第73話 頂上決戦
――時間を少しだけ遡り…
白夢のアジト入口前では、英雄・鬼島平吉と、魔王・桐生辰一郎が、これから始まる戦いに心を踊らせるかの如く、笑みを浮かべながら睨み合っていた。
「こうしてお前と向かい合うのも随分と久しいのう」
「最後にアンタと手を合わせたのは…もう20年も前か…」
「くっくっくっ、あの時はまさかお前と、敵として向かい合う事になるとは…予想もしとらんかった」
「そうか?残念だが、あの時既に俺はアンタといずれこうなる事を予測していたがな」
「そうかそうか…奇遇じゃな。ワシも敵としてではなくであれば、お主と真剣勝負をしたくて堪らなかったのじゃ」
「そうか。じゃあ…始めるか…」
「そうじゃな…。もう…待ちきれんからなぁ!!」
次の瞬間にはお互いの拳がぶつかり合っていた。
衝撃で辺りに突風が吹く。これを見ていたネイチャー・ストレンジャーのブルーと、白虎隊の相良は、この戦いの行方がどうなるのか、全く予想が付かなかった。
「国防軍として、鬼島大将の勝利を願う。でも、相手はあの桐生だ。どちらが勝ってもおかしくは無い…」
「ブルーさん、俺、あの桐生って奴、黒夢のボスだって事しか知らないんですけど、鬼島大将とまともに戦える人間なんているんですか?」
「若い連中は知らないだろうが、桐生は元国防軍。しかも、鬼島大将とは師弟関係にあり、人類がフェノムの始祖を倒したメンバーの一人だ」
「フェノムの始祖って…単体でも50年前、当時軍事力トップクラスだったインド・フランスを壊滅させたっていう?」
「そうだ。他に、その始祖の分体が7体。人間側もギフトを発現し、最終決戦に向かったのは全世界から集められた精鋭100人。生き残ったのは5人だけと歴史書などには記述されてるが、実際は6人だったんだ。それがあの桐生元国防軍空軍少将だ。それに、桐生は始祖の分体をタイマンで倒したらしい」
「一国を滅ぼす様なフェノムを、分体とは云え一人で?そんな、なんでそんな凄い人が歴史から抹消されたんですか?なんでフィルズになんかなったんですか?」
「俺に分かる道理は無い。ただ…この二人こそが現在世界でもトップクラスの強者であり、この戦いは国防軍とフィルズの頂上決戦と言っても過言では無い。勝った方が…いや、負けた方が組織として致命的なダメージを負うかもしれないだろうな…」
激しく拳を打ち合う二人。お互いが、どちらの拳が強いのか?まるで競いあってるかの様に。
「全く…。研鑽のみで俺のロンズデーライトで強化した拳と打ち合うとは。相変わらず化物だな」
「カッカッカッ!大層な鎧を身に纏っても、その程度ではワシには勝てん」
ここで二人は間合いをとる。
「さて、少しだけ、気を出そうかの…」
圧倒的オーラが鬼島から溢れ出す。それは、安全の為に100メートル程離れたら場所にいたブルーと相良が竦んでしまう程。
「連・拳!」
鬼島の連・拳は、一発の正拳なのに、その衝撃が同時に10回発生する技だ。
そして、これを桐生は避けた。ロンズデーライトで防御するのでは無く、避けたのだ。
「はっ!逃げるとは臆病な!」
その後も連・拳を繰り出すが、桐生はその全てをブロックではなく回避する。
「カーカッカッカ!固そうなその鎧は見せ掛けか!?男なら堂々と受け止めてみよ!」
「俺はアンタみたいな戦闘狂じゃ無いんでね。無駄なダメージは1ミリ足りとも受けたくないんだ。じゃあ、次は俺の番だ!」
桐生は掌にロンズデーライトの塊を造り出し、それを思いっきり鬼島に投擲した。
遠距離から時速300キロを超えるスピードで放たれた塊を、鬼島は辛うじて避けた。
「ロンズデーライトじゃったか?ただ造り出した塊を投げるだけで戦車さえ破壊する程の威力を誇る…。熟練すれば遠近両方に殺人的な攻撃力を有し、またその防御力は世界最硬クラス…。何とも反則なギフトじゃな」
「どうした?怖じ気づいたか?生憎、投げられる塊はまだまだ沢山造れるんだが?」
「小癪な奴じゃのう…相変わらず!波あっ!!」
巨大な叫び声と共に、鬼島を真っ白なオーラが包み込み、桐生の放った塊は鬼島の身体を避けていく。
今鬼島が使ったのは…いや、先程から鬼島はギフトの類いを一切使っていない。
“インベストゲーター”。ギフトランクS。鍛えれば鍛える程、努力すればする程、成長を繰り返す。つまり、成長に限界が無くなる能力だ。この能力は、日々鍛練を惜しまない鬼島にとって最も適した能力と言えた。
その鍛練の結果、鬼島は屈強な身体を造り上げ、体内のオーラの使い方をマスターし、一撃必殺の拳に研きをかけたのだ。
「チッ、その能力、アンタ以外が目覚めても宝の持ち腐れだな…。よく国はSランクに認定したもんだ」
「ワシもそう思うわい。本来ならA-がええ所なんじゃろうが、英雄の能力じゃからのぅ」
「フン、自分でそれを言うか」
「フオッフオッフオッ、ワシは正直者なんでの!…破ぁっ!」
鬼島の手から練り上げたオーラで作られた気功弾が発射される。鬼島もまた、研鑽を積み上げる事で遠近両方で凄まじい攻撃力と、鋼の肉体で驚異的防御力を誇るオールラウンダーなのだ。
「フン!」
この気功弾を、桐生は片手で弾き飛ばす。
「ウオオオオオオオオオッ!!」
「キエエエエエエエエエィ!!」
再び始まる肉弾戦。今度は桐生も鬼島の攻撃をブロックで防ぎ、桐生の攻撃を鬼島もブロックで防ぐ。
お互いの攻撃は、一発で地面に10メートルの穴を空けるであろう程の威力。
かなりの実力者であるブルーをして、最早同じ人間とは思えない、化物と化物の戦いだった。
「………ブルーさん…人間って、あそこまで強くなれるんですか?」
「……いや、あの二人は特別だろう。だからフェノムを撃退出来たんだから…」
殺人的な矛と最硬の盾を持つ男と、最強の矛と最高の盾を持つ男達の戦い。正に頂上決戦と呼ぶに相応しい戦いが、ここに繰り広げられるのだった。
次回、激闘はまだまだ続くぞ!