第51話 周防光輝との決別
※心が折れそうになりましたが何とか描き上げました((T_T))以前と大分内容が変わって、前編後編に分けてお送りしますm(__)m
転移した場所は、黒夢のアジト、転移ルームだった。
「ふぅ、疲れた!」
帰って来た事で安心したのか、ブライトは素の光輝に戻って座り込んだ。何気に余裕ぶっていたが、ネイチャー・ストレンジャーとの戦いは熾烈を極めた。罷り間違えれば再び死んでしまう程に。また、ギフト能力を多用したのでかなりスタミナも消耗していたのだ。
(ぶっちゃけ、あの女少将がどれだけ強いか分からないけど、結構人数もいたしこの状態で戦ってたら危なかったかもな…)
そこで、ブライトは改めて二人の存在に気付く。
「あ~、え~っと、改めて聞くけど、お二方は…ジレさんと…バ…ンデットさんでしたっけ?」
「…おいおい。俺はジレンだ。一応、ボスに次ぐ黒夢のナンバー2だ。覚えておけ」
黒夢のナンバー2。よく分からないが、つまりはかなりの実力者なんだろうとは理解した。
そしてもう一人、眼鏡を掛け、腰まで伸びた黒髪の美しい女性が、ブライトを見て微笑んでいた。
「私は黒夢のナンバー4。ヴァンデッタよ。さっきも教えたのに…ま、宜しくね。さ、怪我が酷いみたいだから、先ずは医務室まで移動しましょう」
ブライトの腕や脚の一部は火傷と凍傷を同時に併発しており、パッと見でも重症と言えた。
医務室に向かいながら、ナンバー2と4が何故あそこに?と疑問に思うブライト。さっきは蘇った衝動で、ヴァンデッダの話もあまり聞こえて無かったのだ。
医務室に着くと、前回もお世話になった、ふくよかな美人さんの眼鏡っ娘医師・阿佐美が光輝をベッドに寝かせてくれた。
「…結構やられたわね…。じゃあ、動かないでね…」
阿左美のギフトは、“ホイミン・キュアー”。ランクはA+の能力で、国内でもトップクラスの回復系能力者だ。
黙って治療を受けていると、ラインが部屋へやって来た。
「お帰りなさい。いや~、まさかネイチャー・ストレンジャーを倒しちゃうなんてね…。君には驚かされてばかりだYO。
でも、無茶は禁物だよ?君は今回、ジレンとヴァンデッタが居なかったら大変な事になってたかもしれないんだから」
「……スミマセン。ところで、なんでお二方はあの場に?」
「ボスがね。君がピンチみたいだから、ちょうど傍にいたジレンとヴァンデッタに救出の指令を出したんだYO」
「そういう事だ。俺がアイツ等の気を引いた隙に、ヴァンデッタがお前を助けた。勿論、能力でな。まさかそのまま戦闘になるとは思ってなかったがな」
「そうゆーこと。ま、ボスの話だと切羽詰まった状態だと思ったんだけど、無傷で気絶してただけだから拍子抜けしたけどね」
会話の内容からして、やはりリバイブ・ハンターの能力までは教えられて無かったのだろう。
ここで光輝は一つの疑問を抱く。それは…
「…あの、色々とありがとうございました。でも、今回俺が取った行動は任務の妨害と取られても仕方ないんじゃ…」
「それは気にしなくていいYO。促司少将の暗殺と、イベントを妨害した時点で今回の任務は完遂されているから。まあ…元々あのデンジャラズがそれで済ませるとは思ってなかったんだけど、案の定余計な事をしてくれたから、彼等にはペナルティを与えるけどNE」
「それに、お前はボスのお気に入りみたいだし、正直、ネイチャー・ストレンジャーを一人で相手するなんざ、俺でも骨が折れるぞ。
ま、お前とはいずれ共闘する事もあるだろう。その時にしっかり働いてくれればそれでいい」
「そうねー。でも、噂の闇の閃光が、こんなにカワイイ男の子だったなんて、お姉さんちょっと意外だったな」
一通りの会話を終えると、ラインが口を開く。
「さて、今回も君には部屋に来るようにボスに言われてるんだけど…その怪我じゃ直ぐには無理だろうね…。ボス、待たされるの嫌いなんだけど…」
「だな。ボスは我慢する事を知らないからな」
「基本、おこちゃまなのよね~」
散々な言われ様の桐生を不憫に思いつつ治療を受けていると、突然医務室の扉が開かれた。
「…随分やられたな。相手がネイチャー・ストレンジャーなら仕方ないがな」
なんと桐生の方からやって来たのだ。こらにはジレンや他のメンバーも目を丸くしている。それだけ、桐生が自ら会いに来るのは珍しいのだろう。
桐生は起き上がった光輝を再びベッドに横になる様に促し、他のメンバーには退室を命じた。
ジレンはああ言っていたが、やはり成り行きとは云え、結果的に黒夢の任務を妨害してしまったのだから、謝罪の一つも必要かと思っていたのだが…
「…まったくお前は…自分から厄介ごとに首を突っ込みおって」
「…すみません」
「お前が死んでる間、お前が能力者である事は、あの場にいる全員にバレたぞ」
素性がバレた。その事実が導き出す答えはそう多くない事を光輝は理解している。いつかは来るであろろう時が、今来たのだと覚悟はしていたのだが…
「お前の遺体を巡り、ネイチャー・ストレンジャーと、お前の友人らしき少女二人が揉めていた所を、ジレンとヴァンデッタに回収して貰ったんだ。その際、お前の遺体は燃えて無くなった様に見せかけたから、周防光輝は完全に死んだ事になってるだろうな」
「…え?…えっと…俺、死んじゃったんですか?」
周防光輝は死んだ。だが、自分は生きてる。突然の言葉に理解が及ばなかった。
「いや…でも俺、生きてますよ?」
「見れば分かる。あくまで戸籍上の話だ。あのまま周防光輝が生きていたとしても、国防軍からお前は野良フィルズ扱いを受けていた。結果論だが、死亡した事にしてお前の存在がリセットされた事は、不幸中の幸いでもあると考えられるぞ?」
光輝は桐生の言っている事は理解できた。自分でも、もし正体がバレたらと考えた事はあったからだ。
その時は、諦めてブライトである事を認めるしかないと覚悟していた。それは、周防光輝が生きている事を前提として、実はブライトは俺だったと、そういう意味で。
それが周囲に与える影響…とりわけ、家族に与える影響は大きいだろう。でも、ちゃんと理由を説明すればきっと分かってくれるだろうと思っていたし、その上でブライトとして活動して稼いだ分で、父と母ぐらいなら養っていけるとも考えていた。
学校には行けなくなるだろう。でも、風香や崇彦の二人なら分かってくれるんじゃないか?頻繁にとは行かなくとも、たまには会える位の関係を築けるんじゃないか?そう思っていた。
…それらは、どちらも、周防光輝が生きている前提での願望だった。
結局、光輝は本来の自分がいなくなるのをすんなりと受け入れる覚悟までは出来ていなかったのだ。
「…なんで?別に死んだ事にしなくても…」
「死んだ事にしなくても…なんだ?お前の両親や友人が、理解を示してくれるとでも?残念だが、この国でそんな甘い考えは通用しない。それ程、フィルズってのはこの国では危険視されてるんだ。
仮に、理解を示してくれたとしよう。お前は、お前の勝手な都合で、お前の背負った業を家族に背負わせるのか?お前が生きる為に、両親の人生は、ある意味死んだも同然の状況になるんだぞ?」
…頭の中に、両親や友人の顔が浮かんだ。
両親とは、最近はあんまり面と向かって会話する事もなかった。思春期特有の照れがあったからなのだが、それでも時折絶妙なタイミングで声を掛けてくれて、自分を心配してくれた。
崇彦の事を思い浮かべる。結局まともな友人なんて、崇彦位しかいなかった。崇彦は、どんな時でも自分を元気にしてくれた。正直、崇彦がいなければ光輝はもっと腐っていたかもしれない。
次に梓と遥。…最後の時、二人は比呂では無く、光輝の傍に立ち、必死で光輝の無実を訴えてくれた。それが、光輝にとっては嬉しかった。
…もう少しだけ、過去の自分が接し方を変えてやれば、あの二人とは違った未来が待っていたのかもしれない。
そして、比呂。…光輝の知る昔の比呂は、少なくともあそこまで屑じゃ無かった。もしかしたら、比呂をああしてしまったのも、自分の責任だったのかもしれないと、思う所もあった。
最後に…風香。生まれて初めてのデートは、想像以上に楽しかった。想いを告げ、これから恋人同士として、もっと多くの時間を共有したいと思っていた矢先…結局、想いも伝えられないまま、折角買ったプレゼントも無くしてしまった。
能力が発現する前の光輝なら、自分が死んでしまった事を、もしかしたらすんなりと受け入れたのかもしれない。
でも、今の光輝には、失いたく無いものが増え過ぎていたのだ。
「ひとつ、言える事は、今回の事は、全てお前自身が選んで行動した結果だ。誰にも文句なんか言えないんだ」
あの時、比呂を助けようとしたのは間違いなく自分の意志だ。結果的に、当初の目的は達成されたが、代償を負ってしまった。大きな、大きな代償を…。
「嫌だよ…俺、死にたくなんてなかったよ…」
項垂れ、涙を流しながら、光輝は心の底からの声を絞り出す。だが、その言葉に、現実を変えるだけの効果が無い事は理解していた…。
※自らの浅はかな行いに深く後悔してる感じですね…。続いて後編をお楽しみください。