第42話 比呂、崩壊
光輝は梓に連れられ、校舎裏の今はもう使われていない大昔に廃部になったカバディ部の部室前まで連れられて来ていた。
「…おい、なんかとんでもない所に連れて来てくれたな…。どーでも良いけど、早く用件を言ってくれ」
昨日の事がバレたかもしれない?こんな人気の無い場所に女子と二人きり?闇討ちされる?それとも…!?………等と、色んな可能性を考えてしまって頭の中がごちゃごちゃになってしまった光輝が、梓に話し掛ける。
「何ガラにもなく緊張してるのよ?遥、来たわよ~」
梓がカバディ部の扉を開けると、部屋の中は綺麗に掃除されており、何故か畳が敷かれていて、そこには遥が座っていた。
「ようこそいらっしゃいました。周防光輝さん」
「えっと…なんだ?此処?」
「ここは、比呂も知らない私と遥だけの憩いの場。どう?快適でしょ?」
「快適も何も……お前ら、ここでいつも何してるんだよ?」
「驚いた?この部屋が空いてるのを勿体無いと思った私と梓が、校長先生にお願いして茶室にしてもらったの」
なんだか自由だなと呆れていると、そこにもう一人の男がやって来た…。
「…光輝…」
「……なんだよ?用事って、比呂と俺を会わせたかったのか?」
(なんだよ~!昨日の件がバレてた訳じゃ無かったのか~)
正直、安心して緊張が緩む。
「どうしても急な話があるからって来てみれば、光輝までいるなんて。なんの用件なんだ?」
「ここでハッキリしたいの。光輝の悪い噂が…全部貴方の作ったデタラメだったのかを…。答えてくれるよね?比呂」
比呂は、小さく舌打ちをした。その姿は、いつも優しく明るい比呂のそれでは無く、心底面倒臭そうな表情での舌打ちだった。
「…悪いけど、俺は今何かと忙しいんだよ。二人だって知ってるだろ?俺が国防軍の一員だって事。くだらない事で俺を煩わせないでくれないかな?」
(あ、二人にも国防軍の事言ってたんだ?まぁ、俺にだけ言う理由も無いし、別に良いんだけど)
「面倒臭い!?…なんで否定しないの?もし、あの噂が嘘だったんなら、比呂は私達を…いえ、光輝の事を裏切った事になるのよ!?」
「……はぁ~…もう、勘弁してくれよ!只でさえ今俺は大変な時だって言ってるだろ!!下らないんだよ、学校での事なんて!!」
光輝は、比呂は偽り無く大変なのだろうと、素直に思った。
(もしかして…ブライトのせいかな?結構脅したしな…。クククッ、もう外面を取り繕う事すら出来ない程追い詰められてるのか?悪いけど同情出来ねー)
「比呂様。貴方は私に、光輝様が私が痴漢にあったのを助けてくれたのは全て自作自演だったと仰いましたよね?あれは嘘だったんですか!?」
「…チッ…そんなの、光輝がそこにいるんだから本人に聞けよ!」
(コイツ…もう嘘がバレようが構わないって感じだな。今まで偽りで築いて来た全てがどうでも良くなる程に追い詰められてる訳か。馬鹿だな~、後から冷静になった時、絶対に後悔するだろうに…。よ~し、だったら…)
「待て、二人とも」
今にも比呂に喰って掛かりそうな二人を、光輝が止める。
「何よ光輝…。アンタの言った通りなんでしょ?比呂は…ずっと私達を騙して来たんでしょ!?」
「…あまり比呂を責めるなよ。比呂は、国防軍でもエリートなんだ。今も、きっと難しい任務を与えられてるのかもしれない。そんな、いつ死んでもおかしく無い状況でも、頑張ってるんだぞ?態度も冷たくもなるさ。なあ、比呂」
比呂は、自分を庇った光輝に驚きの表情を浮かべる。と、同時に、改めてブライトの事を思い出して顔を真っ青にする。
「比呂はなあ、国の為、皆の為に命を懸けて戦ってるんだぞ?まだ高校生だってのに。まだ若いってのに、ある日突然惨たらしく死ぬかもしれないのに戦ってるんだ。
それはもう、無能力者の俺にはとても真似できない重圧と戦ってるんだから、そんな比呂をあまり責めるなよ」
敢えて比呂を持ち上げる。聞く人が聞けば盛大な皮肉が混じっている事に気が付くのだろうが、梓も遥も気が付かない。
「光輝…貴方は良いの?ずっと…その嘘のせいで辛い思いをして来たんでしょう?」
「嘘?ああ、とっくの昔に知ってたからな。別に気になんてしてねーよ」
「えっ?」
これに、梓達では無く比呂が反応を示す。光輝が、自分が光輝を陥れる為に行動していた事を知っていたのが意外だったのと、それ以上に恥ずかしさや戸惑いを覚えて、表情が歪んだ。…まあ、実際はつい最近知ったのだが。
「だって、比呂はいつ死んでもおかしくない程頑張ってるけど、結局は小心者の糞野郎だからな。コイツが何を言ったって、何を企んでたって、俺には何のダメージも無えーよ」
上げて落とす。これは精神的に辛い。比呂が光輝の事を意識していればしている程、その効果は増す。実際、比呂はなんとも言えない表情を浮かべていた。
「そんな…!?光輝は、比呂がした事を許せるの?」
ここで、光輝はターゲットを変える…。
「さっきから聞いていて疑問に思ったんだが…何勘違いしてんだ?お前ら。急に正義感振りかざして比呂の事を責めてるが、俺からしたらお前らも同罪の糞だからな?今更被害者ぶるんじゃねーよ」
急に冷たく放たれた光輝の言葉に、梓と遥は固まってしまった。真実を知った今、二人の中で今の言葉はかなりのダメージとなった。
(…ん~…確かにこの二人にも一回ガツンと言ってやりたい気持ちはあったんだが、実際に言ってしまうと……少し罪悪感があるな。やっぱ俺、女には甘いのかな…)
でも、暴力を振るった訳でも無い、この位の意趣返しなら良いか…と思い直す。
(コイツらも反省してるみたいだし、取り敢えずこれで比呂との関係はボロボロだろうから、この二人へのプチ復讐はこれ位にしてやるか)
「さて、じゃあ比呂。お前は自己主張が強くて嘘つきで小心者で卑怯者だけど、国防軍のエリートで未来を担うホープなんだから、これからもどんな強敵と遭遇しても逃げずに戦ってくれよ?
無能力者の俺には、もうどうやったってなれない…俺の夢を、俺の代わりに叶えてくれ。
絶対に逃げない…ヒーローとして!」
満面の笑みで比呂の肩を叩く。これは誰が見ても馬鹿にしてるのが分かる程あからさまだった。
「光輝…おまえっ!?」
流石に馬鹿にされた事に気付いた比呂が、光輝に怒りを向けようとした…その瞬間。光輝からブライトに似た禍々しいオーラが溢れ出した。
「え?…え?な、なんで……」
途端に絶望の表情になり、尻餅を着く比呂。梓と遥も突然の光輝の変貌に震え出している。
……が、光輝が笑顔を浮かべると共に、禍々しいオーラは消えた。
「ん?どうした?座り込んで。じゃ、国防軍での活躍、期待してるぜ?相手がどんなに強くても、どんな奴がお前の事を殺しに来たとしても…絶対に、逃げるなよ…?」
そう言い残し、光輝はその場を去って行った。そして比呂は、尻餅を着いたまま、顔を真っ青にしてガタガタと震えていたのだった…。
光輝の心は晴れやかだった。長年の恨みが帳消しになってしまったのかと思う程に。
(ん~…思いの外スッキリしたな!これで比呂のプライドはズタズタ、それにハーレムは崩壊。多分アイツが俺を陥れる為に嘘ついてた事は梓達を通じて学校中に広まるだろうし、アイツのこの学校での評判は…南無三だな…。クックック…)
そしてもうひとつ。あれだけくどく言ったのだから、今度ブライトと遭遇した時は逃げてくれるなよと期待していた。
(その時は…敢えてブライトが俺だとバラした後にぶっ倒してやるか?一体どんな顔をするのか楽しみだな………でも…)
光輝は先日の決意を思い出す。絶対に、無駄な殺しはしない…。
(…いや、比呂は俺をずっと陥れてたし、一度は俺を殺そうともしたんだぞ?やられたらからやり返すだけだ。だから無駄じゃないよな?でも…)
ふと考えると、光輝は先程のやり取りでも、強烈な復讐心を抱いた訳では無く、ちょっとやり返してやろう程度の感情しか抱いていなかった事に、自分でも気が付く。
(…比呂も言ってたけど…、外の世界に出てしまえば、もう学校でのいざこざなんて些細な事になるんだよな…。俺はブライトとして戦い、もう何人も殺してる。それを考えれば、比呂が俺にやって来た事なんてガキのイタズラみたいなもんだとも思えるし…)
復讐と信念の狭間で揺れながら歩いていると、突然電話が鳴る。相手は…風香だった。
「あ、風香。悪かったな、今日は。……うん、……良いぞ。今週の土曜日、ショッピングモールだな?
…てゆーか、明日も学校で会えるんだから、そん時でも良かったのに………え?声が聞きたかった?………ば、馬鹿だなぁ、もう。俺なんかの声なら、い、いつでも聞けるだろ?」
風香からの電話は、どうやらデートの誘いだったらしく、光輝は一旦面倒な事を忘れる様に頭を振る。
(比呂をどうするかは…まだ先の話だろうし、今は忘れよう!つーか、あんな奴の事で悩むだけ時間の無駄に思えて来た!
さて!今週の土曜は風香と初デートか!しかも、水着選びかぁ……デュフフフ……おっと!俺は紳士だ!邪な考えはまだ早い!)
今週の土曜日。幸せな情景を思い浮かべる光輝だったが、その日が、自分にとっての運命の休日になる事を、この時は知る由しも無かった…。
プチ復讐、プチザマァ回でした( ・`д・´)
最近一話の文字数が増えて来てますね。目標は二千~から三千文字なんですが、皆さんはどの位の文字数が読みやすい&読みごたえありますかね?良かったら感想欄ででも教えてください(*´-`)