第70話 エリート達の意地
イーヴィルは、ブライトと比呂の戦闘を感慨深げに眺めていた…。
(驚いたな…あの比呂が、互角とまでは言えないけど、あのブライトと渡り合ってる…。つーか、なんであの速さに反応できたんだ?もしかして…比呂も覚醒したってーのか?)
比呂は、イーヴィル=崇彦の中では、決して評価が高い訳では無かった。
普段から黒夢のナンバーズと行動を共にし、学校でも、正体を隠していたが水谷風香を見ていた崇彦からすれば、比呂など大した実力も無いくせにエリート顔をし、誰よりも光輝に憧れているにも関わらずコソコソと裏で下らない事を企んでいる様な、そんな小物でしか無いと思っていたのだ。
(…一体何があったんだ?なんでこんな短期間に、あんなに活き活きした顔になってるんだ?…あとで光輝に聞かないとな)
その後も、ブライトのフラッシュに時間支配で対抗する比呂。だが、比呂には決定的な攻撃手段が無かった。時間支配だけでは勝てない事は火を見るより明らか。
(…クッ、時間支配だけでも身体中がバキバキ云う程負担がかかる!でも、この状態で更にもう一手、ブライトに届きうる攻撃手段が欲しい!)
比呂は今、時間さえも支配しているのだ。本人が冷静になってイメージ出来れば、ブライトに届きうる攻撃手段は必ず見つかるだろう。だが、残念ながらそんな余裕はブライトが与えてくれないのだ。
カウンターを喰らい、覚醒した自分の動きに対応する比呂に対して、ブライトの中に比呂に対する油断は既に無かった。
「オラッ!」
「オラッ!」
「オラッ!」
攻撃しては離れのヒットアンドアウェイは、比呂に考える余地を与えない。
「どうしたヒーロー?どうやって俺の動きに対応してるかは分からないが、このままじゃ俺には勝てないぞ?」
ブライトは、ワールド・マスターによって比呂が時間を支配している事にまだ気付いていない。
(くっそ~!ここまで来て、あと一手が無いなんて!折角…折角光輝にも自信を以って誇れる自分になろうと決心したのに!)
比呂から見て、ブライトは余裕に見えていた。実際は違うのだが。
余裕と油断はワンセットだと、過去の自分を振り返る。でも、比呂から見ればブライトは油断しても許される程に絶対的な強さを誇っていた。
(舐められてる…。以前の俺なら、プライドを傷つけられたと腹を立てて冷静さを見失っていたんだろうが…。…良いじゃないか、相手は油断してるんだ、むしろチャンスなんだ!)
比呂が右腕に神経を集中させる…。ギフト能力者は、誰でもある程度の身体能力の強化は可能だ。だから、かつて無いほどに、右腕のみを強化させる…。
(さっきは折角カウンターを合わせる事が出来たのに、ブライトの堅い身体には殆んど効かなかった。だから、一撃で良い。その後は、この右腕が粉々になっても…。これでブライトを倒せるとは思わないけど、ただ、一発だけでも、ブライトにダメージを与えられる攻撃を当ててやらなきゃ、あの世で光輝に何一つも報告できない!)
死すら覚悟した比呂が何かを仕掛けようとしている。それに気付いたブライトは、敢えて立ち止まった。比呂の全てを受け切って、完全勝利を目論んでいるのだ。
「その目…ヒーローが最後の最後で奇跡を起こす時に見せる目だ…。…やってみろよ。喰らわせてみろよ!お前の捨て身の攻撃を、何事も無かったかの如く凌いで、俺の中の未練に決着をつけてやる!」
イーヴィルはブライトの様子を見て、若干の違和感を覚えた。
(アイツ…別に今日はリバイブ・ハンターが発動した訳じゃないよな?なんであんなにテンションが高いんだ?まあ…アイツの中で甘い考えが消えた結果だとしたら、良い変化なのかもしれないが…)
リバイブ・ハンター発動後は、テンションが高くなる=殺意が強くなると聞いてはいたが、普段の光輝は無駄な殺しを否定する様な男なのだ。そう考えれば、今のブライトの雰囲気は明らかにおかしいと感じた。
「行くぞ!ブライト……え?」
比呂が、今まさに最後の攻撃を仕掛けようとしたその時、比呂の隣に、おもむろに風香が立っていた…。
「ちょっと…隊長?どーしたんですか?」
比呂は、風香が白虎隊の隊長である事を知らない。隊長が水谷と云う姓であるにも関わらずだ。それだけ、ここ最近の比呂には余裕が無かったとも言える。
そしてこれには、良い所を邪魔されたブライトもイラついてしまった。
「おい小娘…もうお前じゃ俺達の間には入ってこれねーよ。黙ってビビっとけよ」
今の言葉は、ブライトからの比呂への最大の賛辞とも言える。だが、つい先程までその評価は逆だったのだ。
「……悔しいけど、貴方の力を借りるしかないみたいね…」
「隊長、何か策が?」
「ええ…私が…」
何やら作戦を立てている二人を、ブライトは悠然と待っていた。
「フン、敵の前で作戦会議とは悠長な事だな、主人公ども。俺がおとなしく待ってやるとでも思ったか?」
「……待つだろう?お前は。それだけの力があるんだから」
比呂の挑発する様な言葉に、ブライトは不適な笑みを浮かべる。
「分かりやすい挑発を…」
準備が出来たのだろうか。風香が眼に力を宿してブライトを見た。
「余裕ぶれるのはここまでよ…ブライト。お前等フィルズさえいなければ…あの日、お前等黒夢がテロなんか起こさなければ……彼は死ななかった!!!』
風香の掌から、ハリケーンミキサーを凌ぐ凶悪な嵐が放たれる。ワールド・オブ・ウインダムの究極技・ハイパー・サイクロンだ。
(ん?……彼?死ななかった?……黒夢のテロってあの時の事じゃないよな?だって俺、あんな小娘と面識無いし…って、あっ!)
考え事をしている内に、サイクロンが目前に迫っていた。だが、今のブライトにとって、0.01秒もいらずにその場から回避するのは容易だ。
フラッシュを発動。サイクロンは広範囲の技で、確実な逃げ道は後方しかない。取り敢えずジャンプして後方に回避しようとしたのだが…動き出したブライトを、何かが遮った。
比呂がブライトの頭上に、天井を壊して落下させたのだ。
(また横槍かよ!?)
「相変わらず姑息なっ……お前やっぱりヒーロー失格だ…ぐおわあああああああっ!」
ブライトがサイクロンに呑み込まれる!
「…失格で結構!今は、お前を倒せればそれでいい!さあ、今がチャンスだ!イエローさん!皆…ありったけの攻撃を全力でブライトに!!」
サイクロンに呑み込まれたブライトは、暴風の中で身体を持っていかれてグルグルと回らされている。それだけでも本来なら致命的な攻撃なのだが…
「お、おう!サンダーボルトォッ!!」
イエローが強烈な電流を連続で放つ。
「隊長!もう一発…特大の攻撃を!!」
「倒す!!私は、私の様な思いをする人を増やさない為にも!!」
そして、ウォーター・マスターで創り出した特大の氷柱が出現し、ブライトに直撃した!
「よし…仕上げのワールド・マスターッ!!」
更に、比呂は氷柱を支配して、直撃して一旦は真っ二つに砕けた氷柱を、ブライトを包み込む様に操作してみせた!
ブライトは氷柱に閉じ込められ、苦悶の表情のまま固まった…。
「やったか……ぶふっ!」
能力の使いすぎで限界が来たのか、比呂が鼻血を吹き出す。
「大丈夫か?真田!おい、ホワイト、回復してくれ!」
イエローが心配して比呂の下へ駆け寄る。
「…す、スミマセン、無理し過ぎました…」
「いやいや、正直、お前スゲーよ。この間見た時はただの口だけ小僧かと思ったけど、お前とんでもねーよ」
誉められた。たったそれだけの事だが、比呂はなんだか嬉しかった。
戦闘中も、あれだけ強大なブライトが、自分を認めている発言をしていた。今まで光輝に対する劣等感を抱きながら生きて来たが、もうそんな必要は無いのだと、心からホッとしていた。
(これで…少しは光輝に誇れる自分になれたかな…?)
「流石にこんだけ集中放火を浴びたら、この悪魔も死んだだろ?」
イエローが氷柱を見ながら感心している。比呂も自分が操作した氷柱を見る。その中には、ブライトが苦悶の表情で氷漬けされていた。
(只でさえ、あの氷柱の硬度は高かった。それを一度分解し、ブライトを閉じ込め、更に圧力を加えて氷柱に閉じ込めたんだ…。上手く行って良かった…)
イエローが氷柱に近付く。
「うわっ、堅っ!こんなん絶対に壊せないだろ?」
「ええ、だと思い………イエローさん逃げて!!」
「え?何…」
氷柱が激しく爆発する様に砕け散った。
砕け散った氷は、物凄いスピードで爆散した。比呂は辛うじてワールド・マスターを発動し、自分に向かってきた氷の軌道を変えたが、風香は全てを避けきる事が出来ず、一つの塊がヘルメットを直撃し、目元が露わになってしまった。
「クッ…まさかあそこから脱出するとは……!?ああ…イエローさん……」
比呂は驚き、顔を上げる。そこにはイエローを背後から手刀で貫き、そのまま持ち上げた悪魔がいた…。
「マ…マリー…ン……ごめ…ん…」
イエローは力なく項垂れ……絶命した。
「クックック…無駄だ!貴様らの攻撃など、この俺には蚊程も効かんわ!」
「こ…虎次郎…?」
比呂を回復していたホワイトの手が止まる…。最愛の男が、目の前で胸を貫かれたのだから。
「あ…悪魔め…」
比呂も、万策尽きて項垂れた。最早自分には僅かな体力すら残っていなかったから。
風香もまた、致命傷では無かったが氷が直撃したダメージと、力を使い果たし事で地面にへたり込んだ。
「これでも倒せないの…?なんなの、あの悪魔は…」
宣言通り、全ての攻撃を受け切って、悠然と立ち尽くす漆黒の悪魔ブライト。だが本音は…
(…フゥ、今のは少し言い過ぎた。正直、死ぬかと思ったぞ…)
今回から実験的に次回予告の一言を入れて見ようと思います。不評なら止めますけどね。
次回、遂に正体が??