第7話 リバイブ・ハンター
地道にですが日間ランキングも上がって来てます。これも読んで頂いてる皆様のおかげ!アザーッス!
…『“リバイブ・ハンター”が発現しました。』
…『リバイブ・ハンターの能力発動により、“スピード・スター”を習得しました。』
………光輝の頭の中に、突然声が聞こえた。
発現?発動?…意味が分からなかった。
どうせ、自分はこのまま死ぬのだ。だとすると、今の声は死ぬ前の幻聴だろうか?
(……あれ?なんで俺、まだ生きてるんだ?)
ふと、目を開ける。そこは、先程まで野良フィルズと戦っていた場所だった。念の為時計を確認すると、あれから数分は経過している様ではあるが…
「…生きて…るのか?」
上体を起こし、貫かれたハズの腹部を見る。衣服は破れているが、確かに貫かれたハズの腹部は無傷だった。
一瞬の思考停止…。…そして、沸き上がる歓喜。
「俺は…“ギフトに目覚めたのか”!?」
そうでなければ自分が生きている事に説明が付かない。更に先程聞こえた声。あれは、ギフトが発現した事を意味するのでは無いか?
「やった…俺は…目覚めたんだ!ギフトに!ウオオオオオオオォッ!!!」
嬉しさのあまり雄叫びを上げてしまったが、夜も遅い時間帯の上に路地裏だったので幸い周囲に人影は無かった。
頭の中に響いた声は、“リバイブ・ハンター”と言っていた。それが光輝のギフト能力。
リバイブ・ハンター。リバイブとは、額面通りなら“蘇る”と云う意味だ。
「なるほど…。リバイブって事は、一度死ななければ発動しないギフトだったって事か?…そりゃ今まで発現しなかった訳だよ!」
ギフトの審査は、15歳まで定期的に行われる。その内容は、主に鑑定系統のギフト能力者による鑑定で、その精度はほぼ99%を誇る。
それでもギフト発現を諦められない場合、あくまで本人が希望すればだが、あらゆる条件を被験者に疑似体験させ、どの条件でギフトが発現するかを試す方法を受ける事も出来るのだ。
疑似体験の種類は様々で、過去に確認されてるギフト発現のタイミングは全て試される為、光輝の様な最後まで発現しなかった場合だと100パターン以上の疑似体験を強いられる。正直、かなりの苦痛を伴う為、大抵の人間は追加審査は受けないのだが、光輝は全て体験した。だが、その疑似体験の中に、自分が死ぬ体験は無かった。
「やった…やったやったやったやったやった!これで、俺は夢を諦めずに済む!それ所か、死んでも蘇えるって…そんなの聞いた事も無い!まるでチート能力じゃ無いか!」
そしてもう一つ。
…リバイブ・ハンターの能力発動により、“スピード・スター”を習得したとの言葉を頭の中で聞いたのだ。
過去に、ギフトが複数発現した例は無い訳では無い。が、過去を遡っても多いと云う訳でも無く、複数発現者の多くは非常に貴重とされていたハズだ。もしかしたら自分がそのギフト複数持ちになったのかと、光輝の胸は更に高鳴った。
「リバイブ・ハンターの方は死ななければならないから相手がいないと試し様が無いよな。自殺は嫌だし。けど、スピード・スターの方は試す事が出来るな……よし!」
光輝は更に人気の無い、廃ビルの最上階にやって来た。ギフトが発現した喜びからだろうか?溢れ出る衝動を抑えられなかったのだ。
廃ビルは10階建てで、学生達の間では幽霊が出る等と噂されている心霊スポットだったが、直ぐにでもギフトを試したい光輝にとっては幽霊など関係無かった。
「スピード・スターか…。やってみるか!」
勢い良く走り出す。………だが、能力は発動しなかった。
「くそぅ。やっぱり発動訓練してないから感覚が掴めて無いのかな?」
本来ギフト能力者はギフト発現に伴い、国で定められたカリキュラムを受講する事が定められており、その中でギフトの使い方を学ぶ。…比呂から聞いた話しだとだが。
その後も、何度も能力を発動しようとするも、スピード・スターと呼ばれる程の速度を体験する事は出来なかった。
「ん~悔しいけど、今日は諦めて、後日にでもカリキュラム受けるしかないかな?」
そう、何も焦る事は無いのだ。明日、学校に行ってギフトが発現した事を報告し、正式にカリキュラムを受けさせてもらえば良いのだから。
心の中で諦めていた夢が蘇り、光輝は過去に無い程に昂っていた。
ギフトの複数持ち。これは間違いなく希少であり、更にはその能力も、死んでも蘇る能力と、戦闘面でも汎用性の高いであろう加速系能力なのだ。
比呂のギフト能力は高校進学と共に学校では秘蔵とされている。それは、彼の能力が将来国の為になる能力だと云う事を表しているのだが、光輝だけは比呂自ら能力の詳細を聞いていた。
『エリア・マスター』。
自分の視界にある物体なら全てを思いのままに動かす能力。訓練次第では範囲も広がり。動かせる物体の積量も増えるという。
文字通り、鍛え上げればその空間を制圧する支配者となれるのだ。
それを聞いた時の光輝の膨れ上がった嫉妬心は想像に容易い。
しかし、光輝のスピード・スターも、訓練次第では充分強力な能力に成長する可能性を秘めている。その上、今までの鍛えに鍛え上げて来た身体能力がそのままギフト能力に加算されると考えれば、光輝にとっては相性の良い能力と言えた。
明日…比呂にこの事を伝えたら、どんな顔をするだろう?驚くのは間違い無い。その上で、きっとあの鈍感野郎は今までの光輝の気も知らずに祝福してくれるだろう。アイツはそんな奴だと、光輝は考えて笑ってしまった。
つい先程までは嫉妬心が占めていた比呂への感情が、自分も能力が発現した余裕から寛容な物に変わっていたのだ。
!?
遠くで何かがぶつかる音が聞こえた。その後にも激しい音…おそらくは戦闘音が聞こえて来る。
「なんだ一体…」
光輝が窓から外を見ようとした瞬間、その窓から男が入って来た。10階であるにも関わらずだ。
「…クソッ、なんで国防軍がこんな所に…」
蹲って呟くその男は、至る所から出血をしている。そして、光輝はその男に見覚えがあった。
「とりあえず、なんとか逃げねーとな……ん?」
男が光輝の存在に気付いた。その表情が、みるみる内に驚愕に染まる。
「おまえ…確かに殺したハズなのに…生きてやがったのか?」
その男は、つい先程自分を殺した黒崎と云う男だった。
「…つーか、お前能力者だったのかよ?じゃなきゃ生きてる理由がねーもんな。傷も治ってるし…回復系の能力か?」
男がほくそ笑む。光輝は、まるで蛇に睨まれた蛙の様に動けなかった。一度とは云え、自分を殺した男が目の前にいるのだから。
…だが、光輝の中では不思議な感情が目を覚ましていた。目の前の男は、一度自分を殺した。憎い。殺られたから…殺り返す…と。
「はぁ…てめえと揉めたせいで警察はおろか国防軍にまで俺の所在がバレちまったんだぞ?今この場で八つ当たりしてーところだが、構ってる暇も無い」
黒崎が光輝から視線を逸らす。どうやら自分には興味が無いらしい。そんな安堵を覚えた瞬間、黒崎が光輝に向かって動き出した。
呼吸が止まる…。
男は移動しながら貫手を突き出して向かって来る。先程は全く見えなかった男の行動が、今はしっかり見えていた。
!?
「なっ!?」
油断させて一突きで光輝を仕留めようとした黒崎の貫手を、光輝は間一髪で避けてみせたのだ。
「てめぇ…やっぱり能力者じゃねーか!」
自分でも驚いてるのだ。スピード・スターの能力をまだ発現出来ていないと思われる。でも、今の動きに対応出来たと云う事は、能力は発動しているのかもしれない。
「…俺のスピードに対応出来るなんてな…。さては、てめぇもスペシャリストで、さっきはわざと俺に能力を発動させて、お仲間に俺の場所を伝えたって事なのか?ふざけやがって…」
そんな訳は無い。でも、事実が違っても、自分がスペシャリストだと誤解された事に、光輝は少しだけ喜びを感じた。ずっと憧れていたのだから。