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第52話 新たなる決意

「……ちょうど良い機会だ。以前も少しだけ話したが、黒夢(俺達)の理想、()では無い、()()を教えてやる。……着いて来い」


 そう言うと、桐生は光輝の腕を掴み、強引に歩き出した。



 黙々と歩く桐生に引っ張られながら後を着いてく。


「ボス…何処へ連れてくんですか?」


 桐生は何も語らない。そして、黒夢本部アジト最深層の部屋へとやって来た。



「…ここは?」


 その部屋は薄暗く、一面に石板が置かれていた。石板をよく見ると、無数の名前らしき文字が彫られてある。



「この石板は、俺が10年前に本格的に黒夢を立ち上げてから今日まで、亡くなって行ったメンバーの名前が彫られてある…」


 光輝は全てを数えた訳では無いが、恐らく200人以上の名前が刻まれていると思われる。そして、そこにはヨガーとミストの名前も刻まれていた。



「俺の…いや、俺達黒夢の理想は、()()()()()()()()()


「国を…変える?」


「そうだ。この国は、世界的に見ても他の国と比べて、能力者達には生き辛い国だ。無能力者とは絶対数が違うから、どうしても無能力者が国を主導している。それは他の国も同じだが、この国は国の中枢が俺達能力者を恐れ、抑制してるのだ。ある意味、国防軍のスペシャリストも国の言いなりとも言える。そして、そんな国の言いなりにならない俺達の様な存在は、フィルズとして迫害される。そんな理不尽が許せるか?

 俺達黒夢は、いずれ()()()()()()()()。そして、フィルズもスペシャリストも関係無い、()()()()()()()()()()()()()()()()な国家を創る!」



 この国を支配する…。今までは漠然としか黒夢の存在に興味を持たなかった光輝だが、改めてその理想を聞き、不思議とすんなりと納得する事が出来た。



「…つまり、この石板に刻まれた仲間達は、皆その理想の為に散って行ったって事ですか?」


「…半分はそうだ。黒夢の理想を知り、その上で理想の為に命を落とした。だが、もう半分は…この理想を知る前に死んでいった者達だ。

 お前もそうだったが、皆初めは生き場を失って黒夢にやって来る。他に選択肢が無いからな。そんな選択肢の無い状況で真の目的を知らされれば、理想を強要されてると感じてしまう者も出てくるだろう。

 あくまでこれは組織としての理想だ。だからといって全てのメンバーにそれを押し付けるつもりは無い。ある一定の期間を通して、俺達の理想を告げても大丈夫だと思った奴にしか、本当の事は告げない」


「…でも、いずれは全てのメンバーに告げる日が来るんですよね?」


「…そうだ。そして、その日は近い。恐らく、この理想を組織全体に告げた時、一部のメンバーは黒夢を離れるだろう。それも仕方ない。

 だが、俺達は止まれない。これまで、多くの仲間の血を流して、漸くここまで来たんだ。お前はどうだ?俺達の理想をどう思う?」



「俺は…」


 …考えるまでも無かった。自分は、既に桐生が言った理不尽を二度も体験して来たのだから。

 その憤りは最早、国自体を敵と認識するには充分過ぎる理由となっていたから。


 だが、考え様によっては、国防軍のスペシャリストだって同じ能力者だ。その国防軍の戦力を削る事は、桐生が語った理想とは少し違うのではないかとも思った。


 でも、今の国防軍もまた、光輝にとって明確な敵だ。いずれ平等な世界を共にしようとしても、一度ぶっ壊した方が良いとすんなり思えた。それはやはり、自分も理不尽な経験をして来たからだろう。



「…世界を変える…。悪く無いですね。なんか、正に悪の組織っぽいですけど」


「今は悪の組織でも、実現すれば俺達こそが正義となる。そして、その為に能力者同士の潰し合いとなるのは本意では無いが、国の犬である国防軍の軍人の多くは、スペシャリストである自分達はフィルズより優れた存在だと云う意識が刷り込まれている。だから、同じ能力者と云えど、一度ぶっ壊す位しないと考えは変わらないだろう。それにはお前の力が必要だ。…分かるな?」


 光輝は、本来の自分が死んでしまった事に対して、完全に割り切れた訳では無い。でも、自分はまだ生きてるのだ。戸籍上は死んでいても、周防光輝は確かに生きている。

 そして、組織の為、多くの自分と似た境遇の能力者の為、そして自分の為に、己の力を活かせるのだと思って心が昂っていた。


 …それは、目の前の石碑に名前を刻まれた本当に死んでしまった同志(・・)達には、もうやりたくても出来ない悲願だったのだから。



「能力者が等しく平等に評価される国…。もし、そんな国が既に実現していたなら、俺はこの道に進む事は無かったのかもしれない。

 だったら、俺が…いや、俺達が、そんな国を創る!そして、俺みたいな奴が苦しまなくて済む世界を、必ず実現してみせます!」


 今までは力を得ても何処か目的が漠然としていて、罪悪感に苛まれる日々を送っていた。だが漸く光輝は見付けたのだ。自分の力を振るうべき場所を、目的を、信念を。



 桐生は何も言わず、只ニヤリと笑みを浮かべた。まるで、最初から光輝の応えを予想していたかの様に。


「なら、お前の今後の選択肢は二つだ。表の顔を完全に捨てて、闇の閃光・ブライトとしてのみ生きていくか?

 もうひとつは、周防光輝とは全くの別人として表の身分を得て、今までの様に表と裏の生活を送るか?だ…」


「全くの別人って?そんな事が可能なんですか?」


「…てっきりティザーあたりにでも話を聞いてるのかと思ってたんだがな。言っておくが、新たな身分を手に入れる事は不可能じゃない」


 ティザーからは黒夢に入った成り行きなどは聞いた事が無かったが、考えてみればまだ高校生にも関わらず黒夢に入っている事自体、珍しい事だ。



 その後、桐生から語られた事は、にわかに信じられない事だった。


 国は、確かに国防軍入りを普通は強制はしない。能力に適した職業があれば、仕事の斡旋もする。


 ただ、有能なギフト能力者に対しては国防軍入りを半強制的に促す。それでも入隊を拒んだ者、或いは一度は国防軍に入ったものので問題を起こした者の中で、将来的に国防軍の脅威となり得るギフト能力を持つ者は、国として抹殺するのだと。



「ティザーもそうだ。彼女は争い事が嫌いだと云う理由で高校卒業後の国防軍入隊を拒んだ。天候を操ると云うアイツのギフトは、鍛えれば半径一キロの範囲の天候を自在に操れる様になるし、そうなれば半径一キロ以内全てが攻撃範囲となる可能性を秘めたギフト能力だ。だから、ティザーは国から抹消されたんだ」


「抹消された?だって、ティザーは高校生として普通の生活も送ってるじゃないですか?」


「天海瑠美。今の彼女の名前は偽名だ。本来の名前だった彼女は、表向きは既に亡くなっている。」


 瑠美が実は偽名で、本来の瑠美だった人物は死亡扱いになっている。その事実は、少なくとも光輝を動揺させた。



「国防軍に追い込まれ、瀕死の状態の彼女を救ったのは俺だ。そして、表向きは彼女をそのまま死亡させた事にして、今の彼女に名前と国籍を与えたのも、黒夢(うち)だ」


「そんな…じゃあ、ティザーの家族は…?」


「家族?ああ、娘は死んだと思ってるだろうな。だが、ティザーが会いに行けば、今度は両親にまで被害が及ぶ可能性がある。可哀想だが、ティザーは二度と両親と会う事は出来ないだろう」


 ティザー…瑠美は、いつも力強く生きていた。その笑顔の裏に、そんなにも悲しい過去があった事を知り、光輝は憤りを覚えた。生きてるのに家族ともう会えない辛さは、光輝も今、身を以て感じているからだ。



 だが、もし、フィルズの存在が認められ、平等な世界が実現したら…と考える。


「…分かりました。…なら、俺は新しい身分は要りません。このまま、闇の閃光・ブライトとして生きて行きます。そしていつか、この国に平和と秩序を取り戻した暁には、堂々と家族や仲間達に会いに行きます」


 そうすれば、また家族に会える。自分も、そしてティザーも。



「…良いのか?まだ青春を謳歌したい年頃だろう?」


「良いんですよ。どうせ俺は学校でも浮いてたし、友達も多くなかったから。親を心配させてしまうのは本意じゃ無いですが、いずれ必ず、()()()()()会える日が来ると信じてますから」


「そうか。じゃあ、これからは気兼ねなく働いてもらわないとな。ああ、それと、さっきはああ言ったが、今回のお前の行動はお手柄だった。まさかネイチャー・ストレンジャーを二人も倒すとはな。特別ボーナスとして、お前の借金をチャラにしてやろう」


「…本当ですか!いょっしゃあ!!」



 自分が死んでしまった悲しみが消えた訳では無い。それでも、光輝は前向きに生きようと心に決めて、笑った。


 今の自分には、新たな目標が、新たにやるべき事があるから。



 悲しみに暮れてる時間等無い。そう、決意を新たにしたのだった。

※この度は、二日連チャンでの誤更新で皆様を困惑させてしまい、大変申し訳御座いませんでしたm(__)m


さて!過ぎた事をグジグジ言っても仕方ないので、明日、閑話を挟み、いよいよ第四章が25日よりスタートします!


で、以前も告知しましたが、これまで毎日更新だったんですけど、二日に一回更新にさせて頂きますので、怒らないでね(^_^;)


詳しい内容・愚痴・御願い等、活動報告を更新してるので、是非そちらも覗いてみて下さい。


また、こちらの方も細々と連載しています。もうすぐクライマックス!

https://ncode.syosetu.com/n7633fu/

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[気になる点] ラバーじゃなくてヨガーでは?
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