第64話 仙崎中将の選択
白虎隊・相良の報告を聞き、仙崎は頭を抱えた。
「……馬鹿な、確実に罠じゃないか!?斑目はそんな事も分からない程…」
実際は、分かっていながらも出世の為に誘いに乗ったのだが、それを仙崎が知れば尚更斑目の評価は下がっていただろう。
「いつ如何なる時も正常な判断が出来なければ隊長は勤まらん。クソッ…だから白虎隊はまだ若いと、この作戦に参加させるのは反対だったんだ!」
その言葉に、白虎隊の相良は不服そうな表情を浮かべるが、何も言えなかった。
相手は中将の仙崎だ。本来なら口を聞く事すら出来ない雲の上の存在なのだ。
ここで仙崎は最後の選択を迫られる。
自分達も突入するか?
応援を待つか?
どちらにせよ、既に当初の作戦は完全に瓦解している。上官である権田からの叱責は免れないだろう。
「ネイチャー・ブルー。君の意見を聞かせてくれ」
仙崎は、実直で真面目な軍人だ。出世欲が無い訳では無いが、それが全てとは思ってない。
常に周りを見て、最適な行動を取ってきた。それを世渡り上手な奴だと卑下する奴等もいたが、気にしなかった。
決して自分の考えが全て正しいとは思わない。本当に困ったら、周りにも意見を求め、最善の行動を選ぶ。だから、多くの者にも慕われていた。
「…個人的には、僕達も突入したい。…ところですが、やはりここは応援を待った方が良いかと」
ブルーは今、死んだレッドに代わってネイチャー・ストレンジャーのリーダーを勤めている。
元来ナルシストでノリの軽い男だった彼に、リーダーのポジションは重荷でしかない。でも、死んでいったレッドとグリーンの為にと、慣れない役回りを精一杯勤めようとしていた。
「…そうだな。最悪のパターンは、俺達が全滅する事だ。今ならまだ、俺一人の進退で済む話…先に突入していった者達には申し訳無いがな…」
「そんな!俺達を見捨てるんですか!?」
これに納得出来ない相良が、遂に我慢できずに仙崎に楯突いた。
仙崎は何も言わなかった。言わなかったが、相良の目をジッと見つめていた。
「俺達は確かに若僧です!でも、俺達は皆、国の為に何かしたい、国の平和の為に戦いたいと思って、この国防軍にいるんです!
ここで仲間を見捨てる様な人間が、国民を守れますか?俺は、俺は誰かを見捨てて手に入れた平和なんかはいらない!!」
相良の叫びを、仙崎は黙って聞いていた。そして、おもむろに立ち上がった。
「相良上等兵。お前の仲間を想う心は美徳だ。お前にはこれからもそれを大事にしていって欲しいと思う。だが、個人が組織を危機に陥らせる判断は、絶対に許されない」
相良は再び、何も言えなくなってしまった。仙崎の言葉に、何一つ間違いは無かったから。
仙崎は考える。今、自分に何が出来るかを。
現在この場にいるメンバーの中で、単独で状況を変えられる可能性が最も高いのは誰かを。自分は、何をすれば良いのかを。
(……まさかとは思うが…、この作戦は…)
そして、仙崎は上司である権田の真の思惑を予想して、首を振る。
(……そうか…。何故、俺がこの作戦の指揮を任されたか?何故、俺以外で同じ陸軍からメンバーを輩出していないのか?……なるほどな)
仙崎は権田の右腕として、権田の事なら良い事も悪い事もほぼ全て把握している。中には、権田の…国防軍の根幹を揺るがす情報すらも。
(秘密を知る俺を、任務に乗じて消すつもりか。長年行動を共にして来た俺さえも、危険分子だと判断すれば容赦なく切るか…。あの人ならやりかねん。
すると、白夢アジトの中では、確実に俺を仕留める程の罠が張られているだろう。先に入った白虎隊ではどうにもならないかもしれんな…)
「……相良。恨むなら俺を恨め。だが、お前は此処に残れ」
そう言って、得物である身の丈程もある刀を持った。
「仙崎中将…まさか…」
「ブルー。君は見掛けによらず案外冷静な判断が出来る様だ。後の指揮は任せた」
「そんな!?中将自らが行くのなら、僕達ネイチャー・ストレンジャーが行きます!だから…」
「俺はな…元々指揮官向きじゃ無いんだよ。自分のせいで仲間が殺られれば仇を取らずにいられない。我慢できない性分なんだ。
ブルー、君は仲間が殺られても、冷静に物事を考えて我慢出来る人間だ。それは、上に立つ人間として素晴らしい素質だ。誇って良い」
仙崎はそう言ってブルーの肩に手を置く。そして、相良を見た。
「思い出したよ。国防軍に入った頃の事を。仲間達と共に、国の為にこの身を捧げようと誓ったあの日を。
もう、あの頃の仲間は殆んど俺より先に国の為に身を捧げて行ってしまったが、俺にも漸く出番が来たのかもしれない」
「仙崎中将…俺…すみませ」
「謝るな。男が自分の信念を伝えたんだ。謝れば信念に背く事になる」
「…俺も行きます!俺も、仲間達を…」
「駄目だ、お前は残れ。そして、最悪の場合、お前が白虎隊を守っていくんだ。分かるな?」
それだけ言い残し、仙崎は白夢のアジトへと入って行った…。
(あの人の狙いが俺なら、これ以上無駄な犠牲者を出す訳にはいかん。それに、この任務は不明な点が多すぎる。目的は本当に俺を始末する為だけなのか?それとも、もっと他に何かがあるのか?
なんにしても、俺が直接動かなければ何も分からないだろう。それが罠だとしてもな…)
やべ、短過ぎた!でもキリが良いので…(^^;
なので私から今回の感想を。…仙崎中将、登場した当初はモブキャラだと思っていたのに、なんでこんな事になっちゃったんだろう?
…って、感じでした。