第77話 援軍襲来
――地上
桐生辰一郎と鬼島平吉の人類最強決定戦は、最終局面を迎えていた。
どちらも圧倒的防御力と、それ以上の攻撃力を誇るものの、決定打を許さない。しかし、当の本人達は、この戦いがもうすぐ終わりを迎える事を予感していた。
「鬼島ァーっ!」
「ぐぬっ……」
鬼島の身体を覆っていた赤いオーラが揺らぎ、次の瞬間には小さくなった。鬼神拳の多用により、鬼島に体力の限界が近付いて来たのだ。
「ふごっ!?」
桐生の前蹴りが鬼島の鳩尾にクリーンヒットし、大きく後退する。遂に、均衡が破れたのだ。
「がっ……はぁはぁはぁ、歳はとりたく無いもんじゃのう」
「フゥ、解せぬな。如何に英雄と云えど、この俺に真っ向から勝負を仕掛けた所でアンタなら俺には勝てない事は予想出来ていただろう? 何故無謀な戦法に出た?」
「はぁはぁはぁ……意地……かのぅ」
「意地?」
「ふぉっふぉっふぉっ……かつての弟子に対する、師匠としての意地じゃ」
鬼島は、桐生相手に真っ向勝負を仕掛ける事が、自分にとって勝算の高い戦法では無い事に気付いていた。それでも尚、真正面からぶつかったのだ。
「お前らが何を企んでおるのか、大体想像は付くわぃ。ただ、どれだけの覚悟を以て、それを成そうとしておるのか……それを確かめたくてのう」
「やはり気付いていたか……。アンタなら、俺達の野望を阻止する為に、他の方法もあっただろうに」
「そうじゃな……ワシがもう10歳若ければ、そうしたかもしれんなぁ。だが、20歳若ければ……賛同していたかもしれん。ワシはもう若くない。これからの時代は、これからを生きる者達が決めれば良い……」
鬼島は笑いながら、立ち上がる……。
「じゃが! それは全てこのワシを倒してからの話じゃ。ワシを倒せんで、世界を変えられるか? 否! 新しい時代を創りたくば、先ずはこのワシを乗り越えてみせよ!」
「まだやるのか?呆れたよ……アンタには」
最後の力を振り絞ったのか? 鬼島の身体はこれまでで最も強く、最も濃く赤いオーラを纏った。
「くらええぃっ! 鬼人拳奥義! 連掌破烈!!」
「面白い……全て受けきって、望み通りお前の時代が終わっている事を教えてやる!!」
桐生が目の前に10枚の盾を出現させる。その盾は勿論ロンズデーライトで創られた強固な物だったが、鬼島の掌底はその盾を一撃で突き破った!
そのままの勢いで一枚一枚突き破って行く。そして全ての盾を突き破り、桐生の腹に到達したが!
「くらええええぃっ!」
「ウオオオオオオオッ!」
鬼島の最期の攻撃は、確かに桐生に到達した。……だが、最後の鎧を打ち砕くまでは届かなかった……。
「……残念だったな」
「ぬっ……無念」
全てを出し切った鬼島から、赤いオーラが消える。
「流石は我が師匠・鬼島平吉。この俺の防壁を突き破るとはな。だが、もう終わりにしてやろう……とどめだ!」
桐生が鬼島を宙へ打ち上げる。そして!
「ヘルズ・ギロチン・ドロッープ!!」
自分も飛び上がり、脛を鬼島の首に当てながら、地面へと叩き付けた!
「がはあっ…!」
桐生と鬼島の頂上決戦は、桐生の勝利で幕を閉じたのだった…。
「ごほっ……どうやら……ワシの敗けじゃな……」
「……呆れたな。今のを喰らって生きてるどころか、意識すら失わないとは」
鬼島は仰向けのまま、最早動けない。それでも、意識を刈り取られる事は無かった事に桐生は驚きを隠せなかった。
そして、実際は桐生も限界を迎えていた。鬼島の最後の攻撃による衝撃は、外部を通り越して桐生の内部に深刻なダメージを与えていたのだ。
その時、桐生の兜内の無線機にラインからの緊急連絡が入る。
そして次の瞬間、桐生を無数のギフトによる攻撃が襲った! それは、どの攻撃も一線級の破壊力を秘めており、大きな爆発が桐生を呑み込んだ!
「なんじゃ!?……貴様……何故ここに!?」
今の攻撃を指揮したであろう男を、鬼島は苦々しく睨んだ。
「日本最大の組織・黒夢の魔王、桐生辰一郎は、この俺が……国防軍陸軍大将・権田誠吉が仕留める!」
穏やかな崖の上には、権田と、その背後にズラリと陸軍の精鋭が50人控えていた。
「まさか、権田大将まで!?」
「なんなんスか!? 今日って、国防軍と黒夢の最終決戦なんすか!?」
ブルーと相良が驚きの声を上げる。
「……なんだと!? まさか、自ら出てくるとは……」
今回の作戦の指揮を担っていた仙崎は、自分が嵌められた時点で、他にも権田がこの作戦に何かしらの目的を持っている事は予想していたが、まさか本人自ら出陣してくるとは思っていなかった為に戸惑っている。
「流石に今の状態で大将1人と鍛え抜かれた兵士50人の相手はは厳しいな……。俺も、恐らくボスも、既に体力は限界だって言うのに」
「それより! 流石にさっきのはボスでもヤバイでしょ!?」
珍しくヴァンデッタが慌てた表情を見せる。桐生への絶対の信頼があるにも関わらずだ。つまり、今の攻撃はそれほどヤバかったのだ。
「ボスは大丈夫だろ。だが、ここからは俺達も加勢しないとな。どれだけ抵抗出来るか分からんが。まさか、ここまで予言の通りに危機に陥るとはな…」
突然の権田の乱入に、鬼島も驚いていた。
「権田! 貴様、何故ここに!?」
「それはこっちの台詞だ、鬼島さん。何故空軍のアンタがここにいる? これは、陸軍管轄の極秘任務だったハズだが?」
「ぐぬっ……」
「陸軍の作戦に、要請も無いにも関わらず首を突っ込み、手柄を横取りしようとするどころか、敵に敗れるとは……英雄・鬼島も、やはり歳には勝てませんなぁ」
権田に対して鬼島が文句を言う事は出来ない。権田の言う通り、この場に赴いたのはあくまで独断だったからだ。
「まあ良いでしょう。アンタの件は後程ゆっくりと軍法会議にあげさせてもらうとして、黒夢の魔王……いや、元国防軍少将・桐生辰一郎の首は、我々陸軍が……この俺が頂く!」
桐生はあの瞬間、自分の身体の周辺のみを強固なロンズデーライトで構築された、簡易防空壕とも言うべき防壁を用いて奇襲を防いでいた。
そして、防壁を解除すると、権田に向かって叫ぶ。
「相変わらずだな、権田! 実力に伴わぬ出世願望程愚かなものは無いと教えていたハズだが?」
「フンッ……桐生、相変わらず生け好かない奴だ」
「なんだ? 自分より劣っている奴を見下して何が悪い?」
「……フンッ! だが、今日こそはお前もおしまいだ! 貴様が軍を辞め、黒夢なんぞを結成した時からこの日を待ちわびていたのだ! さあ行け、俺の虎の子の精鋭隊! 黒夢を……桐生を殺せ!」
権田は桐生が国防軍に在籍していた頃の同期だったが、常に最前線で武功を上げる桐生には辛酸を舐めていたのだ。
陸軍精鋭隊が桐生に向かって戦闘体制を取る。その動きは流石は軍人だけあり、見事に統制が取れている。
そして、桐生の前にはジレンとヴァンデッタが立ち、迎撃体制。
そんな中、陸軍精鋭隊の一人、『佐藤』が口を開いた。
「黒夢の桐生が、まさかあの伝説の桐生少将と同一人物だったとはな……。ここで黒夢の頭を取る。俺達で、国防軍の亡霊を倒すぞ!陣形・壱!」
一列に並んだ遠距離部隊が、桐生達に向かって遠距離攻撃を集中放火する。
「撃て撃て撃てー!!」
そしてその間に近接部隊が桐生達の背後に回る為に移動を開始した。
先程桐生を襲った遠距離攻撃が飛んでくる。
「なぁめんなぁっ!!」
これをジレンが一振りの巨大な炎で相殺する……が、全てを相殺する事が出来ず、ダメージを負ってしまった。
「チッ……万全な状態でも苦戦は免れないだろうに、流石にガス欠だとキツイな」
「ボス! ここは一旦撤退しましょう! これ以上ブライトを待つのは危険です! このままじゃ本当にボスが……」
「ここで逃げるようなら、最初からこの作戦は実行してない。ここまでは、全て計画通り。あとは、アイツを待つだけなんだからな」
正直、桐生もまた鬼島との戦闘で限界を迎えていた。それでも、予定通り鬼島を倒し、権田を引きずり出したのだ。この作戦はここからが本番なのだ。
ピンチに陥った黒夢の面々!だが、ここであの男が反旗を翻す……。
次回、「仙崎の謀反」 ……俺は、アンタの飼い犬じゃ無い!
※突然ですが、今日から第4章最終回まで3日置き更新にさせて頂きます。楽しみにしてくれている皆様、本当にスミマセンm(__)m