第41話 風香の想い
※風香の台詞に年齢を偽っていると誤解される表現があったので修正しました。
―放課後。
「ちょっと光輝に話があるんだけど」
突然、光輝達G組の教室に、A組の梓がやって来た。その頬には大きな湿布が貼られていて痛々しい。
一部の女子はキャーキャー煩いし、何故かM心を擽られた一部の男子も恍惚な表情を浮かべている。
そんな光輝は、自分の席で崇彦と二人で下らない事を駄弁っていて、普段なら梓の誘いになど絶対に乗らないのだが…。
(まさか…昨日の件がバレたか?いや、でも顔見られて無いよな?マフラーもしてたし…。でも、声でバレた?)
表情の優れない光輝に、崇彦が話し掛ける。
「なんだ?梓となんかあったのか?」
「え?いや…別に何にも無いんだけどな…」
崇彦が怪しげな目で光輝を見る。光輝は微妙な苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。
「…ん~…まぁ、梓の様子を見る限り、お前への誤解を解くには良い機会なんじゃないのか?折角向こうから来た訳だし、行ってやっても良いだろ?風香には俺から巧く言っておくからさ」
「…なんだよいきなり…。それに、誤解ってなんだよ?」
「誤解は誤解だよ。さ、とっとと行って比呂のハーレムを奪って来い!」
「馬鹿っ!俺はハーレムなんて…」
「ハーレムが何だって?」
「「うわぁっ!?」」
いつの間にか隣にいた梓に驚いて、二人同時に声を上げる。
「…言っておくけど、私も遥も、ハーレム呼ばわりされるのは面白く無いんだけど?大体、比呂とはまだそんな関係じゃ無いから。なんで男って直ぐにそーやってイヤらしい方向に話を持って行きたがるのかしら?」
「わ、分かった!さあ、早く行け、光輝!なんで俺までとばっちりの説教を受けにゃならんのだ!」
「あ!お前、友達を裏切るのか!卑怯者!」
一見すれば、男同士の下らないやり取りである。だが、そんな下らないやり取りをする光輝を、梓は何処か懐かしげな眼差しで見つめていた…。
―放課後、風香と瑠美
その日、すっかり仲が好くなった風香と瑠美は、ドナルドマクドで楽しげにお茶をしていた。
本来なら光輝もこの二人の輪の中に居るのだが、崇彦曰く、今日は急用が出来たとの事で、女二人でガールズトークに花を咲かせていたのだ。
「…もうあっという間に夏だねー。ねぇ風香、今年の水着はもう買った?」
「え?私水着は持って…まだ買ってないかな?」
「駄目よ。そんなナイスバディ持ってるんだから、ちゃんと風香に合った水着で光輝の事を誘惑しなきゃ!」
「ゆゆゆゆゆ誘惑って!?べべべべ別に、私達まだ付き合ってる訳じゃゴニョゴニョ…」
「だったら尚更。良い機会だからハッキリしちゃいなさいよ。…まあ、この場合光輝がヘタレなんだろうけどね」
瑠美の言葉に、風香は内心で強く頷く。実際、自分はかなり積極的に好き好きオーラを放ってるハズだし、光輝の反応も悪くは無いのだ。なのに、後一歩がお互い踏み出せないでいるのだから、女としてはもうそろそろ光輝から…と思うのは不思議ではないだろう。
「………じゃあ、瑠美さんはどうなんですか!?その、大人な彼とは?」
「私?私は順調よ。二人の関係が仲間から恋人に変わるのもそう遠くは無いでしょうね。この間も二人でハイキングに出掛けて、私の弁当を美味しいって言って全部食べてくれたもん。…正直、私の分まで全部食べてくれたのには驚いたけど」
「光輝君も、私の弁当はいつも美味しいって言ってくれるんですよ?…でもなぁ…」
「もう!煮え切らないわね。よし!こうなったら夏まで待てないわ!この週末に一気に勝負を懸けちゃいなさい」
「一気に!?…いや、そんな急に…」
「いい?今週の土曜日にでもデートに誘いなさい。で、水着を選んでもらうの。ちゃんと一着一着、セクシーなのからカワイイのまで着て見せてね!風香の水着姿を見たら光輝は間違いなくノックアウトされるハズだから、その隙に告白しちゃいなよ」
「こ!告白!?わ、私が!?」
「光輝なんかの告白を待ってたら、夏が終わっちゃうもの。分かった?」
いきなり告白しろと言われても、今までそんな経験が無い風香にとって、かなりハードルが高い行動だった。
そもそも、風香は恋愛などした経験が無い。そんな風香が何故光輝に惹かれたのか?…正直、自分でもよく分かってないのだ。
…まず、出会いは突然の衝突だった。大した会話もしてないし、直ぐ傍に審査対象がいたから、この時は光輝の事など特に意識はしていなかったハズ。
次に、教室で出会った時。まさか同じクラスだとは思ってなかったので、不思議な縁だなとは思ったが、ただ、それだけ。
だが、席も隣なので、少しは話し掛けて来てくれるのかなと思っていたが、光輝は終始無表情で、何処か危うい雰囲気を漂わせていた。
だから、昼食を共にする事で、少しだけお話をしてみようと動いた。風香の経験上、あの雰囲気を漂わせている人種は危険だと感じた。主に、心を病んだスペシャリストが野良フィルズに堕ちそうな時に見せる表情と云うか…とにかく、このまま放っては置けないと感じたのだ。
光輝と話してみて…自分の不安は杞憂だったと考えを改めた。自分の弁当を美味しそうに食べて、先程までの無表情が嘘だったかの様に笑ってくれた。
強いて言うなら、この時に風香は光輝に少しだけ好意を抱いたのかもしれない。
(あれから…光輝君はどんどん明るくなって、どんどん優しくなった…。無能力者である事で悩みに悩んでいた事は崇彦君からも聞いていたし、私で良ければ力にならないとと、最初はそんな使命感だけだったんだけどな…)
その使命感は次第に淡い恋心に変わった。こんな自分が同年代の、しかも能力を持たない一般の人と恋なんてして良いのだろうか?と考えない事は無い。
でも、風香は人生で恐らく一度きりになるであろうこの恋を、より素晴らしい体験にしたいと考える。
「分かった!私…光輝君をデートに誘う!!」
「お!その意気その意気!じゃあ…作戦会議を始めるわよ!」
「ハイ!瑠美姉さん!」
こうして、運命の日に向かって、風香は決意を新たにする。
この日々が、彼女の人生にとって、間違いなく輝ける日々だった事に、彼女は後になって気付く事になるのだ…。
※たま~に活動報告でつぶやいてる事があるので、良かったら覗いてみて下さいm(__)m