00話
そこはとても静かな場所だった。水の滴る音、空気が流れこむ音、虫がカサカサと動き回る音、ありとあらゆる小さな音が聞こえてくる。
そんな場所に、何故か人が一人倒れていた。
表情を見てみるとまるで死んでいるようだ。息はあるので実際には死んでいないのだが。
少しして人が目を覚ました。周りを見渡してみるが、どうやら目の前が真っ暗で辺りが何も見えてないらしい。
何も見えないことを理解したらしく、今度は体のあちこちを動かそうとする。体の節々が鳴る音がしたがそれ以外に異常はなさそうだ。人はそのまま体を起こした。
どうやら今の状況を理解出来ていないらしい。少しばかり困惑している。
人は何が原因でこうなったのかその場で考えこむ、しかし良い結果は浮かんでこない。
しばらくして人は考えこむのをやめた。それよりも今自分がどのような場所にいるのかが気になっているようだ。
そしてその場から立ち上がろうとした。
その時、立ち上がる直前で体勢を崩してしまい右よろけた。そしてその先にあった“何か”にたまたま右手でバランスを取る形となった。
その瞬間、何かが体の中に入ってくるような感覚に陥り、それと同時に強烈な頭痛が人を襲った。
突然の出来事に激しく動揺し、体を支えていた右手を必死に離そうとする。だが、まるで強力な接着剤で手が固定されているようで、まったく動かない。
その後も続く強烈な痛みに耐えきれずまたその場で気絶しかけた。
その時あれだけ引っ張っても離れなかった右手が フッ と離れ、それと同時に強烈な痛みも消えた。
突然襲われた痛みから解放され安堵の表情でその場に座り込む。
まずは体に何かしらの異常が無いか調べてみる。暗くてよく見えないが、特に異常は無いようだ。
そして強烈な痛みを発生させた原因である“何か”を恐る恐る手探りで調べてみる。
………分かったことは、それがきれいな四角形の形をしているのと側面に何か文字のようなものが刻まれていることだ。文字はおそらく自分の知らない言語だろう。
結局何の成果も得ることが出来なかったので、あきらめることにした。
それよりも本来の目的である“今自分がいる場所の確認”を達成すべく、また立ち上がろうとした。今回は体勢を崩すこともなく立ち上がった。
そして、立った状態で辺りを見渡してみる。すると後ろの方に一筋の光が見えた。
足元に注意しながらそこに向かって歩き出す。
一歩一歩歩くたびに、少しずつだが光が大きくなっていくのが分かる。
あと三歩、二歩、一歩、ついに目の前まで来た。そこからもう一歩大きく踏み出す。
その途端目の前が真っ白に覆われる。長い間暗い場所にいたので目が慣れるのに時間がかかった。
しばらくして目を開けると、そこはまったく見たことのない光景だった。