第88話 衝撃の事実
試験場。広さはバスケットコート程はあるだろうか。奥側がスタンドの様になっている。
壁は頑丈に出来てあり、鉄の門が閉められれば外に出るのは困難だろう。
部屋の床や壁の至る所に血の跡が付いている事から、ここがどういう場所なのか想像する事は容易い。
部屋の中には光輝と、光輝に銃を向ける兵士が五人。
そして、スタンドの上部に強化ガラスで覆われた観覧席があり、中には角刈りの白衣の男が立っていた。
「我がコアーの科学力ハアアアーッ……世界一イイイイイッ!!」
スピーカーから聞こえて来た馬鹿デカイ声に、思わず耳を塞ぐ。
(ッッ……コイツ、スピーカーの意味、分かってんのか!?)
「ようこそ、我が研究所へ! 私が当研究所の所長、ロイター・シュトローム博士だ!」
耳元のピアスからは崇彦が同時通訳している為、光輝にもしっかりと伝わっている。
「……なるほどね。つーか、そんなに声を張り上げなくても聞こえてるから」
「ほう、日本語か。クックック、その余裕……お前、相当な実力の能力者と見えるな。お前の能力はステルス系だろ? あれだけ完璧に姿を消せるとなると、少なくともギフトランクはA以上……もしや、サイレント・ステルスでは無いかな?」
シュトロームは光輝が日本人だと悟り、日本語で言葉を返してきた。
「日本語喋れんのか。流石は博士。ま、ギフトに関してはご想像にお任せするよ」
「フッフッフ……高ランクのギフト能力は是非とも欲しい所だったのだ。出でよ、エスィデス!」
シュトロームの声と共に、光輝の対面側の門が開かれると、そこから屈強な男が姿を現せた。
「さあ、日本の小僧! 戦え! この私の最高傑作であるエスィデスと戦って生き残る事が出来れば、お前をこの研究所から生きて出してやろう!」
エスィデスからは殺意が溢れ出している。光輝もまた、戦闘体勢。兵士は二人の戦いの邪魔をしない様に壁際へと移動した。
(さて……この場でこのマッチョ野郎を倒すのは容易いだろうが……一先ずサイレント・ステルスのみで様子を見るか。何よりあの大声男、高ランクギフトを欲しいと言った。それが気になるからな……)
「行くぞ、ジャパーニスィ!」
エスィデスが光輝に向かって突進してくる。光輝はそれをかわしてサイレント・ステルスを発動。エスィデスは完全に光輝の姿を見失った。
(兵士が着けてるゴーグルをすればサイレント・ステルスを見破る事が出来るのは分かってるだろうに、そうしないのには理由があるのか?)
「ぬうぅ~、どこだジャパニスィ! 出て来い!」
戦いを見守っている兵士も、エスィデスにゴーグルを渡す気配は無い。ピアスの向こう側の崇彦も違和感を覚えていた。
『なんか企んでるのは間違いないな……。取り敢えず殺さない程度に痛め付けるか』
「了解。純粋なギフト無しの戦闘は久し振りだな」
光輝の脳裏に苦い記憶が蘇る。だが、あれから光輝は体術を徹底的に研いて来た。
サイレント・ステルスを解除し、姿を現す。すると、シュトロームが反応を見せた。
「む? 自ら能力を解除するとは……。舐められてるぞ、エスィデス!」
「へっ! 後悔させてやるぜぇ! ベアー・ナーグル発動!」
エスィデスが鋭い爪で光輝に襲い掛かる。姿と言葉は雑魚っぽいのだが、動きを見るに決して雑魚では無い事が伺える。
それでも光輝はサイドステップで的を外し、死角からカウンター気味にレバーブローを打ち抜く。
「ぐっ……効かんぞ、ジャパーニスィ!」
光輝の拳は的確にエスィデスのレバーを捉えたが、エスィデスは意に介さず攻撃を続ける。
(タフだな。身体能力も高いし、ギフト能力は長く鋭い爪ってだけだが、本人的には相性は悪くない。それでも、この程度だと今の俺にとっては拍子抜けだな……)
光スィデスの猛攻を避けながらカウンターを返す展開が続き、光輝はもう仕留めてしまおうかと考えていた。
「エスィデス!」
シュトロームがエスィデスに何か合図みたいなものを出す。するとエスィデスはニヤリと頷き、攻撃を止めた。
「どうした? もう終わりか?」
突然止まったエスィデスに、光輝はシュトロームが諦めたのだろうかと思ったのだが、次の瞬間、エスィデスの腕が溶けた様になり、鞭を形成した。
「スルファッツ・パイス!」
振るわれた鞭が光輝の足元の地面を払う。地面は焦げたようにジュウウッと云う音を立てた。スルファッツ・パイス……硫酸性の鞭だ。
激しく振るわれる硫酸鞭。流石に無能力のまま全てをかわす事は至難と判断し、光輝は大きく間合いを取って凌ぐが、室内と云う事もあり次第に距離を詰められる。
(コイツ、さっきは爪の能力だったよな? 今度は鞭……複数能力者って事か。なら、油断する訳にはいかない。お遊びはこれくらいにして仕留めるか)
壁際に追い詰められる。そこで光輝は改めてサイレント・ステルスを発動。獲物を見失ったエスィデスの攻撃が散漫になったのを潜り抜け、一気に背後を取ると、ロンズデーライトで刃と化した腕でエスィデスの首を一撃で斬り落とした。
突然の決着に驚いたのか、再び兵士達が銃口を光輝に突き付ける。が、光輝は気にせずにシュトロームに挑発的な視線を向けた。
「さて、お前の最高傑作とやらはご覧の通りだ。しかし解らんな……俺の実力を試したかったのか? なら、この程度の奴じゃあ測れんぞ」
「ンムフフフ……素晴らしい! やはりそのステルス能力はかなり有能だ! 是非とも手に入れたい!お前達、殺さない程度に痛め付けろ!」
兵士達が一斉に引き金を引く。その銃弾は二十二口径で、その程度なら身体能力を強化した能力者を殺す程の威力は無い。そもそも、今の光輝ならフラッシュのギフトを使わずとも銃弾の網を掻い潜る事が可能。
「まず一人目」
一人ずつ、確実に喉を掻っ斬って行く。
「二人目……三人目……四人目……さて、あとはお前だけだな」
「おのれっ……舐めるな!」
最後に残ったのは先程から光輝に対して高圧的な態度を取っていた兵士。この研究所の警備を任されている兵士の責任者でもある兵長だった。
兵長は銃を捨て、掌を光輝に向ける。
「デス・イレイザー!」
掌からレーザービームが放たれる。光輝はそれを辛うじてかわすと、レーザービームは壁に激突した。
「アンタも能力者だったか。ま、この研究所の警備を任されてる兵士なんだから、他の奴等も何らかの能力者だったんだろう。なら最初から銃になど頼らず、能力で掛かってくれば良かったのに」
そう言って、光輝は既にこと切れた兵士達にわざと視線を向ける。あからさまな挑発行為だった。
「おのれっ……よくも部下を! 死ねっ!」
兵長がレーザービームを乱射する。それを光輝避けながら反撃の隙を狙っていると、突然の背後に気配を感じてその場を飛び退いた。
「なっ……お前!?」
そこには、死んだハズのエスィデスが立っていた。
「ハッハッハ! 驚いたかい? エスィデスはねえ……この僕が発見した新たなる未知のギフト能力、リバイブ・ハンターの能力者なのだ!」
「…………なんだと?」
今、シュトロームは確かにリバイブ・ハンターと言った……。
(まさか……俺の他にもリバイブ・ハンターの能力者が? でも、実際エスィデスは首を斬り落とされて確実に死んでいたにも関わらず、こうして復活している……)
ピアスの向こう側では、崇彦も驚きを隠せずにいた。
「おい光輝、今、リバイブ・ハンターって……」
「みたいだな。俺とお前の耳がおかしくなけりゃな」
光輝のギフトを習得したのだろう。エスィデスがニヤリと笑みを浮かべる。
「スゲェ……姿を消す能力者だと思ってたら、こんな能力まで持っていたのか!」
そう言ってエスィデスは、自分の拳を営利な刃に変える。それは、確かにロンズデーライトで創られた刃だった。
(俺から習得した? じゃあ、コイツは本当にリバイブ・ハンターを?)
光輝自身、今だにリバイブ・ハンターの全容を把握しきれていない。桐生から得た情報や自分の体験した情報、発動条件も能力習得の条件も、あくまで仮説でしか無かったのだから。
(あの研究者は、間違いなく俺よりもリバイブ・ハンターの情報を得ている。何とかその情報を得たいところだな……)
光輝の思考がリバイブ・ハンターの謎へと落ちていく。目の前と、そして背後にも敵がいるのも忘れて……。
『おい光輝! 何してんだ! 今は考えてる場合じゃ無いだろ!』
「…………え?」
崇彦の檄が飛び、光輝の意識が現実へと戻って来る。
(……待てよ、むしろ好都合だな)
光輝の身体を前後から即死に至らしめる程の攻撃が襲った。
「ちっ……痛てぇ……」
「殺った……あぎぃっ!?」
「……ああっ!?」
背中からレーザービームが貫通し、胸をロンズデーライトの刃に切り裂かれて光輝が倒れる。
エスィデスは、光輝を殺したと思った矢先、運悪く光輝を貫いたレーザービームに自身も胸を貫かれてしまい即死。
そしてエスィデスまでもデス・イレイザーで殺してしまった兵長が焦った様に声を上げたのだった……。