第74話 激闘
「年寄りにしてはやるじゃないか! 鬼島大将!」
「はっ! まだまだ青二才の小僧には負けられんわい!」
殴り合う事数分。それでも、まだお互いにクリーンヒットは生まれない。
「ブルーさん……俺、もう国防軍辞めようかな……」
「奇遇だな? 俺も今、そう思ってた所だ……」
そして、漸くここで均衡が破れる。
最初に相手にダメージを与えたのは……
「ロンズデーライト・クローズライン!」
一瞬の隙を突き、鬼島にラリアットを炸裂させたのだ。
「ぐぬっ!?」
普通なら首ごと吹っ飛ばされてもおかしく無い威力だが、鬼島は耐えた。耐えてしまった。
桐生はラリアットをしたその腕を鬼島に絡みつけてバックに回ると……
「ヘルズプレス!」
鬼島の腕を背後から絡めての絞め技に移行した。
「ぐぬうううっ!!」
「さあ、このまま腕をへし折ってやろうか? それとも脛椎がバラバラになるのが先か? どっちだろうな?」
「こ、小癪なぁ~……こんなもの、屁でもないわい!!」
次の瞬間、鬼島から爆発的なオーラが放出される。その勢いで、桐生は技を解かれたのみならず、後方へと吹っ飛ばされた。
「くっ! なんてジジイだ……」
鬼島の筋骨隆々のその身体から、赤いオーラが漂っている。その姿こそ、かつてフェノムの始祖・アンノウンにトドメを刺した時の姿だった。
「これが鬼神拳”弐式”……。そして、今から見せるのが、あの時、始祖・アンノウンを倒した、鬼神拳”四式”じゃあーっ!!」
鬼島の真っ赤なオーラが爆発的に膨れ上がり、地面を蹴った箇所の土が大きく削れる程の蹴り出しで鬼島が飛び込む。
「連・拳!」
「グッ……なにっ!?」
その連・拳は、世界最硬と云われるロンズデーライトで強化された桐生のブロックに一撃でヒビを入れた。
「連・拳!連・拳!連・拳!連・拳!連・拳!連・拳!連・拳!連・拳!」
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」
途中からガードを両腕に変え、ひたすら耐える桐生。だが遂に…
「連・拳!!」
ガードを完全に弾き飛ばし、その拳は桐生の鳩尾を打ち抜いた!
衝撃で吹っ飛ばされた桐生は、激しく転倒する。戦闘に於いて、桐生が地面に背中を着けたのは、いつの頃だったか自分でも覚えて無い程だった。
「やった! やっぱ鬼島大将はスゲーッ!!」
「いや、まだだ!」
ブルーが冷静にそう言う様に、桐生は転倒こそしたものの、何事も無く立ち上がった。
「流石は英雄・鬼島。これだけの攻撃を受けたなら、あのアンノウンもたまったもんじゃなかっただろうな」
「ぬうぅ……やはりそうなるか」
鬼島は今、全身全霊で桐生の腕のガードを弾き飛ばした。だが、桐生の身体は全体がロンズデーライトの鎧で覆われている。
桐生の身体にダメージを与える為には、腕のガードを崩したのと同じ攻撃を、更に身体にも繰り返す必要があるのだ。
そして、先程破壊された腕の部分と、ヒビを入れられた鳩尾部分の鎧も既にロンズデーライトで再構築されていた。
「まったく……その硬さを何度でも再構築出来るなど……反則じゃろう?」
「英雄ともあろう御方が弱音か? 散々攻撃してくれたんだ、今度はこっちの攻撃も受け止めてくれるんだろう?」
次の瞬間、桐生の両腕にロンズデーライトの剣が出現した。最硬の斬れ味を誇る二刀流、これが本来の桐生の攻撃スタイル。今までの打撃系の攻撃とは違う、当たれば致命傷となりうる攻撃。つまり、今まで桐生は本気ではなかったとも言える。
「ふぅ……漸く貴様の本気を引き出せたか。ならば、ワシも出し惜しみは……せん!!」
鬼島の身体を、更に色濃い赤のオーラが包み込む。
「鬼神拳……”六式”じゃあーっ!!」
再び接近戦で対峙する両者。
しかし、二刀流での桐生の攻撃は一撃で鬼島の肌を斬り裂き、鬼神拳六式の連・拳は一撃で桐生のロンズデーライトに穴を空けた。
絶大な防御力を持った二人の身体にダメージを与える凶悪な攻撃が、幾度と無く交錯する。
桐生は攻撃を受ける度にロンズデーライトを再構築出来る事から、長期戦になれば桐生が優勢かと思われたが、鬼島の身体もオーラの効果で、斬り傷の血が直ぐに乾いて傷を塞いでいる。
ここに来て戦況は全くの互角。そして、頂上決戦は最終局面を迎える事となる……。
その模様は、全国で……いや、全世界で生中継されていた。
上空、一機のヘリが飛んでおり、二人の戦いをカメラが捉えていたのだ。
『ご覧下さい! というより、速すぎて私の目では捉えてきれません! 果たしてテレビをご覧の皆様にも、この光景が正確に伝わっているのでしょうか!?』
カメラの横では、リポーターの『古井館』が興奮気味に捲し立てている。
『国防軍の英雄・鬼島大将に対するは、日本最大のフィルズ組織黒夢の魔王・桐生と思われます!
我々が独自のルートから得た情報では、今日この場で、国防軍によるフィルズ組織白夢制圧作戦が遂行されるとの事だったのですが、まさかこの様な場面を目にする事になるとは、一体誰が予想したでありましょうか!?
鬼島と桐生、国防軍と黒夢、日本を代表するギフト能力者同士による、まさに頂上決戦と言っても過言ではないかもしれません!
さあ! そして今、光と闇のコントラストが描く戦いの輪舞曲は、クライマックスに到達しようとしております!』
アジトから出て来たジレン・ヴァンデッダ・仙崎は、激しい戦闘を繰り広げる二人を写すカメラに気が付いた。
「何故ヘリが……? おい、どういう事なんだ、仙崎。今回の任務、一応は極秘だったんじゃ無いのか?」
出口に向かう最中に意識を取り戻し、仕方なくヴァンデッダに肩を借りている仙崎に問い掛ける。
「お前らに情報が洩れてた時点で極秘も何も無いんだがな。少なくとも俺は聞いていない」
「……そうか」
それ以降、ジレンは何か考え事をする様に黙ってしまった。
当の二人は、テレビカメラの存在に気付いているのかいないのか?どっちでも良いのかもしれない。
目の前の敵にのみ集中し、命綱を渡っている様な紙一重の攻防の中では、どんな些細な事でも、余計な事に神経を向けている暇は無いのだから。
果たして均衡が崩れるのはいつか? どうやって? どちらが勝つのか?
その答えは、もうすぐ出ようとしていた……。
次回、思わぬ伏兵に殺されてしまったブライト。はたしてリバイブは発動するのか?