閑話 偽りの正義の味方
明日からの連載再開に伴いまして、第四章終了後から第五章開始時までの閑話挿入します。ちょっと雑かもしれませんがご容赦ください。
二〇七○年七月……ブライトが黒夢ナンバーズのナンバー1となる。
その後、日夜街を暗躍し、悪党を裁き始める。
二〇七○年十月……比呂からの手紙に応じ、風香と比呂に、光輝として会い、決意を新たにする。
二〇七○年十二月……黒夢の活動が活発化。多くのメンバーが表舞台に顔を出す様になるが、それと同時に新たな方向性に賛同出来なかった、スカルやジョーカー等のメンバーが黒夢を脱退する。
ブライトも悪党を裁く存在から、災害や強盗等々から人を助ける存在へと徐々にシフトチェンジを行う。
二〇七一年一月……ブライト・イーヴィル・ティザーで簡易的なパーティーを結成し、以後、行動を多く共にする事になる。
二〇七一年三月……黒夢が資金難に陥る。これは、方向転換によるイメージアップ戦略への投資と、裏社会からの収入が減った事が原因。
二〇七一年五月……徐々に黒夢のイメージアップ戦略が世間に浸透し始め、ブライトは恐怖の対象から勧善懲悪的なダークヒーローのポジションを確立しつつあった。
二〇七一年八月……都心でフィルズによる大規模テロが勃発。が、この危機を黒夢が介入して鎮圧した事で、黒夢の世間からの評判は一気に上昇した。
反して出遅れた形となった国防軍は、評価を落とす結果となった。
この戦いで最も活躍したブライトは、完全に正義の味方の地位を得る事となった。
二〇七一年九月……黒夢は社会的地位を築きつつあり、ブライトもまた全面的に組織の顔として売り出され、一躍時の人になりつつあった。
……弱い者を助け、理不尽な悪を許さない、そんな子供の頃から憧れていた存在・正義の味方と呼ばれる地位を確立しつつあった光輝だったが、目的の為に情け容赦なく悪を討つ自分と、世間のブライトに対するイメージとのギャップに違和感を抱く様になっていた。少なくとも、自分は正義の味方などでは無いのだと。
そう思っていたが、既にその様な事に悩む事は無くなっていた。
目的の為、自分にやれる事をやる。桐生が語った黒夢の夢は、いつしか光輝の中でも大きな夢となり、その為にやれる事をやる事が自分の存在意義なのだと考えるまでになっていたから……。
――中央エリア、ホテル・リッチ・カールソン、VIPルーム
「……やめろ! た、助けてくれ!」
「うるせえなぁ~。アンタは黙って俺らに金を寄越せば良いんだよ!」
高級ホテルのVIPルームを、フィルズ組織・ドッグドッグのメンバー六名が占拠していた。
ドッグドッグのリーダーに脅されているのは、株式会社大東商事の会長であり創業者の徳田。財界の大物の彼に、中堅フィルズ組織強盗に押し入ったのだった。
「わ、分かった! 払う! 幾ら欲しいんだ!?」
「そうだなぁ。当面の俺らの活動資金として、二億位かなあ?」
「二億? ……分かった、直ぐに用意させよう!」
「おお! 流石は会長、気前が良いなぁ! 二億ドルを即決とは!」
「ドル!? ふざけるな! そんな大金……ガハッ!?」
リーダーの筋骨隆々な腕が、徳田の首を絞める。
「男だったら一度決めた事を覆しちゃいかんでしょ~? ね、会長」
「わ……わがっだ、だがら……はなちて……」
その時、部屋のチャイムが鳴った。
「……おい」
リーダーが、手下に確認を促す。手下はドアスコープから外を見ると、そこには露出の多い際どいドレスを着た美女が立っていた。
「リーダー、女です。多分コールガールでしょうけど、めちゃめちゃ美人ですぜ」
「はははっ、会長~、あんたも好きだね~!」
「わ、私は……」
「まあいい。今は女と遊んでる余裕は無え。追い返せ」
すると、ドッグドッグのナンバー2がドアスコープの外を眺めて言った。
「ほう……こいつは確かに上玉だ。リーダー、この女、俺が頂いても良いですかい?」
「……チッ、テメーの女好きはなんとかなんねーのかよ? 好きにして良いが、外でやれ」
「あいよ~。じゃあ行ってきます」
ナンバー2がドアを開けて部屋の外へ出る時、ナンバー2は少しだけ風を感じたが、特に気にしなかった。
「お嬢さん、ちょっと予定が変わってね……別の部屋で楽しもうか?」
その女性……金髪で胸元が開いたドレスを着た美女が、ナンバー2を見つめてニコリと微笑む。
「いえ……予定通りよ?」
「え? あがっ!?」
突如、ナンバー2の頭上に雷が落とされ、ナンバー2はアッサリと気絶してしまった……。
「予定通り、貴方達にとっての死神は、無事に部屋に潜入したわ」
部屋の中では、相変わらずリーダーが徳田を脅していた。
「さあ、早く決めろ。二百億円寄越すか、この場で死ぬか?」
「わ……分かった、だが二百億なんて直ぐには用意出来ない。取り敢えず三億円程都合をつけるから、残りは後日……」
「ざあけんなよジジイ! 俺達はこれから日本一のフィルズ組織になるんだ! その為の軍資金が必要なんだよ! ああ!?」
黒夢の変革以降、フィルズに対する世間の目は確かに変わりつつあったが、彼等ドッグドッグにとってはその状況は良いものでは無かった。
元々何物にも縛られず、自由に生きていた彼等にとって、黒夢の活動は邪魔でしか無かったのだ。
「黒夢もメンバーが大幅に離脱して、その中の何人かはウチに加わった。今がチャンスなんだよ! 黒夢に代わって、日本最凶のフィルズ組織になるよお!」
言うだけあって、ドッグドッグのリーダーはかなりの実力者であった。だからこそ、自分達の考えがあまりにも無謀な事に気が付かなかったのかもしれない。そう、今此処に、自分達を脅かす死神がいるのにも気付かない程に。
「……ん? ……な、なんだと?」
ここで、リーダーは異変に気が付く。自分以外のメンバーが居なくなっていたのだ。
「おい……お前ら、何処行った?」
直ぐに辺りを警戒する。まさかとは思うが、敵襲かと。
すると、何もない目の前の空間から、声だけが聞こえて来た……。
「さあ……罪に溺れて眠れ……」
「はぁ?……がっ……」
次の瞬間、鋭利な刃が、ドッグドッグのリーダーの脳天を貫いた……。
「はひっ!? はひいいいぃっ!?」
何が何だか分からない徳田は、ズボンを濡らす温かい液体を漏らしながら腰を抜かした。
「……終わったみたいね」
金髪のコールガールを装ったティザーが部屋へと入って来た。
「え? な、なんだお前は!?」
「私は黒夢のナンバー10。組織の命で貴方を助けに来たのよ」
「た、助けに? 本当か!?」
徳田が安堵の表情を浮かべる。相手が女のティザーと云う事もあり、緊張が解けたのだろう。
「今回、私達黒夢は貴方を助けた。でも、まさかタダとは思ってないわよね?」
「なるほど……一度は白紙にした君達への出資を復活させるのが目的なんだろう? 分かった。直ぐに取締役会に、黒夢への投資を行う様に伝えよう」
「話が早くて助かったわ。じゃあ、宜しくね」
その後、徳田は直ぐに会社の役員に、黒夢への出資を再開する様に命じた。
そして、帰りの車中……
「ふう、まったく、今後は警備を厳重にする必要があるな。よりにもよって、黒夢なんぞに借りを作ってしまうとは……」
徳田は公表はしていないが、反能力派の人間である。能力者を普通の人間より下に見ており、現在の国の方針にも多大な協力をしている。
今回、黒夢への出資金は一千万円程度でしかなかった。取り敢えずあの場を乗り切る為の手段でしかなかったのだ。
「ふん、フィルズになど、勿体無くて金などやれるか」
急に車が停まった。そこは、比較的人通りの少ない路地裏だった。
「おい運転手、何でこんな所に来てるんだ?」
「すみません会長~。なんか、相棒が用事あるみたいなんで」
そう言うと、運転手は車から降りて去っていってしまった。
「おい、貴様! こんな所に私を置いて何処へ行くつもりだ!」
「……少なくとも、お前が行くのは地獄だ」
「なに?……あがっ!?」
徳田の開いた口に、ロンズデーライトの刃が突き刺さった。
意識が薄れる中、座席の隣に人影が現れる。その人影は、最近では知らぬ者のいない、正義の味方だった。
「ブ……ブライ……ト……」
「貴様を殺した者の名だ。地獄に堕ちても忘れるな」
「お疲れさん、ミッションコンプリートだな、相棒」
「……こんな回りくどい事する必要があったのか? ドッグドッグの奴等と一緒に速攻で殺せば良かっただろう?」
「そこら辺はボスが上手くやってるのさ。このじーさんが出資を再開させる事に意義があったし、後はこのじーさんが死んで得する奴と手を組んで、大東商事を完全に味方に着けたって訳さ」
「なるほどね……。そんな小難しい事は俺には無理だし、流石だな、ボスは」
「だな~。これなら黒夢の目的が達成される日も、そう遠くは無いかもな」
「だな。俺は俺のやれる事をやるだけだ」
表では正義の味方。裏では暗殺者。全ては、全ての人間が平等に暮らす社会の実現の為、自分に出来る事をやっている結果だと信じていた。
……だが、時の流れは残酷なものだ。光輝がブライトである為の時間は、間もなく終わりを告げる。
リバイブ・ハンターの秘密を知る事によって……。
そして、黒夢の変化によって、長年に渡る因縁の火種が大きくなる。
黒夢と陽炎。日本最大のフィルズ組織同士の争いは、国防軍をも巻き込み、大きなうねりとなって世界を変えて行くのだった……。
と云う訳で、活動報告でも呟きましたが、明日から本格的に更新を再開します!
ただ!今後の更新間隔は、五日毎とさせて下さい(´・c_・`)理由は諸々です。それはもう、諸々です(^_^;)
尚、この閑話は折を見て第五章の頭に移動する予定です。それでは宜しくお願いしますm(__)m