第85話 ドイツ到着
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―ドイツ・ミュンヘン
「ウオオオオ! やって来たぜ、ドイツ!」
ミュンヘン空港から外へ出て、崇彦が第一声を上げる姿に、光輝・瑠美・ハンナは距離をとって冷やかな視線を浴びせていた。
因みに、瞬間転移は海外は範囲外である。
「ん? どした? 折角海外に来たんだから、もっとテンション上げて行こーぜ?」
「アンタはホントに……。ここにはねえ、ハンナのお姉さんを探しに来たの! 遊びに来たんじゃ無いのよ?」
「そりゃそうだけどさー! 黒夢ナンバーズが三人もいるんだぜ? 楽勝っしょ! なあ、ラスボス!」
この一年で、ティザーはその才能を開花させ、ナンバー10として認められる様になっていた。
「……はぁ、遊びたいのは分かるが、先ずはやる事をやってからだ。仕事は仕事でちゃんと割り切れよ?」
ノリノリの崇彦とは対称的に、光輝は落ち着いていた。
「なんだよ光輝まで。でも、俺は知ってるぞ? 本当はお前もドイツのカワイコちゃんとハメを外したいんだろ?」
瑠美の刺し殺す様な視線が崇彦を突き刺す。そんな視線を他所に、崇彦は光輝に向かってゴッド・アイを発動していた。
「……はぁ、ゴッド・アイは効かないぞ? ちゃんとレジストしてるからな。いい加減俺にゴッド・アイを発動させるのは諦めろよ」
「ちぇ! つまんねーの!」
「光輝はアンタとは違うのよ! 全く!」
やれやれと溜め息をつく光輝。
「さ、遊んでないで早速依頼人の元へ向かおう。仕事が早めに終われば、あとは自由時間って事で好きにすれば良いさ。なぁ、瑠美」
「まあ……仕事さえ終われば少しは良いけど……。なんだかんだ光輝も崇彦の言ったみたいにこっちの子と遊びたいんじゃないでしょうね?」
「ハハッ、それも良いかもな。でも、俺は言葉が分からないから、現地の子とは無理だな。もし時間があれば瑠美とハンナと観光でもするか? 崇彦は忙しいみたいだし」
「ちょいー! お前だけ両手に花で抜け駆けするつもりだな!?」
「ああ。直ぐ傍にこんな美人が二人もいるのに、他の女に目移りするお前が信じられないよ」
笑い合いながらじゃれ合う光輝と崇彦を見て、瑠美は改めて思う。
出会った頃の光輝なら、今のは多分崇彦の誘いに乗ろうとして、瑠美に怒られるパターンだっただろう。
だが今は、光輝は瑠美から見ても大人な対応を見せつつも、崇彦の冗談にも付き合ってあげている様に見える。
成長したから? と思うのは普通なのだろうが、瑠美にはやはりどこか引っ掛かる物があった。
迎えの車は黒塗りのリムジンだった。
早速四人はリムジンに乗り込み、依頼主の元へと向かう。
今回の依頼主はドイツ政府の重鎮だという話しだったが、ドイツは日本と違って、能力者に対しての大きな判別は行われていないし、能力者と無能力者との間に明確な差別も無い。
ただ、実際に犯罪を犯した者だけがフィルズと呼ばれる。ある意味、黒夢の理想を既に実現している国でもある。
移動中、光輝は車窓からミュンヘンの街並を眺める。歴史的建造物や美術館等が多く残されており、落ち着いた街と云った印象を受けた。
「ねえ、光輝。最近……何か変わった事でもあった?」
「ん? またその質問か。いや、特には無いけど……俺、そんなに変わったか?」
「……なんか最近の光輝、随分大人っぽくなったからさ」
「そうか? じゃあ、たまにはハメを外して、崇彦の言う通りナンパでもしようかな?」
「……お? 流石は相棒! じゃあ仕事が終わったらベルリンにでも繰り出そうぜ! ミュンヘンはちょっと辛気臭くて……」
「バカ! そういう事言ってるんじゃ無いわよ! もう!」
瑠美をからかって笑う光輝を見て、やはり変化を感じながらも頬を赤く染める瑠美だった。
―ミュンヘン市庁舎
「よく来てくれた! 黒夢の諸君! 私は“アドルフ・ブッフバルト”だ。一応、前・連邦議会の議長だ。宜しく頼むよ」
元々ドイツの血が流れているハンナは勿論、瑠美もドイツ語を含む五ヵ国語をマスターしていて、崇彦はゴッド・アイの能力の一環で異国の言葉をダイレクトで翻訳する事が出来る。つまり、この場でドイツ語を認識出来ないのは光輝だけなのだ。黒夢携帯端末には言語同時翻訳機能は付いているのだが今は使わず、瑠美が耳元で通訳していた。
「君が闇の閃光・ブライトか! 君をモデルにしたアニメはドイツでも評判でね。実物に会ったって言ったら孫に自慢出来るよ」
これも黒夢の運動の一環で、ブライトの活躍をより広く伝える為の手法として、漫画やアニメにしてメディア展開していたのだ。これが国内よりも国外で大当たりし、世界中で『BRIGHT』は漫画・アニメで大ヒットしていて、今度はハリウッドで映画化なんて話もある程。
「なんか……照れますね」
「それに、まさか君みたいな若くてハンサムな男がブライトだって分かったら、世界中の女性が君の虜になるかもね」
……この言葉をそのまま訳したら駄目だと、瞬時に判断した瑠美は……
「まさかブライトの正体がこんなに若い男性だと思わなかったって」
若干ニュアンスを変えて光輝に伝えたが、これに崇彦が異を唱えようとする。
「え? ちょっと違うだろ? 今の……なんでもない」
……瑠美の通訳に異論を唱えようとした崇彦は、瑠美の一睨みで敢えなく撃沈した。その際、ゴッド・アイで読み取った瑠美の言葉は、「ヨケイナコトヲヌカシタラコロス」だった。
「さて、早速だが本題に入ろう。今回君達にお願いしたいのは、このドイツで活動している組織『コアー』による誘拐事件の疑惑を追求してもらいたい」
大まかな内容は桐生から聞いていたが、その内容の通り、ドイツ国内で頻発している誘拐事件にこのコアーが関わっている可能性が高い事を政府も認識している様だ。
その後も予定通りの話が続き、今後の方針を決めることになった。
「方針も何も、ブライトが潜入して証拠を掴めば一件落着じゃ無いの?」
ティザーが言う様に、光輝のサイレント・ステルスは最早一般人には判別不可能なレベルに達している。それでも、万全と云う訳でも無い。
「俺のサイレント・ステルスは、姿と音はほぼ完璧に消す事が出来るが、熱を隠す事は出来ないから遠赤外線眼鏡や特殊なカメラは誤魔化せない。まあ、最終的にはフラッシュと併用してゴリ押しすれば何とかなるだろうが……」
「今回の任務が、コアーの殲滅とかなら良いだろうけど、あくまで誘拐事件の証拠を見付けるのが目的だからな~。出来れば、コアー側には、疑われている事を気付かれずに証拠だけ手に入れるのがベストだろ」
コアーの研究力は世界的にも評価されているのだ。そんな組織を、理由はどうあれ壊滅させれば……しかも国が煽動したとなれば、ドイツは国としての評価を落とす事になりかねない。それは実行部隊である黒夢にとってもダメージとなり、折角日本国内で上がっているクリーンなイメージを損ないかねない。
「というわけで、ブライトのゴリ押しは最後の手段として、先ずは政府がコアーの調査に乗り出せるだけの証拠を集める事にしようぜ。
俺は俺で情報収集をするから、とりまブライトとティザーでコアーの研究所付近の聞き込みでもしてくれ」
「りょーかい。じゃあイーヴィルはハンナの事をお願い」
「分かってるよ。ハンナちゃんと二人きりか……ムフフ」
イーヴィルの不気味な笑みに恐れをなしてか、ハンナは何故かブライトの背に隠れた。
「言っとくけど、ハンナに変な事したら殺すからね?」
「わ、分かってるって! まったく……冗談も通じないのかよ」
「日頃の行いってヤツだろ、イーヴィル。ハンナ、コイツは口ではあんな事言ってるが、嫌がる女の子をどうにかする程の度胸はないから安心しろ。
ま、仮に何かされたら一ヶ月位俺が創った檻の中に閉じ込めてやるから」
イーヴィルはロンズデーライトで造られた檻を想像して青冷める。
「いや、マジで勘弁して。せめて三日位にして」
弛い空気が漂う中、かくして、ドイツでの誘拐事件調査の任務が始まるのだった。
コアーの研究所の麓にある集落にやって来た光輝と瑠美は、そこで村人の老人からコアーの疑惑を耳にする。
次回『そう云う事は最初に言ってくれ』
「忠告しておく。俺の質問以外の事を喋れば、直ぐ様切り落とす。次は……指にしようか?」