第76話 足りなかった覚悟
スミマセン、予約投稿がずれてましたm(__)m
蒸気が収まる。ブライトの姿は、完全に元に戻っていた……。
「な、なんて事だ……。そうだ、あの時も、ブライトは身体を真っ二つにされても生きてたんだ。おかしいと思ってたんだ。でも違った、死んだのに蘇ったんだ!!」
(うげっ!比呂の奴、核心を突きやがったな…)
核心に迫った比呂に、イーヴィルは感心しながらも、今更慌てても仕方がないと切り替える。
そして……闇の閃光・ブライトは復活を果たす。
「……フウゥゥゥゥゥッ、カアァツッ!!」
瞬間、強大なオーラがブライトから爆発した様に発散され、既に立ってるのもやっとだった比呂は吹っ飛ばされた挙げ句、壁に頭をぶつけて気絶してしまった。
風香もまた、壁に激突する程吹っ飛ばされ、頭はぶつけなかったので辛うじて意識を失う事は無かったが、衝撃で動く事が出来なくなった。
「はぁ……よう、相棒。無事復活出来て何より」
もう諸々諦めたイーヴィルがため息を吐く。
「……ふううう~~。なんか、体中に力が漲ってるぞ」
「みたいだな。なんか興が醒めちまったし、あいつら殺すのはまた今度で良いや。眠ってる間に行こうぜ」
「ん?……ああ、比呂と風香か…。なんでアイツら気絶してんだ?」
「今、お前がやったんだろ?」
「俺が? 俺はちょっとだけ身体を伸ばしただけだろ? 寝起きだし」
「お前は寝起きの伸びで人をぶっ飛ばせるのかよ! スゲーじゃねーかよ! チクショウ! つーか、寝起きじゃなくて死起きね!」
その光景を、風香は薄目を開けて眺めていた。その脳裏に浮かぶのは教室での2人。
(光輝くんと……崇彦くん?)
そんな2人を思い出しながら、風香もまた意識を失った…。
「無事、覚醒出来たようだね」
するとそこに、白夢のボスである白蛇雪が現れた。
「ユキさん、他の皆はどうなってます? まあ、ウチのナンバーズがタイマンで負けるとは思えないけど」
「そうだね。でも、今はそれ所じゃ無いんだ。お疲れの所悪いんだけど、一刻も早く地上へ向かって、辰一郎を助けてやっておくれ」
ユキは2人に現在の状況を伝える。
「ええ!? ボスとあの鬼島が!?」
ユキから話を聞き、崇彦が驚きの声を上げる。
鬼島平吉。
ヒーローに憧れ、国防軍に憧れていた光輝にとっても、正に憧れの頂点の様な存在だ。その鬼島が今、直ぐ上で、ボスと戦っている…。
「今回、辰一郎は賭けに出たんだ。大きな賭けにね。だが、それに伴う予言をヒミコちゃんにしてもらった所………不吉な結果が出たんだ。
ヒミコちゃんの占いは表現が抽象的だから、大まかに訳すと……『この作戦で、桐生辰一郎は死ぬ』と出ていたんだ」
桐生が死ぬ。これは、組織としては絶対に避けなければならない事態だった。だが、この作戦は既に実行されている。なら、桐生が死ぬかもしれないのに、作戦を実行したと云うのだろうか?
「でもね、その言葉の後に、こう続いたんだ。『だが、漆黒の男が新たな力に目覚める事によって、桐生は死ぬ事無く、作戦は成功する』……ってね。つまり、アンタが覚醒すれば、辰一郎は生き残るとの結果が出たんだ。だから、この作戦は実行された」
「俺が覚醒した事で、ボスが助かる? いや、予言ってそんな事まで分かるんですか?」
「もちろん、ヒミコちゃんの予言は絶対じゃ無い。半年の間隔をあけて、確率は98%。次に占う間隔が短ければ短い程、予言の確率は低下する。
でも、辰一郎はこの機に賭けた。国防軍を大きく変える為、黒夢が次のステップへと進む為、今が最高のタイミングなんだ。そして、これからの黒夢に絶対不可欠な存在となるであろうアンタの覚醒の為にもね」
ユキの言葉通りなら、桐生は己が死ぬかもしれないにも関わらず、ブライトを覚醒させたとも考えられた。勿論、他にも大きな目的があったからなのだろうが、それでもブライトは桐生と自分との、物事における覚悟の差を感じていた。
(俺は……心のどこかで、死んでも生き返るのが当たり前だと思っていたんだろうか? さっき崇彦が言った様に、比呂や風香は、間違いなく命を懸けて俺に向かって来ていた。なのに俺は戦い自体を楽しんで、相手を倒した後の事すら考えてなかった。結果的に、油断して伏兵に殺される始末……)
「ウオアアアアアアアアアアッ!!」
突然吠えたブライトにイーヴィルとユキは驚く。
「ど、どうしたんだよ?」
「……お前に言われた通りさ。自分の馬鹿さ加減が嫌になったんだよ。皆が信念を持ち、文字通り命を懸けている戦場で、1人だけ覚悟とは無縁で浮かれていた自分に」
「……ふ~ん。で、どうすんだ、これから」
悔やむブライトにイーヴィルから掛けられた言葉は、どこか冷めていた。いや、信用していないかの様だったのだ。
「……これだけ死なないと気付けない程に俺は甘ちゃんだったし、目的は見つけたつもりだったけど、結局信念が足りなかったんだ。
俺は……黒夢の理念に賛同し、平和な世の中が作れたら……なんて、目的が達成された後の事ばかり考えていた。でも、そんな甘い考えじゃ、目的なんか達成出来ない。ボスが自分の身を危険に晒してまで期待される様な資格は、今の俺には無い」
「……分かってるじゃねえか。お前は、まだ心のどこかで自分は正義のヒーローになれるとでも思ってたんだろ? でも、もうお前は正義の味方なんかじゃないんだ。あの二人とは、決定的に違う人生を歩んでるんだよ。それでもヒーローになりたいってんなら、絶対にブレない、自分の信じる道をどんな事があっても貫き通すしかねえんだよ。
敵に情けをかけるな。非情になれ。それが……お前がいつも言ってる”ダークヒーロー”ってやつなんじゃないのか? 今のお前じゃ、ダークヒーローなんてとても名乗れないぞ?」
ダークヒーロー。……自分は、その言葉の意味を分かっていたのだろうか? 悪の世界に生きる事になったが、それでも自分は本当の意味で悪の世界に身を置く覚悟が出来ていたのだろうか?
「そうだな……。よし、取り敢えず、俺の為にも、組織の為にも、俺が望む世界の為にも。黒夢のボスを死なせる訳にはいかねーな。例え、この命に代えても……」
言うや否や、光のスピードでブライトは地上へと向かってしまった……。
「あ~もう! 置いてくなって!」
慌てて自分も地上へと向かおうとしたイーヴィルを、ユキが微笑みながら見つめていた。
「流石だね。アンタは心を読める事を抜いても、他人の心を操るのが巧いね」
「操るって……なんか心外だなあ」
「フッフッフ、褒めてんだよ。ブライトが蘇生して直ぐに、アンタが再びあの2人を殺す様に促せば、多分ブライトは殺したかもしれない。でも、そうなったらブライトは完全に悪の道に落ちていただろうね。
私達は、新しい世界を創るんだ。狂気にのみ支配された悪党はいらないからね。結果的に、アンタはブライトを前に進ませたんだ。これからもその力を正しく使うんだよ? 辰一郎はアンタにも期待してるんだからね」
「大丈夫、それは分かってるから」
満面の笑みを浮かべて、イーヴィルもまた地上へと向かうのであった。
一方、頂上決戦はいよいよ決着の時を迎える。だが、そこに現れたのは……
次回、「援軍襲来」 この次も、ぜってー見てくれよな!