第45話 意外な共闘
「スカルにジョーカー…で、比呂か」
風香と別れ、特設ステージで対峙している三人を上から見下ろす光輝。三人の周辺は国防軍の兵士や怪我をした一般人が転がっている。
光輝にとって日常の空間で戦闘が行われているのに違和感を覚えつつも、自分がこの後どう行動すればいいのかを瞬時に決断を下さねばならない。
スカルとジョーカーは、気に入らないが一応同じ組織に属する仲間とも言える。
だが、光輝は無関係の人間が殺されるのを黙って見てられる程まだ心が染まりきっていない。それが自分の地元の人間なら尚更。しかも、何故か逃げようとせず、壁際で手を握り合って戦況を見つめている梓と遥。
そして、比呂の存在が、光輝の中でも分からなくなっていた。
条件さえ揃えば、比呂を殺す事に躊躇は無いだろうとは思っている。そして、今、比呂はスカルとジョーカーを一人で相手している状態で、あと数秒後には死んでしまってもおかしくないかもしれない。
なのに……光輝は思い出してしまった。小さい頃、いつも自分に張り合おうとして、後ろをくっついて来た比呂を。そんな比呂を、子供のイジメから幾度となく助けて、時には自分も痛い目を見た日々を。
正義の味方。…自分は、只良い格好がしたかっただけだったんだと云う思いも間違いでは無いだろう。
でも、苛められていたのが比呂だから、弱いくせにいつもの自分に懐いてくっついて来た比呂だから、勝てないと分かっていても立ち向かう事が出来たのだと。
「これが、エリートの実力だーっ!」
比呂が勝利を確信して叫んだ。支配された物が一気にスカルを押し潰す。
「…やったか?」
あらゆる鉄屑や金物の攻撃。当たれば大ダメージは必至…だが、そこにスカルはいなかった。
「…今のは危なかったぞ!コゾーッ!」
そして、頭上から降りてきたスカルが比呂の顔面に蹴りを喰らわせた。
「うぐっ…なんで?」
「俺の身体を見てわかんねーのか?」
比呂は気付く。スカルを覆っていた粘着性の液体が消えている事を。
「いたたた…私の能力だからな。出すのも消すのも私次第だ。しかし…やってくれたね、ボーイ…」
ジョーカーが首を鳴らしながら立ち上がる。
「く…くそぅ…」
まだ、まだ戦える。…そう思いたいが、自分ではこの二人には勝てない事を認めてしまった自分がいた。
「デビル・イリュージョン」
ジョーカーが胸元から取り出したロープで比呂の動きが拘束される。そして…
「じゃ、死ねや、坊っちゃん」
スカルが比呂に、向かって掌をかざし、そこから鋭い棘が出現した…。
(くそっ…俺は、俺は…!)
負けたくない。諦めたくない。そう思っても、比呂は死を予感してしまった…。
……………
……おかしい。スカルの攻撃は発動されていた。だが、比呂は一切痛みを感じなかった。
目を開ける。そこには…
「おい悪党。ここからは俺が相手だ」
そこには、幼い頃から幾度と無く見つめていた背中があった。
「え?…なんで?」
比呂の理解は追い付いていない。何故なら、このレベルの戦いには、無能力者では絶対に介入出来るハズが無いのだから。
「テメェ…何者だ?」
スカルは、殺すつもりで比呂に攻撃したのだ。だが、目の前の少年は、その攻撃を硬化した腕でいとも簡単に弾いて見せたのだ。
「…俺か?俺は………通りすがりの正義の味方・グラサンマフラーだ」
そこには、近くにあったショップから拝借して来たマフラーで顔半分を、更にサングラスを掛けて目元を隠した男が立っていた。
(比呂は兎も角、梓と遥はもう許したし、一般人を見捨てるのは…ヒーローとしての主義に反するからな。うん、決して比呂を助けたい訳じゃ無いからな!)
そう、心の中で言い訳をする。誰に聞かせる訳でも無いのに。
「光輝…?いや、違う…誰?」
呆然とする比呂に光輝は呆れながらも、どうやら正体はバレていないと安心する。
「誰でも良いだろ?とにかく、今はこの二人をどーにかしないと」
「…いや、お前、一般人だろ?まさか、能力者なのか?」
当然、光輝は正規の能力者では無い為、バーコード等刻まれていない。調べられれば一発で野良フィルズに認定されるだろう。思えば冴嶋との初対面の時もそうだったな…と黙っていると…
「も…もしかして…野良フィルズ?」
「……あ~もう!うるさいな!怪我してないなら手伝えよ!」
面倒くさくなった光輝は、腕を刃にして比呂の身体を縛っていたロープを切る。そして、言われるがまま、比呂は立ち上がった。
「なんだ?国防軍でも無え奴が、俺らと殺りあう気か?」
殺り合うと言われても、いくらスカルとジョーカーが気に食わないとは言え、一応は同じ組織の人間だ。それに、今の状態では光輝は全力では戦えない。
既に発動してしまったロンズデーライトは兎も角、スピード・スターや、インビジブル・スラッシュを発動すれば、比呂に謎の男の正体がブライトだとバレてしまうかもしれないのだから。
「…お前らと殺り合う気は無い。目的が何なのか分からないけど、こんだけ暴れたらもう充分だろ?」
「ああん?充分かどうかは俺達が決めるんだよ!なあ、ジョーカー!」
「…いや、コイツの言う通りもう任務は達成したし、そろそろ帰ろうよ。シャワー浴びたいし…」
「なあ!ジョーカー!!」
「…ふぅ。仕方ないなぁ。じゃあ、とっととこの二人を始末して撤退しよう。援軍が来たら厄介だろうし」
(マジか~。帰れよもう!)
光輝は考える。ロンズデーライトの能力をどの様に誤魔化すかを。
(身体の一部を硬質化する能力で良いかな?でも、コイツら二人相手するのにスピード・スターは欠かせない気がするし…。待てよ?比呂が知らない、ブライトの能力を使えば……。よし…)
「おい新兵、お前の能力であいつらの気を引け」
「え?なんで俺の能力を………ちっ、分かったよ」
比呂が意外にすんなり言う事を聞いた事に驚きつつも、光輝は作戦の準備に入る。
比呂がエリア・マスターでスカルとジョーカーに攻撃を仕掛けると同時に、サイレント・ステルスを発動。
「チッ、同じ技を…」
飛んできた金具を弾き飛ばすスカルとジョーカーの意識は、完全に一旦光輝から離れた。
尚も比呂はエリア・マスターであらゆる物を操作して攻撃する。あまりの手数に、スカルとジョーカーは防戦一方になる。
それを見て光輝は作戦の準備が整った事を確信した。
(つーか、このエリア・マスターって、熟練度上がったら無敵じゃねーか?)
「ぐううっ…まだまだ!」
エリア・マスターをゴリ押しした影響で、比呂の体力が著しく消耗してしまった。強力な能力程燃費が悪いのは、エリア・マスターにも言えた事だった。
「へっ…そろそろ限界だな。いけ、ジョーカー!」
「OK!…うっ!?」
両手に10本の小型ナイフを持ったジョーカーが、一気に比呂へ投げようとした瞬間…、光輝が硬質化した腕でジョーカーの後頭部を打ち付けた事により、ジョーカーは糸の切れた人形の様に倒れてしまった。
「なっ!?ジョーカー!?…テメェ、いつの間に!」
光輝のサイレント・ステルスは、一度認識を外した状態で能力が発動したら、その存在を再認識するのは難しい。その上、本来なら通常攻撃ならステルス状態を維持出来るのだが、熟練度が低い為、ジョーカーを気絶させる為に手刀を放った事でステルスが解除されてしまった。
死角からの一撃をモロに喰らってしまい、ジョーカーは意識を失った。その光景に、比呂も驚いていた。
「お前は一体何者…」
「油断するな。まだ一人残ってんだぞ?」
「テメェ!よくもジョーカーを!まさか、ギフト二つ持ちか!?最近そんなんばっかだな!」
スカルのそんなんとは、間違いなくブライトの事だろうが、目の前にいる光輝がそのブライトだとは気付いていない様子。
遠くからパトカーのサイレンの音が近付いて来るのが聞こえる。光輝としては、スカルとジョーカーを殺す訳にもいかないので、ここら辺で手打ちとしたい所なのだが…。
「ほら、増援が来たぞ?とっととその相方を連れて撤退しろよ」
だが、これに比呂が反論する。
「何言ってんだ!?コイツらは大勢を殺した大量殺人犯だぞ!逃がしてたまるか!」
(なんだコイツ!?さっきまで死にそうな顔してたのに完全に息吹き返しやがって!)
先程までの弱気な態度が一変した比呂に、光輝のイライラが募る。
「馬鹿野郎。お前じゃコイツには勝てないだろ?それ位わかんねーのか?」
「うるさい!俺はエリートだ!あの奇術師がいなくなればこんな奴の一人くらい倒せる!」
比呂もまた、突然現れ、おいしい所を持って行った謎の男=光輝に憤りを感じていた。
自分は国防軍でも将来を嘱望されるエリートだ。そのエリートが、先日の黒夢によるネリマ支部襲撃事件に続き、ここでも何も出来ずフィルズを逃してしまうと云う失態は絶対に許される事では無かった。
更に、梓と遥も見ているのに、得体の知れない、野良フィルズかもしれない男に助けられるなど、絶対にプライドが許さなかったのだ。
「馬鹿めーっ!ソニック・ヘッジホッグ!」
そんな言い合いをする二人の隙を見逃すスカルでは無かった。一瞬の隙をついて、ソニック・ヘッジホッグを発動したのだ。
棘は無数に飛んでくる。直ぐ様反応した光輝は攻撃を防ぐ事が出来そうだが、比呂は反応していなかった。
(この馬鹿野郎が!!)
!?
「……なっ!?」
比呂が驚きの声を上げる。目の前に、光輝が立ちはだかっていたからだ。
光輝は硬化した腕で急所はブロック出来たものの、肩や脇腹、足には多くの棘が突き刺さっていた…。
※なんで比呂は光輝だって気付かないのかって?そりゃあ聞くだけ野暮ってもんだ。