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第78話 仙崎の謀反

 突然の援軍。確かに仙崎は、此方の情報が洩れていたと察した時点で要請は出した。それにしたって、権田と陸軍精鋭部隊が到着するには早過ぎた。


「まさか……権田大将は最初からこの展開を予想していた?だとすると、やはり……」


 仙崎は、権田は最初からこの展開を予想していたと考える。だとすれば、先発部隊だった自分を含む他の兵士は?


「……やはり捨て駒か。フッ、そんな策を謀らなくとも、国の為にこの身を差し出す事等、別に苦になる訳では無かったってのに」


 権田は、冷徹で冷血で冷酷を絵に描いた様な男だと、皆が言う。仙崎なら更に、狡猾で根は臆病者だと付け加える。つまり、上司としては決して誉められた男では無い。無駄に死んでいった仲間も一人や二人では無いのだ。

 それでも権田は、事務処理から戦闘までこなす仙崎を高く評価してくれていたし、仙崎も全ては国防軍の為と自分に言い聞かせて来た。少なくともそう思っていたからこそ、権田のやって来た表に出せない様な事も粛々と処理して来たのだ。それこそ、血の涙を流す思いで。


 今回もまた、陸軍精鋭部隊の多くの部下達は、この戦闘に於いて犠牲になるだろう。なにせ、相手はあの黒夢なのだから。

 明確な目的があれば、自分達は死をも厭わない。精鋭隊の皆もそう思ってこの作戦に参加しているのだろう。確かに、黒夢の魔王を討てば、国防軍としては大きな勝利となるのだから。

 だが、この作戦の本当の目的は、ただ権田が手柄を立てる為のものだ。権田と云う人間は、そういう男なのだから。


 今回、自分も捨て駒として扱われた事で、今までの我慢していた諸々の出来事が全てアホらしくなってしまった。


(国防軍は……()()の様な奴が大将でいる限り、腐っていく。変わらねば、()()()変えねば。誰かが変えねば、国防軍は地に墜ちる)


 ジレンとの戦闘で負ったダメージは大きい。とても自分が戦列に参加する事は叶わない。それでも、刀を握る仙崎の手は強く震えていた。




 思わぬ劣勢に、ヴァンデッダは桐生に撤退を提案する。だが桐生は……


「踏ん張るぞ。無理に倒さなくて良い、兎に角時間を稼げ!」


 これ以上何を踏ん張ると云うのか? ヴァンデッダにとって、ブライトの覚醒など二の次で、桐生の命こそが最優先すべきものなのだ。そう強く問い質したい衝動に駆られたが、ヴァンデッダは感情を押し殺した。……桐生がそう言うのだからと。


「~~っ、分かりました……。じゃあ行くわよ!」


 ヴァンデッダが近接部隊に向かって飛び掛かる。そして…


「“ナイトメア・ルアー”!」


 ナイトメア・ルアー。ギフトランクA。対象に、自分の描くシナリオ通りの悪夢を体験させる幻術能力。一度に発動出来る人数は20人までで、耐性の強い者……主に自分よりも遥かに強い者には効果を発揮しない傾向がある。そして、神経をかなり磨り減らす為、燃費が良いとは言えない。


 幸い、近接部隊にはしっかり効いたようで、10人程がヴァンデッダの創る幻に襲われた。今彼らは、己の腹を突き破ってフェノムが飛び出して来る悪夢を体験している。

 ヴァンデッダの能力は、結果的に肉体では無く()()()()()のだ。彼女と対峙した白虎隊の面々も、肉体的には生きてるが、精神を破壊された。……その際の幻は男としては天国だったかもしれないが。



 その後……漸くは拮抗していた黒夢と陸軍精鋭部隊だが、徐々に形勢が傾き始める。


 ジレンも、ヴァンデッダも、死力を尽くして戦っている。だが、圧倒的手数と、統制の取れた陸軍精鋭隊相手に劣勢を強いられていた。


 ジレンは仙崎との戦闘でのダメージを引きずり、ヴァンデッダも能力の多用で限界寸前、桐生もガードを固めるのが精一杯と、最早風前の灯かと思われた。



「ぬ~しつこい奴等め! 貴様等(精鋭隊)何をしてるんだ! こいつ等(黒夢)は全員死に損ないだったんだぞ!? 何を手こずっておる! この役立たずどもが!!」


 権田が怒鳴り声を上げる。既に疲弊していたとは云え、黒夢ナンバーズの1・2・4を相手に、陸軍精鋭部隊の面々は死力を尽くして戦っているにも関わらずだ。



 そんな権田に、黙っていられない男が立ち上がった。


「権田将軍……」


 仙崎は、満身創痍の身体を引き摺って権田の前に立つ。


「ん!? 仙崎……生きておったのか!?……なら、何故アイツ等(ジレンとヴァンデッダ)が生きてるんだ?」


「力及ばず、私は敗れましたので」


「なんだと~? 折角目を掛けてやってたと云うのに、負けておめおめ生き恥を晒すとは、国防軍の風上にも置けんな。

 ……良いだろう、軍人として死ねる最後のチャンスを与えよう。今すぐ、アイツ等を討ち倒して来い!!」


 仙崎の中で、権田の元で奔走して来た、この10年間が走馬灯の様に頭の中を駆け巡った……。


 初めの頃は、厳しい所はあるが、国を愛する心を持った人だった。だからこそ、多少の性格には目を瞑る事が出来た。だが、出世して行くに連れて、権田は変わった。それでも、権田の根っ子には軍人としての正義が残っていると信じ、それを最後の拠り所にして来たのだ。それが今、完全に崩壊した。



 仙崎は物干し竿()をの切っ先を、権田に向ける。国防軍に於いて上下関係は絶対。まして、直属の上司に……しかも大将に殺意を向けるなど、死刑確定の厳罰が課せられるだろう。


「仙崎……貴様、どういうつもりだ?」


「権田将軍。私は、日本国国防軍の軍人として、これまで貴方を信じて10年間付いて来ました。ただ、残念ながらその時間は全て無駄だった様です」


「ほう、言うではないか……俺の()()使()()()()が。よもや、飼い主に噛みついて、只で済むとは思っていまいな?」


 小間使いの犬……。今ここに至って、自分でも分かってはいたが、本当に自分は権田にとってこの10年間、小間使いの犬でしかなかったのだと激しい後悔の念を抱く。


「……元々、今回の任務で俺を死なせるつもりだったんでしょう? 貴方は、大将たる器の人では無い! 仲間を想いやれない者が、国民を想いやれますか? 己の欲の為では無く、国防軍全体の事を想いやれない者が、国を想いやれますか!?

 貴方のこれまでの悪事の証拠は全て私が握っている! 私は、貴方を誇り高き国防軍の軍人とは、認めない!!」



 実際は既に限界に近い陸軍精鋭部隊も、上司である2人の言い合いに、戦う手を止めて聞き入っていた。


 そして、彼等にとって恐怖の象徴でしか無い権田と、いつでも自分達の側に立ってくれた仙崎とでは、彼等の取るべき行動は決まりきっていた。



 仙崎の背後に、佐藤はじめ、まだ歩ける精鋭部隊の面々が整列する。


「我々! 佐藤をはじめとした陸軍精鋭部隊のメンバーは……全員、仙崎中将に従います!!」


 そして、仙崎に向かって深く敬礼した。



 その光景を、今まで敵対していた黒夢の3人は、チャンスとみて反撃する事無く、黙って見ていた。ヴァンデッダに至っては、仙崎に対しての好感度が爆上げしてしまい、身体中がアツくなっている始末。



 部下達が自分に付いて行くと言っている。それだけで、この無駄だったと思われた10年間が救われた気持ちにはなった。だが、仙崎は部下達の忠義に応える事は無かった。権田の悪事を責め立てると云う事は、つまりその副臣だった自分も同罪なのだから。



 部下に裏切られた形になった権田は、震えながら俯いた。


 そこへ、ヨロヨロになりながらも、同じく大将の鬼島が近付く。


「仙崎君。国防軍では階級による上下関係は絶対じゃ。じゃが、権田の悪事はワシの耳にも届いておった。なのにそれらの決定的な証拠は、()()()()()のおかげで表に出る事が無かったんじゃ。

 ……君が、全てをさらけ出してくれると言うのなら、ワシも君の罪が軽くなるように尽力しよう。じゃから、心から君を慕っておる部下達の想いに応えてやるが良い」


「鬼島将軍…………!」


 国防軍は、決して権田の様な腐った人間ばかりでは無い。英雄・鬼島をはじめとして、尊敬すべき人間が沢山いるのだと、改めてこれまでの自分を悔い改める仙崎。



「……仙崎ぃ~、貴様ぁ、俺のおかげで中将まで成り上がる事が出来た恩も忘れおって~」


「そんな貴方に恩義を感じ、これまで貴方の言いなりになって来た事が自分の最大の失敗だった。自分の背中を見てくれている者達の為にも……自分が貴方に引導を渡す!!」



 権田を取り囲むのは、仙崎、鬼島、陸軍精鋭部隊。その状況下でも尚、権田は声高らかに笑った。


「フフフッ……フハハハハハハハッ! まさかこの俺が飼い犬共に手を噛まれるとはな! 良いだろう。お前らはこの俺が何故大将にまで上り詰める事が出来たのか忘れている様だから、よーくその身体に叩き込んでやるわ!!」


 次の瞬間、仙崎の後方、陸軍精鋭部隊の佐藤の身体を、権田の伸びた腕が貫いた。


「がはっ!?」


「さ、佐藤!?」


「仙崎……よもや俺の能力を忘れた訳ではあるまい? ギフトランクA・“ヴァンプス・アーム”をな!」


 ヴァンプス・アーム。伸縮自在な上に高速で動く腕は、対象のエネルギーを吸い込み、自分のパワーへと変える。


 現場には既に、権田を除いて無傷の者はいない。万全の状態の鬼島、桐生、ジレン、仙崎ならまだしも、今現在権田のヴァンプス・アームから逃れられる者は、ひょっとしたらもういないのかもしれない。



「あ……あ……せん……ざ……」


「佐藤!! やめろぉ! 権田あぁぁっ!」


 仙崎が残り僅かな力を振り絞って権田に斬りかかるが、権田は素早い動きで佐藤を貫いたまま大きく移動した。


「クックックッ……腐っても精鋭隊、中々良いエネルギーだ……」


 権田が手を引き抜くと、足元に干からびた佐藤が捨てられた…。


「ごおんだああああーーー!!」


見る影も無い姿になってしまった佐藤に、仙崎は権田に対する怒りで叫んだ。

いよいよベールを脱いだ権田。桐生達も満身創痍の身体で抵抗するが……

次回、「主役は遅れてやって来る」 ……我が名は闇の閃光・ブライト。この世界を変える者だ!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 3日に一度になって小説としての質が向上してる気がしました。 仙崎と権田の関係性が良くわかり、キャラが立ったと思います。 [一言] どんどん面白く(巧く?)なってるのが読んでいて楽し…
[一言] 3日に一度の投稿にするなら内容を濃くしてもらいたい ストーリーも全く進んでないし物足りない
[気になる点] >ヴァンデッダの能力は、結果的に肉体では無く精神・を・壊・す・のだ。 なんか点の位置に違和感が… [一言] 嗚呼、次の更新が待ち遠しい
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