前は宗市。来てくれるといいけど……
不安からか歩いて向かっていたのが、早歩きに変わり、気づいた時には走りだしていた。ちゃんといるよね……
ゲームは残り3回。さっき集めた20枚のメダルがカウントされなかったのが痛い。
軽く息を切らしながら走っていると、目的地で1人の男が突っ立っているのが見えた。
(どこかで見覚えがあるような……)
こんな時期なのに半袖、寒くないのかな? 首に巻いてある鎖がギラギラと輝いている。
(思い出した! さっき私の回収ボックスの前ですれ違った人だ)
「おっ! 待っていたぜ!」
男は私に気づくと、太い声で呼びかけてきた。
「俺の名前は宗市。お前は」
「真紀。よろしくね」
「おう、来てくれてありがとな」
少し強面だけど、意外と礼儀正しい。
「これで10枚GETだぜ!」
宗市がガッツポーズをとる。念のためスマホを開いて確認して見ると、ちゃんと10枚入っていた。さっきの消えた20枚は何だったのかな?
「今回はもう一度待ち合わせを行います。場所は2階ゲームセンターです制限時間は5分。移動を開始して下さい」
スマホからいつものゲームマスターの声が聞こえた。
「おい、聞いたか?」
「うん。さらに10枚手に入るチャンスだよ! 次の目的地はちょうどこの真上だし早く行こうよ」
「そうだな……悪いけど先に行っててくれ、ちょっと寄るところがある」
「わかった。でも早く来てね」
私は一度、宗市と別れ先にゲームセンターに向かった。それから待つこと数分……
(おかしいな……どうして来ないのかな?)
時間は刻一刻と過ぎていく。そしてついに……
「時間切れです。次のゲームを行うのでプレイヤーは各駅に向かってください」
結局、宗市は来なかった。スマホで自分のメダルを確認してみると0枚になっている。これでは振り出しに逆戻りだ。
(嘘でしょ! なんなのあいつ! 私を騙したの?)
信じていた私が馬鹿だった。せっかく20枚貰えるチャンスだったのに!
とぼとぼと重い足取りで私は古びた駅に向かい、ぽつんと置かれたポットに乗り込んだ。屋根がゆっくりと閉まり暗闇に包まれていく……
☆第四ラウンド
「これより第四ラウンドを始めます。制限時間は20分。それでは早速メダル集めを始めてください」
もう何度も聞いた機械じみた声とともに暗闇に一筋の光が注がれる。スマホの画面には星マークが散らばっている。だけどそんな事はどうでもいい。私は一階中央広場に向かった。どうしても確認したいことがある。
ステージに置かれた四つの四角い箱。見た目は選挙とかで使う投票箱そっくり。回収ボックスに書かれた自分の名前のプレート。でもよく見てみると上からノリで貼り付けたような形跡がある。ゆっくりとめくってみると、下からもう一つのプレートが現れた。
(やっぱりそうだ)
そのプレートには、ハッキリと彩人の名前が書いてあった。前回、自分の回収ボックスだと思って入れた20枚のメダル。でもその箱は彩人のものだった。
* * *
このゲームは人を信頼したら負けだ。たとえ誰かを踏み台にしてでも勝ち上がらないとこの空間から出られなくなる。それだけは回避しないと!
「はい、時間切れです。回収ボックスに入っていないメダルは没収します」
ゲームマスターの合図と同時に目の前が真っ暗になった。ゆっくりとポットが開いていく。そこはもう何度も見た古びた駅の中だ。
(今回の待ち合わせ場所は……どうでもいいや……)
どうせ言った所でまた待ちぼうけを食らってメダルが無くなるだけ。だったら初めから行かない方がいい。
「もう誰も信じない!」
「ではそのプレイヤーを隔離しますか?」
突然ゲームマスターが話しかけてきた。
「隔離? なにそれ?」
「悪質な妨害プレイヤー対策の一つです」
「隔離された人はどうなるの?」
「参加権を失い、一生このゲーム内の隔離場で過ごしてもらいます」
「それは流石にやりすぎでしょ!」
「決めるのは今回の被害者である貴方です」
「………」
とりあえず次のメダル集めに備えて体力を温存しよう。ショッピングモール内のカフェテリアにでも行こうかな?
適当にコーヒーを飲みながら時間を潰していると。待ち合わせ終了の合図が来た。なんとなくみんなの成績を見てみると、彩人が集めたメダルは0枚になっていた。
「今回は後2回、待ち合わせを行います。場所は……」
(まだあるの?……でももう行かない!)
ふかふかの椅子にもたれてくつろいでいると、待ち合わせ終了の合図が来た。今度は宗市のメダルが0枚になっている。
「最後にもう1度、待ち合わせを始めます。場所は……」
(今回は多いな……でも関係ない)
特にやることもなくスマホをいじっていると、見知らぬ誰かが私の前の席に座った。
「初めまして。僕の名前は弥よろしく」
「……私に何か用ですか?」
スマホを触りながら、ぶっきらぼうにそう言ってみたが、相手は特に気にする様子はない。
「僕は待ち合わせ場所に来ただけさ」
そう言われて確認してみると、確かに今回の集合場所は一階カフェテリアだった。
ちゃんと10枚増えている。ふと思ったけど、どうしてメダルがもらえないのだろう? 無事に集合できた時も実物のメダルを渡してくれた方がわかりやすいのに……
「随分とご機嫌斜めだね。何かあったのかい?」
弥が落ち着いた声で聞いてきた。
「ねぇ、聞いてよ!」
私はこれまでの経緯を吐き出すように説明した。宗市が二度目の待ち合わせ場所に来てくれなかったこと、回収ボックスに小細工がしてあったこと。自分でもこれがただの八つ当たりだって事ぐらい分かっている。だけど共感してほしい。
「なるほど、確かにそれは酷いね。そんなことされたら人の事なんて信じられないよ」
弥は愚痴を聞かされても嫌な顔一つせずに聞いてくれた。胸の中でつっかえていたものが無くなっていく。一通り話を終え、私はふっ……と息を吐いた。
「それじゃあ今度は僕の話を聞いてくれるかな?」
弥は机から身を乗り出して私の目を見つめた。話を聞いてくれたから、今度はこっちが聞く番だよね。
「君はこのゲームについてどう思う? 本当にゲームの世界に閉じ込めらたと信じている?」
「うん。だってポットから出てもショッピングモールが目の前にあるし……」
「じゃあ今こうして会話しているのもゲームの世界の出来事ってこと?」
「よく分からないよ、だってどっちもすごくリアルなんだもん」
「そっか……じゃあはっきり言うね。ここは現実世界さ。間違いなく」
「どうしてそう言い切れるの?」
「これを見てくれないか?」
弥はスマホをとりだして一枚の写真を見せてきた。
「これは……」
「メダル集めをするときにいつも見ているショッピングモールの地図だよ。ほら、至る所に星が散らばっているでしょ?」
「うん。でもそれがどうかしたの?」
「ポットを出た後、実際にこの星マークの所に行ってみたんだ。でもメダルは落ちていなかった」
「そうなんだ……」
「おかしいよね? もし同じゲームの中なら星印の所にコインが落ちているはずだ。でもなかった。つまり、ここはゲームの世界とよく似た別の場所さ!」
弥がドヤと言わんばかりの顔で宣言する。
「でもここだって別のゲームの世界かもしれないよ? どうして現実世界だといいきれるの?」
「簡単な事さ、君はポットを出てから一度でも鳥のデザインをしたコインを見たことがあるかい?」
「言われてみればないかも、待ち合わせに成功しても実物のメダルはもらえなかったし……どうしてだろう?」
「出来ないんだよ」
「出来ない? どうして」
「そんなの決まっている。だってそのメダルはゲームの中のアイテムなんだから」
「えっ? どういうこと?」
「それでは各プレイヤーは駅に向かって下さい」
スマホからゲームマスターの声がする。
「続きはまた今度話すよ。それじゃあ」
「えっ! 今いい所なのに!」
弥は振り返りもせずにヒラヒラと手を振ると、カフェテリアを出て行ってしまった。
仕方なく古びた駅に向かい、ぽつんと置かれポットに乗り込んだ。ゆっくりと屋根が閉まり暗闇に包まれていく。
☆第五ラウンド
「これより第五ラウンドを始めます。制限時間は20分。それでは早速メダル集めを始めてください」
毎度おなじみ機械じみた声とともに暗闇に一筋の光が注がれる。ゲームはあと2回、とにかくメダルを集めないと!
私は縦横無尽にショッピングセンター走りメダルをかけ集めた。肺の中の空気が全部なくなりそうなくらい苦しい……
「はい、時間切れです。回収ボックスに入れなかったメダルは没収です」
ゲームマスターの合図と同時に目の前が真っ暗になった。ゆっくりとポットが開いていく。毎度おなじみ古びた駅の中。弥が言うには、今私がいる所が現実世界らしいけど、正直よく分からない。とにかくメダルを集めることに専念しよう!
「今回の待ち合わせ場所は、一階中央ステージです。全プレイヤーが集まったら50枚もらえます。次のゲーム開始までにはまた戻ってきてください」
「50枚? これは行かないと」
駅を出てショッピングモールの入り口を潜り、私は一階中央ステージに向かった。待ち合わせ場所には見慣れた顔の人物が……
「あっ! 宗市!」
向こうも私のことに気づいたのかスマホを閉じてちらっとこちらを見た。
「真紀か……」
「真紀か……っじゃないよ! どうして二度目の待ち合わせ場所に来てくれなかったの?」
「あれはちょっと事情があったんだよ……お前だって前回来なかっただろ?」
「そりゃ行かないよ。信用できないから。それと私の回収ボックスに何かしたよね」
「回収ボックス? 何の事だよ知らねーよ」
必死で誤魔化そうとするがそれが余計に怪しすぎる。
「やっぱり何か知ってるでしょ!」
私は問いただすために宗市に詰め寄ると……
「しょうがねーだろこれはゲームなんだからよ!」
宗市は開き直るようにそう言い放った。
「誰かを踏み落として勝利を得る。それがゲームだろ? そのためだったら何だってする。お前今何枚メダルを持っている?」
「20枚だけど……」
「じゃあそれも貰っていく!」
今度は宗市が私に詰め寄ってきた。鋭い目で睨まれる。まさか女子に暴力はないよね? 危険を察知して後退りすると……
「ちょっとお兄ちゃん、何しているの!」
2人の間を割って出るように彩人が飛び込んできた。
「お前は黙っていろ!」
宗市はそう言い放つが……
「黙っているわけないでしょ?」
彩人も一歩も引く気はないようだ。ただそんなことよりも私が気になるのは……
「ねぇ、彩人君、お兄ちゃんてまさか宗市のこと?」
「うん。そうだよ! 話は聞かせてもらったよ、どうして真紀姉の邪魔をするの?」
「んなこと決まってるだろ、お前を何が何でも勝たせるためだ!」
「ボクを勝たせるため?」
「負けたら一生この訳の分からないゲームの世界に閉じ込められる。そんなことはさせねぇ! 真紀の回収ボックスに小細工をしたのはお前を勝たせるためだ」
宗市は一度、言葉を切ると、私の方をチラッと見た。
「真紀との待ち合わせをすっぽかしたのも、お前のためだ。暫定一位の奴は出られるからな!」
「ボクは一言もそんな事、頼んでない!ほらちゃんと真紀姉に謝って!」
「………」
「何しているの早く!」
「………」
宗市は固く口を閉ざしたまま何も話さない。
「しょうがないな……ごめんね真紀姉、お兄ちゃんが迷惑をかけて」
「もういいよ、気にしないで。彩人君のためにやった事なんでしょ? 弟思いなんだね」
「弟? 何言ってるんだ、妹だよ?」
宗市が呆れた声で言う。
「えっ? 妹? てっきり男の子だと思っていた」
「よく言われるよ」
無邪気な顔で彩人が笑う。言われるまで全然気づかなかった。
「みんな集まっているようだね」
ちょうどそこに最後の1人、弥がやって来た。
「よし、これで全員揃ったな!」
宗市がガッツポーズをとるが……
「ごめんそれ僕が勝手に流したやつなんだ。50枚なんて嘘だよ」
弥がとんでもないことを言い出した。
「はぁ? どう言うことだよ!」
「そのままの意味だよ。これは僕が勝手に流したメール。50枚なんて嘘だよ」
弥は特に悪びれた様子もなく淡々と話す。
「お前ふざけるなよ!」
「お兄ちゃん口が悪いよ」
彩人が止めに入る。
「ところでみんな今何枚メダルを持ってるの?」
「俺は30枚」
「ボクは20枚」
「私も20枚」
なるほどね
「お前は?」
「僕は今の所90枚かな」
「え! そんなに」
「ゲームは昔から得意でね。クリアー条件は1人100枚メダルを集めること。全員がここから出るには400枚必要。今あるメダルを全部足してもあと240枚集める必要がある」
「んなこと言っても後一回のゲームでどうしろって言うんだ!」
「簡単なことさ、とりあえず次のメダル集めで、全ての星マークの所に向かう。これで200枚回収できる。その次にポットから出たら全員が集合場所に集まる。1人10枚もらえるからそれが4人で40枚。ほら、ちょうど240枚集まるでしよ?」
「口で言うのは簡単だけどな」
珍しく宗市がまともなツッコミを入れる。
「大丈夫、僕に作戦がある。ゲーマーの力を見せてあげるよ」
弥はそう言うと、吹き抜けの階層を見上げた。
その後私たちは作戦を聞かされ、各々いつもの駅に向かった。
これが最後のメダル集め。ぽつんと置かれたポットに乗り込むと、ゆっくりと屋根が閉まり暗闇に包まれた。
☆最終ラウンド(前半)
「これが最終ラウンドです。今回は制限時間を10分延長し30分与えます。それでは早速メダル集めを始めてください」
機械じみた声とともに暗闇に一筋の光が注がれる。このセリフを聞くのもこれで最後かな?
スマホのマップを確認すると星マークが200枚至る所に散らばっていた。10分延長これはチャンス! 4人で力を合わせればきっと出来る。
呼吸を整えて気合を入れると、ポケットにしまってあったスマホが鳴った。
「聞こえるかい真紀くん」
「うん、聞こえるよ」
「今どこにいる?」
「一階の中央広場。みんなの回収ボックスがすぐ近くにあるよ」
「なるほど、君はその階のメダルの回収と最後の大仕事を任せる。彩人君と宗市君には3階を、僕は2階のメダルを集める」
「了解」
「健闘を祈る!」
弥との電話を切ると、今度は彩人から電話がかかってきた。
「真紀姉、聞こえる?」
「うん、聞こえるよ。どうしたの」
「一階のカフェテリア近くに星マークが集中してたからそれを伝えようと思って」
「分かった行ってみる。それとさ……2回も待ち合わせ場所に行けなくてごめんなさい……」
「気にしないで、絶対にみんなでクリアーしようね!」
「うん」
「おい彩人、そろそろ電話を切ってメダル集めに集中しろ」
「あれ、隣に宗市がいるの?」
「うん。ほらお兄ちゃん、真紀姉に言う事があるんじゃない?」
「なんだよ、なんもねーよ」
「本当に? 白状しなよ〜」
彩人の少し小馬鹿にしたような声が電話越しに聞こえる。
「今は時間がない、さっさと全部のメダルを集めるぞ」
その言葉を最後に電話はプツリと切れた。私たちはショッピングモール内を走り回り、片っ端からコインを集めていった。地図上に散らばっていた星マークが次々と消えていく。
「残り時間はあと3分。準備はいいかい?」
2階から弥の声がする
「ああ、こっちは問題ない!」
「ボクも大丈夫だよ」
みんなが各階層の中央に集まり下を覗く。
「こっちも準備できたよ」
私は上を見上げ手を振った。
このゲームはどんなにたくさんメダルを集めても。回収ボックスに入れないと意味がない。特に2階や3階で大量にメダルを集めても、時間内に一階中央まで戻ってこなければならない。でも……
「みんな、一斉に投げるんだ!」
弥の合図と共に大量のメダルが降ってきた。それはまるで金色に輝く雨のように……
* * *
弥の作戦は至ってシンプルだった。各階のメダルを手分けして集めたら、吹き抜けの作りを利用してメダルを放り投げる。下にいる人がそれを拾って中央ステージにある回収ボックスにしまえば時短になる。私はメダルを拾い集め、回収ボックスに入れていった。
「完璧。うまく行ったよ!」
これで全員が90枚ずつコインを持っている。後は待ち合わせ場所に向かうだけ。そしたら10枚貰える。足して丁度100枚! これでやっとここから出られる!
「時間切れです。画面が切り替わるまでお待ちください」
ゲームマスターの合図と同時に目の前が真っ暗になった。仮想のショッピングモールが消えて、ゆっくりとポットが開いていく。薄暗い天井、埃っぽい匂い。何だか実家のような安心感すら感じる。でももうお別れだ。
私は古びた駅を出で目の前に広がるショッピングモールを見つめた。
「これが最後の待ち合わせです。場所は3階フードコーナー。制限時間は5分延長して15分与えます。移動を開始してください」
* * *
「弥さん! こっちだよ」
彩人が手を振って場所を知らせる。
「お待たせ。宗市君は?」
「もうすぐ来るはずだよ。ほら来た来た」
軽く息を切らしながら宗市も上がってきた。
「後は真紀だけか……」
待ち合わせ場所にはもう3人が集まっていた。でもそこに真紀の姿がない。
「遅いな……あいつはまだか?」
「真紀姉、何かあったのかな?」
時間は刻一刻と過ぎていく。焦りと不安が包み込む。そんな不穏な空気を打ち消すように弥のスマホが鳴り響いた。相手は真紀からだった。
「真紀くん、どうしたの、何かあったのかい?」
「おい真紀、今どこにいるんだ!」
俺はが弥のスマホを取り上げて怒鳴った。
「ふふ、みんなごめんね」
電話越しに真紀の笑い声が聞こえてくる。
「何がおかしいんだ?」
「みんな私のために頑張ってくれたみたいね? だけどさっき集めた200枚のメダル、実は全部自分の回収ボックスに入れたんだ。これでもう貴方たちはおしまいね。勝つのは私一人でいい」
あまりにも予想外の話に困惑する俺たち。
「お前何言ってるんだ⁉︎ 本当に俺たちをメダルを1人占したのか?」
「だからそう言ってるでしょ、最後まで私の本性に気付けないて馬鹿ね」
その言葉に思わず頭に血が上る。
「ねぇ真紀姉! 嘘でしょ⁉︎」
彩人がスマホを取って懇願するが……
「嘘じゃないわ、本当よ。そんなことにも気付けないなんて所詮子供ね」
帰ってきた言葉にはあの優しかった真紀の面影が一切ない。
「酷いよ! 真紀姉!」
「てめぇーふざけんじゃねーぞ! 今すぐメダルを奪い返してやるから待ってろ!」
俺は画面越しに、真紀を睨みつけた。
「相変わらずやかましいわね、貴方たちなんてそこでゲームオーバーになればいいのよ。じゃあね」
その言葉を最後に電話は切れてしまった。俺は弥にスマホを押し付けるとすぐさま走り出していた。
☆最終ラウンド(後半)
「クソ! クソ! クソ! あの女!俺たちを騙しやがって!」
ほんの少しでも信頼した俺が馬鹿だった!悪態をつきながら走っていると突然スマホが鳴り出した。
「聞こえるかい宗市くん?」
「何だよ弥! 今忙しんだ! あいつからメダルを奪い取らねーと気が済まねー!」
俺はさっさと電話を切り上げようとしたが……
「よく聞くんだ宗市くん!」
その後聞かされた弥の話に、怒りも忘れ頭が混乱する。まさか真紀は……
* * *
(これできっと上手くいくよね?)
私は壁に背中を預け、痛めた右足を眺めた。もう待ち合わせ場所には間に合わない。私のせいでみんなに迷惑なんて絶対にかけたくない。この世界に閉じ込められるのは私一人でいい。だから私を隔離して……
──10分前──
「はぁ、はぁ、はぁ、……」
今回の待ち合わせ場所は3階のフードコーナー、タイムリミットは10分。私は二段飛ばしで階段を駆け上がっていた。
「後もう少し……」
後少しでこのわけの分からない世界から出られる! ゴールはすぐそこにある。でもそれが気の緩みだった……
「あっ‼︎」
やばい! と思った時には遅かった。世界がぐるっと反転する。どうやら階段を踏み外してしまったようだ。全身を打ち付けながら落ちていく……
「痛った〜〜!」
あまりの衝撃に息が詰まる。でもそんな事に構っている余裕はない。早く行かないと! 手すりを握りしめ、立ち上がろうとしたが……
「痛っ!」
地面にふれるだけで右足に激痛が走る。どうしてこんな時に! 歯を食いしばって前に進もうとするが、足が言うことをきかない。ちらっと腕時計を見てみると、残り時間はあと5分を切っていた。
(こんな所で終わりたくない!)
地面を這いつくばって階段を登っていくが、これではとても間に合わない。時間は刻一刻と過ぎていく。残り時間はあと3分。
「どうしよう……このままだと間に合わない……」
「では隔離されてみるのはいかがでしょうか?」
「えっ?」
突然ゲームマスターが話しかけてきた。
「もう他のプレイヤーはフードコーナーにいます。あとは貴方1人です。このままでは4人ともゲーム失敗です。ですが、あなたがいなくなれば他の3人は無事に待ち合わせ成功となり、ゲームクリアーです」
「………」
「みんなで仲良くこの世界に留まりますか?それとも貴方1人の犠牲で残りのメンバーを助けますか? 好きな方を選んで下さい」
残酷な二択が迫られる。でももう答えは決まっている。
「………みんなに迷惑なんてかけられない。私1人の犠牲で済むのなら……」
ポケットにしまってあるスマホを取り出して私は弥に電話をかけた。
「もしもし弥、聞こえる?」
「真紀くん、どうしたの、何かあったのかい?」
「おい真紀、今どこにいるんだ!」
宗市の怒鳴り声が聞こえてくる。
「ふふ、みんなごめんね」
スマホを持つ手に力がこもる、体の震えが止まらない。
「何がおかしいんだ?」
「みんな私のために頑張ってくれたみたいね? だけどさっき集めた200枚のメダル、実は全部自分の回収ボックスに入れたんだ。これでもう貴方たちはおしまいね。勝つのは私一人でいい。それじゃあね」
私はできる限りの悪意を込めて言い放った。ごめん、みんな……
「お前何言ってるんだ⁉︎ 本当に俺たちのメダルを1人占めしたのか?」
宗市の慌てふためく声が聞こえてくる。
「だからそう言ってるでしょ、最後まで私の本性に気付けないて馬鹿ね」
「ねぇ真紀姉! 嘘でしょ⁉︎」
今度は彩人の懇願するような声が聞こえてきた。
「嘘じゃないわ本当よ。そんなことにも気付けないなんて所詮子供ね」
「酷いよ真紀姉!」
怒りと落胆の混じった声に思わず胸が締め付けられる。ごめんね……彩人ちゃん。
「てめぇーふざけんじゃねーぞ! 今すぐメダルを奪い返してやる!」
宗市の言葉が突き刺さる。怒っているな……でもそれで良いんだよ。
「相変わらずやかましいわね、貴方たちなんてそこでゲームオーバーになればいいのよ」
私はそう言い残すと電話を切った。
(これできっと上手くいくよね?)
私は壁に背中を預け、痛めた右足を眺めた。もう待ち合わせ場所には間に合わない。私のせいでみんなに迷惑なんて絶対にかけたくない。この世界に閉じ込められるのは私一人でいい。だから私を隔離して……
(短い間だったけど楽しかったな)
ゲーム終了まで残りわずか……この世界に閉じ込められたらどうなるんだろう? もう志桜里に会えないのかな? お母さんも心配するよね……そう思うとなんだか急に怖くなってきた。でも、みんなが助かるならそれでいいや……
* * *
「つまり真紀は自己犠牲して俺たちを助けようとしているのか?」
俺は走りながら弥に聞き返した。
「恐らく……実際に獲得枚数を調べてみたらちゃんと90枚入っていた。きっと真紀くん、何かしらの理由で待ち合わせ場所に来れないから、わざと悪者のふりをして隔離されるのを狙っている」
「隔離? それをしたらどうなるんだ?」
「一生このゲームの世界から抜け出せなくなる……」
「嘘だろ⁉︎」
「ゲームマスターが言うにはね」
「………」
「おい! 真紀! 何処にいるんだ⁉︎」
俺は電話を切り上げると必死に真紀の名前を呼び続けた。
* * *
空耳かな? 宗市が私を呼んだ気がした。でもそんなはずは……
「おい! 真紀! 返事をしろ!」
また聞こえてきた。まさか!
「宗市!」
目の前には必死の形相をした宗市が立っていた。
「何しに来たの? まさかメダルを奪いに来たの?」
「違げーよ! おまえ、自分1人が犠牲になろうとしてるだろ?」
「えっ………」
予想外の返答に思わず返事が詰まる。
「やっぱりそうか!」
確信を持った声で宗市が頷く。
「ちょっと待ってよ宗市! 私は本当にメダルを……」
「ほら行くぞ! みんなでここから脱出するんだ!」
宗市は私を抱き上げると一気に階段を登り始めた。
「ちょっと下ろしてよ!」
「いいから俺につかまってろよ!」
「もう時間が無いよ下ろして!」
腕時計の針はゲーム終了まであと1分を切っている。
「だったら飛ばすまでだ!」
宗市はどんどんスピードを上げていく。私は振り落とされないようにしがみつくのが精一杯だった。
「あと30秒!」
「もう少しだ!」
階段を登りきったら後は直線コースだけだ。
「あと10秒!」
「あっ! 来た来た! 2人ともこっちだよ!」
彩人が呼ぶ声が聞こえる。ゴールまであと少し! 倒れ込むように待ち合わせ場所にたどり着いた。
「待たせたな。これで全員揃った。ゲームクリアーだよな?」
宗市がぜーぜーと息を切らしながら私を下ろした。でも時計の針は……
「ごめんなさい。私のせいで……」
無惨にも時計の針はタイムリミットを超えていた。
「違う、お前のせいじゃない! 俺のせいだ。くそ!」
宗市が悔しそうに俯く。
「ねぇ、2人とも何を話しているの?」
彩人が不思議そうな顔で首を傾げる。
「えっ? もう時間は過ぎているんだよ! これじゃみんな失格なんだよ! 私のせいで……」
「何を言ってるの真紀くん、時間はまだあるよ。別にそこまで急いで来なくてもよかったのに」
弥が呆れた顔で私と宗市を見比べる。
「今回の待ち合わせは5分延長。タイムリミットは15分。忘れたの?」
「5分延長? あーーっ! そうだった! 完全に忘れてた」
(あれ? じゃあ、別に急がなくても……)
「おい! 真紀!」
「ごめん! 許して!」
私は両手を合わせて宗市に謝った。
「時間に余裕があるなら、あんなに急がなくてもよかったじゃねーか! 何が残り1分だ!」
「いいじゃん、無事にクリアーしたんだから!」
「お前な……」
宗市が深いため息をつく。
「あの2人騒がしいね」
「まぁ好きにさせておこうか。何はともあれ……」
「全員時間内に集合場所に集まれました。おめでとうございます」
全員のスマホからいつもの機械声が聞こえてくる。
「ボクたちクリアーしたよ! やったね真紀姉!」
「うん! これで脱出できるね!」
彩人ちゃんとハイタッチしようと駆け寄ると……
「痛っ!」
右足に激痛が走った。
「どうしたの真紀くん、その足」
「えっと……ちょっと階段でつまづいて……」
「ほら、そこに座って」
近くのベンチに腰を下ろすと、弥が慣れた手つきで手当てをしてくれた。
「ありがとう」
「どういたしまして。それにしても、なかなかの演技だったよ」
「本当だよ! 騙されちゃったよ」
どこかホッとした表情で彩人が私に笑顔を見せる。やっぱり私の演技は嘘だとバレてたんだ……
「各プレイヤーのメダルはスマホから確認出来る。忘れたの?」
弥が苦笑いを浮かべる。そうだった。自分の顔が熱くなっていくのが分かる……
「そういえばお兄ちゃん、真紀姉にちゃんと謝った?」
「………」
「ほら、早く!」
彩人が茶化した声で宗市の肩を叩く。
「その……悪かった真紀。待ち合わせ場所に行かなかったし、回収ボックに小細工までした。散々、騙してごめん……」
宗市が今にも消え入りそうな声で謝罪した。
「もう大丈夫、気にしていないよ。ありがとね。助けに来てくれて!」
私が宗市の目を見つめてお礼を言うと、なぜか目を逸らされてまった。
「あっ! お兄ちゃん、照れてる!」
「うるさせーな、照れてないんかいねーよ」
「そうかな? 顔が赤いよ〜」
彩人が悪戯っぽい笑みを浮かべて走り回り、宗市が必死に捕まえようとするが、ヒラリとかわされてしまう。なんだかんだ仲の良い2人で微笑ましいな。
「さてと、帰ろうか」
弥が仲裁に入り、私たちは各自の駅に向かった。
☆種明かし
無事にゲームをクリアーした私たちは、現実の世界に戻るためにいつもの駅に向かった。
相変わらず駅の中は暗くて埃っぽい。古びたレールとその上に設置された最新ゲーム機のポット。いつ見ても場違い感が凄い。
「これに乗るのも最後か……」
そう思うとなんだか寂しく感じる。ゆっくりと屋根が閉まり暗闇に包まれていく。そして急に揺れ始めた。何かが軋む音がする。やばい、酔いそう。
「お待たせしました。ロードが完了しました」
機械じみた声とともに暗闇に一筋の光が注がれる。そこに広がっていたのは……
「着いたのかな?」
薄暗い天井、埃っぽい匂い。そこはついさっきいた古びた駅の中だった。だけど少しだけ違う。その証拠に……
「ボクたち帰ってこれたんだよね?」
「多分……」
「とりあえず出ようぜ! 歩けるか真紀?」
隣にはいつもの3人がいた。宗市が私に手を差し伸べる。
「うん。ありがとう。何故か分からないけど全然痛くない」
外に出ると西日に照らされ、思わず目を細めた。恐る恐る目を開くとそこはショッピングモール。ではなくて住宅地だった。
「どうやら現実の世界に帰ってこれたようだね」
弥が確信を持った声で呟いた。
「でもどういうカラクリだったの?」
納得のいかない表情で彩人が首を傾げる。
「んなもんどうでもいいじゃねーか帰ってこれたんだからさ」
宗市は特に興味がないようだ。ただそんなことよりも……
「真紀姉、大丈夫? 顔色が悪いよ?」
彩人が心配そうに私の顔を覗き込む。
「なんか酔ったみたい。ゲーム酔いかな? 乗り物酔いならよくするけど…」
「乗り物酔い?」
何か気掛かりなことがあったのか、弥は腕を組んで唸り始めた。
「あっ! なるほど、そう言うことか! いやまてよ? あれがあれで……いやこれで辻褄が合うのか?」
ブツブツと何かを唱え始め、勝手に1人で納得する弥。
「どうしたんだよ急に」
「分かったんだよ。このゲームのトリックが。それがあまりにも拍子抜けすぎて、面白くて!」
弥はお腹を抑え苦しそうに笑う。
「何だよそれ、気になるじゃねーか」
「私も知りたい教えてよ」
「ボクも知りたいよ!」
みんなが弥に詰め寄る。
「分かった分かった話すよ。キーワードは[幽霊列車][ショッピングモール][古びた四ヶ所の駅]そして[乗り物酔い]の4つさ。それじゃあ種明かしといこうか」
* * *
弥は一度、咳払いをしてゆっくりと話し始めた。
「順を追って説明するよ。まず最初に僕たちはこの住宅地にある駅に集められたよね。最新VRゲームを体験するために」
「うん。そうだよ」
「その後、僕たちはポツンと置かれたポットに乗り込んでチュートリアルを受けたよね」
「あの時の驚きは忘れられないよ!」
「だよな、現実そっくりだし」
彩人と宗市が顔を合わせて頷き合う。
「それでその後はどうなった?」
弥が私に質問した。
「目の前が暗くなって、ポットが開いて駅を出てみたら……」
「目の前にショッピングモールが広がっていた。だよね」
私の話そうとした続きを、彩人が代わりに答えた。
「そう。不思議だよね。だけどさ、もし僕たちがチュートリアルを受けている間にポットごと移動していたらどうだろう? 例えばゲームそっくりな場所とかに」
弥が私たちを試すように見渡す。
「それって……」
「そう、それこそがこのゲームのカラクリさ。僕たちが初めてポットに乗ったと同時に現実世界にある[ショッピングモール]に直行したのさ。これを見てほしい」
弥がスマホを取り出して一枚の記事を見せた。
「あ! これ志桜里が見せてくれた記事と同じだ!」
駅というより古屋のような真四角の木造建築。まさに豆腐ハウス。ショッピングモールを取り囲むように建てられた[古びた四ヶ所の駅]
「僕たちを乗せたポットはこの駅に向かって直行したのさ」
「あれ? じゃあ私がゲーム酔いだと思っていたのっ
て……」
「それはゲーム酔いじゃなくて[乗り物酔い]さ。ちなみにポットから出た時に誰もいなかったのは僕たちをそれぞれ別の[古びた四ヶ所の駅]に移動させたからだろうね」
「なるほど……」
「でも本当に移動したの? 信じられないよ」
彩人が手を上げて質問した。
「忘れたの? この線路はもう使われていないはずなのに電車が走る音がするって噂を。[幽霊列車]の仕業じゃないかって話題だよ」
(その話も志桜里が話していたな……確か一度乗ると帰って来られないとか……)
「正体はこのポットが移動していた音ってこと?」
「その通り!」
彩人が納得した表情でうなづく。でも……
「何か分かるようで分からないな〜」
宗市には少し難しかったようだ。
「まとめると、僕たちが最初ポットに乗り込んだ段階で移動をしていた。その根拠は真紀くんが[乗り物酔い]に苦しんだ事と[幽霊列車]の噂。行き先はショッピングモールを取り囲むようにある[古びた四ヶ所の駅]ポットから出た時に自分以外誰もいなかったのは、各々違う駅に向かっていたからさ。仮想のショッピングモールでチュートリアルを終えて外に出てみると、さっきまでいた[ショッピングモール]が目の前に広がっていた。まさか裏でこんな大移動をしていたなんて知らない僕たちは、ゲームの世界に閉じ込められたと勘違いしたのさ」
弥は一度、言葉を切ると、私たちが理解しているか見渡した。
「それから僕たちは仮想のショッピングモールでメダルを集め、現実のショッピングモールで待ち合わせをしたのさ。これがこのゲームのトリック。なにか質問がある人?」
弥が学校の先生のように質問を促す。
「はい! はい! 質問! どうやって仮想の世界と現実の世界を見分けたの?」
また彩人が手を上げた。言われてみれば確かに、二つのショッピングセンターは瓜二つでとても見分けがつかない。
「そんなの簡単さ。メダルだよ」
「メダル?」
弥はスマホを取り出して一枚の写真を見せた。
「これは……」
「真紀くんには一度見せたよね。メダル集めをするときにいつも見ているショッピングモールの地図だよ。ほら、至る所に星が散らばっているでしょ?」
「うん。でもそれがどうかしたの?」
「ポットから出て、待ち合わせをする時間にこの星マークの所に行ってみたんだ。でもメダルは落ちていなかった。何故だろうね」
弥がまた私たちを試すように見渡す。
「えっと〜分からないよ〜お兄ちゃん分かる?」
「全然分からん。なんならポットごと移動していたって話しも難しくてよく分からん」
みんなの頭の上にクエスションマークが浮かび上がる。
「答えは単純。メダルはゲームの中のアイテムだからさ」
「ゲームの中?」
「アイテム?」
完全にお手上げ状態の私たちを見て楽しそうに笑う弥。そういえば前にそんな事を話していたような……
「あのメダルはゲームの中のアイテムに過ぎない。RPGで手に入るお金や回復薬と同じで、ゲームの中にしか存在しない架空のものさ。当然現実の世界にはそんなものどこにもない。つまり……」
「メダルがある方は仮想の世界で、無い方は現実世界ってこと?」
「その通り!」
彩人の回答に弥が満足げな顔で頷く。
「じゃあ私たちが待ち合わせをしていたショッピングモールは現実世界だったの? メダルが落ちていないってことは……」
「あってるよ真紀くん。メダルはゲームのアイテム。現実世界には持ち出せないからね」
「なるほど……待ち合わせをしていたショッピングモールは現実世界……あれ? じゃあそのまま家に帰ることもできたよね?」
「確かにそうだな。そこが現実の世界ならわざわざメダルなんか集めて脱出する必要はなかったじゃねーか」
私と宗市は顔を見合わせて頷き合う。結構いいアイデアだと思ったけど……
「分かっていないな真紀くんと宗市くんは……」
弥は呆れた表情でため息をつく。
「ゲームを放棄したら負けた事になる。それはゲーマーとしてのプライドが許さない!」
「えっ? まさかそんな理由で最後までゲームに参加してたの?」
「そうだけど?」
弥は首を傾げ当然のことのように話す。
「僕を誰だと思っているの? ゲーマーだよ! 途中でゲームを離脱するなんてあり得ない!」
ドヤ顔でそう宣言する弥。なにそれ⁉︎ と愚痴をこぼす私と宗市。そんな3人を見て楽しそうに笑う彩人。こうして奇妙なVR体験会は幕を閉じたのであった。
☆エピローグ
「真紀遅いな……」
土曜日は、ファミレスでテスト勉強するって言ったのに……
「お客さま、後10分でお時間となります」
「はい、分かりました」
真紀、忘れているのかな? そういえば、最新VRゲームがしたいとか言ってたし……
仕方がなく私は席を立ちレジに向かった。
* * *
「あっ! 真紀姉こっち! こっち!」
彩人が私に気づき手をふった。隣には宗市と弥もいる。
無事に帰ってこられた私たちは、翌日、改めて会う約束をしていた。
そして当日。待ち合わせ場所はあのショッピングモールの周りにある古びた駅。通称、幽霊列車の駅。
「映画のチケット4枚買っておいたよ。早く行こ!」
彩人がみんなにチケットを配っていく。
「それにしても随分と作り込まれたゲームだったな」
「全くだよ」
「でもすごく楽しかったよボク」
みんながしみじみと感想を述べていく。でも私にはまだ一つ納得のいかないことがある。
「ところでさ、幽霊列車に乗ると帰って来られないって噂は何だったのかな?」
「デマだろそんなこと」
「いかにも噂好きが言いそうなことだね」
宗市と弥が鼻で笑う。
「だよね。やっぱりそうだよね。ところで彩人ちゃん、映画のチケットはいくらだった?」
私は財布を開いてお金を払おうとすると……
(えっ? どうしてこれが?)
小銭入れの中にきらりと光るものがある。取り出してみるとそれは、可愛らしい鳥のデザインのコインだった……
(あれ? ここは現実? それとも……)
To Be Continued……