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第90話 空を操る女神

 ――少し時間を遡り……ティザーはドイツ政府の用意してくれたスペシャリスト達と共に、コアー研究所の門前まで来ていた。



「さ、それじゃあ突入するわよ。皆、準備は良い?」


 総勢三十名のドイツが誇る政府御用達のスペシャリスト集団・【ゲイツ】。今回は黒夢のサポートを任されているのだが、そのゲイツに対して一段上から命令を下すのが日本の若い女の子と云う事もあり、ゲイツの面々の士気は低かった。


「我々はいつでも戦える準備が出来ている。なんなら、お嬢さん方は我々の後方に隠れていても構いませんが?」


 ティザーを甘く見て、からかって笑っているゲイツの面々。


(ムカつくけど……いちいち怒ってても仕方ない。それに……)


 ティザーの隣には、不安そうにしているハンナがいる。


 ハンナは非戦闘系の能力者だが、姉の姿を見て居ても立ってもいられずにティザーに着いて来たのだ。


(今は早くハンナのお姉さんを助けて、ハンナを安心させなきゃね)



「心配しなくても、危なくなったら助けてもらうから、その時は宜しくね」


 軽くウインクするティザーに、頬を赤くするゲイツの面々。だが、ゲイツの今回の任務におけるリーダー格であるベーホフは不満そうに舌打ちした。


(チッ、本当にこんな小娘があの黒夢のメンバーなのか? 政府の命令とは云え、なんでこの俺が日本の小娘の指示に従わなければならんのだ)



 ゲイツのメンバーによって、門が破壊されると、一斉に警報が鳴り響き、研究所から警備の兵士達がゾロゾロと出て来た。


「ゲイツの皆! ここに十人程残って、他のメンバーが建物内へ入る為の補助をお願い!」


 ティザーの指示通り、ゲイツの十人が警備兵と応戦しながら侵入経路を確保している。


「おいお嬢さん! この程度の敵、全滅させてから侵入しても良いんじゃないのか?」


「……今回の任務は、コアーに誘拐された人質の救出よ。今、この間にも人質は実験と称しての拷問を受けているかもしれない。だから、戦っている暇なんて無いわ」


 ここで向かって来た敵を殲滅するのは難しい話では無いが、確実に時間をロスするだろう。既にハンナの姉であるアンナは実験室へと連れていかれている。一瞬一秒も無駄には出来ないのだ。



「ハッ! 女性なだけに流石はお優しい。俺なら最速で敵を殲滅し、最速で救出作業に取り掛かりますがね」


「……今回の任務の指揮は、私が政府から任されてるのよ。残念だけど、今回だけは言う事を聞いてくれないかしら?」


 そう言って困った顔をするティザーに、またも何人かのゲイツメンバーは頬を赤くする。


「……チッ、分かりましたよ、お嬢さん」


 ベーホフは相変わらず納得はしていない様だ。


(なんなのよこの男~! ムカつく!)


 表向きは冷静に対応していたティザーだが、内心ではベーホフに対してかなりイラついていた。



 研究所内に入ると、警報が鳴り響き、外で戦闘が始まっていた事から、白衣を着た研究員達が慌てふためいて逃げ惑っていた。


「ゲイツのメンバーは十人で研究員の捕縛! 残り十人は手分けして所内の全ての人質を解放してあげて!」


 ゲイツのメンバーがティザーの命令に従い散ろうとすると、前方から圧倒的な強者の雰囲気を醸し出す兵士が一人、ティザー達の前にやって来た。


「ゲイツか……。ボンクラ共の集まりが、この俺に向かって来る気か?」



 その男を見た瞬間、ベーホフの顔が青冷めた。


「お嬢さん……悪い事は言わない、撤退しよう」


「撤退? あの男、確かに只者じゃ無いのは分かるけど、それほどなの?」


 男は場違いな軍服のコートを着込んだ挑発の中年だった。


「アイツは……ドイツでも最凶最悪のフィルズの二人組の一人、トゥーターレだ」


「俺の事が分かるみたいだな。だったら話が早い。今なら一撃で殺してやるぞ? ただ、歯向かえばなぶり殺しにしてやる」



 ティザーから見ても、確かにトゥーターレは強者であろう事は分かっていた。だが……


「フフフッ、貴方、井の中の蛙って言葉、知ってるかしら? ドイツ語では何て言うのか分からないけど」


「お、お嬢さん! 無駄に挑発するな! トゥーターレがいるって事はもう一人、奴の相棒であるデストッドもいるだろう。俺達じゃあの二人には絶対に勝てない、逃げるんだ!」


「そう? なら私からの指示よ。貴方は直ぐに人質の救出に向かって。私がこの男の相手をしてあげるから」


 ベーホフがティザーを狂人でも見る様な表情で見つめたが、トゥーターレはそんなティザーに好感を持った様だ。


「ほう、中々良い女だな……。よし、お前は生かして俺の女にしてやろう。光栄に思え」


「残念だけどお断りするわ。だって、私は貴方なんかより数百万倍もイイ男を知ってるもの」


「そうか……。大人しく俺の物になってれば良かったものを、少し痛い目を見ないと分からんか……」



 ティザーとトゥーターレが戦闘モードに入る。……だが、そこにベーホフが割って入った。


「ティザー、ここは俺が時間を稼ぐから、お前は逃げろ!」


 ベーホフの手からは鋼よりも堅い性質の網が放たれ、トゥーターレの脚を拘束した。ギフトの名は【ローボステス・ネッツ】。ギフトランクはB。



「ちょっ……貴方は人質の救出に向かえって言ったでしょ!」


「女を残して退けるか! いいからお前は逃げろ!」


 ベーホフがギフトで作り出した網に更に力を込めるが、トゥーターレは己の脚を拘束するその網を掴むと、余裕の笑みを浮かべた。


「ふむ、悪くない能力だ。だが、()()()()()()()()


 そして、網に熱を送り込むと、網は急激に温度を上げて、瞬く間にクリンスマンの体温をも上昇させた。


「あがっ!? グギャアアアア!!」


 【ウェアー・メライトン】。ギフトランクはB+の能力で、その手に触れた物質に熱を送り込むギフトだ。その温度は最大で一千度にまで上がる。

 熱を送り込まれ、異変を感じた瞬間に網を手離すか能力を解除すれば良かったのだろうが、そうする事が出来ずにベーホフの身体中の水分の温度が上がる。このままだと蒸発してしまうだろう。



 だが、ベーホフの網を一陣の風が切り裂いた。トゥーターレからの攻撃から逃れる事が出来たベーホフだったが、ダメージから膝を着いた。


「……まったく、だから余計な事はしないで、黙って私の指示に従ってれば良かったのに」


「がはっ……はぁはぁ、すまん、死ぬところだった」


 ベーホフは命を助けられた事実を認め、ティザーに礼を言った。


「私の命令に背いた……マイナス十点。私を小娘扱いした……マイナス二十点。余計なお世話だけど、一応私を助けようとした……プラス三十点。……って事で、仕方ないけど助けてあげるわ」



「……ほう、中々やるじゃないか、女。さて、ミイラになりたくなかったら、大人しく俺に身体を捧げたらどうだ? 始めは優しくしてやるぞ?」


「ミイラね……。でもおあいにく様。私はミイラも御免だけど、それ以上にアンタに抱かれるのはもっと御免だわ」


「生意気な女だ。だがそれがイイ。お前の様な女を力ずくで物にするのも一興だな」


 ベーホフはもはや口出しする気力も無く、他のゲイツのメンバーもティザーの指示通り動いている為、トゥーターレとティザーの二人を邪魔する者は存在しない。


「……はぁ、一応取り繕ってはいたけど、疲れるのよね。ここからは素の状態で喋らせてもらうわ。

 でさあ、アンタさっきから勘違いしてるみたいだから言っておくけど、私は常にアンタより遥かに強い人と一緒に行動してるからさあ、正直アンタ程度じゃ驚きもしないってゆーか、私もアンタより強いからね?」


「ん? 何を馬鹿な……」


「ウェザー・コントロール、発動!」


 突如、トゥーターレの頭上に雨雲が出現する。


「なんだこれは?」


「分からないでしょ? だから教えてあげる。その身を以てね!」


 雨雲から発生した竜巻がトゥーターレを包み込み、そこに幾重もの落雷が落とされる。


「グオオオオオッ!?」


「私、自分より弱い男には興味無いのよ。その上、弱いくせに自信満々な勘違い男は一番嫌いなの」


 雷から逃れようと動いても竜巻がそれを許さない。トゥーターレは延々と雷に射たれ続け、気が付けば丸焦げになって倒れてしまった……。



「ちょっと呆気な過ぎない? これでドイツ最凶って、笑えもしないわ……」


 ベーホフはトゥーターレの事を最凶と言ったが、最強では無い。要は、立ち位置的には日本で言う所のスカルやジョーカーみたいな存在なのだろう。


 そんなトゥーターレは辛うじて顔だけを上げる。


「な、何者だ、お前……」


「私? 私は黒夢のナンバー10、スカイゴッデス(空の女神)のティザーよ」


 空の女神……。ティザーは室内でも力を発揮したが、これが屋外だと更に驚異的な力を発揮する。故に、空の女神と恐れられるのだ。



「く、黒夢の……ナンバーズ、だとぉ……」


 黒夢は世界的に見ても、強者の集まった強大な組織だ。そのナンバーズともなれば、誰もが恐れる選ばれし実力者だと認識されている。


「そ、それならそうと……言ってくれれ……ば……」


 トゥーターレは絶望した表情のまま、息を引き取った……。



 ティザーは、唖然として自分を見ているベーホフに声をかける。


「ありがとね、一応助けてくれようとしてくれたみたいだし」


「あ……ああ、俺のした事が余計な事だったって事は、よーく分かったよ……」


 己の未熟さを知り、ベーホフは項垂れた。



「ティザー! 人質は皆無事……お姉ちゃんも!」


 ハンナが、姉のアンナを連れて駆け寄って来た。他のゲイツのメンバーも人質を連れて集まって来たし、至る所で研究員を拘束している。作戦は無事に成功した様だ。



「ミッションコンプリートかな。今頃はブライトの方も片付いてるだろうしね……」


 ブライトが負ける事や失敗する事など、微塵も疑っていないティザーは、今回も無事に作戦が終了したであろう事を確信していた、安堵の表情を浮かべたのだった。

エスディスを倒したブライトは、駆けつけたイーヴィルと共にリバイブ・ハンターの謎に迫る。

だが、そこへシュトロームの秘密兵器がやって来て……


次回『はじめての強者』


「残念だが、お前はもう、死んでるぞ」

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