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第91話 初めての強者

「ああ……わ、私のリバイブ・ハンターがぁ……」


 エスディスは、もはやピクリとも動かない。リバイブ・ハンターによる蘇生が絶望的なエスィデスを眺めながら、シュトロームは失意から膝を着いた。


 そんなシュトロームのいる観覧席をブライトは見つめる。


「さて、お前には聞きたい事がある。色々とな」


「う、うるさい! この観覧席はミサイルでも割れない強化ガラスで覆われてるんだ! いくらお前でも僕の所までは来れないぞ!」


「そうか……ならば……」


 次の瞬間、ブライトの身体が消えた。


「……えっ?」


 すると、強化ガラスが粉々に割れ、漆黒の人影がシュトロームの眼前に飛び込んで来た。


「随分脆い強化ガラスだな」


 ミサイルをも防ぐ強化ガラスは、ブライトのロンズデーライトで固めた拳一発で砕け散ってしまった。



「ひっ、ひいいいっ! ぼ、僕をどうするつもりだ!?」


「お前の身柄を拘束する。今回の誘拐事件の主犯としてな。この件にコアー本社自体がどれだけ関わっているかは、これからドイツ政府が調べるだろう。 ……だがその前に、お前にはリバイブ・ハンターについて、知っている事を全部吐いてもらおう」


 リバイブ・ハンターの秘密を吐かせる。本来ならこの行為は予定には無かったし、察しの良いであろうシュトロームに自分もリバイブ・ハンターだと悟られる可能性の高い行為だったが、それ以上にリバイブ・ハンターの情報はブライトにとって変えがたいものだった。



「や、やっぱりお前もリバイブ・ハンターの能力者だったのか!?」


「いや? そうかもしれないし、違うかもしれない」


「だって、さっきお前は死んでいたのに、生き返ったじゃないか!」


「それはお前の勘違いだ。俺は死んでなかっただけだ」


 ブライトの言葉は嘘では無い。今のブライトなら、セル・フレイムの能力により本来なら致命傷ともなる傷でも、本人の意識を無視して強制的に回復させられるのだ。

 これは勿論利点でもあるのだが、リバイブ・ハンターが発動する機会の激減にも繋がっている。


 実際、ネイチャー・ホワイトに殺されてから、ブライトは一度として死んでいない。実際、死にそうな程のダメージを受けた事も無かったのだが。


 結果的に、ブライトはリバイブ・ハンターが発動して新たな能力を手にする機会を失っていた。これをブライトは、ネイチャー・ホワイトの呪いと呼んでいるが、実際そうなのかはホワイトが死んでいるから定かでは無い。


 それでも、本人は新たなギフトを手に入れる事が無くても良いと思っている。何故なら、リバイブ・ハンターの能力が解明されていない現状、敢えて死んでまで新たな能力を手に入れようとするのはリスクが高いし、何より現状の戦力で充分満足しているからでもあった。

 既に、攻撃力・防御力・機動力・回復の基本的な能力で高いランクのギフト保持しており、世界最強と言っても過言では無い程の実力を身に付けているいるからだった。


 リバイブ・ハンターを発現し、しかも今のブライト程の戦力を得るに至るには、シュトロームの実験から得た計算で確率をはじき出すと。限りなくゼロに近い数字が出るだろう。そんな限りなくゼロに近い可能性を、ブライトは生き延びて来たのだ。



「ぼ、僕は簡単には口を割らないぞ! た、大切な研究結果を、なんでタダで他人に教えないといけないんだ!」


「お前の意思なんざ関係無い。もう直ぐ此処に俺の相棒が来るからな」


「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャン」


 言うや否や、つい先ほどまで研究所の外で戦況を見守っていたイーヴィルがやって来ていた。


「早かったな、イーヴィル」


「まーなー。研究所はティザーが制圧したから、邪魔が無くてスムーズに此処まで来れたぜ」


 研究所が制圧された。その事実を知り、シュトロームはガックリと肩を落とす。



「それにしても、まさかこんな所でリバイブ・ハンターの謎に迫れるとはな……。()()()()()()()()()()、幻の能力らしいし、たっぷり情報を頂こうぜ」


 イーヴィルは念の為に自分達がリバイブ・ハンターの能力者とは関係無いのだとカモフラージュをする。別に今のブライトならば、絶対にバレる訳にはいかないと云う事は無いのだが、先程軽く誤魔化したブライトに倣ったのだ。


「んで、何から聞こうか?」


「そうだな。発動条件や能力習得条件はさっき聞いたから、何故殺戮衝動が沸き上がるのか? それを抑制する方法はあるのか? だな」


「オッケー。じゃあ博士、質問だ」


「ぼ、僕は答えないぞ!」



 イーヴィルがブライトの望んだ質問をシュトロームに問い掛ける。先ずは、何故殺戮衝動に駆られるのか質問すると、シュトロームは頑なに口を閉ざしたが、イーヴィルのゴッドアイの前では意味も無く……


「何故、殺戮衝動が起こるのか? 自分を殺した者に対する殺意の衝動がより濃く出てくる事から、再び殺されまいとする防衛反応では無いかと考えられる……ってさ」


「!? な、なんで!?」


 自分の心を読まれたシュトロームが驚く。


「……防衛反応? 防衛反応なら、むしろ二度と殺されない為に逃げたくなる衝動の方が合ってそうだけどな」


 ブライトの言葉を、再びイーヴィルがそのままシュトロームに問い掛ける。


「リバイブ・ハンターは、同じ相手に二度殺された場合発動しない。その為、対象を殺そうとする意識が色濃く出る結果……らしい。更に、自分を殺した相手を殺す事で、そのギフトの熟練度が上がり易くなる傾向にある……んだってよ。

 この事からも、より強く、多くのギフトを手に入れる為に、殺戮衝動が強くなる事が考えられる……だとさ」


 ブライトは、これまでの自分を振り返る。実際、正確には他の人の熟練度が上がる速度など分からないが、確かに自分のギフトの熟練度が上がるのは、話を聞く限りでは他の人よりも早かったのでは無いかと考えられた。



「なるほど、自分を殺した相手に再度殺されるリスクを減らすのもそうだが、それよりも新たなギフトの熟練度を上げる効果もある訳か。

 じゃあ、その殺戮衝動を抑える方法と、仮に、殺された相手を殺さなかった場合、弊害は無いのか?」


 イーヴィルは同じ様にブライトの質問を淡々とシュトロームに投げ掛ける。


「…………なんだと? 」


 すると……その答えに、イーヴィルは言葉を失った。



「どうしたイーヴィル?」


 イーヴィルが愕然とし、その様子をブライトが心配していると、シュトロームが突然笑い出した……。


「……クックック、心を読む能力か? まあいいさ。時間が稼げて良かったよ。おかげで、僕のペットがようやく到着した様だ……」


 次の瞬間、実験場の壁を破壊して、巨大な四足歩行の獣が現れた。その獣は体長五メートル程で、ライオンの頭と山羊の胴体、毒蛇の尻尾を持っていた。


 シュトロームは、エスディスが倒された瞬間、非常スイッチを押して助っ人を呼び出していたのだ。



「……なんだあれ? ……確か、キマイラって奴か?」


 イーヴィルが驚きの声を上げる。キマイラは、過去に人類を脅かした危険度レベル8のフェノムだ。アンノウン討伐後、地上にレベル7以上のフェノムが出現した記録は残っていない。にも拘わらず、何故この場にいるのか?


「あのキマイラもまた、僕の実験が生んだ賜物さ! 人工のキマイラだけど、その強さは純正のフェノム版キマイラに勝るとも劣らない。その上、この僕の命令に忠実な番犬なのさ!」


「グルウアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」


 キマイラの咆哮が鳴り響く。あまりの声の大きさに、空間が震えていた。



「チッ、喰らえ!!」


 イーヴィルの眼からレーザービームが放たれる。だが、キマイラはその巨体からは考えられない程俊敏な動きでその攻撃をかわした。


「ば、バケモノかよ!」


「ハーッハッハ! さあ、殺れ、キマイラ! この二人を噛み殺せ!!」


「グルウアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」


 シュトロームの命令に反応し、キマイラは観客席に向かって突進してきた。そんなキマイラに、ブライトは舌打ちをする。大事な情報を得る邪魔をされたからだ。


「……邪魔だ、犬ッコロ」


 ブライトもまた、フラッシュを発動してキマイラに突進すると、ライオンの顔面に拳を叩きこんだ。


「グモアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」


 光速と高速の激突。しかし、カウンターでブライトのパンチを喰らったキマイラだったが、突進が止まる事は無く、逆にブライトを体当たりで吹き飛ばした。


「ぐっ!?」


 壁に激突したブライトは、敵からまともに攻撃を受けたのはいつ以来だっただろうと考えるが、すぐさま頭を切り替える。


「この犬ッコロ、ただの犬ッコロじゃないみたいだな……」



「ブライト! 大丈夫か!?」


 心配そうに声を掛けるイーヴィルに、ブライトは目配せだけで大丈夫だと伝える。



「ハーッハッハ! さしものブライトも、危険度レベル8相当のキマイラに敵わないだろう!」


 シュトロームの高笑いが鳴り響く。が、イーヴィルが呆れたように声を掛けた。


「……バーカ。お前、危険度レベル8ごときで、本当にブライトを倒せると思ってんのか?」


「ああん? レベル8だぞ? 戦闘系能力者が三百人いてようやく倒せるレベルだぞ? むしろお前は、たった一人でキマイラを倒せると思ってんのかい?」


 イーヴィルはニヤリと笑みを浮かべ、ブライトを見る。


「まあ見とけよ。もし、ブライトを危険度レベルで表したら……多分レベル10だぜ?」


 危険度レベル10。危険度の最高値で、おおよそだが戦闘系能力者千人に匹敵するレベルだ。


「何を馬鹿な……」


「おっと、俺は俺の仕事をするか。もう少し詳しく、リバイブ・ハンターについて教えてくれよ……」



 キマイラにとって、今のブライトの攻撃は効いていない訳ではない。むしろ、生まれて初めて経験する()()という感覚を味わっていた。それが、ブライトへの追撃を躊躇させていた。


「どうした、犬ッコロ。ビビッてんのか?」


 キマイラの本能が、逃げろと言っている。だが、キマイラはシュトロームの実験で生み出され、物心ついた時には自分が最強だと理解していた。人間など何十人も紙屑の様に容易く殺してきたのだ。

 今、目の前にいるのも、所詮はか弱い人間だ。そんな人間に、何故自分が恐怖をおぼえる必要があるのか? そう、思ってしまった。



「グルウアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」


 訳の分からない感情を打ち消す様に、キマイラが咆哮をあげる。今までもキマイラに相対した人間はみんな、この咆哮でビビッてたじろいでいたのに、目の前の人間は一切臆する気配が無い。


「悲しいな、犬ッコロ。本能に従う勇気があれば、生き延びる可能性も少しはあったのかもしれないだろうが……なあっ!」


 ブライトが手を下から上へとクイっと動かすと、キマイラの足元から漆黒の炎が出現し、一瞬にして身体を包み込んだ。


「グモッ!?」


 熱い! 身体が燃える! でも足が動かない! パニックに陥るキマイラを、漆黒の炎……クァース・フレイムが、がんじがらめにする様にまとわりつく。


 動けないならばと、キマイラは尻尾である蛇の頭をなんとか動かして、ブライト目掛けて毒液を吐き出した。


「ほう、大した根性だ。だが……無駄だ」


 ブライトは毒液をあっさりとかわすと、インビジブル・スラッシュを放ち、鋼鉄よりも遥かに硬いであろう尻尾を斬り落とした。



「グギャアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」


「その眼……。俺を恐れているが、それでもまだ、所詮人間だと侮っているな。なるほど、お前にとって人間など弱者に過ぎなかったんだろうな……今までは」


 フラッシュを発動。ブライトは瞬時にキマイラの懐に潜り込むと、両の拳をロンズデーライトて硬化する。


「残念だったな。初めて出会った弱者では無い人間が、この俺で! オラオラオラオラオラオラアッ!」


 キマイラの真下からボディーにパンチのラッシュを喰らわせる。その連打の衝撃に、ヤギの頭が血反吐を吐いて絶命し、次第に身体が宙に浮いてきた。


「お前が今まで何人の人間を喰い殺したかは知らないが、人間にもいるんだよ……強者って存在がな!」


 右の拳に白い炎を纏わせ、極限まで力を込める……。


「オラアアアッ!!!!」


 そして、またもライオンの顔面に拳を打ち付けると、キマイラは地面に転がった。


 それでも、意地で立ち上がったキマイラだったが、己の異変に気付く。


「残念だが、お前はもう、死んでるぞ」


「グルルルゥ~~……グルッ!? ゴアガガガッ、キャン!!」


 キマイラのライオンが急激な膨れ上がり、爆発した様に破裂した。


 ブライトは、セル・フレイムを利用する事で、体外のみならず体内を破壊する術を手に入れていたのだ。



 キマイラは最期に、己の本能が何故逃げろと言っていたのかを知った。だが、全ては後の祭り。その巨体は地に伏し、永遠の眠りについたのだった……。



「……造られた獣でも、血は赤いんだな」

リバイブ・ハンターの謎に迫ったイーヴィルは愕然とする。それは、ブライトにも、そして桐生にも影響を与えるものだった。


次回『リバイブ・ハンターの弊害』


(言えない。俺には言えない! こんな……こんな残酷な秘密を、今の俺じゃあ、光輝には……いや、ボスにも、絶対に言えない!!)

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― 新着の感想 ―
[一言] まさか・・・憎さ余って愛しさ100倍とか・・・薔薇か?
[一言] 前々から思っていたけど、能力で蘇る度に数年〜10年ほど寿命が縮むとかはありそうだよなぁと。
[一言] 次回予告めっちゃ意味深...
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