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第83話 新生黒夢

ここから新展開です!

 光輝がブライトとして黒夢に在籍してから、一年半程が経過した。


 白夢討伐阻止作戦を経て、黒夢の内部は大きな変換を迎えた。


 ナンバーズのナンバー1として前線にも立っていた桐生がナンバーズを抜け、桐生は組織のボスとして完全に戦闘面で表には出なくなった。


 新たにナンバー1となったブライトには、少なからず組織内で批判の声が上がる事を桐生は覚悟していたが、ジレンがアッサリと認めた事もあり、極一部を除いては特に騒ぎ立てる者もいなかった。



 そして桐生が打ち出した黒夢の新しい方向性は、フィルズ組織としては異例の、率先して民間団体や民間人と接する事でフィルズのイメージアップを図ると云う計画だった。

 この時点で、方針に納得いかない荒くれ者の部類に入るメンバーは黒夢を去る事になり、その中にはスカルとジョーカーもいた。


 黒夢の目的は悪く言えば国家転覆だが、能力者が平等に暮らせる世界の構築だ。それには、無能力者である大多数の一般人の支持は欠かせない。


 そして、このイメージアップ作戦の先頭に立って活躍したのが、黒夢ナンバーズが誇るナンバー1・闇の閃光・ブライトだった。


 夜な夜な街に繰り出し、揉め事があれば颯爽と参上して、悪を裁く。


 そんな活動を一年も続けた事で、気が付けば、恐怖の象徴(ラスボス)と云われたブライトは、悪でありながらも弱きを助け強き挫く、ダークヒーローとしての地位を確立していた。



 勿論その活動はブライトだけでは無く、黒夢全体で行っていた為、各々のメンバーが社会的に認知される結果となった。


 ジレンは、頼りになる兄貴分として。


 ヴァンデッダは、その妖艶な魅力で一部に熱狂的なファンを獲得した。


 イーヴィルは、様々なトラブルを解決するメンタリストとして、SNSやネットを通じて多くの信者に崇められる存在となった。



 勿論他のメンバーも各々適した分野で力を発揮した。


 これにより、今や黒夢は反社会的組織の枠から脱却しつつあり、国に認められなかったフィルズと呼ばれる人種でも、如何に優秀で社会に貢献出来る存在であるかを証明する事となった。

 それはつまり、フィルズを排除する法律を敷く国そのものに対する問題提起だ。


 それでも、黒夢は結局はフィルズであり、フィルズの過去の蛮行を許せないと言う人達も多く、黒夢の活動に理解を示している国民の割合的には半々と云った所。年齢で分ければ、黒夢を支持する層は若い世代が多く、ある程度の年齢の層への好感度を上げるのには苦戦している。



 だが、この地道な活動により、表だって()()の優良企業ともスポンサー契約をする事が可能なまでになり、当面の資金繰りの問題は解決されている。



 当初、国はこの黒夢の運動を、どうせ無駄な事と放置していたが、ここに来て考えを改める。このままだと、国で定めた国に従わない能力者は全て危険因子だと云う方針が崩れかねないと。

 だが、時既に遅し。国が危機感を抱いた頃には、黒夢は多くの一般人に悪では無く正義に近い組織として認知される存在となり、迂闊に手を出せなくなってしまっていたのだ。



 国の組織である国防軍は、この黒夢の運動に対して強い拒絶の反応を見せるかと思われたが、海軍大将・財前の下、むしろ協力的な姿勢を見せる者も現れた。これも、黒夢が世間に認知される一助となったのだが、当然母体である国の中枢の意向に反した行動であり、国防軍内部は大きく分裂するかに思われたのだが、英雄・鬼島は桐生との決戦以降、大将の職を退き、軍の方針に口出しする事が減り、更には権田に代わって新しく陸軍大将となった仙崎が財前の方針に理解を示した事から、国防軍の内部でもフィルズを容認する派閥と、これまで同様フィルズは悪と断定する国の意向を支持する派閥とで大きな摩擦が生まれていた。





 ―黒夢本部アジト



 久々のオフとなった光輝は、同じく久々のオフとなった崇彦と瑠美と共に、アジト内のレストランで昼食を取っていた。



「旨っ! ちょっと前まで場末の食堂化していたとは思えない程だ!」


「ホントだね~。もう、麦飯は御免だわ……」


 崇彦と瑠美は、最近漸くかつてのクオリティーを取り戻したアジト内のレストランの料理に舌鼓を打つ。一時期、クリーン作戦の影響で組織の資金繰りが苦しくなって来た為、ラインの判断でアジト内の様々な分野で節約運動が展開されていたのだ。


「そうか? 俺は前の料理でも別に構わなかったけどな」


「……流石はラスボス。どんな味にも直ぐ慣れるとはな」


「光輝は元々なんでも美味しいって言ってくれてたけど、只の味音痴だったとわね……。なんかガッカリ」


 光輝としては自分ではそんなつもりは無いのだが、確かに最近食に対する拘りが無くなって来たので反論するのは止めた。



「なあ皆! 今日は久々のオフだろ?ちょっと街に繰り出そうぜ!」


「何言ってんのよ。私は別に良いけど、崇彦も光輝もイーヴィルとブライトだって事は国防軍の一部にはバレてるんでしょ? 表立って公表はされてないみたいだけど、ちょっと油断し過ぎじゃない?」


「どーって事無いって! 今の俺達には国防軍も迂闊に手を出して来ないだろ? ブライトなんて、巷じゃもう子供から大人までが認めるスーパーヒーローなんだぜ?」


 実際、ブライトだけでは無くイーヴィルも、そしてティザーも、今現在そのままの姿で街に繰り出せば、場所によっては好意的な目で見てくれる人の方が多いだろう。ただ、それと同じ位反発する人もいるだろうが。



 光輝にとっても昔から憧れていたヒーローとして、広く民衆の憧れの対象となりつつある現状は、能力を発現するまでの自分であれば夢の様な出来事だと云えた。


 だが……


「だからって、俺達が過去に国防軍の兵士を大量に殺してる事にも、悪人とは云え粛清として野良フィルズや無法者のフィルズを殺している事にも変わりはないだろ?」


 光輝は現状に浮かれる事はなかった。いや、無くなっていた。



「……やっぱり、光輝、最近変わったね」


 そんな光輝の変化には、瑠美も気が付いていた。


「俺が?」


 瑠美は、ブライトから光輝である事を知らされた時、勿論驚いたが、それ以上に生きていてくれた事を喜んだ。瑠美にとって、風香と光輝は本当に妹と弟の様な存在だったから。

 それと同時に、風香が国防軍の少将であると知った時、二人の仲が永遠に結ばれないのだと、()()()()()は心が苦しくなった。


 ただ、ティザーとしては……。好意を寄せていたブライトが光輝で、妹の様に思っていた風香の想い人でもあったのは理解している。

 だが、光輝と風香に結ばれる未来は無くても、ティザーである瑠美には、ブライトである光輝と結ばれる可能性は大いにあるのだ。



 そんなティザーだからこそ気付けたのだろうか? 最近……いや、一年半と云う時間を掛けて、ゆっくりと光輝が変わって行ったのを。


 まず、昔程笑わなくなった。そして、冗談を言わなくなった。総合すると、感情の起伏をあまり出さなくなったのだ。


 それはむしろ、瑠美が憧れた大人の落ち着いた男性というブライト像そのものでもあったのだが……。



「俺は別に変わってないだろ? なあ崇彦」


「ん? ああ……まあ、少しダークヒーローモードを引きずってる時間が多くなった気はするけど、なんたって黒夢ナンバーズのナンバー1なんだから。ま、あんまり落ち着きが無くてチャラチャラされても困るけどな」


「……崇彦、俺はお前にだけはそれを言われたくない」


「いや~、ホント、お前が黒夢に入ってくれたおかげだ! 俺が気軽に行動する事が許されてるのは」


 元々、桐生は崇彦=イーヴィルに、今のブライトのポジションをと考えていたのだ。イーヴィルはそれが重荷でしかなかったのだが。


「俺はあくまでナンバー1ってだけだ。仮にボスが引退するなんて言い出しても、次期ボスになる訳じゃ無いんだから。俺はお前がボスに向いてると思うんだけどな」


「だから~、ガラじゃ無いんだって、俺は。自由に動ける参謀役が性に合ってるんだよ。だから相棒、これからも頼むぜ」


「まったく……」



 瑠美はまた、2人の会話に違和感を覚える。瑠美がこの話……光輝が変わったと云う話を始めると、必ず話が逸らされるのだ。それは、光輝だけではなく、崇彦も意図して話を反らしている傾向がある。


 きちんと問い質したい気持ちはあるのだが、崇彦は普段飄々としているが、いざと云う時は別人の様に真面目になる。真面目になった崇彦には、流石の瑠美もお手上げなのだ。



「……そう、ならいいんだけど」


 瑠美は潔くこの話を打ち切る。本人(光輝)に否定され、その相棒の崇彦にまでやんわり否定された以上、今回もまた何を言っても無駄だと判断したからだ。



「……あ、ここにいたんだ、ティザー。ブライトも……あとイーヴィルも」


 3人のテーブルに、1人の少女がやって来た。彼女の名は“ハンナ”。ハンナは本名であり、ドイツと日本のハーフで、洋人形の様な可愛らしい外見をしている。

 ギフトランクB-、“テクスチャー・アーティスト”のギフト能力者で、ティザーの相棒(バディ)でもある。

 瑠美がティザーになる時、髪の色や瞳の色を変えてるのは、このハンナの能力である。



「あら、外に出てくるなんて珍しいわね?」


「うん、たまにはね」


 ハンナは普段から内気でオドオドしている。基本人見知りだし、戦闘系の能力者でも無いので、ティザーとはバディを組んではいるものの、一緒に任務に出掛ける事は殆んど無い。



「や! ハンナちゃん! 久しぶりだな~。相変わらず人形さんみたいで可愛いね~」


 ハンナの頭を撫でようとした崇彦の手を、瑠美が強目に叩く。


「触るな。ハンナが汚れる」


 瑠美も勿論冗談半分なのだが、それでも瑠美はハンナに関しては過保護と云える。


「汚れるって……酷くね? なあ、光輝もそう思うだろ?」


「まあ、日頃の行いだな」


「それも酷くね!?」



「それで、どうしたのハンナ。何かあった?」


「ん……えっと……実はお願いしたい事があって……」


「何よ? 私が貴女の頼みを断る訳無いでしょ? で、どんな用件?」


「いや……その……違くて……」


 ハンナは、恐る恐ると云った感じで、光輝を指差した。


「ん? 俺か?」


 コクりと、ハンナが頷く。



「なんだよ~、光輝を御指名か~。だったら、このラスボスのスポークスマンである俺を通し……」


「ちょっと黙ってて。ハンナ、光輝にお願いって?」


「あの…えっと……実は…」



 その後、普通なら30秒で済む話をたっぷり3分程使ってたどたどしく語られたハンナの光輝へのお願いは、ドイツに住んでいる姉が行方不明になってしまった為、姉を探しに一緒にドイツまで付き合って欲しいとの事だった……。

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