第80話 あれよあれよとラスボスに
「我が名は闇の閃光・ブライト。この世界を変える者だ……」
突然のブライトの登場に、桐生以外のその場にいた全員が目を丸くする。
「……話には聞いておったが、こやつがブライトか。なんと、これ程の奴がいたとはのう」
鬼島は、ブライトを一目見ただけで只者では無いと見抜く。と、同時に、孫である風香の事が頭を過った。
(……風香が相手したのがこの男だったとすれば、如何に風香でも分が悪かっただろう。願わくば、この男が手心を加えていてくれている事に期待するしかないのぅ……)
「ほう、貴様がブライトか。ちょうど良い、貴様もろとも黒夢はここで俺が潰してやるわ!」
権田も強者だ。当然、相手の力量を計るセンサーを身体の中に持っている。だが、残念ながら鬼島程の精度を誇るセンサーは持っていなかった様だ。
「遅いぞ、ブライト! 待ちくたびれてたぞ!」
立ち上がった桐生がブライトに声を掛ける。
「……待たせてしまってすみません、ボス。でも、期待には応えますよ」
「ふむ、どうやら無事に覚醒したか。フッ、やっぱりお前はとんでもない奴だな」
言いながら、桐生は笑みを浮かべる。そして、権田のこれから待っているであろう哀れな末路を考えて、少しだけ可哀想に思ってしまった。
「クックックッ、誰が来ても同じ事。人間を超えたこの俺にとってはなあっ! ヴァンプス・アーム!」
権田のヴァンプス・アームがブライトに襲い掛かる……が、既にブライトはその場にはいない。
「消えた!?」
思わず、あの鬼島が声を洩らす。
「なっ、どこだ!?」
権田も辺りを見渡す。だが、ブライトの姿はどこにも無い。
すると、耳元で囁く声が聞こえた……。
「どこを見てる?」
次の瞬間、ボディーに強い衝撃を受ける。
「ぐっ!? 攻撃されただとっ!?」
国防軍の訓練された軍人でも一発で悶絶するであろうブライトのレバーブローなのだが、権田には少しだけダメージを与えるにとどまった。
権田は腐っても大将なのだ。戦闘能力が高くなければ、如何に策略を用いても大将まで上り詰める事など出来ない。その上、ドラッグで耐久力が大きく強化されているのだから。
「ほう、今のを喰らって平気だとは。中々やるじゃないか」
ブライトの、声だけが聞こえてくる。その声はどこまでも余裕を感じさせ、絶対的な上からの物言いだった。そしてそれが、権田の怒りに触れる。
「小生意気な……姿を表せ!卑怯者が!」
ヴァンプス・アームを振り回す権田。端から見れば、権田がいきなり無差別に自分の周りを攻撃し始めたかの様に見える。だが、実際は違った。
鬼島や桐生、仙崎やジレンも、ブライトの姿こそ見えて無いが、歴戦の猛者である彼等ならばほんの少しの気配を察知する事は可能だ。
権田もまた、ブライトの気配を捉えていた。つまり、ブライトが見えていないだけで、権田の攻撃はしっかりと狙いを定めた攻撃であり、ブライトがそれを全て避けていたのだ。
突然、しかし自然に、ブライトは権田の目の前に現れた。
「ふむ、これじゃあ消えてる意味がないな。流石と云った所か? だったら、手加減して正面から戦ってやる」
またも上からの物言い。権力が何よりも大好きで、誰よりも偉いと思われたい権田には効果抜群の挑発だった。
だが、権田も歴戦の猛者だ。今のやり取りで、ブライトがとんでもない実力者だと云う事に気が付いた。
だからこそ冷静に、自分が勝てるパターンを考える。
(姿が見えるならやり様はいくらでもある。奴が接近した瞬間を狙って、エネルギーを吸い取ってやるわ!)
また、目の前からブライトが消えた……次の瞬間、ブライトは目の前にいた。
(なっ! また消えた!?)
そして、光速のラッシュを繰り出す。最初の数発は権田を捉えたが、権田も途中から対応してガードしてみせた。
「くっ!? 消えないんじゃ無かったのか! 卑怯者!」
「消えてなど無い。ただ、ちょっと速く動いただけだ」
デモンストレーションとばかりに、ブライトは消えては現れを繰り返し、半径50メートルの範囲の至る所に姿を見せる。
戦況を見つめていた仙崎も、ブライトの動きに驚きを隠せなかった。
「……これはさっきまでとは違う。消えてるんじゃない、動いてるだけ……なのか? こんなスピード……どうすりゃいいって云うんだ?」
仮に、自分がこのブライトと戦ったらと考える。多分、逆立ちしても勝てないだろう。それ程の実力差を感じた。
「おのれちょこまかと……」
(だが、結局接近しなければ攻撃は出来ないんだろう? だったら、まだ勝機はある!)
……と、思った瞬間、権田をインビジブル・スラッシュの斬撃が襲った。その斬撃は覚醒を経て、今ならダイヤモンドすら豆腐の様に斬り裂く事が可能だろう。
「ぬあっ!? まさか、遠距離攻撃まで!? この卑怯者があっ!!」
権田は辛うじて直撃は避けたが、肩を深く斬られた。
まさか遠距離攻撃まであるとは思わなかったのだろう。だが、権田は以前、臨時大将会議の場でブライトが遠距離攻撃を持っている事を比呂から聞いていたハズなのだ。
あの時はまさか自分がこんなに早く直接対峙するとは思っておらず、流して聞いていたのだろう。
ジレンはブライトの戦っている所を見るのはこれで二度目だが、その印象は大きく変わっていた。
(以前もかなりの実力者だとは思ったが、あの時はまだ俺でもやり様で勝てたが、今はどうだ? ブライトの奴、予言通り覚醒出来たんだろう。……あれじゃあ、俺でも絶対に勝てんぞ……)
「ぐぬぬぬぬ~……消える能力、加速系能力、遠距離攻撃系能力……貴様、一体幾つの能力を持ってるんだ! 卑怯だぞ!?」
「さあ? 因みに、こんなのも持ってるぞ?」
言って、右腕にロンズデーライトの刃を出現させる。
「なっ、具現化系? いや、体質変化系?」
「ボス。今更ですが、念の為確認を。アイツは何者ですか?」
「……本当に今更だな。アイツは国防軍大将の権田だ。あんなナリだが、一応さっきまでは人間だった。どうやらドーピングを使ってパワーアップした様で、敵も味方も全滅させるつもりだったみたいだな。
実際、今の国防軍の癌の様な存在で、今回の俺の本当の目的の一つが、この権田の抹殺だった」
「なるほど。見た通りの悪人な訳ですか。なら……遠慮はいらないですね」
「何をゴチャゴチャと、貴様なんぞ人間を超えた俺がくびり殺してくれる!」
伸縮自在の権田の腕がブライトを襲う。だが、その腕はロンズデーライトで創られた刃に両断された。
「うぎゃあああああああああっ! 俺の腕がああああああっ!!」
「さっきからうるせえな……。お前、国防軍の大将なんだろ? そんな姿になってまで、何を求める?」
「ぐぬっ、やかましい! 俺は国防軍の大将だぞ!? この国の安定した社会を、貴様等フィルズから守ってるのだ! そして、その国防軍のトップが俺なのだ!」
「国防軍のトップ。正義の味方のトップって訳か……。お前、今の自分の姿を鏡で見た方が良い。とても正義の味方とは言えないぜ?」
「姿などどうでも良いのだ! 己の目的を達する為には、絶対の強さが必要なのだからなぁ!」
権田の身体が更に肥大化する。最早、完全にヒトでは無くなったかの様に。
「それほどの強さを手に入れる為に、お前はこれまでどれだけの人間が犠牲になっているのか理解しているのか?」
権田のパワーの源はドラッグだ。当然、実験材料として犠牲になった人間は少なくは無いだろう。
「クックックッ、そんなもの、適当に捉えたフィルズを使ったに決まってるだろう? この国にはフィルズに人権など無いのだからな!」
「フィルズに人権など無い……か。目的の為なら手段を選ばないその考えには少しだけ賛同してやろう。だが、お前のやった事を許せる程、俺は優しくは……ない!!」
決め台詞と共にフラッシュを発動。一気に加速し、そのまま光速の刃…別名・フラッシュブレイド(※本人命名)を権田に向かって突き刺す!
「飛んで火に入る夏の虫とは貴様の事だ!!」
それを権田は待ち構えていたの様に迎え入れた。接触の瞬間、ブライトを抱き込んで、エネルギーを吸収しようとしたのだ。
「ぐおおおおあああっ!?」
フラッシュブレイドは、権田の腹をすんなりと貫いた……。
間違いなく致命傷となる一撃。だが、権田が最後の意地を見せ、ガッチリとブライトを掴まえる。
「がはっ……掴まえた……ぞおっ! 貴様のエネルギーを吸収すれば、俺のダメージは回復し、そして……大幅にパワーアップする……ハズだ!」
権田のヴァンプス・アームによって吸収されたエネルギーは、権田のダメージをも回復させるのだ。
「クックックッ……最後の最後で、勝つのは、この俺だ!!」
ガッチリと抱き締められたブライトは、オッサンに抱き付かれている現状に吐き気をもよおしていたが……
「そんなに抱きたいのか……?なら、たっぷり抱き締め返してやる……」
ブライトもまた、権田を抱き締めた。そして、新たに手に入れたギフト、“セル・フレイム”を発動する。
ネイチャー・ホワイトは回復系の能力者として知られていた。能力名は“セル・フレッシュ”。ギフトランクはA。その回復方法は、対象の体内の細胞を活性化させて怪我や病気を回復させると云う物。
そして、覚醒を経て進化したそのギフトは、セル・フレイム……ギフトランクS-の能力となり、体内の細胞を燃える程に活性化させ、今まででは出来なかった程の回復を実現させる。
だが、この能力にはもうひとつの使い道がある。それこそ、ブライトを死に至らしめた方法。体内の細胞を燃える程に活性化させるのでは無く、本当に燃やすのだ。
「さあ、もっと強く抱き締めろよ? お前が俺のエネルギーを吸収するのが先か、お前の細胞が燃え尽きるのが先か?」
「何を言って……おあっ!?あがががががががががががっ!!!!?」
権田の身体が、体内から燃え始める。
「これも能力か!? お前、一体幾つの能力を持ってるんだああああ!?」
「さあ? パッと言えない位かな?」
現在ブライトが所持するギフト能力は七つ。過去にギフト能力を複数所持する者でも、最大で三つだった。如何にブライトが異常な存在になってしまったのかが分かる。
「さあ、己の罪に溺れて、眠れぇっ!!」
「この…卑怯ものおおおあああああっ…べしゃ!?」
細胞が燃え上がり、全身の血液が沸騰して膨れ上がった権田の肉体は、最後は爆発してしまった……。
権田の返り血や肉片を一身に浴びたブライトが振り返ると、唖然としてこちらを見ている国防軍の兵士達がいた。その中には、仙崎や鬼島の姿も。
「我が名は闇の閃光・ブライト。この先、長生きしたけりゃよ~く覚えとけ」
そして、ニヤリと口元が歪む…。
その強さは圧倒的だった。その佇まいも圧倒的だった。
桐生と鬼島の頂上決戦に始まり、陸軍精鋭部隊と黒夢ナンバーズ、人外の力を手に入れた権田。
だが、最後に現れたブライトの存在が、その全ての出来事を凌駕する程のインパクト与えたのだ。
悠々と佇むその姿は、この場にいる者……いや、この場にいる全ての者と、カメラを通して目撃した全世界の人々の誰もが、その脳裏に焼きついただろう。
闇の閃光・ブライトと名乗る、この漆黒の悪魔こそが、これからのフィルズを代表するであろう悪の象徴であり、現段階ではスペシャリスト達からすれば、最強最後に待ち受ける敵……“ラスボス”になるのだろうと……。
世界は、闇の閃光・ブライトを知った。そして、黒夢に変革の時が訪れる。
その頃風香は、光輝とブライトが同一人物だと気付いていたが、認められないでいた。
次回、「戦の後」……今直ぐにでも光輝君に会いに行きたい!でも、光輝君は敵なのよ!私は…どうすれば良いって云うのよ!