王子は婚約者と仲良くなりたい。~我慢してきたんだしもういいよね?~
「リアーネ様。ユリシーズ様を解放して差し上げてください。」
そう僕の最愛に言ってきたのは半年ほど前から僕に付きまとってきているビビット嬢だ。本当に頭が弱いな。それが僕の逆鱗の一つだと知らないのか?
それに解放されるとしたら僕じゃなくてリアだろう。ま、自分の最愛を離すアルメラの王族なんていないけど。…いや、一人いたな。今では本心が良く分からなくなってしまった幼馴染みが。明らかに両思いなのに突き放している。
などと僕が最後は少しシリアスな事を考えている間にリアはとりあえず答えることにしたみたい。
「えっと、どちら様でしょうか?」
「酷い…今までたくさん意地悪してきたじゃないですか。」
「いえ。わたくしとあなたは初対面ですわ。」
当たり前だ。僕がリアを近づけさせないようにしたんだから。こいつリアに近づいたら何をするかわかったもんじゃない。
それにリアは意地悪なんかしていないし、しない。なんせルルシーナがリアを守りたいからという私情込みの理由で部下の影を使っているから。その報告は僕にも来るけどそんな報告はなかった。それに、報告がなくてもリアがそんな事するはずない。断言できる。だってリアは権力は守るためにあると思っているんだ。そう思っているリアが意地悪をしないだろう。
でも、僕のせいで不安に思わせてしまったかもしれないな。いや、リアが不安に思うか?僕との婚約をなぜか政略的要素が絡んでいると思っているリアが。
…こう考えていたら悲しくなってきた。よし、考えるのは止めよう。
「そうおっしゃるなら、名乗ります!アネマ・フォン・ビビット、ビビット子爵の娘です。」
リアに言ったことだけど、僕が答えても大丈夫なはず。それにあれと話をさせたくない。もともとそうではあったけどその理由が経った今、増えた。なんせ、ビビット子爵の娘だからね。もともとビビット子爵には困っていたけどまさか娘の方にも困らされていただなんて。まぁ、今回の事で親子共々、退場してもらうしいいや。
「へえ、ビビット嬢って言うんだ。私の事はオルタンスと呼んでくれる?今まで名乗りもせずに付きまとわれて迷惑だったんだよね。強くいっても聞いてくれないし。リアーネの事もルクナティア嬢って呼びなよ?許可貰ってないんでしょう。」
「え、やだユリシーズ様。なんでそんな事しないといけないんです?名前を呼ぶのに許可がいるなんておかしいですよ。」
これは何なんだ?どうして名前を呼ぶ許可が必要かも知らないなんて頭が弱すぎるだろう。貴族は見栄を大事にしている。そして、格やそれぞれの関係性が分かるのだからどう名前を呼ぶかは割と重要だ。どうしてなのだろうか?これと関わるだけで怒りを超えて殺気がわいてくる。リアがいる手前、抑えてはいるけど。
まぁ、これでリアが何もしてないし僕は付きまとわれていただけと分かるはずだ。迷惑で不名誉な噂が流れていたけどそれも無くなるはず。というか、無くならないと僕が婚約破棄されてしまう。
「ユリシーズ様って次期国王でしょう?こんな決まり無くしちゃってくださいよ。」
本当に意味が分かんない女だ。僕にこのことをいうのは禁句って知らないのか?僕の禁句を二つとも言ってきた彼女はこの国にいらない。リアへの不敬罪も適用できるし牢に放ってもらおう。もう視界に入れたくもない。
確かに王位継承権は第一位だけどこの国の仕組みを生粋の貴族だというのに分かってもいないとか、ありえない。それに昔、この国の仕組みを分かっていない貴族や一部の他国が国王にならないかと僕をそそのかしてきたからそいつらには色々とした。そのおかげ(?)でそんな事を言ってくる奴らはもういない。そもそも僕には国王になるという野心なんてひとかけらもないのだけどその事を部外者が分かってくれない。
「ふーん。ビビット嬢。滅多なこと言わないでくれる?
衛兵、この恥知らずを牢へ連れていけ。」
「「はっ。」」
「ちょっと、何するのよ。私はヒロインなのよぉ~。可笑しいじゃない。悪役令嬢のリアーネ様が意地悪してこないのがダメなのよ。」
何言っているか理解できないが可笑しいのはお前の頭だろう。と言ってやりたい。それにリアが悪役令嬢?あり得ない。そして、せっかくのパーティーを台無しにしたという口実も手に入ったことだし、帰ってもいいよね。
だから
「皆の者。騒がせてしまって申し訳ない。私たちは退場するから楽しんでくれ。」
といって馬車に乗り僕の屋敷に向かった。
屋敷についたら、いつもの応接室ではなく、僕の私室にリアを連れて行った。
「えっと、あの殿下?」
困惑しているリアも可愛い。最高。あぁ~、癒される。
「リア、ユリシーズ。」
「いえ、ですのでこの状況は…」
僕の名前を呼ぶまでは答えないと分かったのかあきらめた顔してリアは僕の名前を呼んでくれた。可愛いなぁ。あぁ、僕の前で気を許してくれている証拠だ。とっても嬉しい。
「ユリシーズ様。放してください。」
破壊力がすごい。今までずっと殿下呼びだったけどいつか愛称で様とかもなしの呼び捨てで呼んでくれないかな。ああ、でもそうしたら僕、我慢できるかな?
「ヤダ。もうリアとずっと一緒にいる。またあんな奴が出てきてたまるものか」
これは僕のわがまま。でもね、僕の婚約者で来年には結婚するんだしずっと一緒にれるのには変わりないけどね。僕はリアを手放す気もないし逃がすつもりもないから。結婚までにどうにかしてリアが本心から僕に嫁ぎたいと思ってくれるように頑張らないと。
「ねえ、リア。僕はずっとリアとこうしたかったんだよ?だというのに僕が卒業するまでリアに必要以上は触ったらだめってリアの過保護な保護者に言われてきたんだよ?それにリアが卒業するまで二人っきりになるのもだめって言われてるんだよ?だからちょっとくらいはいいでしょ?」
過保護な保護者がだれかわからないみたい。ルルシーナの事だけどルルシーナはきつめに接してるんだから気づかないのも無理ないよね。言ってることは僕の婚約者として必要なことで、しかもわざわざ鞭になって言ってるし。リアは気づいてはいないけどルルシーナに言われた事を実行しているから完璧令嬢って言われているの、リアは知ってるのかな?
「リアが僕の事を好きじゃないって知ってるよ?だからリアが卒業して結婚するまでに僕に惚れさして見せる。覚悟しといてね。」
と言ったら僕に少し怯えてしまったみたい。それでもリアは可愛い。
それから、一年後。今日はリアの卒業の日だ。この一年の間あの手この手を使ってリアの心はもう僕のものだ。本当によくやったと自分に言いたい。何度理性が飛びかけたものか。リアは僕を煽るのが上手すぎる。余裕に見せることは何とか出来ているけど。
「リア、とっても可愛い。僕の色ですべて揃えられてよかったよ。」
「シ、シーズ様。恥ずかしいのでその……あうぅ。」
あぁ、リアが恥ずかしがっていて可愛い。それに、卒業パーティー用のドレス一式は去年と同じく僕の色ですべてそろえているからその色を見ているだけでなんだか満たされる。そして僕の服もリアの色にしたんだ。ペアルックに見えるようにもしている。
馬車に乗ってリアを膝の上にのせるとまた恥ずかしがってる。はぁ、リアが可愛い。羞恥心からか顔を真っ赤にさせている。このままお持ち帰りしたい。でも、今日からリアは僕の家に住むことになっているから別にいいや。これで名実ともにリアは僕のものになる。初めて出会ってから13年もたってようやくだ。
今年は去年みたいな騒動も起きずに無事、卒業パーティーも終わって僕の家に着いた。そしてリアをお姫様みたく抱き上げて部屋まで連れていく。事前に人払いも済ませているから誰も来ない。まぁ、人払いをしてなくても皆が気を使ってくれて来ることはないかもだけど。
「シーズ様っ⁈」
「リア、僕達の部屋に行くよ。」
僕は王族だから駄目なこともあった。でも、婚姻届も出したから何も邪魔するものはない。
我慢してきたんだしもう、いいよね?