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第6話 バッド・エンド

※一部の描写に分かり辛い箇所があるとご指摘頂いた為、少しだけ修正しました。

※黒崎との会話を若干修正しました。尚、内容には一切影響はございません。

 ―PM10:00



「なんだよ?あれだけ粋がってたクセに、弱え奴等だな。つまんねえ…」


 夜が更け、静かになってきた街の路地裏で、光輝は自分の足元で踞っている、明らかに柄の悪そうな4人組の若者達に呟いた。


 その顔に傷一つ付けず4人組を一蹴した光輝は、未だに起き上がれずにいる4人組に吐き捨てるような言葉を吐いて表通りに出た。



 服には返り血が着いている。それに気付いた通行人が光輝を怪訝な眼で見ている。


「ねえ…何あの人?」


「え?血?ヤバくない?あの人!」


「警察か国防軍呼んだ方が良いんじゃない?」


 そんな囁きを無視して、光輝は足早にその場を立ち去った。



 冷たい風が身体を吹き抜ける。


 ギフトが発現しても、根本の強さが伴ってなければヒーローにはなれないと、光輝はあらゆる格闘技を習っていた。だからこそ、その力を私的な喧嘩に使った事など今まで一度も無かった。


 だが、今はその磨きあげた力が、ストリートでの憂さ晴らしの道具に成り下がってしまっていた…。



 自分が無能力者だと確定してから1年が経ち、自分でも夢を諦めようとはしていた。だが先程の比呂の告白を聞いた時、実は自分は夢を諦めきれてなどいなかった事に気付かされた。そして今度こそ完全に現実を突き付けられたのだ。


 世の中には選ばれし者とそうでない者の二種類しかいない。


 比呂は完全に選ばれし者で、自分は選ばれ無かったのだ。なら、今までの自分の人生は何だったのか?強くなる為に費やした時間は全くの無駄だったのか?強く、強く憧れた、国民にとって正義の象徴である国防軍に入れないのなら…そんな力なら、出し惜しみする必要は無い。むしろ、無かった方が良かったのかもしれない。


 そう考えた光輝は、ストリートファイトを繰り返し、今日だけで既に10人以上を喧嘩でぶっ倒していた。



「つまんねえな…。半端に強くたって、何にもなんねえじゃん」


 今、光輝は己の無力さを痛感している。どんなに鍛えても、ギフト能力者には絶対に勝てないのだから。


 ギフト能力者は、能力に依る所もあるが、概ね戦闘系の能力者はその固有能力だけでなく、鍛え上げれば身体能力も普通の人間の限界を優に越える事が出来る。それは、年齢や性別をも超越するのだ。どんなに鍛えても、持たざる者は持っている者には勝てないのだ。




 その時、光輝は背後から駆け寄る足音を聞き、振り向いた。


「コイツだ!コイツが俺達を()()()んだ!」


 目の前には、数時間前に倒したチンピラ達がいた。彼等も、光輝の八つ当たりの被害者ではあったが、この件に関してはチンピラ達の方から光輝に絡んで来たのだった。

 さっきは土下座して謝ってたクセに…と思いながらも、光輝の視線はチンピラ達の後ろに控えている男に釘付けになる。



「ふむ…まだ坊主(ガキ)じゃねーか。念の為に聞くけど、お前、能力者じゃねーよな?」


 男は身長190cmはあるだろうか?無駄な筋肉が一切無い引き締まった身体をタイトな真っ黒なシャツとズボンが強調している。


 オールバックの髪に鋭い眼光。間違いなく、強いであろう事が想像出来た。



「…こんな坊主に()()()()()()とは、情けねぇなぁアンタ達も。で、コイツをボコればいいのか?」


「ハイ!お願いします!」


「チッ…しょうがねーなぁ。んじゃあ軽く…」


 男が言い切る前に、光輝は飛び掛かって顔面に飛び膝を叩き込んだ。


 この男は自分が目の前にいる数時間前にボコボコにしたチンピラ達に頼まれ、自分を探していたんだろう。なら、やられる前にやる。でなければ、自分は勝てないかもしれないと察したからだ。



 手応えは充分。これを喰らって立ち上がれる()()()()()はいないだろう。


「…へぇ、やるねえ。これじゃあ街のゴロツキ程度じゃ叶わない訳だ。でも、やっぱり…どうやら能力者じゃあ無いみてーだな…」


 信じられない事に、男は大したダメージもなく立ち上がった。



 光輝の頭の中で最悪の状況が過った。


「あんたまさか…能力者か?」


 男が能力者だとすれば…どう考えてもスペシャリストには見えない。となると考えられるのは…


「如何にも。俺は能力者…言いたかねーが“野良フィルズ”ってやつだ。訳あってコイツらの組にはお世話になっててな。たまにこうして厄介事を手伝ったりしてるのさ」


 野良フィルズ…。国から犯罪者扱いされる能力者。スペシャリストとは正反対の存在。実際その大半がギフト能力を何らかの悪事に利用しているらしい。



「…と云う訳だ。見た所お前は無能力者だろ?今の一発に免じて、おとなしくしてれば命だけは助けてやるから、黙ってやられろよ」


 無能力者。そう呼ばれた事が、光輝の中では何よりも屈辱的だった。


 とっくに諦めてたのに。自分は無能力者だと、そう思い込もうとしていたのに…。



「うるせえ…俺は…ヒーローになるんだ!!」


 光輝の頭の中で、何かがキレた。…次の瞬間には、駆け出して男の顔面目掛けてパンチを放つ。…が、アッサリと片手で拳を掴まれてしまった。


「…惜しいな。もしギフトが発現してれば、お前は即強くなれるベースを持ってたろうに…」


 そして、腹に衝撃を受けると共に、蹲って嘔吐させられた。鳩尾にパンチを入れられたのだ。



「がはっ…ゴホッゴホッ!」


(クソッ…たったの一発で…!?)


「さて、じゃあ腕の一本でも折らせて貰うか。坊主…」


 ボキィっという音と共に左腕に激痛が走る。


「うぐあああああっ!!!」


「良い表情だ。これだからたまんないねぇ、暴力ってのは」


 情けなかった。無能力者を相手に無双して粋がっておいて、いざ相手が能力者となると途端にこの様だと、自分が無能力者だと知らしめられている事が。



「ま、こんなもんで許してやるか。あんまり派手に暴れて警察に目を付けられても困るしな。おい坊主、これに懲りたらオイタは程々にな」


 男達が去って行く…。



 許せなかった。自分が無能力者だと云う事も、男達が去って行き、ホッとしている自分がいる事にも…。



「…までよ!!俺は負けねぇ!お前みたいな…()()()()()()()()()()()()になんてよぉ!!」


 何故立ち上がったのか?自分でも分かっていない。それでも、ここで引いてしまったら、この先一生負け犬の人生を送ってしまうだろうと感じたのだ。


 無能力者の時点で自分はもう、とっくに負け犬だと理解していたのに…。



「…出来損ないだと?…俺ゃあこれでも元・軍人なんだがなぁ。…ちょっと優しくしてりゃあつけあがりやがって」


 元・軍人。つまり、この男はかつて国防軍の兵士だったのだ。


 自分が憧れた正義の象徴である国防軍には、ギフト能力さえあればこんな輩でも入れるのかと、光輝は深い憤りを感じた。



 再び男の拳が光輝に向かって来たが、光輝はそれをヘッドスリップでかわし、カウンターで鼻を打ち抜いた。男はその衝撃に()()()()退()()()尻餅をつく。


「どうだ、この出来損ないが!テメーなんざ、国防軍にいる資格は無い!だから野良フィルズなんかに落ちぶれたんだろう!」



 途端に、男の表情が変わった…。


「…能力者でも無いのに…落ちぶれだ?俺は自分から辞めたんだよ!あんな組織は!

 …良いだろう。ならお前が言う出来損ないと、ギフトも無い()()()()()()()()の差を見せてやる…」


 男との距離は、男が後退した事で()()()()()程あった。だが、男が立ち上がったと思った瞬間、いつの間にか男は光輝の目の前にいて、その手は光輝の腹部を貫いていた…。



「ぐふっ……」



 口から血反吐を吐き、男の手が引き抜かれると腹からも血が吹き出し、光輝はうつ伏せに倒れた。


 誰が見ても分かる。これは致命傷だと。



「ちょっ…“黒崎”さん!殺しはマズイっすよ!」


「…ああ、しまった…。ついやり過ぎた。とっととズラかろう」


 本当に咄嗟にやり過ぎてしまったのだろう。黒崎と呼ばれた男は、困った様に表情を歪ませる。そして、今度こそ男達は走り去って行った。



 ああ、俺の人生って何だったんだろうな…と、薄れ行く意識の中で光輝は嘆いていた。


 自分は死ぬのか?ギフト能力にも目覚めず、こんな所で死ぬ…。そう考えると、自分とは正反対の眩いばかりの未来が待っている比呂に憎悪を覚えた。



 死にたくない…。それでも、俺はまだ死にたくない…。


 心の中でそう呟きながら、光輝は瞼を閉じたのだった…。





 …『“リバイブ・ハンター”が発現しました。』


 …『リバイブ・ハンターの能力発動により、“スピード・スター”を習得しました。』

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― 新着の感想 ―
人間味(あじ)溢れる
[良い点] おぉ…中身の無いプライドだけが肥大化した人間かと思ってましたが、主人公はちゃんと努力もしてきたタイプだったのか…
[一言] いきなりヒーローになるんだは頭おかしくて草
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