第66話 それぞれの戦い
※忘れている方もいらっしゃると思うので念のため。第63話の段階で、時間を20分程遡ってました。
白夢アジト最奥―白夢アジト最奥ボス部屋
「…静かね」
「ああ」
「本当に来るのかしら?」
「来るだろうな。あの人が俺と戦いたいのなら、このタイミングを置いてほかには無い」
「そう…。ところで、あの子の方は大丈夫かしら?…」
「ヒミコの未来予知の確率は98%だ。アイツなら…きっと新たな力を手に入れて、俺達の目的達成の為の力になってくれるさ」
………………………
桐生の持っている無線機に、ラインから連絡が入る。
「来た…わね…」
「ああ。じゃあ…ちょっと行って来る…」
「御武運を…」
――白虎隊
白虎隊が弦慈に連れられてやって来た部屋の奥には、スラリとした美しい女性が立っていた。
目に入るその艶やかな髪は長く、地面に着きそうな程。そして、その足元には仲間である白虎隊隊員が二人倒れている。しかし、その二人はどこか恍惚の表情を浮かべていた。
白虎隊の隊員16名が全員部屋に入った瞬間、部屋の扉は閉められた。
「お前が仲間をやったのか?」
斑目は、女性の美しさに目を奪われていた。倒れている仲間の安否が気にならない程に。
「そうよ。ちょっとだけ気持ちいい事してあげたら、直ぐに昇天しちゃった…」
胸元が大きく開けられたボディースーツ。妖艶な笑みを浮かべながら、眼鏡をクイッと上げるその仕草に、白虎隊の隊員は思わず息を飲んだ。
「私は黒夢ナンバーズのヴァンデッダ。貴方達も、気持ちいい事…ス・ル?」
――仙崎中将
仙崎が建物内に入ると、激しい戦闘音が聞こえて来た。その音が世音のギフト能力だとも知らずに、音のする方へと進むと、ひとつの部屋に辿り着く。
部屋の中には…
「お前は…黒夢のナンバー2、溶炎のジレン!?」
「俺を知ってるとは……ん?お前、仙崎中将か?まさか、今回の作戦の司令塔本人がやって来るとはな。意外だったぞ」
仙崎は、今回黒夢が関わっている確率は高いであろうとは考えていたが、まさかナンバーズのメンバーで、しかもナンバー2のジレンがいるとまでは思っていなかった。
「何故黒夢のナンバー2が……。確かに、こちらの情報は洩れていたから、白夢と友好関係にある黒夢が助太刀する事はおかしくは無いが…」
「なら、俺がこの場にいるのは不思議な事じゃ無いだろう?さて、早速死合うか?それとも、もう少し会話を楽しみたいか?」
「……いや、敵と話す事など何もない。他の奴等も気になるし、早速…死合おう」
仙崎が鞘から刀を抜く。その刀は、まるで物干し竿の如く長かった。
「ふむ…どうやら俺はアタリだったみてえだな…。じゃあ、行くぞ!!」
――虎治郎とマリーン
イエローとホワイトは、互いに手を強く握りながら、アジト内を進んだ。途中、分かれ道があったが、二人仲良く同じ道を進み、部屋へと辿り着いた。
そこには…
「よく来たな……って、何?なんでお前ら、手なんか繋いでるの?」
フードを被った崇彦=イーヴィルが待ち構えていた。
「チッ、ブライトじゃ無いのか…」
「そうみたいね。じゃあ、とっとと倒してブライトを見つけましょう」
そして見つめ合う二人。
イーヴィルをして、なんで敵の前で見つめ合ってんの?と呆然としてしまう程、二人は二人だけの世界を構築していた…。
「なんでこんなラブラブバカップルが俺ん所来るんだよ~!」
――白夢アジト前
落ち込むブルーと、それを励ます相良。そんなおかしな展開の中、二人の人物は、突然現れたのだ…。
一筋の光が天から降り注ぐ。そして、その光に包まれて、二人は現れた。
一人は、白虎隊隊長・水谷風香。
そしてもう一人は…
「ワシが!国防軍空軍大将!鬼島平吉であーーーーる!!!!!」
鼓膜が破れる様な爆音で叫んだのは、国防軍空軍大将・鬼島平吉。英雄・鬼島だった。
「ふぃ~、まったく。瞬間転移はこれで三度目だったが、慣れんもんじゃのう…」
鬼島の伝説は、枚挙にいとまがない。
彼は日本で最初のギフト発現者である。そして、その強力無比な能力で、幾多のフェノムを駆逐し、人類の反撃の旗手として戦い、世界中でその名を知らぬ者がいない程のスペシャリストとなったのだ。
やれ、体長50メートルのゴリラを単独で屠った。
やれ、一国を崩壊させたドラゴンを単独で屠った。
やれ、フェノムの軍勢一万を単独で屠った…等、常人では考えられない様な伝説を数多く残している、正に日本の英雄なのだ。
そんな鬼島が、何故この場所に現れたのか?それは……
空から、漆黒の塊が降りて来た。それは、着地と共に地面を陥没させる。
「…よく来たな、英雄・鬼島」
「ホッホッホッ、お前さんに会いたくてなぁ…魔王・桐生」
現れたのは、黒夢の魔王・桐生辰一郎。
桐生の伝説もまた、枚挙にいとまがない。
ギフト発現時から、その実力を高く評価され、国防軍の一員として幾多の作戦でフェノムを討伐して来た。
人類によるフェノムからの主要都市の奪還作戦では、数多くの武功を挙げ、鬼島と並んで英雄と呼ばれる程だったが、戦闘中はロンズデーライトの兜で顔が見えない上に、あまり表に出ていなかった為、一般的な知名度は皆無に等しい。
その上、いつの頃からか桐生は国防軍を抜け、フィルズを集めて組織を作り、今では日本最大最強のフィルズ組織・黒夢の頂点に君臨している為、国防軍だった頃の武功は全て隠蔽されたのだ。
それでも、知っている人の口を全て塞げる訳は無く…
やれ、フェノムの始祖とも云うべき圧倒的存在だった“アンノウン”にとどめを刺した。
やれ、国防軍の猛者100人を単独で撃破した。
やれ、組織を裏切った近くて遠かった隣国を単独で焦土と化した…等、常人では考えられない様な伝説を数多く残している、正に魔王なのだ。
睨み合う二人。だが、その表情はお互い微笑みを浮かべている。まるで、強者との再会と、これから始まるであろう過去最大級の能力者同士の戦いに胸を踊らせてるかの様に。
とんでもない戦いが今から繰り広げられる…。行き場に困ったブルーと相良は、ただ立ち竦むのみ。
「遅れてごめんなさい、相良上等兵。…他の皆は?」
「え?あ…ハイ!他の隊員は皆、斑目少尉と共にアジトへ進入しました!」
白虎隊の隊長でもある風香は、相良とブルーから状況を詳しく聞いた。
そして…
「私も中に入るわ。ブルーさんと相良上等兵は、このまま待機してて」
「い、いや、君が強いのは分かる。僕よりも階級が上な事も。でも、レディを危険な目に合わせるのは僕のポリシーに反する…」
「貴方は、私よりも上からの命令を受けてるのでしょう?国防軍は、上からの命令は絶対です。…気持ちは分かりますが、待機していて下さい…」
そう言われてしまうと逆らえないブルーは、それでも一言だけ、風香に伝えたい事があった。
「周防光輝の件…僕達の浅はかな行動のせいで、彼を死なせてしまった事…君を深く悲しませてしまった事を…どうか許して欲しい」
ブルーはあの日、光輝を亡くして脱け殻の様になってしまった風香を見ていた。そしてそれは、相良も同じ。
風香は立ち止まり、そして振り向く。
「大丈夫。私は…彼の為にも、戦う決意を持ってここに来たのだから…」
笑顔でそう言った風香だったが、その奥にはまだ割り切れて無い感情が眠っている事を、ブルーは悟った。
すると、鬼島が風香に声を掛けた。
「お前は大丈夫じゃ!風香!なんせ、このワシの孫なんじゃからな!」
「フフフ…そうね。私は鬼島平吉の孫だもの。いつまでもクヨクヨしてられない…」
ここに来る前、風香は鬼島に説得されたのだ。強くあれ…と。
光輝の様な犠牲者はもう二度と出さない。そして、愛する人を失って悲しむ自分の様な人を無くしたい。その一心で、風香は戦場へと赴いたのだ。
そして…秘めたる想いを胸に、水谷風香もまた、自分の戦いに向かったのであった。
いきなり頂上決戦!?他の人達霞むんじゃね!?
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