第56話 合間の任務
今回と次回のお話は閑話みたいな感じなんですが、このタイミングでないと描けないと思いましてぶっ込みました(^^)
―東海道ライン
2020年以降、住居エリア以外はフェノムの生息地として人が住める環境では無いが、エリア間の車の移動ルートのみ残されており、現在ブライトとイーヴィルは旧静岡県付近にて、今回のターゲットであるフィルズ組織の殲滅任務の為に、東海道ライン(道路)が見える建物の中で待機していた。
住居以外のエリアといっても、70年前の建物は撤去されず残っており、崩壊した建物の残骸は、フェノムの脅威が如何に人類に影響を及ぼしたのかを物語っている…が、その一方で崩壊を免れた建物はそのままの形で遺されていた。
「いいなぁ此処、俺の別宅にしようかな~」
光輝と崇彦がいるのは、元々高級ホテルだった建物の最上階、スイートルーム。フェノムの襲撃から免れた建物は、電気こそストップしているが、少し掃除さえすれば問題なく使用出来た。
そんなスイートルームのキングサイズのベットにダイブして、崇彦は呟いたのだ。…因みにベッドは光輝が風を利用して埃を払っておいた。
「呑気な奴だな…お前は」
そんな崇彦とは対照的に、光輝は東海道ラインを一望出来る窓際のソファーに座って、緊張した面持ちで外を眺めている。
「おいおい、既に国防軍の兵士を100人ぶっ殺してる奴が、何をそんなに思い詰めてんだよ~。
フィルズにはルールなんて存在しないんだから。それに、今回俺達のターゲットの組織“グローリー”は、黒夢にとって不利益となる行動を企ててるんだぜ?」
―昨日
三日後に迫った国防軍撃退任務に備え、淡々と自分達の鍛練に勤しんでいた所を、黒夢のボス・桐生辰一郎に呼ばれた光輝と崇彦は、桐生から直接にミッションを与えられていた。
「さて、今回の任務は、とある輸送車の警護兼フィルズ組織・グローリーの迎撃だ」
「フィルズ組織の迎撃?フィルズ組織って、組織間で仲悪い場合もあるんですか?」
「勿論、友好関係を結んでいる組織はある。だが、あまり仲が良くない…むしろ敵対している組織もある。
それで、今回、黒夢が懇意にしている業者の輸送車を、グローリーと云う組織が襲撃しようと企てている情報を入手した。お前らにはこの組織の撃退及び、業者の安全を確保してもらう」
「なるほど~。輸送車の護衛をしつつ、グローリーの奴等が襲撃して来たらぶっ殺せばいんすね?」
「いや、護衛は駄目だ。グローリーは慎重な組織でな、護衛が着いてたら…しかもその護衛が黒夢の人間だと気付かれれば、襲撃を回避してまた別の機会を狙うだろう。
黒夢としても何度も護衛するのは面倒だから、待ち伏せしてグローリーが襲撃して来た瞬間を狙って迎撃したい」
「え?じゃあ、着かず離れず行動しろと?」
「いや。ウチのナンバー5の能力で、ある程度の襲撃地点と時間は割り出してる。だから、お前らはその地点付近で待機だ」
ナンバー5。当然、光輝は面識が無いので、一体どんな能力で襲撃地点を割り出してるのか不思議に思ったのだが…
「なるほど~。あの人がそう言うなら大丈夫っすね」
ナンバー5を知っているらしい崇彦は大きく頷いて納得した様だ。
―そして現在。
窓から予測されている襲撃地点を眺めながら、光輝は時計を見る。時間は現在13:45。予測された時間まであと5分に迫っていた。
「…で、そのナンバー5の能力ってのは信用できるんだろうな?」
「またその話かよ~?ナンバー5は黒夢のナンバーズで唯一の非戦闘系の能力者だ。…まあ、ぶっちゃけ俺もどちらかと云うと非戦闘系なんだけどな。
で、あの人の情報…と云うか、“予言”は精度が高い。…まあ、100%じゃ無い所がミソなんだけど」
「予言?そんな能力まであるのか?でも、その100%じゃ無いってのが不安要素なんだろ?」
「まあな~。でも、多分98%位の的中率だから安心しな」
98%。ほぼほぼ外れないと云う確率だが、それでも光輝の不安は消えなかった。これまでの任務は、力任せに暴れるだけで良かった。だが、守る対象がいる…それだけで、こんなにも緊張するのかと、身を以て実感していたのだ。
そんな緊張感を抱きながら襲撃地点を眺めてると、東海道ラインを東京側から2台の貨物トラックがやって来た。恐らく、あの車が今回の護衛対象車輌。
そして反対側から…まるで世紀末の様なヒャッハーな集団が徒党を組んで貨物トラックへ向かっていた。
「………あれがグローリー?なんか、ボスが言ってたのと違うな…」
「ああ…。忍ぶ気が一切無いな~…」
暫し唖然としていた二人だが、気を取り直す。
光輝は立ち上がり、腰に巻いたベルトに手を置く。そして…
「変身」
光輝の言葉と同時に、ベルトが赤く光ると、その赤い光は全身を包み込み、あっという間にブライトに変身した。
前回、ヴァンデッダに変身ブレスレットを渡されたのだが、どうせならベルトにしてくれとシドにお願いし、特別に変身ベルトを作ってもらったのだ。
「…光輝…好きだね~、そう云うの…」
崇彦は呆れた様にフードを被り、マスクで口元を隠してイーヴィルモードに変身した。
…
「さ~て、作戦を確認しよう。俺がここからイビルレーザーで狙撃して奴等を撹乱させる。そこを、お前がサイレント・ステルスを駆使して奴等を無力化してくれ」
「了解。ただ…分かってるよな?」
「…ふぅ、本気かよ?…まったく、なんか面倒だけど…今回だけは付き合ってやるよ」
「サンキュ。じゃ、しくんなよ?相棒」
「わ~ってるよ。じゃあ頼んだぜ?相棒」
もうすぐグローリーが貨物トラックと接触する。ブライトは、スピード・スターとエレメンタル・ウインダーを駆使して窓から飛び立った。
東海道ライン。襲撃予測地点だった正にその場所で、2台の貨物トラックはフィルズ組織グローリーによって足止めされた。
「ヒャッハー!汚物は消毒だー!」
5台の四輪バギーに、男が10人。誰も彼も奇抜なヘアスタイルと薄手の衣装のそれは、正に世紀末の雰囲気を醸し出している。
そんな中、一際装飾が豪華なバギーから、これまた奇抜なヘルメットを被ったグローリーのボスらしき人物が降りて来て、運転席で震えている貨物トラックの運転手に向けて銃を向けた。
「おい…俺の名を言ってみぐべっ!?」
言い切る寸前、螺旋状のレーザービームが、ボスの手を撃ち抜いた。
「いで~!いでぇよ~…って、襲撃だ!!」
瞬時にグローリーのメンバーは戦闘体制をとる。そんな様子を、サイレント・ステルスを発動させたブライトが、貨物トラックの荷台に立ったまま眺めていた。
(さあ…捕食の時間だ)