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第61話 正義の味方だから

 奇声を上げて部屋に入って来たのは、幼馴染みの比呂だった。


「あー…後は頼んだ」


「すまん…新入り」


 二人が部屋を出ていく。残されたのはブライトと比呂だけ。


 そして比呂は、今だ不気味な笑みを浮かべて辺りを見渡している。



(……正直、拍子抜けだな…)


 比呂は、確かについ先日まではブライトの絶対殺すリストにトップバッターで名前が乗っていた。色々あって復讐対象としての関心が薄れはしたが、条件さえ合えば手を下す事に躊躇はしないだろう。

 でも、それは今では無いのだ。今は、血沸き肉踊る様な熱い戦いをこそ、ブライトは求めていたのだ。


「……お前じゃ相手になんねーだろ…。はぁ…なんか、急に白けたな…」


「敵ハッケーン!!シネー!!!」


 奇声を上げながら比呂がブライトに向かってくる。ブライトはそれを迎え撃つ形で…


「………てめぇっが、死ねっ!!!」


 アッパーカット一閃。………比呂は天井に頭をぶつけ、そのまま落下した…。




「……ったく…今の程度じゃ死にゃせんだろ。もういいや…」


 気力の失せたブライトは、椅子に座り直して足を組む。



 暫くすると、死んでなかった比呂が目を覚まし…


「痛い……ん?ブ、ブライト?ブライト!?何故ここに!?」


 途端に正気に戻って驚く比呂。


 ブライトは比呂を殴る際、あまりにも頭に来て何も能力発動してなかった為、比呂のダメージは深刻なものでは無かった様だ。


「……起きたのか?じゃあ、死にたくなかったら、次に誰か入って来るまで黙って座ってろ」


 もうブライトに、この場で比呂をどうこうするつもりは無い。だが、比呂が此処に来たと云う事は、他の国防軍の面々は、他の部屋に促されるのだ。つまり、この部屋に他の誰かが入って来る可能性は低いのだが、ブライトは一縷の望みに賭けていた。



「何故お前が…?貴様…騙したのか!?」


「何訳分かんねー事言ってんだよ。折角国防軍の奴を迎え討つつもりだったのに…」


「こ…俺だって国防軍の兵士だろうが!むしろ、俺はエリートだぞ!?」


「あっそ…。なら、折角見逃してやろうと思ったが、今死ぬか?」


「ひっ!?」


 比呂がウザくなってきたブライトは、軽く殺気を放って睨み付ける。すると、比呂は軽い悲鳴をあげて黙ってしまった。


 比呂は、これまでブライトの恐ろしさを嫌と云う程思い知らされて来た。自分では絶対に勝てないと細胞が理解しているのだ。


「チッ…死にたくないんなら、余計な事言わないで黙って座ってろよ、もう」


 比呂がおとなしくなったのを確認しながら、ブライトは呆れた様にため息を吐いて椅子に座り直した。




 ……更に10分程経過し…隣の部屋から、激しい戦闘音が聞こえてくる。


 だが、この部屋には椅子に座る自分と、所在なさげに体育座りしている比呂しかおらず、静寂が空間を包み込んでいる。



「なんだかなぁ…なんだかよぅ…。はぁ…。なあお前、最近学校はどうだ?」


 あまりの落胆に、ブライトの精神状態もおかしくなってきたのか、比呂と世間話を始めた。


「学校?……なんでお前にそんな事を…」


「暇なんだよ!暇!話すのが嫌なら、暇潰しにてめぇの頭ピチョンって潰すぞ?ピチョンって!」


「うっ……学校は…辞めた…」


 比呂が学校を辞めた。それは、ブライトにとって少し意外な応えだった。


「…なんで辞めたんだよ?」


「……幼馴染が…死んだんだ」


(幼馴染…ああ、俺か。でも、俺の事は目の上のタンコブだったんだろうし、むしろせいせいしたんじゃ無いのか?)



「…お前、その幼馴染とは仲が良かったのか?」


「……とんでもない。アイツはいつも、俺の事なんか眼中に無かったんだ」


 眼中に無かった訳でも無かったんだが…と過去を思い出す。


「…で、お前はその幼馴染が嫌いだったんだろ?」


「…今となっては、嫌いだった…のかなぁ?」


 その曖昧な返事に、少しイラっとする。比呂が影でどれだけ光輝を陥れていたのか、しっかり分かっているのだから。



「アイツは…子供の頃からそうだった。いつも俺が虐められてると、どこからともなく現れては俺の事を助けて…で、ニコッと笑うんだ。困った時は俺を呼べって。最初はありがたかったさ。その後ろ姿に憧れもした。でも、いつしか俺は…光輝と本当の友達じゃ無い事に気が付いたんだ…」


 なんだか話の雲行きが自分の想像と違う方向に向かっている事に若干戸惑うが、今更話を打ち切る空気では無くなっていた。


「アイツにとって、俺は守ってやる存在でしかなかった。対等なんかじゃ…友達なんかじゃなかった。だから、ギフトに目覚めた時も、()()()()()()()()()()()直ぐに教えたんだ。でも、アイツは、なんでもない事の様に、鼻で笑ったんだ…」


 光輝もその時の事を思い出す。内心は悔しくて仕方無かったのだが、無理矢理笑みを浮かべて無関心を装ったのだ。


「その後も、事あるごとに報告した。いつかは、「お前凄いな」って言ってくれるかもしれないって。でも、アイツはいつもの様に、なんでもない事の様に笑うだけだった。

 俺も、いつからか、実はアイツが悔しがってるのに気付いた。だから、逆に、悔しがらせて…それで認めて欲しかったんだよ。お前凄いなって。

 でも、アイツはいつも悔しいのを隠してニコッと笑うんだ…。そして、最後の最後も、俺の事を助けて、そして死んだんだ。俺は、結局アイツにとっては守られる存在でしかなかった…認められなかったんだ…」


 ……なんだか、今まで自分が抱いていた比呂に対する想いと真逆の告白を始めた比呂。既に、大粒の涙をこぼしている。


(…えっと…あれ?コイツ、俺が光輝って気付いててからかってんのかな?)



「……それで、結局お前は、その幼馴染の事をどう思ってたんだよ?」


 比呂は鼻水を啜りながら、暫し沈黙した。そして…


「俺は…アイツに認められたかっだ!アイツと、対等な友達になりだがった!なのに…なのに俺は、アイツを見殺しにしぢゃったんだ…うううっ…」



 …今まで比呂に貯まっていたヘイトをどうしよう…と悩む光輝。それでも、比呂が実際に光輝にしてきた事は許せる事では無い。でも最近は、嫌がらせはされていたが、それで殺す程の事では無かったのかな…と、態度が軟化していた矢先の比呂の告白に、比呂への怒りが小さくなっていくのが自分でも分かってしまった。


 実際は何度か死ぬ目に遭っているのだが…。


(まいったな…。それでも…借りは借りだ。返すものは返さないとな…)



「おい、お前。もし、今目の前にその死んだ幼馴染がいたら、どうする?」


「え?…………そうだな………謝るよ。()()()、俺が自分の無力さを認めなかったばっかりに…」


 あの時…と言われて考える。学校での嫌がらせ?ギフトが発言した日?……おそらくはショッピングモールでの件であろうが、よくよく考えると、やはり怒りが込み上げて来た。


「……それだけじゃねえ。その幼馴染が、お前が裏でコソコソ自分の悪評を広め、遠回しにお前を孤立させ様としてた事を知っている前提でだ。

 …今、目の前にいたら…どうする?」


 比呂の眼が大きく見開く…。自分のしてきた事が全てバレてたのはもう知っている。でも、なぜブライトがそこに拘ったのか?それが疑問だったからだ。



 比呂はブライトに向かって、手を地面に着き、額を擦り付ける。ブライトが光輝では無い事を百も承知で。


「こんな事…今更言っても時間は戻らない。でも、もし光輝と会う事が出来たら言うよ。ごめんなさいって。俺は…お前に認めて欲しかったんだって!それなのに俺は……馬鹿だった。許してくれとは言わないけど、償いならどんな事でもするから…」


「ふ~ん…なら、()()()()()でもしてくれる訳か?」


「……ああ。俺に出来る事なら…」


 ブライトは立ち上がる。そして、冷淡な口調で言い放った。



「じゃあ、この場で死ねよ。今、ここで死んで、あの世で幼馴染に懺悔して来な」


 比呂が一瞬で固まった。実際、光輝本人でも無いブライトに言われても、比呂はこの場で死ぬ義理は無いのだから。


 だが、ブライトは試した。ここで下手な言い訳を少しでもしようものなら、その時は瞬殺してやろうと。それが、溜め込んでいた比呂への不満に対する、自分に出来る最後の復讐の手段だと…。


(さあ、言い訳をしてみろ。その瞬間、開いた口の中をロンズデーライトで貫いてやる…)



 比呂が頭を上げる。その目には一切の迷いが無かった…。


「…光輝がそれを望むのなら。それに、光輝が死んだのに俺なんかがのうのうと生きてるのは、俺でもおかしいと思うし…」


 おもむろに、胸元からナイフを取り出した。国防軍の軍人なら誰でも携帯しているサバイバルナイフだ。


「不思議だな…。アンタ(ブライト)からは、光輝に似た空気が感じられる…。そんなアンタが死ねと云うなら、俺は死んだ方が良いんだろう…」


 そして、そのナイフを首筋にあてて…


(ま、マジかこのばか野郎!?)



 スピード・スターを発動。間一髪、比呂の手が動き始めた瞬間にナイフを蹴り飛ばす。


「…この馬鹿!お前に自殺されても、()()嬉しくねーよ!!」



「…いや、お前はそうでも、光輝は…」


「~っ、お前が憧れてた幼馴染ってのは、知り合いに自殺させて喜ぶ様な、そんな糞みたいなヤツなのかよ!?」


「光輝は……」


 言われて、比呂は考える…。そして…


「…光輝は、そんな事許さないか…。だって…()()()()()だからな……うっ…うう…」


 そう言って比呂は、踞って再び泣き崩れてしまったのだ…。



 …その時、入口のドアが開いた。国防軍の誰かが入って来たのだろう。


 ブライト的に、ええ?今、それどころじゃ無いんだけと!?と云う感じだったのだが…。



「闇の閃光・ブライト。もう二度と悲劇を作らせない為……私が貴方を討ちます」


 そこには、白虎隊隊長の女少将・水谷風香が立っていたのだった…。

ザマァを期待してた皆様…。この展開には納得いかない方が多いかもしれません。

この回を描き始める時、私自身も迷いました。…で、もう、流れに身を任せて描いてみようと。すると…光輝と比呂が勝手に動き出しました。ハイ。


お詫びと言っては何ですが、本日15時にもう一話投稿します。


ストックが少なくなりつつある現状で出来る、私からのせめてもののお詫びです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 悪くない落とし所だと思います。 ぶっちゃけ殺し殺されの展開で比呂にだけ接待プレイ繰り返してるのがずっとストレスでしたが、今回ちゃんと本音話させる展開は良かった。 まぁそれで過去が”無かった…
[良い点] 安易にザマァに走らせないあたり、個人的には好きです。 やっぱり報われない登場人物にも、何かしらの救いがあったほうが深みが出ますし、仲直りは別にありかと思います。 [一言] でも、やっぱり気…
[気になる点] そこには、白虎隊隊長の女少将・水谷風香が立っていたのだった…。とありますが、ここでは光輝視点だと思うので、水谷風香ってあるのは正体を知らないはずなのに知っているようで違和感を感じました…
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