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第86話 そういう事は最初に言ってくれ

 ――翌日、ドイツ時間午前十時。



「デカイわねー。あれがコアーの研究所って訳ね」


「みたいだな。麓には村もあるみたいだし、取り敢えず聞き込みでもするか」


 コアーの研究所は山間部にあり、その周辺には小さな集落があった。


 光輝と瑠美は、先ず集落で聞き込みする事にした。二人共ハンナの能力で変装しており、光輝は銀髪にサングラスとマフラー。瑠美は赤髪。



 集落の名称はドラッセンと云う村で、十年前にコアーの研究所が建築されるより遥か昔から存在している、人口五百人程の村である。


 村は高齢化が進んでいて、今現在村の通りには年寄りがチラホラと歩いている程度だ。



 光輝達は研究所を見学に来た観光客を装っていた。細かい設定としては、自分達も科学者だと云う設定。勿論、研究所へは特別な許可が無ければ入れないので、外観だけでも見に来たテイだ。


「あ、すみません、ちょっと良いですか?」


 瑠美が現地の人の良さそうな老人に話し掛ける。勿論ドイツ語で。


「……なんだい? 観光客か?」


「ええ。世界的にも有名なコアーの研究所を一目見ようと」


「ほ~、アンタらみたいな観光客は年に二、三組はやって来るんじゃ。ワシらからしたら、こんなデカイ箱を見て何が面白いんだか分からないんじゃが、皆村にお金を落としていってくれるから大歓迎じゃ」


「そうなんですか? コアーは世界の科学分野では最先端の技術力を持った大企業ですから。その根幹たる研究所には、私達も同じ科学者として興味があったんですよ」


「大企業のう。確かにワシらはあの箱が出来て恩恵は受けておるがのう」


「その恩恵って、旅行者が村でお金を使っていく以外のものですか? ……もし宜しければ、聞かせてもらえませんでしょうか?」


「ええぞい。コアーがこの地に研究所を建設したいとやって来た時、条件として村の若い者は皆コアーに雇ってもらう事になったんじゃ。良い働き口が出来て、村の者は皆喜んだもんじゃ。

 働きに出た者は多忙を理由に滅多に家に帰って来ないが、どこの家にも毎月の高額な給料は振り込まれておるし、たまに手紙も届く様じゃしの。少々寂しいが、仕方ないじゃろう」


 働きに出た者が帰って来ない。疑いの目を持っている状態でその話を聞いたからか、瑠美からしてみればコアーがブラックな企業以上に裏のある組織に聞こえて来る。



「……そうなんですか? あの……普段研究所には外部の人間の出入りはあるんですか?」


「月に一度、バスがやって来る位じゃな。あれだけ大きな建物じゃから、働き手を増やしとるんじゃ無いかと噂されとる」


 老人からは比較的コアーに対して好意的な話を聞いたが、もしそのバスに乗っていたのが実験体だったら誘拐事件ともリンクしてくるだろう。この老人の言葉を証明するものは無いが、早くも光輝達が求めていた情報が手に入ってしまった。



「ところでアンタ等、今日はこの村に泊まるのか? だったら良い宿を紹介するぞ? ……言うてもこんな辺鄙な村には宿など一軒しか無いがの」


「いえ、私達はもう少し研究所を見たら帰ります。お気遣いありがとうございました」


「そうか。念の為、宿はその角の先じゃから」


「わざわざありがとうございます」


 そう言って老人は去っていった。



 光輝は詳しい会話の内容を瑠美に訳してもらう。


「……なるほど。働きに出た村人が帰って来ないにも関わらず、村人のコアーに対する印象は悪く無い訳か」


「そこ、私も引っ掛かるのよね。もしかしたら、働きに出たと見せ掛けて実験体にされてる可能性もあるんじゃないかしら?」


「さあ……俺達は既にコアーに対して疑惑を持っているからそう考えるだけかもしれん。村人にとっては働き口であり給料もしっかり納めてくれるコアーに悪い印象を受けないとも考えられるしな」


「そっか……でもなんか引っ掛かるわね。もう少し聞き込みしてみよっか」


「そうだな。じゃあそれは瑠美に頼む。俺はどうせ携帯使わないと言葉が分からないし、研究所の方を見回してみる」



 ……その後、瑠美は何人かに同じ質問をしてみたが、返ってくる答えは最初の老人と同じものばかりだった。



 そして光輝は……


 最初に話を聞いた老人の家では、老人が電話で誰かと連絡を取っていた。


「……男女の二人組だ。今日は泊まる様に言っておいたが、日帰りの予定らしい。なんとか理由をつけて足止めするんだ。うむ、多少手荒にしても良いだろう」


 老人が電話を切った。


 この老人は村に外部から人がやって来ると、上手く騙してはコアーの研究所へと送る任務を常としていた。

 その外部の者達が研究所でどの様な扱いを受けているかを知った上で。


「久しぶりの若者だ。ボーナスも弾むだろうな」


 老人はほくそ笑む。そこには、先程の人の良い顔をした老人では無い、卑しさが前面に溢れ出ている。



「なるほど。お前はコアーの手下って訳か」


 老人の耳元で、機械の声が聞こえる。振り向くとそこには、携帯端末を持った光輝が立っていた。


「お、お主はさっきの……」


 老人の言葉が、光輝の持った黒夢携帯端末で翻訳される。


「怪しいと思ったんだ。大体お前、老人じゃないだろ? その白髪はカツラだし、肌もまだそんなに皺が無いし。バレバレだぞ?

 さて、死にたくなければ全てを話せ。俺達をどうするつもりで、研究所の中では何が行われているのかを」


 光輝は老人の変装を見破ったが、瑠美は気付いていなかった。別に瑠美が鈍感な訳では無い。それだけ、光輝の洞察力が優れていたのだ。


「な、なんの事だかワシにはサッパり……ぎゃぁっ!?」


 光輝の人差し指が鋭利なナイフとなり、老人の耳を切り落とした。


「次はもう片方の耳を削ぐぞ? 黙って聞かれた事に答えろ」


 光輝の目を見て、老人は己の浅はかな行動を悔やむ。この男は、絶対に関わってはいけない人種だったと。


「わ、わかった! 言う! 言うから命だけは……ぎゃああっ!?」


 予告通り、もう片方の耳も切り落とされた。


「次は鼻だ。さあ、早く答えろ」


「はい! ……はいいっ! 答えます、答えますからぁ、ちょっと待って……ぎゃあああっ!」


 そして鼻も切り落とされる。


「忠告しておく。俺の質問以外の事を喋れば、直ぐ様切り落とす。次は……指にしようか?」


 老人は、そういう事は最初に言ってくれと文句を言いたくなったが、言えば確実に指を何本か失うと悟り、答え始めた。


「ごめんなさいぃっ! 答えますぅっ! ワシは……俺達はアンタらを研究所に連れ込もうとしてたんだぁ!」


「それで? 研究所に連れ込まれた後は?」


「それは…………言えなうぎゃっ!?」


 老人……変装していた中年の右手の人差し指が切り落とされる。


「それで?」


「ひいぃん……け、研究所では、実験体になってもらう予定でしたぁ」


「実験体か。それは、今国内で頻発している誘拐事件とも関係はあるのか?」


「はいぃ、至る所から、一ヶ月に一度ぉ、研究所へ誘拐された実験体がトラックで運ばれて行きますぅ」


「そうか。で、お前らは村ぐるみでコアーの実験に手助けしてた訳か?」


「仕方無かったんですぅ! 最初に就職した村人を人質にされて、従うしか無かったんですよぉっ!」


「……そうか。かわいそうに。なら、お前らが俺達を研究所に連れ込もうとしたのも仕方無いな」


「へ?」


 そう言うと光輝は、中年の削ぎ落とした部位を拾い、セル・フレイムで元通りに治してやった。



「え? え? なんで……」


「さて、じゃあお前らの思惑通り、俺が研究所に連れ込まれてやる。さっさと案内しろ」


「いや……なんで……」


「俺の知り合いに他人の心を読むのが巧い奴がいてな、コツを教えてもらってるから、お前が嘘をついてるかどうかは大体分かる」


 あれだけ強烈に拷問されたら嘘なんかつけるかよ! ……と言いたいのを、中年は我慢する。


「コアーに人質を取られて、仕方なくやってるってのは嘘じゃ無いみたいだからな。それに、俺は元々研究所に潜入するつもりだった。お前達が協力してくれればスムーズに研究所内に入れそうだからな」


 この村の人間がいれば研究所にすんなりと入れるかもしれないと考えた。だが、それでもこの老人をはじめこの村の何人かは、はじめは嫌々だったとしても今では確実に報酬に目が眩んで率先して研究所に協力しているだろう。


 ……無論、そんな奴等を許すつもりは、光輝には無い……。



「そんな……俺が言うのもなんだが、研究所内は危険だ。入って直ぐに何らかの薬で身動きが取れなくされ、あとはされるがままに実験体にされるって話しなんだぞ?」


「それこそ好都合だ。それで向こうが油断してくれるんならな」


 光輝はセルフレイムの能力のおかげで、体内に混入した異物は即座に排除されるので、毒物は一切効かないのだ。



「さあ、じゃあ善は急げだ。とっとと俺を研究所に連れてけ」

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