閑話 複雑な再会
※閑話募集一位だった瑠美編です。
その日、黒夢本部は、ブライト君の話題で持ちきりだった。
なにせ、ボスがナンバーズからの脱退を表明し、新たにナンバー1の座に着いたのが、まだ新参者と言っても過言では無いブライト君だったからだ。
これには、古参メンバーの一部や、ナンバー2のジレンさんを支持するメンバーが拒否反応を見せた。でも、当の本人であるジレンさんがアッサリと認めてしまったのだ。
「ナンバー1は、最も強い奴の称号だ。だから俺では無くブライトが相応しいんだ」
ジレンさんの強さは黒夢のメンバーなら誰でも知っている。私達末端のメンバーが何人束になっても相手にならない程なのだ。そのジレンさんがそう言ったのなら、もう誰も反抗なんて出来ないだろう。
それに、ブライト君と国防軍の権田が戦っている映像は黒夢メンバーの全員が見ている。だからこそ、何も言えなくなってしまったのだ。
あれは私達とは別次元の強さだった。この先、どんなに私達が努力しても絶対に辿り着けない境地にブライト君がいる事を、誰もが思い知らされてしまったのだ。
……スカルをはじめ一部のメンバーは納得してなかったみたいだけど、それでもブライト君に挑む度胸なんて無いだろう。あったら馬鹿だ。
そして……白夢の作戦の日から、もう一週間が経っていた。その間、私は何度かブライト君にメールを送ったが、忙しいのだろうか、返事は返って来なかった。
すると、突然ブライト君から、話があるとメールが来たのだ……。
待ち合わせ場所は黒夢本部内にあるブライト君の部屋だった。
流石に、いきなり男性の部屋に呼び出されたのだから少し緊張してしまったが、それ以上に、早くブライト君に会って話がしたかったのだ。
ノックをして部屋の扉を開ける。そこで……私は自分の目を疑った。
そこには、ブライト君ではなく、死んだ筈の光輝がいたから。
「瑠美……いや、ティザー。……驚いただろ?」
光輝が生きていた? それは嬉しい。でも、何故ここに? ブライト君は? それに、私の事を瑠美って呼んだ? ダメだ。状況が整理出来ない。
「黙ってて悪かった。実は……俺がブライトなんだ」
……まあ、ここにいるんだからそうなんだろう。驚き過ぎて逆に頭は冷静に動いている。でも、なんか釈然としない。
光輝が生きていた事は嬉しい。プラス30点。
正体を黙っていた=騙してた?マイナス20点。
私はブライト君が好きだった。プラス10点。
それに、光輝は弟の様な存在。プラス10点。
風香は? 私の想いは? マイナス30点。
私の頭の中の独自の採点ではプラマイ0点。
「本当にごめん! 騙すつもりはなかったんだけど、いろいろと理由が……」
「そう……。光輝がブライト君な訳ね……」
光輝に出会った日からの事を思い出す。なるほど、だから私に優しくしてくれた訳か。光輝の中では私は瑠美でもありティザーで、光輝は光輝でありブライト君で……。
「そっか。おかえり、光輝」
色々と考えた結果、私は、光輝が生きていた事を素直に喜ぶ事にした。
「え? 怒らないのか?」
「スッキリはしないけど、プラマイ0だしね」
「プラマイ? なんだそれ?」
「いいの、こっちの話。でも、風香には? 生きている事は教えないの?」
風香の話題を出した途端、光輝は急に神妙になって俯いてしまった。
「……風香は……」
そして、光輝から語られた言葉に、私はまたも頭の中が混乱してしまった。
風香が国防軍だった? マイナス30点。
でも、風香は妹の様な存在。プラス20点。
それに、とてもイイ子だった。プラス20点。
そして……風香は光輝を失い、本当に悲しんでいた。その上、光輝が生きていたのに正体が敵だったのだ。……光輝にマイナス50点。
「このロクデナシ!!」
「ええっ!? 急に怒り出した!!」
「風香は兎も角、アンタは最初から風香とはいずれ別れる事になるって分かってて思わせ振りな態度をとってたんでしょ!? アンタのせいで、風香がどれだけ悲しんだか……今も、どれだけ苦しんでるか、考えた事あるの!?」
私が責め立てると、光輝は俯いて黙ってしまった。
まあ、光輝も馬鹿じゃない。いずれ別れる運命だって事は分かっていたハズだ。予想外だったのは風香が国防軍だったって事もだろうけど、単純に別れる事のショックが予想以上だったって事だろう。
「……過ぎた事を言ってもしょうがないけど、機会があれば一度ちゃんと風香に謝るべきね。……さ、じゃあ今日はお祝いしよっか?」
「……え? なんの?」
「決まってるでしょ? アンタが生きていたお祝いよ」
その後、ブライト君の相棒であるイーヴィルの正体があの崇彦君だと知り、二重に驚いてしまったが、そのおかげもあって私達は三人で行動を共にする事が多くなっていった。たまに私の相棒も一緒に。
環境は人を変える。これは本当の事なんだろう。
ブライト君とイーヴィル(呼び捨て)というナンバーズの強者と行動を共にする事で、私自身も大きく成長する事が出来た。
そんなこんなで夏が終わった頃……光輝の下に一通の手紙が届いた。
正確には、光輝の実家に届いたのだ。定期的に両親の様子を見守っていたので気付いたのだが、光輝は表向き死んでいるのだ。それでも尚、敢えて実家に手紙を寄越すと云う事は、相手が誰であるかはある程度絞られる。
差出人は真田比呂。光輝の幼馴染であり、最近は国防軍の中でも急成長を遂げている有望株だった。
二人の間に何があったのかは詳しくは聞いていなかったが、手紙の内容は光輝を問いただして聞いた。
「これ……絶対に風香の事でしょう?」
「だろうな……。でも、俺は行かない」
「なんで? 風香が会いたがってるんでしょ?」
これが国防軍の罠である可能性はあったが、光輝の反応からすると、その方向性の危惧はしていない様なだった。幼馴染を信用してるのだろう。
「このままでいいの? お互い、身分を隠したまま別れて、多分風香は今もまだ忘れられずにいるのに」
「……仕方ないだろ。俺はもう俺の道を進んでるんだ。次に会えば殺し合うかもしれないのに、会いにいくなんて滑稽だ」
そう、冷めた雰囲気で光輝は言った。
たった二ヶ月だけど、光輝は随分と変わった気がする。目的の為なら躊躇しなくなったし、発言や行動が大人っぽくなった気もする。
環境は人を変える……。黒夢ナンバーズのナンバー1としての自覚が、光輝を変えたのだろうか?
でも、それでも私は間違ってると思った。
「仕方ないって言ってる時点で未練たらたらなのが分からない? アンタが今後、本当の意味で風香を敵として迎え撃つ気なら、ちゃんと過去にケジメをつけて来なさいよ。
じゃないと、実際対峙した時、アンタは絶対に後悔する事になるわよ?」
私にとっても、風香は大切な友人だ。実際に敵として向き合ったら、本気で戦える自信は無い。多分、光輝も……。
なら、もう一度だけ会って、自分の気持ちに踏ん切りを付けるべきだ。私はそう思ったのだ。
光輝と風香が黒夢と国防軍である限り、もう結ばれる事は無い。あの日、風香と一緒に光輝を誘惑する為の作戦会議を思い出し、私もせつない気持ちになる。
でもここ最近、急に逞しく成長しつつある光輝に、私もまた惹かれつつあった。ブライト君ではなく、光輝自身に。
どんな形でもいい。決着を着けて、新たな一歩を踏み出して欲しい。光輝にも風香にも。それで二人が寄りを戻したとしても、それは割り切って祝福するつもりだ。……難しいだろうけど。
じゃないと、私も新たな一歩を踏み出せないから……。
瑠美の反応が案外淡白で盛り上がりには欠けた気がしますが、変にキャピキャピするキャラでも無いので、瑠美はこの位で良いのかなと。
瑠美はここから、風香のメインヒロインの座を脅かす存在になるかもしれません。まあ、大抵のお話では最終的にメインに負けちゃいますけど。
でも、私は昔から二番手を好む傾向があるんですよね……(^ー^)
それでは、元旦にも閑話投稿しますので、宜しければ年明けと共にご覧頂ければと思います!