第54話 神魔の双眼
―翌日。
あの後、崇彦と久々にふざけ合いながら黒夢のレストランで食事をし、今後の予定を立てた。…光輝は一応サングラスとマフラーをして。
で、早速任務を通してお互いの能力を確認し合おうと云う事になり、ブライトはイーヴィルと共に、以前桐生に連れて来られた立ち入り禁止区域に来ていた。
因みにお互い名前の呼び方は、通常時は光輝・崇彦、任務時はブライト・イーヴィルで統一する事にした様だ。
「さて、お互いの力を知る為のフェノム退治。イカしたデートだろ?相棒」
「なんでお前とデートせにゃならんのだ。それに、どうせお前は俺のギフトは全て知ってんだろ?」
「まあな。リバイブ・ハンター、スピード・スター、インビジブル・スラッシュ、ロンズデーライト、サイレント・ステルス…で、この間ネイチャー・グリーンに殺されたんなら、新たにエレメンタル・ウィンダーのギフトを習得してるだろう。
…つか、スゲーな。各々がどれか一つでも超強力なギフトを6つって…チートじゃん」
「俺もそう思う。でも、その代償に、俺は5回死んでるって事だからな?死ぬってキツいぞ~?お前も一回死ねば分かる」
「いや、俺は一回死んだら終わりだから」
「それに、リバイブ・ハンターが発動して蘇ると……まぁいいや」
「なんだよ?リバイブ・ハンターが発動するとどうなるんだ?」
「ん~…いや、ハッキリしてから言うよ」
蘇ると暫く、目の前の敵に対しての殺意が大きくなる。…という事は伏せる事にした。
前回、あれだけ殺さないと決意していたにも関わらず、リバイブ・ハンター発動後の殺意を全く抑える事が出来なかったのだ。
勿論、前回の件は自分の中で必要な事だったと割り切ってはいたが、それでも親友に自分は只の殺人鬼かもしれないと、悟られたく無かったから。
「…………まあ、言いたくなったら言えば良いさ。きっと楽になれるから。
さて、じゃあ早速始めようぜ~」
前回同様、撒き餌を散らしていたので、話をしている間にもゾロゾロとフェノム達が集まって来ていた。
「じゃあ、先ずは俺のギフトを知ってもらおう…と言いたい所だが、俺のギフトはちーとばかし扱いが難しくてな。まずはブライトが戦ってくれ」
「そうなのか?じゃあ俺からやるか。実は新たにエレメンタル・ウィンダーのギフトを選んだのには理由があったんだ」
ブライトは、リバイブ・ハンターが発動する事を前提に、どうせ死ぬならと敢えてネイチャー・グリーンに殺された訳だが、結果的にそれでグリーンに対して殺意の衝動が強く出てしまった。
今思えば、せめて女性のグリーンでは無く、男性だった他のメンバーを選べば良かったと後悔してるのだが…。
ブライトがマントを広げる。その様は、まるで翼を広げた漆黒の鳥人。
「今までもスピード・スターで加速を付けて跳躍し、空中でマントを羽ばたかせる要領で空を飛べたんだが、案外疲れるしスピードも飛行の維持もイマイチだったんだ。だから…」
エレメンタル・ウィンダーのギフトを発動させると、風の力で高く宙に飛び上がり、そのまま高速で空を飛びながらロンズデーライトで硬化した脚でフェノムを蹴り落として撃墜していく。
更には、今まで飛行中は腕を使えなかったが、風の力で飛行が可能になった為、腕を振ってインビジブル・スラッシュも発動可能。…つまり、マントの翼は最早飾りとなってしまった。
「スゲーな!飛んでるじゃん!」
「だろ!?男のロマンだろ!」
「男のロマンが理由で殺されるとか…。お前もチャレンジャーだな」
「いや…それを言うな…」
光輝は中・遠距離攻撃の為にエレメンタル・ウィンダーを習得したのでは無く、あくまで空を飛びたいが為に選んだのだった…。
その後も、ロンズデーライトで両腕両脚を武器化し、インビジブル・スラッシュや、スピード・スターを活かした体術で、あっという間にほぼ全てのフェノムを殲滅させる事に成功する。
「ふう。一ヶ月前は結構苦戦したんだけどな。……あ、ちょっとやり過ぎたか?」
気が付けば、残されたのは体長3メートルを超す猿人型フェノムと、光輝が以前倒したレッサードラゴンの2体のみ。
「いや、ちょうどいいや。実は俺のギフトは多人数を相手にするのに向いて無いからさ」
イーヴィルが猿人型フェノムの目の前に立つ。そして、イーヴィルの左目が朱く光ると、虹彩の部分が開閉し、瞳孔からドリル状のレーザービームが発射され、フェノムの心臓を貫いた。
「!?」
突然の事に意味が分からず、ブライトは驚きで声を失った。
「まず一匹。じゃあ、お前も…」
「グルアアアッ!!」
危険を察知したのか、レッサードラゴンが吠えながら飛び立とうとする。
「あっ!逃げんなって!」
またもイーヴィルの左目からレーザービームが放たれ、レッサードラゴンの脳天を貫通した。
「!?!?」
あっという間にレッサードラゴンを倒したイーヴィルに、またもブライトは驚きで声を失った。
「はい、終了!どうだい?俺のギフト、“イビル・アイ”は?」
「……ほぼタイムラグ無しで、あんな強力なレーザーみたいなの撃てるなんて反則だな。…で、ゴッドもどんな能力か気になるけど、イビルとは異なるギフトなのか?」
「そう。俺も実はギフトの二つ持ちなのさ。因みに、どちらもギフトランクは“X”だ」
ギフトランクには、測定不能や不明なギフトに対してXと格付ける風習があり、とても珍しいギフトに分類される。
だが、過去に存在したXランクのギフトは、結局使い物にならなかった物から意外に強力な物までピンキリだった。
そして、恐らくリバイブ・ハンターの能力が正式に解明されれば、ランクはXと認定されるだろう。結局、手に入れた能力次第で強さが激変するのだから。
「Xねぇ…。なんだか反則みたいな能力だったな」
「で、今使ったのがイビル・アイの能力の一つ“イビルレーザー”で、今見た通り大抵の物は貫通する威力の螺旋式レーザービームだな。で、イビル・アイの能力はもう一つあるんだ」
「今のだけでも充分な気もするけど…」
「イビル・アイの能力、二つ目は“デス13”。これは能力を発動してから13秒間対象の相手の眼を見つめると、その相手を即死させる事が出来るんだ。
…でもなあ…13秒だから戦闘中に使うのには向いてないんだよな。種がバレてると使えないし」
「……恐っ。日常会話とかでお前の目を見るのはやめるわ」
「仲間には使わないって。じゃあ、次は“ゴッド・アイ”の方の能力だけど…お前、今朝は何食べた?」
「今朝か?今朝は…」
「言わなくて良い。答えは、『食ってない』…だろ?」
「…まあ、そうだけど…なんで分かった?」
「ゴッド・アイの能力の一つは、見つめた対象の“深層心理”みたいなのを覗けるって事なんだ」
「深層心理?…心を読むみたいなやつか?」
「そそ。人間って不思議でさ、自分では考えないようにしても、深層心理だけは偽る事が出来ない様になってるんだ。その中には、自分でも意識してない情報も含まれてる。
だからまあ、これは友人として言うんだが、リバイブ・ハンター発動後に殺意が膨れ上がるのは確かに意味不明だけど、あんまり気にするな」
「え!?…あ!さっきの会話で!?」
「まあな…。お前には悪いが、学校にいる時もちょくちょく使ってたんでね。だから、お前がギフトに目覚めた次の日にはもう知ってたって訳さ」
「ええ~?殺されるやら心読まれるやら…俺、もう絶対にお前と眼を合わせるのやめるわ」
「そう言うなよ。一応能力発動の条件もあるから。相手が全く理解してない・分かってない質問には当然応えは無いし、種さえ分かってりゃ読めねーよ。
じゃあ改めてやってみよう。発動のトリガーは簡単で、まずゴッド・アイを発動する…」
イーヴィルの右目が、黄金に輝きだす。崇彦は学校ではカラーコンタクトを使用していたので分からなかったのだ。
「で、相手と目を合わせて、知りたい質問を相手に投げ掛けるだけ。例えば、“お前のギフトと、その熟練度を教えてくれ”。
…と、俺が質問すると、俺にだけ視える相手の情報プレートが目の前に現れるんだ。で、そこにはこう表示されてるんだ」
「『…リバイブ・ハンターLv―、スピード・スターLv3、インビジブル・スラッシュLv3、ロンズデーライトLv3、サイレント・ステルスLv2、エレメンタル・ウィンダーLv2』…って感じで読める」
「…スゲエ!ギフトにレベル…あ、熟練度か!?」
この質問は、当然本人でも知り得なかった情報だが、知らなかった訳では無く意識する事が出来なかったと判断される。実際、ギフトの熟練度に関しては体感でどの位かを理解出来るからだろう。
「そそ。…でもまあ、数値の設定基準はハッキリとは分からないし、結局は他に比べる物が無いから。多分、俺特有の価値観が表示されてるんだと思うんだよな。俺、昔からゲーム好きだったからさ。
じゃあ最後に…“お前、好きな奴いる?”」
「なっ!?やめろよ!!」
光輝は直ぐに目を逸らしたが、時既に遅し…。
「『…いる』」
「なっ!?てめぇ…」
「ほう。じゃあ、“相手の名前と、どれだけ好きか教えてくれ”」
動揺から再び崇彦と視線を合わせてしまい…。
「テメエ崇彦!……」
「今はイーヴィルだ。…『水谷風香Lv5、ティザーLv3、浅倉梓Lv2、伊集院遥Lv1』」
「…ええっ!?」
「おいおい、ちょっと気が多すぎじゃないか?相棒」
質問の答えに対しての怒りより、出て来た結果に光輝は驚いていた。風香はともかく、何故ティザーや梓・遥まで出て来たのか?
「これは深層心理の情報だからな。自分では意識してない情報まで引き出されるんだよ」
「ぐっ…なんで人のプライベートを覗き見してんだよ!つか、お前の質問には抗えないのか!?」
「まあな。頭の中では考えないようにしても、俺の質問に対して、深層心理では必ず答えを思い浮かべてしまってるからな。でもこの能力も、質問してから対象の相手と必ず目を合わせないといけない。ま、こっちは一瞬でいいから問題ないけど…ま、種を明かしてやるか。
お前がもし、俺にゴッド・アイを掛けられるのが嫌なら、そう意識すれば良い。それだけでレジストされる」
「何?“読ませない”って意識するだけで良いのか?」
「そそ。つまり、俺がゴッド・アイで相手の心を読めるって事を知ってさえいれば、読ませないと意識するだけで防げる。
逆に、ゴッド・アイの能力を事前に知らない奴は、目が合ってしまえば絶対にレジスト出来ないって事さ」
「…なるほど。じゃあ常に心を読まれないって意識するわ…」
「フフフ、それが案外難しいんだけどな。常に意識してるなんて無理だろうから」
常に、心を読ませないと思い続けるのは確かに難しいだろう。その上、ゴッド・アイに関しては一瞬眼を合わせるだけで良いのだから。
「……はあ。お前が学校で恋愛の神様だった理由が分かったよ…。にしても、お前の能力スゲーな。強力無比なビームは出すわ、視線で人殺せるは、心は読むわ……系統無視し過ぎだろ?チートじゃん」
「フッフッフッ、でもまあ、だからこそ系統無視のXランクギフトなんだろうな。でも、使用の際の疲労度は半端ねーから、多用はキツイ。今も、もう帰って眠りたいし。
しかも俺、基本体術ザルだから、接近されるとキツイんだよな。だから、戦闘ではしっかり俺を守る様に!
それに、チートはお前だろ?俺のはなんだかんだ制約が多いけど、お前は純粋に多数の系統を操れるんだから。
ボスの言う通り、国防軍に知られれば実験材料にされて延々と殺されてはギフトを習得させられ、その上戦地にもガンガン送り込まれたんだろうな」
「………それ、本当にそうなりそうだったから怖いよ」
「さて、今後の事なんだけど、もし今後、比呂と戦う事になったらどーすんだ?殺せるのか?」
「……は?ん~…どうかなぁ。いつも誰かを殺してしまった後はやり過ぎたって少し心が痛むけど、アイツを殺す事に関しては一切良心の呵責は無いし、いずれ殺す事も決定事項だ。…だったんだけど、なんかもう、アイツに対する怒りは大分収まっちゃったんだよな~」
「そなの?まあ性根が腐ってるけど、本当は……まあいいか。ま、俺も一応は知り合いだし別にどっちでもいーんだけど。
ならさ、例えばもっと近しい関係の友人…そう、水谷風香を殺せるか?」
「…風香を?なんで?」
「例えばの話さ。お前が黒夢の人間…闇の閃光・ブライトとして、どれだけの覚悟があるかを聞いてるだけ」
「…風香を?…………」
「『殺せない』…か」
「うっ…。だったら、お前は殺せるのかよ?」
「ん?条件さえ合えば全然殺れるよ。俺にとっては的場崇彦の方が仮の姿で、イーヴィルの方が本来の姿だからな。気は進まないが、理由があれば知人を殺す事に躊躇はねーや。
なんなら、もしお前が水谷風香を殺さなきゃならない状況になったら、俺が相手してやろうか?…あくまで例えばの話な」
「……それはそれで、お前の事を恨みそうだ」
「なら、覚悟を決めろよ。お前ももう、周防光輝じゃなく、ブライトなんだからな」
イーヴィルの言う事は充分理解している。だが、例え仮の話だったとしても、なんとなく釈然としないまま、本部へと帰還するのだった。
説明回はどうしても長くなっちゃいますね(^_^;)