表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/200

第82話 永遠

 世界は、漆黒の悪魔・闇の閃光・ブライトを知った……。



 あれから、二ヶ月が経過した。


 闇の閃光・ブライトの名は、世界中のフィルズの中でも、最も脅威となる存在…一部では()()()()として、広く認知され始めている。



 あの日、世界は先ず、英雄・鬼島と世界有数のフィルズ組織・黒夢の魔王・桐生との、人類最強を決めると言っても過言では無い程の頂上決戦を目にしたのだ。

 それだけに留まらず、国防軍と黒夢メンバーとの戦闘を経て、国防軍の大将の()()も目にした。


 だが、それら全てを帳消しにして忘れさせてしまう程のインパクトを、ブライトは世界に与えたのだ。

 この動画は世界各国で話題となり、とある世界の最強能力者まとめサイトの掲示板では、幾多の強者を抑えてブライトこそが最強だと推す声も上がる程。



 帰還した桐生から語られたのは、この作戦に於ける真の目的。


 一つは、国防軍陸軍大将・権田の排除。


 そして、新たな黒夢の象徴(ブライト)の御披露目。


 権田は全て自分の予定通りだと思っていたのだが、全ては()()()()()()()だったのだ。



 先ず一つ目の目的。権田の存在は、国防軍の闇そのものだった。国防軍にとっても、黒夢にとっても、その存在は害悪でしか無かったのだが、曲がりなりにも大将であり本人も警戒心の強い性格だったから、決して危険な場には出て来なかった。

 だからこそ、お膳立てしたのだ。()()()()()()()()()()()()、権田が直接出て来る様な状況を。

 権力に強い執着を見せる権田なら、リスクが少ない状況下で黒夢の魔王を倒し、軍の大将の中でも確固たる地位を築けるチャンスなら、自ら出てくると。


 そして、ブライト。リバイブ・ハンターの能力自体は秘蔵にしたままだが、敢えてブライトの存在を隠すのではなく公にしたのだ。これによって、下手な詮索を避ける意味合いもあった。


 これらを無事に達成した事で、桐生の…いや、黒夢の宿願は、次のステップへと移行したのだ。






 ―港エリア・海浜公園



 二ヶ月が経過し、黒夢内部の混乱も落ち着いて来た頃、光輝の下へ比呂から手紙が届いた。


 内容は、真田比呂として、周防光輝に会わせたい人がいる……とだけ。あとは日時と場所だけが記されていた。


 光輝は比呂の言う会わせたい人物が誰か分かっていて会うのを避けようとしていたが、それをブライトの正体を知ったティザー=瑠美に説得と云う名の説教を受けた事で快諾したのだ。



 東京湾とレインボーブリッジの織りなす景色を目にしながら、光輝はその人物が待っているであろう場所へ向かって歩いていた。



 念の為、サイレント・ステルスを発動した状態だったのだが、一人の男が立っているのが視界に入る。


「……ワールド・マスター」


 目の前の男、比呂が能力を発動すると、途端に光輝のサイレント・ステルスの効果が打ち消された。



「ほう……俺の能力を支配するとは、暫く見ない間に随分熟練度をあげたな?」


「まさか。熟練度が上がったのは確かだけど、今のは光輝の精神状態が不安定だっただけじゃないかな?」



 光輝が比呂の目の前までやって来る。すると…


「今までの事……本当にすまなかった」


 比呂もまた、光輝がブライトだと云う事実を既に知っている。その上で、光輝の目の前で膝を着き、額を地面に押し付けた。


()()()、俺が言った事は全部真実だ。俺は…ずっとお前に認めて欲しかった。対等の友達として、認めてもらいたかったんだ。だからといって、俺がお前にして来た事は許される事じゃ無いかもしれない。でも、謝らせてくれ。……本当に、すみませんでした!」



 一向に頭を上げる気配の無い比呂。このまま何も言わなければ、永遠に土下座したままなのかもしれないと思うと、光輝は少しだけ吹き出してしまった。


「頭を上げろよ。今日は周防光輝としてこの場に来たんだ。お前を今すぐにどうこうするつもりはねーよ。ただ、もう対等な友達にはなれねーけどな」


 比呂が静かに顔を上げる。もう対等にはなれない。分かっていた事だが、それでもショックを受けた。


「お前に残された道は、もう俺と、()()()()()()()になる事だけだろうな」


 その言葉に、比呂は大きく目を開けて、光輝を見る。



「言っただろ?強くなれと。俺も最近、対等に戦える相手がいなくなっちまって退屈なんだよな。だから、早く強くなって、本当に俺と対等に戦えるようになれよ」


 対等のライバル。もう、友達として共に日常を過ごす事は無い。だが、敵として、光輝は比呂を認めてくれているのだと、比呂は知る事が出来た。



「分かった。今はまだ、光輝には全然敵わないだろうけどね。だって光輝、強過ぎだから。チートもいい加減にして欲しいんだけどね」


「うるせーよ。俺だって驚いてんだよ。それに、お前の能力も大概だぞ?」


 いつ以来だろうか? 光輝が比呂と素直に笑いあったのは。



 だが、比呂はまた、神妙な顔につきに変わる。どうしても、聞かなければならない事があったからだ。


「……もしも、俺が()()()、光輝の事に気が付いてたら……俺達の運命は変わってたのかな?」


 ()()()とは、ギフト能力が発現した日の事だろう。確かに、光輝はあの日の出来事を機に、闇の世界へと堕ち始めた。

 だが今思えば、あの時点で国防軍に目を付けられれば実験材料にされていた可能性もあるのだ。


 ……結果論ではあるのだが、光輝の中であの日の出来事は忘れられない事ではあるが、その時抱いた怒りの感情は既に無かった。



「さあな? そしたら俺はお前以上のエリートとして、お前なんかより遥かに優秀な目の上のタンコブになってたんじゃないのか?」


「……フフッ、本当にそうだったかもしれないな」


 敢えて、比呂には国防軍の闇の部分を伝えなかった。これから、国防軍は()()()()を迎えるのだから。



「……じゃあ、この先で()()()()()()()()()()から、行ってあげてくれ。邪魔してすまなかった」


「……そうだな。じゃあ、忘れるなよ? 次、敵として会う時は、真剣勝負で戦ってやるって約束。その時は、俺も命を懸けて戦ってやるからな」


「………ああ。絶対に、お前を本気にさせてみせるよ…」


「フッ、俺のお前への復讐は、強くなったお前を圧倒的に倒すってので良いかもな。……じゃあな」


 再び、サイレント・ステルスを発動させて、光輝は本来の目的の場所へと向かって歩き始めた。




 夏は終わり、過ごしやすい気候になった。こんな気持ちの良い場所を、もう一度、彼女と散歩でも出来たらな……と思いながら、光輝はサイレント・ステルスを解除した。



「風香……」


 光輝の声に、あの日と同じワンピース姿の水谷風香が振り返った。その首には、光輝が渡し損ねたハズのネックレスが光っている。


「久しぶりだな……風香」


 風香は、何も言わず静かに頷く。その表情は、今にも泣き出しそうになるのを必死で堪えている様に見えた。


「……そうだね。久し振り。あの日、折角選んでもらった水着、着る機会が無いまま夏が終わっちゃったね……」


 少しだけ、二人が微笑み合う。お互い、ほんの二か月前の出来事が遥か昔の出来事だったかの様な感情を抱いていた。



 暫しの沈黙……。そして、意を決して風香が口を開いた。


「……やっぱり、光輝君がブライトだったんだね……」


 光輝は何も言わず、東京湾を眺める。それが質問に対する肯定だと、風香は受け取った。



「本当は色々聞きたかったんだけど……なんか、もうどうだっていいや。ただ、貴方が生きてくれていただけで、私はそれだけで……」


 風香はこの場所に来る迄、絶対に泣かないと心に決めていた。だが、出会って数分にもかかわらず、涙腺が決壊してしまった。



 光輝も風香に、何故ブライトになったのか?等々、色んな質問をされるのを覚悟していたし、言える範囲で全てを風香に言おうと心構えして来たのだが、風香の意外な言葉に、次の言葉を失ってしまった。


 泣いている風香を抱き締めて、風香が泣く事なんて無い、全部自分が悪いんだと、慰めてあげたい。そんな衝動に駆られるが、もう自分にはそんな資格は無いのだと自重する。



「俺は、これからもブライトとして生きていく。俺には……俺達(黒夢)には、まだやらなければならない事があるから。

 でも、それが全部済んで、周防光輝として生きていく事が出来る未来を作る事が出来たなら……また、会いに来て良いかな?」


 黒夢の目的。それは、国家転覆とも云える行為だ。そして、風香のいる国防軍は、基本的にはそれを阻止する為の国の組織だ。


 光輝も自分が言った言葉に矛盾を感じていた。でも、言わずにはいれなかったのだ。



「……うん。待ってる。ずっと、ずっと……」


 光輝の言葉の矛盾に気が付かない程、風香は馬鹿では無い。それでも、顔を上げて、笑顔で答えた。()()()()()()()()()()()、未来を夢見て……。



 最後に、風香に向かって優しく微笑んだ光輝は、サイレント・ステルスを発動して姿を消した…。



 風香は、消えてしまった、光輝が今までいた場所を見つめながら、暫くの間、声を上げて泣いた…。



 独りになり、光輝は表情を引き締める。その瞳に涙が零れ落ちる事は無かった。


 二ヶ月。この期間が、光輝から甘さを消したのだ。


 もう、思い出に囚われる事は無い。自分のすべき事、やるべき事の為なら、風香や比呂でも容赦なく命を刈り取る覚悟を持っている。


 だからこそ、先程風香に掛けた言葉は、絶対に叶わない夢だと、自分自身が知っていた。



 光輝はこの日、風香と比呂と云う永遠のライバル達と、周防光輝として永遠の別れを告げたのだった……。




 漆黒のダークヒーロー~ヒーローに憧れた俺が、あれよあれよとラスボスに!?~第一部 完

これにて、賛否両論ございました第四章、そして、第一部が完結です。


さて、第二部を迎えるにあたり、またまた暫しの充電期間を頂ければと思います。詳しくは活動報告でも呟いてるので、クライマックスに向けて納得のいく物語と、そして結末を迎えられるよう、脳みそこねくり回しながら頑張りますので、どうかご容赦頂ければと思います。


今回はちょっと長いんですが、間に閑話を入れつつ頑張りますので、忘れないで頂けると助かります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 良すぎて良い点をあげるのすらおこがましい。 [一言] 控えめに言ってマジ最高に面白い。俺の性癖にドストレートな作品やわ。ヒロのこと最初は何やコイツと怒りを覚えたけど後半はヒロの本音が赤裸々…
[一言] 心が痛い 読んでるうちに病みそうです、、、、、、 けど読みます‼️
[一言] 一部完結お疲れ様でした。 一度は比呂の件で離れようかとも思いましたが、 期待していた以上に面白くて、素晴らしい第一部の引きで、読み続けて正解でした! 二部の更新も楽しみにしてます。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ