第53話 相棒
お待たせ致しました!
この章は前半戦の山場なので、バトルシーン多めになってます。私も描いていてテンションが上がりましたので、是非最後までお付き合い頂ければと思います!
―翌日、黒夢本部アジト自室
周防光輝は死んだ。…正確には、戸籍上では死んだ。
そんな光輝は、黒夢のボス・桐生から、黒夢の真の目的を聞き、自分のやるべき事に改めて目覚めた事で、既に自分が死んだ事のショックを克服しつつあった。
あれから深い眠りに着き、目が覚めたのは翌日だった。
携帯端末を見ると、ティザーから心配する種のメールが来ていた。その内容の中には、今回の件で大切な友人が巻き込まれて亡くなった事に複雑な感情を抱いている事が描かれていた。
(…俺の事か…。生きてるんだよな~、実は。一応ボスに確認をとって、大丈夫そうなら正体バラしちゃおうかな?)
ティザーの悲しむ顔を見るのは本意では無い。光輝として接した時間はそう長くは無いが、それでも瑠美は面倒見の良いお姉さんの様に光輝を可愛がってくれたのだから。
そして、光輝の方のスマホを見る。どうやら無事だった様で、充電こそ残り少ないが、正常に起動している。
(このスマホともお別れか…)
着信履歴には、家から数件…。
(父さんと母さんには本当に悪い事しちゃったな…。ごめん)
心の中で、もう会えなくなってしまった両親に謝る。恐らくだが、近日中に光輝の葬儀も行われるだろう。悲しむ父と母の姿が目に浮かぶ。
(だからって…今はまだ会いには行けない。でも、いつか必ず、この国を変える事が出来たら、その時は…)
そしてメールは一件、崇彦から来ていた…。
『光輝。…ちゃんとパソコンの中のエッチな動画、消しといたか?』
「………消すか!!」
思わずスマホに突っ込む。…だが、このメールを送ったであろう崇彦の気持ちを思うと、光輝は改めて崇彦の思いやりを感じた。
(アイツ…俺が死んだって分かってて、こんな冗談入れて来やがったんだろうな…)
その時、黒夢端末が鳴る。電話の主は、桐生だった。
「そろそろ起きただろう?直ぐに俺の部屋へ来い」…とだけ告げると、桐生は電話を切ってしまった。
(…まぁ、ボスだしな…)
昨日のライン達の話を思い出し、苦笑いをしながら着替え始めた。
桐生の部屋へ行くと、いつもの様にソファーに促される。
「さて、ブライトとしてのみ生きていくのなら、もう必要以上に正体を隠す必要は無いだろう。丁度良い機会だから、お前、“相棒”でも作ったらどうだ?」
「パートナー?…相棒って事ですか?」
「そうだ。だからと言って、必ず行動を共にする必要は無いがな。スカルとジョーカーの様に何をするにも一緒なのは珍しい方だ。お前は誰か希望はいるか?」
希望…と言われて考える。だが、どれだけ考えても、光輝には一人しか思い浮かばなかった。
「…俺、ティザー位しか知り合いいないんですけど?あと、一応ジレンさんとヴァンデッダさんもかな…」
ここに来て、共闘メールを無視していた弊害が出た。光輝が黒夢の中で接した事があるメンバーはこの程度しか居なかったのだ。
「ジレンとヴァンデッダは各々パートナーが居るし、ティザーにも既にパートナーが居る。
お前が希望して、相手が今のパートナーとのコンビを解消すれば問題ないが…いらぬ軋轢は生みたくないのがボスとしての本音ではある」
(え?ティザーってパートナーいたの?じゃあもう誰も知らないぞ?)
「…で、だな。実は、どうしてもお前とパートナーを組みたいと言う奴がいてな。ウチのナンバー9なんだが…」
ナンバー9。
黒夢には、その強さやギフトの有能性が評価された、“ナンバーズ”と呼ばれる者達がいる。
現在光輝が分かっているナンバーズのメンバーは…
ナンバー1・桐生
ナンバー2・ジレン
ナンバー4・ヴァンデッタ
…の3人だ。ちなみにスカルもジョーカーもティザーもナンバーズ圏外だ。つまり、ナンバーズに選ばれているという事は、かなりの実力者か有能なギフト能力者だと云う事の証明となる。
そのナンバーズのナンバー9が光輝とバディを組みたいと言っている。光輝にとっても光栄な事でもあるが、全く面識が無いだけに不安を覚えた。
「…まあ、黒夢では会った事が無いだろうから、一度会ってみろ…驚くだろうがな。入って良いぞ」
(え?居るの!?…ボス、もう、はじめっから組ませる気満々だったんじゃ…?)
桐生の呼び掛けと共に、ドアから男が入って来た。
「失礼しま~す!」
軽いノリで入って来た男は、真っ黒なフード付きのコートを羽織り、口許をマスクで隠しているので顔全体は見えないが、口調が明るかったので、少なくとも光輝に対して友好的だと判断できた。
「よ~う!闇の閃光・ブライトー!俺は神と悪魔の眼を持つ男…“神魔の双眼・イーヴィル”だ!宜しくな!」
そう言って、イーヴィルは光輝に向かってビシィッ!と指差しポーズを決めた。
(…………変なの来たー!)
「おいおい、会って数秒で変人を見るような目で見ないでくれないか?」
「ああ…スミマセン。それで、神魔さんはなんで俺とパートナーを組みたいんですか?」
「呼び名そっち!?…まあいいや。理由は簡単さ!表の世界ではもう親友と会えなくなるみたいだから、こっちでは…と思ってな、光輝」
イーヴィルは今、光輝の名前を呼んだ。桐生と、組織の一部しか知らない名前を。
光輝のイーヴィルに対する視線が警戒の色を強める。
「お前…何者だ?」
「えー?声聞いて分かんねーのかよ。なんかショックだなぁ…」
イーヴィルがゆっくりとフードに手を掛け、そしてマスクを外して素顔を露にした…。
「…で、パソコンのエロ動画は処分してたのかよ?…する訳ないか」
「…た、崇彦!?」
素顔を露にしたイーヴィル…そこには見慣れた親友の顔があったのだ。
「へへっ、ようやく正体を明かせたぜ!」
「な、なんでお前が黒夢に!?」
「言っておくけど、俺はもう黒夢の一員になって3年になるんだぜ?」
「え?3年!?て云う事は…中学で俺と会った時にはもう?…それにしたって……ボスは俺達の関係を知ってたんですか!?」
「まあな。何より、お前の素性調査を依頼したのがこのイーヴィルだったからな。その調査の中で、お前とイーヴィルが同級生だと知ったのには驚いたが」
「そゆこと。実は…俺はお前がギフトを発現した事自体は、結構早い段階で知ってたんだ。だけど、ボスが連れて来た得体の知れない奴の正体が、まさか光輝だったと知った時はビックリしたぜ~。何度学校で本当の事を言いそうになったか分かんね~もん」
改めて、時系列を並べてみる。
光輝が能力を発現した翌日、崇彦は光輝が能力を発現した事に気付いた。
桐生が光輝の身辺調査を崇彦に依頼。直ぐにそれが光輝だと判明。
光輝が表向き死んだ事で、崇彦は正体を表した。…といった所か。
桐生が光輝の素性調査を依頼したのがイーヴィル=崇彦だったのは偶然とは云え、その光輝が崇彦の学校での友人だった事には、桐生も崇彦も驚いていたし、そして光輝も驚いた。
「状況は把握してるぜ。相変わらず比呂の奴は光輝に対するジェラシーが抑えられなかったみたいだな。…助けなきゃ良かったのに」
「ジェラシーって…。まぁ、助けて少しは後悔してるよ。心配しなくても、今度会ったら、あのあの女少将もろともぶっ倒してやるさ」
「え?あの女少将って?もしかして、白虎隊の隊長?え?倒せんの?」
「ああ。なんだ?アイツ、そんなに強いのか?」
今の崇彦の反応を、光輝は純粋に女少将が光輝では倒せない程の実力者なのか?という意味で捉える。
「まあな…。だってアイツは……でも…まあ、いや、もう関係無いって言えば関係無いからなぁ…」
「なんだよ?随分含みのある言い方だな?あの女少将、そんなに強いのかよ?それとも、他に何か問題でもあんのか?」
崇彦は悩んだ挙げ句…
「……いや、やめとこう。人生には知らない方が良い事もあるもんだ!つーか、お前が死んだ後、梓と遥がネイチャー・ストレンジャーに食って掛かったんだって?」
「…そうらしいな。流石にあの糞野郎に愛想尽かしたんじゃねーの?」
「え?そうなの?……可哀想に。そりゃ、比呂にとっては屈辱だったろうな~。折角お前を陥れてまで手に入れた二人だったんだから」
「なんだよ?お前、比呂の事をそこまで知ってたんなら教えろよな!」
「さっきも言っただろ?人生には知らない方が良い事もあるって。お前、ギフトが発現する前にその事実を知ってたら、どーなってたと思うよ?」
(どーなってた?…多分ぶん殴ってたな…。でも、あの頃なら単純に戦闘力は俺の方が低いし、比呂の事だから被害者ヅラして更に俺を陥れようとしたかも…。あれ?そうなると俺ってますます孤立しちゃってたかもな…)
あくまでifの話となるが、崇彦が言った様に、きっとろくな事にはならなかったであろう事を、光輝も想像した。
「…うん、まあ、それは良いや。確かに知らなかった方が良かった気もするし」
「だろ?まあ…お前にはちょくちょく鈍感ギフトが発動してたからな。あのまま何事も無く過ごしてたら気付かなかっただろうな」
鈍感とは失礼な。と思いつつも、自分でもそう思う部分もあったので反論はしなかった。
「さて、長話はその位にして、ブライトがもう表の生活に気を使う必要が無くなった事で、一つ大きな動きに出ようと思う。
パートナーを組んだばかりでなんだが、お前らには重大な作戦に参加してもらう事にする」
光輝的には、あれ?まだ正式にパートナーの話を了承した訳では無いのだが…と思いながらも、断る理由も無いし、正直、もう会えないと思ってた崇彦とまた行動を共に出来るのは非常に嬉しかった。
「作戦の予定日は一週間後だ。その間に、幾つか二人で任務をこなしてパートナーとしてお互いの能力を確認し合う事。学校に行かなくても良くなったんだから毎日でも任務に挑め。
そして…本題が、これだ」
桐生が一枚の紙を取り出し、テーブルに置いた。そこにはスペシャルミッションの文字が。
「……国防軍による“白夢”掃討作戦の阻止…。白夢って?」
光輝は、なんとなくだが白夢という名前から黒夢と友好関係にあるフィルズ組織である事を察した。
「白夢は黒夢と友好関係にある組織で、日本国内でも三番目に大きな組織でもある。
今回、国防軍はネリマ支部での失態を挽回する為に大掛かりなフィルズ組織壊滅に着手した。そして、その集大成となるのが、この白夢掃討作戦となるのだが、黒夢は国防軍には内密に、白夢の本部にて国防軍を迎撃する」
「なんか…大掛かりな任務ですね…。それを、俺と崇彦で?」
「いや、今回はナンバーズから二人、ジレンとヴェンデッタにも参加してもらう。なにせ、国防軍からはネイチャー・ストレンジャーが出てくる予定だったが、今回の件でどうなるかは今の所不明だし、むしろ、より階級も強さも上の連中が出てくる可能性があるからな…。
ただ、黒夢・白夢が国防軍の襲撃の情報を掴んでる事を、国防軍は知らない。だから、奴等は少数精鋭部隊で乗り込んで来るだろう」
ネイチャー・ストレンジャー。光輝にとっては、何気にずっと憧れの存在だった。そんな憧れの存在を、容赦なく二人も殺したのだ。今思えば、今回もまたやり過ぎた気がしていたが、あの時は殺意を抑える事が出来なかったのもあるが、大きな目標を持った今となっては、必要な事だったと自分に言い聞かせる。
(……思えば、黒崎の時も、冴嶋の時も、伊織中尉の時も、そして今回も、リバイブ・ハンターが発動した直後は、感情が殺意で占められると云うか…黒く滾ると云うか…。もしかして、リバイブ・ハンターの制約なんだろうか?)
蘇った後は、いつも感情が暴力的になっていたのは事実。更に、自分を殺した相手に対してより強力な殺意を抱いているのも。それが、リバイブ・ハンターが発動した事による反動なのかと考える…。
…だが、いくら考えても、その答えは直ぐに出そうには無かった。
崇彦登場!正体は黒夢のメンバーでした!