第46話 ネイチャー・ストレンジャー見参!
※能力者判別方法を変更しました。
ガクッと膝を着く光輝。
(やべ…。致命傷じゃなくても、このままだと出血多量で死ぬな…)
光輝は自分でも何故比呂をこんなにまでなっても助けたのか不思議だった。…ただ、先日、比呂にやり返した時、比呂に対して言った言葉が妙に引っ掛かっていたのだ。
「…お前は自己主張が強くて嘘つきで小心者で卑怯者だけど…」
(…まったく、比呂への皮肉が、よくよく考えたら俺自身へも当てはまってやがったんだよな…)
子供の頃の自分。自己主張が強かった自分…。
能力が発現した途端、一転して強気になった自分…。
(ハハッ…そりゃ、比呂が俺を嫌いにもなるわ。ヒーローになりたいなんて言って、結局人を助けて優越感を覚えたいからだったんだから。ぶっちゃけ、ただ目立ちたいからってのと一緒だもんな…。なのに、無能力だからって勝手に腐って、力に目覚めて粋がって…)
そう考えると、一方的な復讐心は小さくなった。比呂が光輝に嫌がらせをしたのには、そして梓や遥が比呂の嘘を信じたのには、間違いなく自分にも非があったのだから。
「こ、光輝…?」
比呂もまた、幼き頃を思い出していた。いつも、自分は光輝の背中を見ていた。何故か?それは、自分が劣っていたから。守られる存在でしかなかったから。光輝と自分は、対等な関係では無かったから。
そして今。比呂は謎の男に光輝の姿を重ねていた。
光輝は無能力者だ。この謎の男は絶対に光輝では無いと分かってはいたのだが…。
そんな二人を他所に、スカルは更にギフトを発動しようと身構えた。
「馬鹿な奴め。お前だけなら今の攻撃もかわせただろうに、わざわざお荷物を助けるとはな!」
お荷物…。そう言われ、比呂の中で何かが音を立てて崩れた。
「さて、トドメを刺してやるか。じゃあな、あばよ!!」
(くっ…これは死んだか!でも、スカルのギフトはいらねーな!)
「ソニック…って、なんだこれ!?うわああぁ!」
突如、光輝の目の前で激しい竜巻が巻き起こり、スカルが竜巻に飲まれて上空に投げ出された。
「そこまでだ!!」
突然の声に、光輝は上を見る。そこには、いつもテレビで見ていた、“ネイチャー・ストレンジャー”が並んでいた。
「ネイチャー・レッド!」
「ネイチャー・ブルー!」
「ネイチャー・イエロー!」
「ネイチャー・グリーン!」
「ネイチャー・ホワイト!」
「……5人揃って!」
「「「「「ネイチャー・ストレンジャー!!」」」」
ネイチャー・ストレンジャー。日本中が知っている、スーパースペシャリストの5人組。
5人それぞれが己の色のコスチュームを着ている。デザインは、大昔のアニメ・ガッチョマン風で、ヘルメットとタイトなスーツにマント。因みにヘルメットには特殊スモークが貼られており、至近距離からでも素顔が見えない仕様なっている。
改めて見てみると、漆黒の鳥人のコスチュームとも似ているのは偶然だろう。
そしてその実態は、国防軍の軍人の中で、火炎系・水氷系・雷系・風系・回復系のギフト能力者の中で最も実力のあるスペシャリストが選抜された組織なのだ。
彼らの国防軍での階級は大尉。その実力も、冴嶋が5人いると言っても過言では無いほど。
(ネイチャー・ストレンジャー…。凄え…本物だ…)
今は敵とは云え、光輝は長年の憧れでもあった国民的ヒーローを前に、少しだけ胸が高鳴っていた。
「クソッ、ネイチャー・ストレンジャーか!?流石にこのままだと分が悪いな…。おいジョーカー!撤退だ!」
「うぐぐっ…賛成」
吹っ飛ばされたものの、直ぐ様戻って来たスカルが、意識を取り戻したジョーカーを起こす。が、ネイチャー・ストレンジャーだけではなく大勢の警官が周囲を取り囲んでいた為、どう見ても逃げれそうに無いのは明らかだった。
(あ~あ、だからとっとと撤退しろって言ったのに…)
取り敢えずは安心した光輝だったが、どうやってこの場を切り抜けようか考える。
(こうなったら…癪だけど比呂に説得してもらうか。で、その間に逃げよう)
立ち上がり、まだ呆然としている比呂に声を掛ける為に手を伸ばす。
「おい新兵。頼みがあるんだが…」
「させるか!ファイヤー・ボール!」
ネイチャー・レッドの掌から、火の玉が飛び出した。テレビの情報だと、ファイヤー・ボールは1000℃の火球だ。
その火球が、スカルとジョーカー…ではなく、光輝に向かって飛んで来た!
「うおっ!?」
辛うじてロンズデーライトで硬化した腕を盾にして攻撃を防ぐ。1000℃の火球は、ガードした腕に直撃し、小爆発と共に消滅した。…が、その熱風は確実に光輝にダメージを与える。
「なに!?俺のネイチャー・ファイヤーが!?」
これには、ネイチャー・レッドだけで無く、他のメンバーも驚きを隠せずにいた。それ程、ネイチャー・ファイヤーは強力な技なのだ。
「ちょ、待て!なんで俺を!?」
当然光輝は納得が行かない。自分はむしろ国防軍である比呂を助け、テロの実行犯と戦っていたのだから。
「レッドのファイヤーが防がれるとはな…。ならば、このブルーの攻撃はどうだ!アイスアロー!」
今度は氷の矢が光輝を襲う。テレビでの情報だと、アイスアローのスピードはマッハ1。鉄板を易々と貫通する威力だ。…が、またしても光輝は硬化した腕でガードすると、アイスアローは粉々に砕け散った。…が、その衝撃は身体の芯に響いた。
「なっ!?僕のアイスアローまで!?なんて硬化能力だ!?」
ガードはしたものの、レッドとブルーの攻撃の衝撃は光輝の身体にダメージを与える。
「いや、ちょっと待てって!俺は敵じゃ無いんだって!…新兵、お前からも何か言ってくれよ!」
光輝は比呂に助けを求める。だが、比呂は先程のスカルの言葉が効いたのか、虚ろげな表情だった。
そこで、ネイチャー・グリーンが当たり前の事の様に言い放つ。その手には、能力者を判別するスコープが握られていた。
「何を言ってるの?身体の何処にも証が刻まれてる気配も無い。その上、さっき貴方は真田二等兵を攻撃しようとしてたじゃない?」
(なんだと!?確かにバーコードなんて刻んで無いけど、あれが攻撃だと誤解されたのか?ふざけんなって!国防軍の奴等は人の話を聞かねー奴ばっかなのかよ!?)
冴嶋もそうだった。だがこれには、国防軍の軍人として最初に教え込まれる教訓が作用している。
国防軍では…『迷うな。迷ったら打て』…なる教えがある。これは、フィルズ相手に一瞬でも隙を見せたらやられるから…と言う意味合いがあるのだが、光輝にとっては二度も命を脅かされる事になった忌まわしき教訓でもある。
「おい、新兵!なんとか言ってくれ!」
「真田二等兵!彼は本当に敵じゃ無いのか?」
レッドの問い掛けに、比呂は視線を泳がす。そして、思考が現実に戻って来て…
「え?えっと……ああ、コイツは…多分…“野良フィルズ”です…」
…………光輝の中で、不思議と怒りは沸いて来なかった。所詮、そんなもんだと。少しでも比呂に期待した自分が馬鹿だったのだと。
「…あ…!いや、でもコイツは…」
咄嗟に野良フィルズと言ってしまった比呂は、自分が今何を言ってしまったのかに気が付き、慌てて言葉を足そうとしたのだが…
「なるほど。だそうだよ?マフラー君」
既に比呂の言葉に耳を傾ける事は無く、ネイチャー・レッドが再び攻撃体制を取る。
気が付けば、スカルとジョーカーもいなくなっていた。隙を見て、警官の網を突破して撤退したのだろう。
(…はぁ。どいつもこいつも、自分の事ばかり…。まあ、他人の事は言えないか、俺も)
光輝の頭の中は、自分でも驚く程に冷静だった。冷静に、今目の前にいる全員を、どう倒してやろうかと考えていたのだ。
この感覚を、光輝は覚えている。…そうだ、リバイブ・ハンターが発動すると、光輝はいつも不思議な衝動に駆られていたのだ。
目の前の敵を殲滅する…という、黒い感情。だが今は、リバイブ・ハンターが発動してないにも関わらず、心の奥底から殺意が沸いて来る…。
それでも、光輝の決意が、相手を殺すでは無く倒すにまで己衝動を抑えていた。
(もう…バレてもいいや。この場で、俺が能力者だって。で、コイツら全員ぶっ倒してやるか…)
光輝がマフラーに手を掛ける。素顔を晒そうとしたその時…
「ちょっと待って下さい!」
そこへ、今まで脅えながら事の一部始終を見ていた梓と遥が駆け付けて来た。
「この人は敵じゃありません!テロリストから比呂を庇ってくれたんです!」
「そうです!それに、この方は先日もフィルズから私達を助けてくれました!あっ…傷が酷い!今すぐウチの病院に運びましょう!」
(なんだ?なんでこの二人が俺を?しかも、この間の人物だと思ってんのか?…実際そうだし、グラサンもマフラーもほぼ一緒だけども)
だが、イエローは二人の前に立ちはだかった。
「…ちょっとお二方。ギフト能力者は基本的に身分を証明する為の証を目に見える場所に携帯しなければならないのは、君らもギフト能力者なんだから知っているだろ?彼にはそれが無い。よって、野良フィルズと断定されてもおかしくは無いんだよ」
「そんな!私達、ずっと見てたんです!…ねえ!比呂からも何とか言ってよ!アンタ、この人に助けられたんじゃないの!?」
まだ虚ろな表情のままだった比呂は、ハッとした様に梓を睨み付ける。
比呂も、助けられてた事は自覚している。先程の自分の発言が失言だった事にも気付いていた。
…だが、ハーレムメンバーを前にしての見栄だったのか?それとも、光輝とダブる目の前の男に対する対抗心だったのか?自分の意図しない言葉を発してしまう。
「…梓。ソイツが俺を助けた?馬鹿言え。俺が野良フィルズになんか助けられるか!コイツがいなくても、俺は一人でも戦えた!俺はエリートなんだ!」
「…アンタ、本気で言ってるの?」
信じられないと云った表情で比呂に詰め寄ろうとする梓を、光輝が止めた。
「もう良いだろ、梓。だから言っただろ?コイツは小心者なんだって。昔からな…」
「え?あの…」
突然、梓にとっては謎の男に名前を呼ばれ、戸惑う梓。
「まあ…それも俺が悪かったのかもしれないけど…」
(やべ…、そうは思っても、ムカつくもんはムカつく。コイツら全員ぶっ殺したくなる程…。ああ…意識が朦朧として来た…。このままだとヤバい…。スカルのギフトなんていらねーぞ…?…そうだ、どうせなら…)
思いの他、光輝の怪我は重症だったようだ。このままではネイチャー・ストレンジャーには勝てないだろう。それどころか、時間が経てば出血多量で死んでしまうだろう。
なので、残された手段…リバイブ・ハンターに賭ける事にした。そして、どうせ死ぬのならネイチャー・ストレンジャーの誰かの能力を習得してやろうと考えたのだ。
(俺と相性の良い能力…。だとすると…)
ネイチャー・レッドは、比呂の言葉を冷静に分析していた。
「ふむ…。一人でもやれた?というと、この男は敵では無いわけ…」
レッドがグラサンマフラーは敵では無かった事を認めようとしたその時、光輝が目標を見定める。そして、手を広げ、その人物・“風使いのネイチャー・グリーン”に抱き付く様に飛び掛かった
「なっ!?エ、エアカッター!!」
咄嗟に至近距離から放たれたギフトが、光輝の身体を斬り裂いた。
「ぐはっ…」
(…頼む…発動…してくれ………)
光輝は、エア・カッターをモロに喰らい、吹っ飛ばされて…絶命した…。
すると、エアカッターが炸裂した拍子に、マフラーが外れ、サングラスも破壊されてしまった…。そして、男の素顔を見た梓と遥は、驚愕の叫び声を上げた。
「こ…光輝!!??」
「こ…光輝さん!!??」