第43話 Brilliant Days
―土曜日・ショッピングモール
「光輝君!ごめんなさい、待たせました?」
「いや、俺も今来た所だから」
午前10時にショッピングモール東口で待ち合わせをして、現在午前9時55分。
光輝は風香を待たせてはいけないと15分前に来ていたし、風香も本当はもっと早く来たかったのだが、最期の最後まで今日の衣装を選ぶのに悩んでいた為5分前の到着となった。
季節はもう6月。すっかり暖かくなって来た為、光輝の今日の衣装は七分丈のワイシャツとブーツカットのチノパン。
そして風香は、真っ白なワンピースにカーディガンを羽織っているのだが、あまりの可愛さに、光輝の目は釘付けになってしまった。
「その…変じゃない?この服…」
「え?変な訳無いじゃん!今の風香を見たら、クレオパトラも裸足で逃げ出すよ!」
「フフフッ…大袈裟です」
光輝としてはテンパって意味不明な事を口走ってしまったが、風香が笑ってくれたので良しとした。
「さて、水着買うんだろ?今更なんだけど、売り場に男が入るのって気まずくないかな?」
(来た!瑠美さんの言った通り!)
風香は昨日、光輝がどのタイミングでどう出てくるか?を、瑠美と共に綿密にシミュレーションしたのだ。
(「多分光輝はヘタレだから、水着売り場に一緒に入るのを嫌がる可能性があるかもしれないわね。そんな時は…」…よし、作戦通りにやるしかない!)
「光輝君に選んで貰いたいの!その…光輝君の好みが分からないから、私が着た所を見て、選んでほしくて…」
「…わ、分かりました。じゃあ、イキマショウカ」
光輝は顔を引き釣らせ、風香もまた、顔を真っ赤にしている。高校生とは思えない程ウブな二人だが、光輝もこの歳まで異性と付き合った事など無いし、風香も同じ。仕方ないと云えば仕方ないのかもしれない。
二人がやって来たのは、女性水着専門のテナント。勿論、瑠美のオススメだ。
(瑠美さんは、やたらめったら選んでも駄目だって言ってたな。取り敢えず、それぞれタイプが違うのを五種類選んで試着しろって言ってたから…)
そこからは、風香の水着ショーが始まった。
「これは…どうかな?」
先ずは、青を基調としたスカートタイプのフリルブラ。
「…い、いいんじゃないかな?」
次に、パレット付きのホルターネックショートパンツ。
「これは?」
「う…うん、バッチリ?」
そして、緑を基調としたワンピースタイプ。
「こんなのは?」
「か、かわいいかな?」
更に、黒のハイネックビキニとスカート。
「ちょっと落ち着きすぎかな?」
「いや~…似合って…るよ?」
風香から見て、ここまでの光輝の反応は微妙な所だが、実はこれも予想通り。
(「光輝は多分風香の選んだ水着に意見なんか出来ないだろうね。だから、最初の4着は風香好みの落ち着いた水着で様子を見よう。で、最後は…」…はあ、本当にこんなの着るの?~恥ずかしいけど…行くしかない!)
「これは…駄目だよね?」
「ぶふっ!?」(※盛大に鼻血が出てますが、あくまで演出です)
最後に風香が選んだのは、これまでのと比べて露出度の高い、クロスデザインのビキニとカシュクール。豊満なバストと流線的なクビレをこれでもかとアピールした逸品?だ。
「えっと…光輝君はどれが一番好きかな?」
「え?えっと…正直どれも似合ってたんだけど…」
本気で悩む光輝を見て、風香は瑠美の最後のアドバイスを思い出す。
(「これで光輝が選んだのが前の4つなら、光輝は風香にイメージ通りの清楚とか可愛いさを求めてるんだろうね。で、最後のを選んだら…その逆。風香さえ良ければ、いつでも食べてもらっちゃいな……ブツブツ…」……もし、最後のを光輝君が選んだら…どうしよう!まだ早いよね?瑠美さんも最後の方ブツブツと「…私もまだなのに…」とか呟いてたし。
でも…この関係がいつまで続けられるか分からないし…)
そして、光輝は悩んだ結果…
「えっと…3番目のやつが風香っぽかったかな?」
光輝が選んだのは、パレット付きのホルターネックショートパンツの水着だった。
(ホッ…良かった……。ん?でも、なんかちょっと残念な気分…)
光輝は、折角だから買ってあげると申し出たのだが、風香はそれを固辞した。自分の物だから自分で買うと言って。
(あんだけの眼福を頂いたんだ。男としてこれ位は買ってやらないとと思ったんだけどなぁ)
その後、二人はランチを食べて、ウィンドウショッピングをして、ゲームセンターでプリクラを撮ったりして…光輝も風香も、最初の緊張は直ぐに解れ、自然な雰囲気でデートを楽しんでいた。
ショッピングモールは吹き抜けになっており、一階ではステージが準備されている。どうやら国防軍がイベントを行うようだが、今の二人にはどうでも良かった。
「あ!これ可愛い!」
風香が立ち止まったのは、ファンシーな物からゴツイ物まで揃ったアクセサリーショップで、今可愛いと言ったのは、風をイメージしたデザインのネックレスだった。
(お、風香にピッタリだな。さっきは水着を買ってあげられなかったし…よし!これ、プレゼントしよう!)
その場で買って渡しても良かったのだが、光輝は敢えて今は買わず、あとでプレゼントして驚いてもらおうと考えた。
その場から離れ、タイミングを見計らい、トイレに行くと嘘をついてネックレスを買いに戻る。
「ありがとうございましたー。彼女さん、喜んでくれると良いですね?」
「ええ…いやあ、俺達、まだ付き合ってる訳じゃ…」
「えー!?お似合いなのにー!勿体無いよ!男ならガツンと行かなきゃ!」
笑顔で店員さんに励まされる光輝。やっぱり端から見たら風香の事は彼女に見えるんだろうな~と、自然と顔が綻ぶ。
(……結構高かったけど…まあいっか。こうして二人で過ごせるのも、いつまでになるか分からないもんな…)
自分が黒夢の一員である限り、一般人の風香とはいずれ必ず別れる時が来るだろう。そう思うと、途端に胸が苦しくなる。
(今日は本当に楽しいな…。よし、いつまで続くか分からないけど…でも、気持ちは伝えよう。俺は、風香の事が好きなんだから)
自分は一体いつから風香の事が好きになったのか?と考える。
出会いは漫画の様だった。正直に言えば、ちょっとだけ運命的な展開も期待したのだが、でも、直ぐ傍にいた比呂が横槍を入れた事で、光輝はまた比呂に惚れた女が一人増えるな…と、直ぐに意識を切り替えた。
だが、同じクラスの、しかも隣の席になった風香は、昼にはわざわざ光輝を追い掛けて来て弁当を分けてくれたのだ。…いつぶりかも忘れてしまう程久し振りに、光輝は異性と笑いながら話す事が出来た。多分、この時点で風香に惹かれ始めていたのだろう。
でも、そこからは能力に目覚め、目まぐるしい日々が続いた。正直、恋愛なんかに構ってる暇など無い程に、色んな事があった。でも、気が付けば風香はいつも隣にいてくれて、微笑んでいてくれた。いつの間にか光輝も、それが自然の事の様に思えていたのだ。いつの間にか、自然に惚れていたのだ。
「ん~…そうだ!彼氏さん、メッセージカードなんてどうですか?」
「メッセージカード?」
「はい!日頃の感謝とか、告白とかに使われる方も多いので」
(な、なぬっ!?)
…………
「ありがとうございましたー!じゃあ、頑張ってね!」
「は、はい!」
新たな決意を胸に、光輝は風香の元へと向かう。告白するとして、あとはタイミングだ。
(こういうのはやっぱり帰り際だよな?いや、でも、早い段階ですれば、今日の残りの時間をもっと楽しく過ごせそうだし…ん?待て待て!フラれたらどーすんだ!?)
そんなこんなで考えがまとまらない内に、風香の元へと辿り着いてしまった。
「お、お待たせ」
「ううん、大丈夫!」
一階では国防軍のイベントが始まっており、スピーカーで拡張された中年男性の、如何に国防軍が日々頑張っているかの演説が聞こえる。
(ん?ステージにいるのは…比呂か。久しぶりに見たら、なんかやつれた顔してんなぁ…あ、俺のせいか)
あれから比呂は学校には来ていない。嘘が光輝にバレた今、どの顔下げて学校に来れるのか?と云う気持ちは当然あっただろうが、実際は少しでも強くなる為の訓練をしていたのだ。
そして、梓と遥はこれまでの事を光輝に改めて謝罪しに来て、比呂の嘘を公表すると言って来たのだが、光輝はこれを固辞した。とにかく、もう関わるなと。そして、比呂の嘘を公表されるのも今更だと感じたので、それも止めておいた。
(もう、全部今更なんだよな。俺はもう次のステップに向けて歩き出してるんだから。…あ、今の表現ちょっとカッコいいかも?)
客席を見ると、その梓と遥もいる。
(比呂を見に来たのか?…あの状況から仲直りしたんだろうか?まあいいや。…もし、今日風香にフラれたら…腹いせに今度こそ徹底的に仲を引き裂いてやるのも良いかもな…フフフッ)
などと、前言を撤回する様な下衆な事を考えてると、一階フロアで大きな爆発音が鳴り響いた。
(なんだ!?テロか!?)
慌ててステージを見る。そこに、二人の男が降り立った。
「ハッハッハ!何が国防軍だ!お前らなど国の役立たずの集まりじゃねーか!なあ、ジョーカー!」
「スカル…何も爆発させなくても…」
そこには黒夢のメンバー、スカルとジョーカーが腕を組んで立っていたのだ。
(確かアイツ等、スカルとジョーカー!?)
特設ステージを見下ろす光輝。三人の周辺は国防軍の兵士や怪我をした一般人が転がっている。
(なんだってこんな時に~!なんかの任務なんだろうけど…)
「光輝君!」
急に、風香が強い口調で光輝を呼ぶ。
「え?どうした?」
直ぐにでも風香を連れて逃げようと思っていた光輝だったが、突然の大声に驚いてしまった。
「私、急用を思い出しちゃって…光輝君は今すぐに避難して!」
「え?ああ、そうするけど、風香も一緒に…」
「私は大丈夫!えっと…なんかお祖父ちゃんの親戚の叔父さんの息子さんが近くにいるみたいなの!その、ウチのお祖父ちゃん厳しいから、話が伝わると光輝君に怒っちゃうかもで…だから、光輝君は早く逃げて!」
逃げてと云われて素直に逃げるのも癪だが、確かに風香のお祖父さんの怒りを買うのは気が進まない。
「…分かった。でも、せめて安全な所まで…」
「じゃあまた!帰ったらメールするね!!」
光輝が止める間もなく、風香は走り去ってしまった。
(あ…プレゼント渡しそびれちゃったな…。まあ、今度会った時でいっか)
こうして、光輝と風香の最初で最後のデートは、唐突に幕を閉じてしまった。
そして、運命の時は刻一刻と迫っていたのだ…。
※意味深な引きばかりでスミマセン…。そろそろ本題に入ります。
なんか、活動報告で評価云々と催促したみたいでスミマセンm(__)m折角なんで、堂々と催促させて頂きます!
という訳で、面白い!先が気になる!更新頑張ってー!と思って頂けた方は、ブクマ・評価・感想・レビューを是非!お願いします!!!
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