第44話 エリートの意地
―数分前。
光輝と風香がデートを楽しんでいる頃、モール特設ステージ上では国防軍のイベントが始まり、比呂もステージ上に立っていた。
「…それでは次に、この港エリア出身で、国防軍の未来を担うルーキーを紹介します!地元の高校に通う現役高校生・真田比呂二等兵です!」
比呂に大きな歓声と拍手が贈られる。
(…こんな事してる場合じゃ無いのに…。くそぅ、ブライトとさえ会ってなけりゃ、本来なら喜んでこの場で自分をアピール出来たのに…)
ブライトの存在が比呂から自信を奪い去り、本来であればこの様な場は大好きなのだが、全く楽しめていなかった。
その上、観客席にいる梓と遥。彼女達は今回、比呂が無理を言って来てもらっていたのだ。
(昨日は冷静さを失って失敗したからな…。まさか光輝にバレてたなんて…
ああ!なんでこう一気に悪い事が重なるんだ!?)
「真田二等兵はまだ高校生ではありますが、その評価は新兵の中でもダントツ!既に任務にも就いており、フィルズ組織の逮捕に多大な貢献を果たしています!」
(…フィルズ組織の逮捕や壊滅って言ったって、黒夢の様な大きな組織じゃなく、少数の弱小組織ばかりじゃないか。そんな任務に多大な貢献をしてるって言われたって、俺が張りぼてみたいじゃないか…)
…そして、イベントはつつがなく進み、港エリアの副支部長でもある促司少将が、国防軍の必要性を滔々と演説していた。
「…これからも国防軍は、国民と共に歩み……」
!?
その時、大きな爆発が起こった。
「なっ…ど、どうした!」
ステージ上では、促司少将が慌てふためいている。そして、新たにステージに二人の男が降り立つ。
「ハッハッハ!何が国防軍だ!お前らなど国の役立たずの集まりじゃねーか!なあ、ジョーカー!」
「スカル…何も爆発させなくても…」
そこには、黒夢のメンバー、スカルとジョーカーが腕を組んで立っていた。
(て、敵襲!?)
突然の事に、比呂も身体が動かない。が、少なくともブライトでは無かった事に安堵してしまっている自分がいた。ブライト恐怖症は重症である。
裏方にいた国防軍の兵士達は迅速に一般人の避難誘導を開始している。
「任務はお前の殺害だ…促司少将」
「ふぅ、…あとイベントの妨害もだね」
「くっ!?何を…ぐはっ!?」
反撃に出ようとした促司少将の心臓に、ペットボトル大の棘が刺さった。
「おいおい、仮にも少将様が、こんな弱えーのかよ?」
「き、貴様ら…こんな事して…」…サクッ!
最期の抵抗に出ようとした促司少将の頭に、ジョーカーが放ったトランプが突き刺さった。
「まず任務その1、コンプリートだな」
「そうだね。楽勝だったね…ん?」
ただ一人、ステージ上に取り残された比呂の存在に、ジョーカーが気付く。
「なんだい?新兵か…」
戦闘系ギフト能力者では無いとは云え、少将が目の前でアッサリと殺された。その光景は、比呂にブライトを思い起こさせた。
(こ、コイツらは、俺がこの一週間相手して来たフィルズとは違う!)
「お、お前らは何者だ!?」
「おーおー、かわいいねぇ、震えちゃって。俺達は泣く子も黙る黒夢最凶のコンビ、スカルとジョーカーよ。」
(黒夢!?ブライトのいる組織か!?)
恐怖から、比呂の震えが一層増した。
「なあ…スカル、殺しの任務は一人だけだけど、邪魔する奴等は殺していいんだったかな?」
「ああそうだ。でも、この坊っちゃんは殺さなくていいだろ?ビビって邪魔するどころじゃねーみてーだからよ。ヒャッヒャッヒャ!」
比呂は一瞬、完全に格下に見られた事に、悔しさよりも殺されなくても済むと安堵してしまった。
…それが、比呂自身のプライドを更に傷付けた。
そうこうしている内に、国防軍の兵士達がステージを囲んだ。
「貴様!生きて帰れると思うなよ!」
一人の軍人が前に出る。彼は出落少尉38歳独身・素人童貞。
「ヒャッヒャッヒャ!生きて帰る?任務に赴いた時点で、死ぬ事に恐れなんてある訳ねーだろーが!なあジョーカー!」
「…ん?私は死ぬ気なんて全く無いがね」
「少尉!コイツら、黒夢のスカルとジョーカーです!」
「なに!?あの“モスト・デンジャラズ”か!?」
スカルとジョーカー。
黒夢の中でも、コンビとしては最もタチの悪いコンビとして国防軍には知られている。
スカルのギフト“ソニック・ヘッジホッグ”は、全身に鋼の棘を発現させ、その棘を外部に発射する事も可能。そのスピードは銃弾と同等な上、全方位に一度に100もの棘を発射する事が出来る。
ジョーカーのギフト“デビル・イリュージョン”は、ナイフから炎から水から鳩から…マジックで用いられるあらゆる小道具を具現化して武器とする能力。
連携の際には、ジョーカーが対象を足止めし、スカルがトドメを刺すのが黄金パターンだが、ジョーカーの能力が多種多様な為、様々なパターンのコンビプレイを繰り出す事が可能。
スカルとジョーカーのギフト能力の情報を知っていた出落少尉が慌てて周りに指示を出す。
「全員散会!今すぐコイツらから離れ…」
「もう遅い。イリュージョンはもう発動してるよ。」
兵士達が気が付くと、自分達の足下を粘着力の強い液体が這っていた。
「ジ・エンドだ。ソニック・ヘッジホッグ!」
スカルは周りを囲んだ軍人達に無数の棘が発射した。
「うぎゃ!?」
「あがっ!?」
「ぐはっ!?」
…あっという間に、スカルとジョーカーの目の前には、身体に無数の穴が空いた兵士達が倒れ、呻き声をあげていた。
「呆気ねえな……ん?なっ!?」
「ん?…うわっ!?」
スカルが何かに気付いてその場を飛び退く。だが、ジョーカーは反応が遅れ、その何かに押し潰されてしまった。
「ジョーカーぁ!?…テメェ、ただの坊っちゃんだと思って見逃してやれば調子に乗りやがって!」
スカルの視線の先には、エリア・マスターを発動させ、イベントの為仮設された骨組みをバラして操作した比呂がいた。
(やってやる…、俺は、エリートなんだ!)
比呂の目の前で、一瞬にして仲間がやられた。ジョーカーのイリュージョンは前方にのみ発動されていた為、比呂は動きが拘束されていなかったにもかかわらず、見ているだけで何も出来なかった。
スカルのソニック・ヘッジホッグは、兵士のみならず、逃げ遅れた一般人をも貫いている。梓と遥は無事の様で、会場の隅へ逃げているが、誰が見ても明らかに大惨事だ。
比呂は自分の存在意義を見失いそうになっていた。今の自分は弱い相手にだけ意気がり、強い相手にはビビってしまう。そんなのは、子供の頃からいつも傍にいたヒーロー像からかけ離れているじゃないか?と。
ヒーローとは、相手が強くても常に立ち向かい、弱き者を助ける。例え自分が痛い目を見ても、何度も立ち上り、最後は必ず勝つ。それが、比呂が嫉妬しながらも、強く憧れた幼馴染の姿だったハズだ。
昨日、その幼馴染に言われた言葉は皮肉だったが、それでもその皮肉の内容の通り、今や自分はそんな憧れた存在を大きく越えた、未来を嘱望されたエリートなのだと、己を奮い立たせた。
「エリア・マスター!」
比呂のギフト能力は、熟練度を上げた事で、物体のみならず、ある程度なら他人の能力すら支配下に置く事まで出来る様になっている。
比呂が支配したのは、足下に広がるジョーカーが放った粘着性の液体。その液体がスカルに向かって収束し始める。
「なっ!?なんだこりゃ!」
液体が全身に絡み付き、己の身体の自由を奪われて困惑するスカル。
「くらえっ!」
そして、辺りにある鉄製の物を支配下に置き、折れ曲がった鉄パイプや看板等、鋭利な物が多く混じっている塊をスカルに向かって放った。直撃すれば、並みの人間なら一たまりもないだろう。
「これが、エリートの実力だーっ!」
※ベ…ベ○ータ!?
…また活動報告でつぶやいてるので、良かったら覗いてみて下さい(^_^;)