第48話 抑えられない衝動
※ヴァンデッダが光輝の名前を呼んでましたが、修正しました。
―数分前
『…リバイブ・ハンターの能力発動により、ギフト、“エレメンタル・ウインダー”を習得しました。』
光輝が目を覚ますと、目の前には、眼鏡を掛け、腰まで伸びた黒髪の美しい女性が、光輝を見て微笑んでいた。
「私は黒夢のナンバー4。“ヴァンデッダ”よ。宜しくね。」
黒夢のナンバー4が何故此処に?と疑問に思うが、先ずはリバイブ・ハンターが無事発動してくれた事にホッと胸を撫で下ろす。
ホッと胸を撫で下ろす…というより、同じ相手に殺されない限りは、もう必ず発動するのではないかとすら思っている程なのだが、今回はどのみちあのままでは死んでいたので仕方ないだろう。
「驚いてるみたいね。私はナンバー2のジレンと一緒に貴方を救出しに来たのよ」
「救出?……なんで?」
「ボスがね。君がピンチみたいだから、ちょうど傍にいた私達に救出の指令を出したのよ。
で、ジレンがアイツ等の気を引いた隙に、私が能力で救出したってワケ。
でも、ま、ボスの話だと切羽詰まった状態だと思ったんだけど、無傷で気絶してただけだから拍子抜けしたけどね」
ヴァンデッダの言い方から察するに、光輝のリバイブ・ハンターの能力はやはり知らされて無いのだろう。
当然、ボスは光輝の能力を知っている。発動すれば傷が完治する事も。
切羽詰まった状態とは、生死が懸かった状態と云う意味では無く、光輝の身柄が国防軍に奪われるかどうかと云う意味だったのだろう。
現在、光輝は先程まで戦闘が行われた場所から、二階フロアのテナントに移動している。
「さ、ジレンもそろそろ撤退する頃だろうし、私達も一緒にアジトへ帰るわよ」
「…ちょっと待ってくれ…。俺は…アイツ等に用事がある…」
「アイツ等?…それって、ネイチャー・ストレンジャー?」
「ああ…。やられたらやり返さないと気が済まない性分なんでね…」
やられたらやり返す。確かにその通りだ。だが、今光輝を突き動かしている感情はそれだけではない。明確な殺意だった。
「…なるほど。ボスはこうなる事まで予想してたって事か…。
じゃあ、これが必要でしょ?」
そう言うと、ヴァンデッダは豊満な胸元からシルバーのブレスレットを取り出した。
なんでそんな所から…とドキドキした光輝だったが、敢えて突っ込まなかった。
「…これは?」
「ボスがね、もしかしたら必要になるかもしれないからって。これを腕に装着して、意識をブレスレットに込めて“変身”って言うと、あっという間に衣装を変えられるの。黒夢の科学部とシド爺の力作よ。
さ、早くやってみて。どうせならジレンにも付き合ってもらうから、この際厄介なネイチャー・ストレンジャーを始末しちゃいましょう」
「変身…?ガキじゃあるまいし…」
…と言いながらも、実際はウキウキと心が弾んでいるのはヴァンデッダの目にも明らか。
ブレスレットを腕に装着する。ほんのり温かいブレスレットに、神経を集中させ…腕を目の前にして構える。
「変身!」
―そして現在
「我が名は闇の閃光・ブライト。貴様等を屠る者だ…」
闇の閃光ブライトの名は、既に国防軍の間でも浸透している。
あの冴嶋中尉を殺し、国防軍の兵士100人を戦闘不能に追い込んだ強敵として。
「アイツがブライト…」
「なるほど…確かに漆黒の鳥人って感じだね」
「なんか、俺達と格好が被ってるな…」
「ジレンもそうだけど、なんでこんな所に?」
「…油断出来ませんよ…これは」
レッド、ブルー、イエロー、グリーン、ホワイトは、それぞれ気を引き締める。
「お前がブライトか。俺はジレン、宜しくな」
「ああ…。助かった…」
光輝が素直に感謝をのべると、背後に飛び降りて来たヴァンデッダが小声で耳打ちする。
「それ言ったら、貴方がさっきまでこの場にいた少年だってバレちゃうかもしれないでしょ?今からでも誤魔化しなさい」
確かに光輝はジレンとヴァンデッダに助けてもらったが、ネイチャー・ストレンジャー達にしてみれば、ブライトは今現れた事になっているのだ。
「……この間は助かった…」
厳しい誤魔化しに、ヴァンデッダはため息を吐いた…。
「なっ!?黒夢ナンバー4のヴァンデッダまで!?…お前ら、やっぱりここで俺達ネイチャー・ストレンジャーと決着を着けるつもりか!?」
レッドが驚きの声を上げる。そして、知らなかったジレンも…
「ん?そうなのか、ヴァンデッダ」
「そうね…ブライト君が止まらないみたいだし、私と貴方もいるからイケるんじゃない?殺っちゃいましょう」
「舐められたもんだね…僕達も」
「油断するな、ブルー。アイツ等は3人だが、それぞれとんでもない強敵だ」
余裕を見せるブルーをレッドが嗜める。それでも、実際はレッドも負けはしないだろうと思っていた。
ジレンは強い。過去に一度だけ交戦した事があるから知っているのだが、それでも、どれだけ強くとも自分より少し強い位だろうと思っているし、ヴァンデッダも軍の情報ではどちらかと云うと戦闘系では無くサポート系の能力者だ。此方が5人である事を考えれば、負けはしないだろうと。
ただ、不安要素があるとすれば、最近話題の闇の閃光・ブライトだ。
「おい、真田二等兵…。お前は過去にブライトと戦った事が……」
ブライトの情報を比呂に聞こうとしたレッドだったが、比呂は顔を真っ青にしてガタガタと震えていた。
「おい、真田!」
「あ…あわわ……殺される…今度こそ…」
驚きを通り越して、最早呆れるしかない。レッドをして、比呂は将来有望な若者だと聞いていた。なのに、先程は余計なプライドが邪魔をして、事実を正確に伝える事を怠り、それが一般人?の犠牲に繋がった。これだけで比呂は厳罰ものだ。
その上、今度は敵を前にして戦意を喪失しているのだから。
ブライトは、震える比呂を一瞥する。その瞬間、比呂は今度こそ、自分の死を悟る。…だが…ブライトは比呂から直ぐに視線を外した。
光輝として先日比呂へ意趣返しをしていた事、そして本人の意識が変わった事もあり、ブライトの中で比呂への怒りが少しだけ薄れたのも理由の一つだが、今は目の前のネイチャー・ストレンジャーにのみ、意識を集中していたのだ。
ブライトは、自分への興味を失ったのか?と、比呂は思った。それは、比呂にとっては好都合な事だ。少なくとも、自分の死のリスクが下がるのだから。
でも…それ以上に比呂は、何よりも耐え難い感情に包まれていた…。
「さあ、覚悟はいいか?」
ブライトは威圧するように自分の指を鳴らす。
「やれやれ、仕方ないから付き合ってやるか…」
ジレンも戦闘態勢に入る。…すると…
「ジレン…それにヴァンデッダ。…悪いが、アイツ等は俺一人で殺る」
「なっ!?一人でなんて無謀だわ!相手はネイチャー・ストレンジャーなのよ!?」
「……なるほどね。じゃあヴァンデッダ、俺達は高みの見物と行こうぜ。な~に、危なくなったら助けてやるさ。なんせ、アイツはボスのお気に入りだからな。お手並み拝見と行こうぜ」
そう言うと、ジレンは二階へと移動し、渋々ながらヴァンデッタもそれに続いた。
「俺達を一人で相手するだと…?正気とは思えないな」
レッドは思わず笑ってしまった。舐められた怒りを通り越し、あまりの無謀な言葉に呆れてしまったからだ。
が、次の瞬間!レッドの目の前に、ブライトがいた。
!?
ロンズデーライトで硬化した拳で放ったパンチを、レッドは辛うじてブロックしたが、勢いを殺せず壁際まで吹っ飛ばされた。
「なっ…」
見えなかった。確かに油断はしていたが、それでもブライトの動きは速かった。
「さあ…己の罪に溺れて眠れ…」
新・決め台詞です( ・`д・´)